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働きながらの「不妊治療」拒む企業の本音

プレジデントオンライン / 2019年5月1日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/noipornpan)

「不妊白書2018」によれば、働きながら不妊治療をしている女性の95.6%が、仕事と治療の両立が難しいと感じている。その背景にあるのは周囲の無理解だ。日本総研の小島明子氏は「妊娠した女性の働き方には配慮する会社は多いが、不妊治療がしやすい職場環境を整えている会社は少ない。企業側が状況を正しく理解する必要がある」と訴える――。

■「不妊治療を理由にした配置転換や勤務の軽減は認めない」

国立社会保障・人口問題研究所の「第15回出生動向基本調査」(2015年)によれば、「不妊を心配したことのある」夫婦は35.0%です。さらに子どものいない夫婦に限定すると、その比率は55.2%となります。不妊の検査や治療経験のある夫婦の割合は、調査を重ねるたびに上昇しています。

結婚後も働き続ける女性が増えるなか、多くの女性が仕事と不妊治療の両立に苦しんでいます。今回はNPO法人Fineの「不妊白書2018」のデータを交えながら、不妊治療のための職場環境の整備について考えます。

【1:仕事と不妊治療の両立の現状】

NPO法人Fineでは、2017年3~8月に、仕事をしながら不妊治療を経験したことのある、もしくは考えたことのある男女5526人に対して調査を行い、「不妊白書2018」としてまとめています。

「不妊白書2018」では、「仕事をしながら不妊治療を経験したことがある」と答えた5127人のうち、「仕事と治療の両立が難しいと感じたことのある」人は全体の95.6%に上りました。その理由として最も多いのは、「急に頻繁に仕事を休むことが必要」(71.9%)でした。次いで「生理周期に合わせた通院が必要であらかじめ通院スケジュールを立てるのが難しい」(47.3%)、「周りに迷惑をかけて心苦しい」(25.6%)、「上司や同僚の理解を得られない」(13.0%)と続きます。

Fineが行った調査の自由記述のなかには、下記のようなコメントがありました。

「有給休暇は本来1カ月前に申請ですが、治療の休みは予測不能。結果的に欠勤対応となったことがありました」(30代女性)
「管理職だと会議などに出席しなくてはならないのですが、不妊治療の通院日とかぶった際は、会議を休まなければなりませんでした。そのたびに周りに迷惑をかけてしまうので苦しかったです」(30代女性)
「『不妊治療と妊娠は違う』と上司に断言されました。『妊娠を理由とした軽勤務は認めるが、不妊治療を理由にした配置転換や勤務の軽減は認めない』とも言われました」(40代女性)

不妊治療を行っている多くの女性が、有給休暇の難しさや周囲の無理解に悩んでいる状況がうかがえます。働く人が希望した時に気軽に休みを取れる環境づくりが整備されていれば、不妊治療を行っている女性の精神的な負担感も軽減されると考えます。

■「子どもはいないほうが楽だよ」と言う上司には何も話せない

【2:不妊治療に関する職場のコミュニケーションの難しさ】

「不妊白書2018」によれば、職場で「不妊治療をしていることを話しづらいと感じる」人は81.3%に上ります。その理由は、「不妊であることを伝えたくなかったから」(65.2%)が最も多く、「不妊治療に対する理解が少なく、話してもわかってもらえなさそうだから」(52.1%)、「周囲に心配や迷惑をかけたくなかったから(51.4%)、「妊娠しなかったとき、職場にいづらくなりそうだったから」(43.0%)と続きます。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/recep-bg)

調査の自由記述には、下記のようなコメントがありました。

「『子どもはまだ?』と言われると、プレッシャーに感じるので、話しませんでした」(30代女性)
「部署に女性が1割もいなく、上司も全員男性のため話しづらいです」(30代女性)
「『子どもはいないほうが楽だよ』『不妊治療をやめたら、すぐに妊娠する人多い見たいだから、やめてみたら?』と言われ、話しづらく感じました」(30代女性)

