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70歳医師"病人になって初めてわかった"

プレジデントオンライン / 2019年5月8日 9時15分

検査が充実したとはいえ、病気の本当の姿を表すのは本人の自覚症状だ――。(写真はイメージです。写真=iStock.com/TeoLazarev)

医師は診断の際、患者に問診を行う。症状の訴えに応じて、診断を下していくが、実際にどれほどの痛みなのかはよくわからない。医師で医療ジャーナリストの富家孝氏は、「自分自身が心臓病と糖尿病になって、『これが自覚症状なのか』と驚いた。医者は病気を『本当』には知らないとわかった」という――。

■医師は病気を「本当」には知らない?

私が医者になって、じきに半世紀になろうとしています。すでに70歳を超えました。一般の人ならすでに職業生活を終えて引退している年ですが、医者には定年がありません。医師免許は終身です。

よって、いまも私は医者を続けているのですが、年齢を重ねてつくづく思うのは、実は病気を本当には知らなかったということです。もちろん、病気自体は知識と診察の経験から知っています。しかし、その症状や、そのときどんな感じになるかなどは、医者といえども、実際に体験しないとわからないのです。

なぜそう言えるかというと、私自身が、二つの体験をしたからです。一つは心臓病、もう一つは糖尿病です。

心臓病というのは、たいていの場合、胸が苦しくなるという自覚症状によってわかります。私が初めてなにか胸が押し付けられるような感じになったのは、平成16年12月6日の朝方のことです。

■胸に突然の圧迫感と冷や汗

私は手帳に自分の体験を細くメモしているので、正確に記すと、午前7時10分のことで、このとき、左胸部にそれまでになかった圧迫感を感じ、冷や汗が出ました。医者としての直感から、これは血管になにか異変が生じていると思い、すぐに知己の心臓外科医・南淵明宏氏に連絡を取りました。彼は、心臓外科の世界では有名な凄腕を持つ名医です。

「すぐ来てください」と言われ、私は彼の病院に駆けつけました。そうして、CTと心電図の検査を受けました。すると異常がないということでしたが、エコーを見ると左室が動いていないのです。

「これはステントを入れないだめですね」と、南渕医師。冠動脈前下行枝が90%以上が詰まっているというのです。ステントというのは、ステンレススチールやコバルト合金などの金属でできているチューブで、これを血管に入れることで血流が回復します。こうして、緊急でステント挿入手術を受けました。

私が医学生のときに習ったのは、心筋梗塞などを起こすと「胸痛、圧迫感、左肩痛、奥歯の痛み」という症状が出るということでしたが、このときの私は、まさにこれに当てはまっていたのです。結局、病気というのは自分でなってみて初めてわかるものだと、このとき痛感しました。

以来、私は、降圧剤の「ブロプレス」、「テノーミン」、「アムロジン」(Ca拮抗薬)、血液をサラサラにする「プラビックス」を服用し続けています。また、枕元には血圧計を置いて、いつでも測れるようにしてきました。

南淵医師は、「ステントを入れても、何年かすればまた必ず動脈が詰まることがありますから、結局、バイパスが必要ですよ」と言いました。そのときはそんなものかと思ったのですが、これもまた本当でした。

ステント挿入の手術を受けてから8年後、2012年12月22日の朝方、私は再び胸痛に襲われたのです。このときは背中にも痛みが出ました。それで再び南淵医師に連絡し、検査を受けると、冠動脈の根元のほうが95%も詰まっていました。このときは開胸して動脈バイパス手術を受け、事なきを得ました。約2週間入院して、お正月を病院のベッドで過ごしました。

■糖尿病も身をもって体験

糖尿病に関しても同じです。私が初めて糖尿病の気があると診断されたのは、2005年のこと。血糖値を検査したところ、HbA1c(血中のヘモグロビンのうち、糖化しているものがどれぐらい存在するかの割合)が7.2と、当時の基準値(6.2%未満が優、6.2~6.9%が良)を超えていたため、以来、血糖値を下げるために、「グリミクロン」(SU剤)を朝夕1錠、「エクア」を朝夕2錠、「メトグルコ」を毎食後3~6錠、飲むようになりました。食生活も変え、炭水化物を摂りすぎないようにするため、夕食にはご飯も控えるようにしました。

