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地球38億年の法則"最後に笑うのは敗者"

プレジデントオンライン / 2019年5月3日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/tjhunt)

現代は「弱肉強食」だが、地球38億年の歴史を振りかえると、強者はたびたび全滅してきた。静岡大学の稲垣栄洋教授は「むしろ生き延びてきたのは、時代の敗者である弱きものたち。それらが逆境を乗り越え、進化して常に新しい時代を作ってきた」という。生物学が説く「逃げ回り続けることの効用」とは――。

※本稿は、稲垣栄洋『敗者の生命史38億年』(PHPエディターズ・グループ)の一部を再編集したものです。

■弱肉強食が生物界の掟だが、強者がたびたび全滅したワケ

地球の歴史を振り返ると、色々なことがあった。うれしいときもあった。苦しいときもあった。しかし、生命はしぶとく生き延びてきた。そうだ、生き延びたものが勝ちなのだ。

世の中は弱肉強食だが、地球の歴史はどうだっただろう。

地球に生命が生まれてから、最初に訪れた危機は、海洋全蒸発とスノーボール・アース(全球凍結)であった。これは、地球規模の大異変である。

地球に生命が生まれたころ、直径数百キロメートルという小惑星が地球に衝突した。そのエネルギーで、すべての海の水が蒸発し、地表は気温4000度の灼熱と化した。そして、地球に繁栄していた生命は滅んでしまったのである。

このような海洋全蒸発は、一度ではなく、何度か起こったかも知れないと考えられている。このときに生命をつないだのが、地中奥深くに追いやられていた原始的な生命であったと考えられている。

こうして命をつないだ生命に訪れた次の危機が、地球の表面全体が凍結してしまうような大氷河期である。この時期には、地球の気温がマイナス50度にまで下がった、全球凍結によって、地球上の生命の多くは滅びてしまった。しかし、このとき生命のリレーをつないだのが、深海や地中深くに追いやられていた生命だったのである。

■地球の異変で生き残ったのは、僻地に追いやられた生命

こうして地球に異変が起こり、生命の絶滅の危機が訪れるたびに、命をつないだのは、繁栄していた生命ではなく、僻地に追いやられていた生命だったのである。

そして、危機の後には、必ず好機が訪れる。

スノーボール・アースを乗り越えるたびに、それを乗り越えた生物は、繁栄を遂げ、進化を遂げた。真核生物が生まれたり、多細胞生物が生まれたりと、革新的な進化が起こったのは、スノーボール・アースの後である。

そして、古生代カンブリア紀にはカンブリア爆発と呼ばれる生物種の爆発的な増加が起こるのである。カンブリア爆発によって、さまざまな生物が生まれると、そこには強い生き物や弱い生き物が現れた。強い生き物は、弱い生き物をバリバリと食べていった。強い防御力を持つものは、固い殻や鋭いトゲで身を守った。

■逃げ回ることしかできなかった弱い生物がしたこと

その一方で、身を守る術もなく、逃げ回ることしかできなかった弱い生物がある。その弱い生き物は、体の中に脊索と呼ばれる筋を発達させて、天敵から逃れるために早く泳ぐ方法を身につけた。これが魚類の祖先となるのである。

稲垣栄洋『敗者の生命史38億年』(PHPエディターズ・グループ)

やがて、脊索を発達させた魚類の中にも、強い種類が現れる。すると弱い魚たちは、汽水域に追いやられていった。そしてより弱い者は川へと追いやられ、さらに弱い者は、川上流へと追いやられていく。こうして止むにやまれず小さな川や水たまりに追いやられたものが、やがて両生類の祖先となるのである。

巨大な恐竜が闊歩していた時代、人類の祖先はネズミのような小さな哺乳類であった。私たちの祖先は、恐竜の目を逃れるために、夜になって恐竜が寝静まると、餌を探しに動き回る夜行性の生活をしていたのである。常に恐竜の捕食の脅威にさらされていた小さな哺乳類は、聴覚や嗅覚などの感覚器官と、それを司る脳を発達させて、敏速な運動能力を手に入れた。

■敵に追いやられながら、私たちの祖先は生き延びた

大地の敵を逃れて、樹上に逃れた哺乳類は、やがてサルへと進化を遂げた。そして、豊かな森が乾燥化し、草原となっていく中で、森を奪われたサルは、天敵から身を守るために、二足歩行をするようになり、身を守るために道具や火を手にするようになった。

人類の中でネアンデルタール人に能力で劣ったホモ・サピエンスは、集団を作り、技術と知恵を共有した。

生物の歴史を振り返れば、生き延びてきたのは、弱きものたちであった。そして、常に新しい時代を作ってきたのは、時代の敗者であった。そして、敗者たちが逆境を乗り越え、雌伏の時を耐え抜いて、大逆転劇を演じ続けてきたのである。

まさに、「捲土重来(けんどちょうらい)」である。

逃げ回りながら、追いやられながら、私たちの祖先は生き延びた。そして、どんなに細くとも命をつないできた。私たちはそんなたくましい敗者たちの子孫なのである。

■母親のお腹の中に宿ったとき、あなたは単細胞生物だった

こうして今あなたはついにこの世に生を受けて、地球上に出現した。考えてみればこれは、とてつもなくすごいことである。何しろ、あなたがこの世にいるということは、地球に生命が誕生してから、一瞬たりとも途切れることなくあなたに引き継がれたということだ。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/cosmin4000)

生命の歴史の中で、何度も困難な災害が地球を襲った。何度となく過酷な環境に晒された。そして、多くの生命が滅んでいったのである。わずかな生命しか生き残らなかった大事変も、何度も経験している。それなのに、あなたにつながる祖先は生き抜いた。生き残った。そして、命のリレーをつないだのである。次から次へとバトンは受け渡されてきた。だから、あなたはここにいるのだ。これを奇跡と言わず、何というだろう。

「個体発生は系統発生を繰り返す」と言われる。

母親のお腹の中に最初に現れたあなたは、どんな姿だっただろうか。魚類とも両生類ともつかないおたまじゃくしのような姿だっただろうか。そうではない。母親のお腹の中に宿ったとき、あなたは単細胞生物だった。たった一個の卵細胞に、やってきた精子が入り込んで受精をする。

私たちの祖先が単細胞生物であったように、最初に生命を宿したとき、あなたもまた、一個の単細胞生物だったのである。そして、あなたは細胞分裂を繰り返していく。一つだった細胞は二つになり、分裂して四つになり、八つになり、十六になる。今、あなたの体は七十兆個とも言われる細胞から作られているが、そのすべての細胞は、こうして分裂していったあなたの分身なのだ。

こうして、細胞分裂を繰り返し、あなたは多細胞生物になった。やがて球状だったあなたの体は、へこみができていく。生物は筒状に進化し、内部構造を発達させた。まさにその過程を踏んでいるのである。

そして、あなたは、尻尾をもった魚のような形になる。やがて尻尾は退化していく。このとき、手の指は七本ある。これは、おそらく地上に上陸したばかりの頃のなごりだ。やがて、二本の指は退化して、五本指となる。人間の妊娠期間は十月十日。しかし、その間に長い長い生命38億年の歴史を繰り返して、あなたは生まれたのだ。あなたのDNAの中には、生命の歴史が刻まれている。

(植物学者、静岡大学教授 稲垣 栄洋 写真=iStock.com)

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