■不妊治療に対して無理解な人の多さに悩む女性

不妊治療に対して無理解な人が多く、女性たちはコミュニケーションに負担を抱えています。Fine理事の野曽原誉枝(のそはら・やすえ)氏はこう語ります。

「当事者がコミュニケーションを取ろうとしても難しい場合が多いのが事実です。私は、管理職や周囲の人たちに、まず『不妊はある特定の人の特別な状況ではない』ということを知っていただきたいと思います。そして、『望めばすぐに授かるものではない』『不妊治療さえすれば必ずすぐに授かるものではない』ことを、正しい知識として身につけてほしいと思います」

最近では、働き方改革に関する研修や男性管理職を中心とした女性部下育成に関する研修を行う企業が増えています。そのような機会を通じて、不妊治療に悩む女性の問題について情報提供を行っていくことが、コミュニケーション改善の第一歩につながると感じます。

■不妊治療と仕事の両立に悩む女性社員にできることは

【3:企業に期待される施策とは】

「不妊白書2018」によれば、職場に不妊治療をサポートする制度が「ない」と答えた人は84.3%に上ります。制度が「ない」と回答した女性が求めるサポートとして、多かったのは「就業時間制度」(73.3%)、「休暇・休業制度」(73.1%)です。不妊治療を続けながら働くために、働く時間や休暇の面での配慮を求めていることがわかります。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/chinaface)

一方、職場に不妊治療をサポートする制度が「ある」と答えた人からも、制度内容がニーズとかけ離れていることが指摘されています。

不妊治療のために使いやすい「休暇・休業制度」については、「職場にすでに整備されている」と回答した女性が63.8%であったのに対して、「(今)職場に求めている」という女性が73.1%でしたので、現状とのギャップはそれほど大きくありません。

ところが、女性が最も求めているサポートである、働く時間を調整できる「就業時間制度」については、「すでに整備されている」と回答した女性はわずか5.5%であったのに対して、「(今)職場に求めている」という女性が73.3%もいて、ニーズと現状に大きなギャップがあります。

その他、「不妊治療費に対する融資・補助」、「再雇用制度」、「支援要員の雇用制度」なども、働く女性のニーズと、企業が整備している現状に大きなギャップがありました。

最近は、大手企業を中心に、不妊治療のための長期の連続休暇制度の整備など、不妊治療を行う女性を支援する制度の整備が広がっています。筆者が企業に聞き取っている印象では、不妊治療を行う女性の支援が制度化されているケースは少なく、個別の相談を受けて対応しているケースが多いようです。

不妊治療は、介護や育児に比べて心理的に言い出しづらいということに配慮し、使いやすい制度を整備していく必要があると考えます。

■相談する窓口や担当者が明確になっていると精神的負担が軽減

Fine理事の野曽原氏は言います。

「制度を整備するにはコストもかかりますが、現状の制度条件を見直してみる、あるいは、不妊治療を対象として条件を拡充するなど、さまざまな方法があります。実は、制度がなくても、相談する窓口や担当者が明確になっていたら、当事者の精神的な負担が軽減されるケースも多いのです。多くの企業が柔軟な姿勢を持って、一歩前に進めてほしいと思います」

働き方改革の課題が山積みの企業のなかには、不妊治療を受ける女性の数が相対的に少ないため、制度整備に優先順位が下がってしまうところもあるでしょう。しかし、野曽原氏の話を踏まえれば、制度の拡充が難しい企業においては、まず相談窓口の設置を行うだけでも、不妊治療と仕事の両立に悩む女性従業員の助けにはなるのではないでしょうか。

不妊治療と仕事の両立の課題は、最近、ようやくメディアなどで取り上げられることが増えてきましたが、企業の取り組みは十分とは言えません。今後、仕事と家庭の両立支援の一環として、不妊治療という課題にも目を向け、取り組みを拡充する企業が増えていくことが期待されます。

(日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト 小島 明子 写真=iStock.com)

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