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"次の首相"小泉氏が公約破りに陥ったワケ

プレジデントオンライン / 2019年5月1日 18時15分

衆院本会議に臨む自民党の小泉進次郎氏(写真=時事通信フォト)

■政治家・小泉氏の商品価値にも傷がついてしまった

時代は平成から令和に移ったが、「次の首相」候補で常に1位を争うスター議員の小泉進次郎衆院議員は、忸怩たる思いで新しい時代を迎えたことだろう。自らが旗振り役となって進める国会改革が、ほぼ一歩も前に進まなかったからだ。

比較的合意が簡単な項目だけ集めて「平成のうちに」実現すると大風呂敷を広げていただけに、政治家・小泉氏の商品価値にも傷がついてしまった。なぜそうした想定外の事態に陥ったのだろうか。

■「平成のうち」に実現可能な項目を選んだけれど

「次の令和の時代は間違いなく国会改革が進んだと言われる時代にしなければならない。令和の時代を平成以上に、良い時代にしなければならない」

4月26日、小泉氏は記者団の質問に答える形で、国会改革が進まなかったことへのコメントを語った。

小泉氏らが中心になって超党派の100人超で発足した「『平成のうちに』衆議院改革実現会議」は昨年、大島理森衆院議長らに国会改革の提言を行っている。

提言は以下の3つである。

(1)国民への説明責任を強化することを目的とし、党首討論の定例化・夜間開催など充実した討議が行われる環境を整備すべき
(2)衆議院におけるタブレット端末の導入・活用など、IT化を推進し、国会審議の効率化・意思決定プロセスの透明性向上を図るべき
(3)女性議員が妊娠・出産時等により表決に加わることができない場合に、代理投票を認めるなど必要な対応を速やかに実施すべき

小泉氏は国会改革をライフワークとして取り組んでいる。例えば政治スキャンダルが起きた時、集中的に取り扱う常設の特別調査会を設置すべきだと主張している。しかし、提言には、特別調査会は入っていない。

特別調査会を設置すると、森友・加計問題などは、そちらで集中的に取り扱う。審議時間を十分確保できる点では野党側にメリットがある。その一方で、予算委員会や常任委員会ではスキャンダルは取り扱わなくなるので予算案や法案の審議はスムーズに進み、その点では与党に有利になる。野党は予算案や法案を「人質」にして国会運営をする戦術が取れなくなるのだ。このように特別調査会の設置は、与野党の利害がからんで協議は難航することが予想される。

「平成のうちに」は、その名の通り平成のうちに実現させるため、与野党で合意が難しい「特別調査会」などは外し、合意が比較的簡単とみられる項目だけ集めたのだ。

■いまさらペーパーレスを「前進」と言われても……

提言内容の進捗度をチェックしたい。1つ目の党首討論の定例化および夜間開催については全く進まなかった。党首討論は昨年の6月以降、昨秋の臨時国会はゼロ。ことしの通常国会でも今のところ1度も開かれていない。夜間開催についても、まともに議論されていない。

2つ目のタブレット端末の導入については、平成が終わる直前となる4月26日の衆院内閣委員会で1度だけ実現した。平井卓也科学技術担当相が、タブレットに関連資料を表示して答弁に立ったのだ。平井氏は「平成最後の委員会で機会をつくってもらい感謝する」と感慨深そうに語ったが、あくまで実験的な取り組みという段階。タイムリミット前にぎりぎり1回実施して帳尻を合わせた印象だ。タブレット導入を含むペーパーレス化の議論は10連休明けに始まることになっており、スムーズに進むとは限らない。

そもそも、タブレットなどを利用するペーパーレスは、民間企業では常識だ。いまさら「前進」と言われても、国会の遅れを白日の下にさらすだけだ。

■国会会期は残っているが、実現は絶望的な状況

3つ目の「妊娠・出産時の代理投票」は、小泉氏が最も力を入れる課題の1つだった。具体的にはインターネットを使い議場から離れたところで女性議員本人が投票する「遠隔投票」とする方向で調整を始めようとした。

しかし、これもダメだしされた。憲法違反の疑いが指摘されたのだ。

憲法56条には採決について「出席議員の過半数でこれを決し」というくだりがある。だからネットを使って外から投票するのは「出席」にならないので認められない、という理屈だ。

このように、小泉氏らが掲げた国会改革は、ほぼ全滅。難しい課題を設定しての未達成なら、まだ言い訳もできるが「平成のうちに」と絞り込んだテーマが達成できないのは、ダメージが大きい。

小泉氏は昨年12月14日、日本記者クラブで記者会見を行った際、「来年の通常国会がラストチャンスになる」と語っている。「来年の通常国会」とは今開かれている国会のこと。残念ながら前進のないまま6月26日までとなる会期の3分の2を費やしてしまった。10連休明けても50日ほど会期は残っているが、国会終盤は参院選、もしくは可能性がちらつく衆参同日選をにらみながら与野党はむき出しの対立を繰り返すだろう。与野党の合意が大前提となる国会改革が前進するのは絶望的とみていい。

■国会改革は政府・与党が喜ぶことが多い

なぜ国会改革は、進まないのか。まず指摘しなければならないのは、与野党の利害が密接にからむという点だ。

ペーパーレス化を例に取ろう。技術的には簡単にできる改革だが、実は国会で必要な書類や文書を印刷する時間は、時として野党の「武器」になる。印刷にかかる時間を考慮に入れながら国会戦術を練るのだ。その時間がなくなれば、国会運営は与党に有利になる。

国会改革は総じて「国会の無駄をなくす」ことだ。無駄をなくせば国会審議はスピーディーになる。スピーディーになれば政府・与党が喜ぶことが多いのだ。

■それでも「小泉氏主導」だから進まないパラドックス

だが、国会改革が進まない最大の理由は、小泉氏が前面に出ていることだと言わざるを得ない。

いまさら言うまでもないが、与野党を見渡しても小泉氏ほどのスターはいない。世論調査などでの「次の首相」候補は常に1位を争っている。2009年、初めてバッジをつけたころは「純一郎元首相の息子」として注目されてきたが、最近は「進次郎」で1本立ち。父が、たまにメディアに露出する時は「進次郎氏の父親」と紹介されるようになってきた。

それだけに風当たりも強い。小泉氏は、同期の4回生以下の議員とはおおむね良好な関係を築いたが、5回生以上には敵が多い。ジェラシーが渦巻いているのだ。だから、党執行部は、小泉氏がこれ以上目立つような「手柄」を立てさせたくない。だから「小泉案件」は後回しになるのだ。

今国会で唯一の「小さな前進」となった委員会でのタブレット使用も、小泉氏ではなく、当選7回の平井氏にスポットライトが当たるような振り付けになっていた。これも小泉氏と自民党執行部の微妙な空気を表している。

■国対の「改革」が進まなければ、令和でも成果ゼロ

党国対関係者はこう耳打ちする。

「国会改革は、やれればやりたい。でも、やれば別の法案の審議が遅れる。国会改革か、法案審議かと問われれば、法案を優先するさ。法案を上げるのはわれわれの仕事。国会改革は指示を受けているわけではない」

言うならば、国会を回している与野党の執行部、特に国対幹部の「改革」が進んでいないということなのだろうか。その状況が続く以上、国会改革を進めるのは難しい。小泉国会改革は、令和になっても成果を出せそうにないのである。

(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)

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