クスリを飲み始めて2~3カ月して血糖値は下がりました。しかし、服用を止めると上がるので、以来、クスリと血糖値の測定は欠かせなくなりました。糖尿病というのは、いわゆる一般的な病気ではなく、いったんなると治りません。生活習慣病というのはみなそうです。つまり、病気というより老化現象と言ったほうがいいでしょう。

糖尿病の場合は、なんらかの原因でインスリンがつくられなくなり、その結果、血液中のブドウ糖の量が増えます。この血糖値が上がった状態が続くと、疲労感がとれなかったり、のどの渇きが頻繁になったりし、最終的には合併症(神経障害、網膜症、腎症)を起こします。また、動脈硬化から心筋梗塞や脳梗塞の危険性も高くなります。そのため、クスリと食生活は非常に大事なのです。

■急に足に力が入らなくなる

ただ、糖尿病が怖いのは、高血糖ではなく低血糖です。低血糖になると、冷や汗をかいたり、目がかすんだりして集中力がなくなり、最後には言葉が出にくくなったり、呂律(ろれつ)が回らなくなったりします。意識を失い倒れる場合もあります。

低血糖が怖いというのは医者としての常識で、糖尿病患者さんにクスリを処方するとき、「下がりすぎたら危険ですので十分注意してください」と言うことになっています。しかし、そうは言っても医者自身はマニュアルに沿って言っているだけで、低血糖になると、実際にどうなるかはわかっていないのです。

それが本当にわかったのは、2015年5月に低血糖の症状を実際に体験してからです。前記したように、私は自分の体調と食事を常に手帳にメモしているのですが、それで確認すると、午後2時ごろ、なにか嫌な感じがし、気持ちが悪くなりました。うまく説明できないのですが、日頃しゃべるのが大好きな私がしゃべるのさえ嫌になりました。

このとき、私が思ったのは、糖尿病患者さんがよく言う「低血糖というのはこれなのか」です。それで、あわててチョコレートやクッキーなどを食べました。糖分を摂るためです。そうして、1時間ほどで回復しました。

これと同じことが、2016年1月7日の午後7時ごろにも起こりました。このときは風呂に入ろうとして、足に力が入らなくなったのです。足を踏み出そうとするのですが、踏み出せないのです。

私は急いで簡易測定器で空腹時血糖値を測りました。すると、35mg/dlと出たので、このときもあわててチョコレートやクッキーなどを食べました。すると、約1時半後、血糖値は196mg/dlまで回復しました(正常値は80~130mg/dl)。もしなにもしなかったら、そのまま意識を失ったかもしれず、かなり危なかったわけです。

糖尿病専門医は、「エクアをSU剤と併用するときは低血糖に注意してください」と言い、このことは医学書にも書かれています。私の症状はまさにそれでした。糖尿病患者さんは、よく私と同じような症状を訴えます。しかし、その症状を聞いても医者に同じ体験がないと、医者自身は的確な判断と指示ができません。

■「自覚症状」に謙虚になるべし

この歳になるまで、私は実にいろいろな患者さんを診てきました。しかし、つくづく思うのは、私は患者さんの訴えを頭でわかっていただけということです。医者は実は、病気に関して本当にはなにも知らない。そう痛感するようになりました。

そのため、年配の方に私が言いたいのは、歳を取ったら、自分の体が発するサインに謙虚になること。そして、できるなら同じような体験をしている年輩の医者にかかることです。そういう医者のほうが、その症状のサインをわかってくれるということです。若い医者なら、症状を細かく真剣に聞いてくれる医者を選ぶべきでしょう。

歳を取るにつれて、若いときにはなかった変調が体に表れます。そのとき、私たちは初めていつまでも健康のままではいられないことに気づくのです。検査が充実したとはいえ、自覚症状がその病気の本当の姿を表しているのです。

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富家 孝(ふけ・たかし)
東京慈恵会医科大卒。開業医、病院経営、早稲田大講師、日本女子体育大助教授などを経て、医療コンサルタントに。新日本プロレス・リングドクター。著書に『不要なクスリ 無用な手術』など66冊。

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(医師、ジャーナリスト 富家 孝 写真=iStock.com)

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