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橋下徹"なぜ皇位継承は多数決ではダメか"

プレジデントオンライン / 2019年5月15日 11時15分

※写真はイメージです。(写真=iStock.com/nanami_o)

令和元年秋に始まる政府レベルの皇位継承論議。伝統の「男系男子」を守るべきか、女性・女系天皇容認へ舵を切るべきか、いまから激論が予想される。橋下徹氏の考えは? プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(5月14日配信)から抜粋記事をお届けします――。

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■僕は「戦前の日本」には住みたくない。でも……

メールマガジンの前号(Vol.150【令和時代の天皇制(1)】なぜ国民の多くが支持するか? 存続の危機に何をすべきか?)では、国民の天皇に対する敬慕の念が醸成される根拠について、5つに整理した。そのうちの根拠(2)「教育と社会が敬慕の念を醸成した」について見ていこう。

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戦前、つまり大日本帝国時代の日本においては、天皇は神であり、君主であり、国民全員は臣下であった。天皇は絶対的に崇められる存在だったのだ。ゆえにそのような国の在り方(国体)を守るために、徹底した教育が行われ、社会制度も構築された。日本の世の中全体が天皇を崇める世界だったのだ。

僕は戦前の世界には住みたくないが、このこと自体を批判しても仕方がない。それは人類の歴史として、どの国、どの地域でも歩む道程だからだ。弱肉強食の時代から、国民一人一人の個人の尊厳を守る時代へ。この歩みのスピードは、それぞれの国や地域によって異なるところがあるが、強者が権勢を振るうという過程は、人類の歴史上当然存在するところである。

(略)

このような時代の人たちが「男系男子の皇統を守るのは当然だ! それが国家と臣民(国民)の使命だ!」と主張するのは完全に理解できる。その皇統を守るために、先の大戦において、愛する家族が、愛する友が命を落としたのである。皇統とはそれだけの究極の価値を有するものなのである。この人たちに、「皇統を守らずして、命を落とした者たちが報われるか!」と一喝されれば、それには何も反対できない。

僕が男系男子の皇統を簡単に放棄できない根本理由はここにある。自分自身が男系男子の皇統自体に熱狂的なある種の感情を抱いているわけではない。そうではなく、男系男子の皇統を守るために命を落とした多くの先人の想いを、簡単に捨て去る勇気がないのだ。

■その強硬な主張は「ファッションとしての主張」ではないか?

ところが、男系男子絶対維持を熱狂的に主張する今の国会議員やインテリたちからは、そのような熱を感じることができない。

歴史本を書いている倉山満氏は、「続いているものを守ることに価値がある」との主張をしている。そして1200年続いているという延暦寺の不滅の法灯の例を持ち出し、男系男子の皇統を守ることと不滅の法灯を守ることは同じだと主張した。彼は、その後ぐちゃぐちゃ、ダラダラと色々なことを述べているが、そこに注目すべき論は見当たらない。要するに、彼の男系男子の皇統を守る根拠が、続いているものを守れ! 日本特有の歴史を守れ! 日本の国柄を守れ! と、その程度でしかないということだ。すなわち、彼が代表するような熱狂的男系男子維持派のインテリたち自身が、実は男系男子の皇統を守ることに、国民の感情が掻き立てられるような価値を見出し切れていないという根本問題が、倉山氏の主張から見て取れる。

そうではないんだ。男系男子の皇統というものには、戦前の、それを守ろうとし、守るために犠牲となった多くの臣民(国民)の、特に若者たちの命というものが付着しているんだ。だから必死になって守らなければならないんだよ。なぜ、熱狂的男系男子維持派はそのことを狂ったように主張しないのか。

これは男系男子維持を熱狂的に主張する日本維新の会、大阪維新の会の一部メンバーにも言えることだ。さらに「私は保守だ!」と常日頃叫んでいる国会議員たちも同じだ。

男系男子維持を熱狂的に主張する国会議員やインテリたちが今までに、「皇統を守るために、国は、国民は総力をあげなければならない!」と言って本気で活動をしているところなんて見たことがない。このような問題が話題になるときにだけ男系男子維持を熱狂的に主張する。本気で男系男子の皇統を守るというのであれば、今の状況になる前に、もっと命がけで本気のアクションを起こしていたはずだ。まさに戦前の人たちのように。

だからどうしても、彼ら彼女らの男系男子絶対維持の主張にはある種のファッション的な雰囲気を感じてしまう。まるで暴走族が日の丸と菊の紋の入った特攻服を着るのと同じような。

(略)

他方、「男系男子にこだわりはない。女性天皇・女系天皇でもいいではないか」と簡単に言い放つ者たちにも大きな疑念を抱く。

(略)

■「戦前の日本」を守るために身近な人が命を捨てたという事実

僕の亡くなった爺さんは、海軍兵だった。頭頂部には鉄砲の弾がかすった傷があった。ほんとそこだけ、溝が付いていたんだ。あと数センチ弾道がずれていたら、爺さんの頭は打ち抜かれ、僕のオカンは生まれていなかった。そうなると僕も、僕の子供もこの世には存在しない。

僕が小学校の夏休みや冬休みに、山口県の爺さんの家に行くと、酔った爺さんが戦争の話をよく聞かせてくれた。爺さんの子供、すなわち僕のオカンやおじさん、おばさんたちはそんな話はもう聞かない。孫も、僕くらいしか聞かなかったようだ。だって小学生にしてみたら戦争の話なんて面白おかしくないからね。

爺さんは、オカンやおじさん、おばさんたちとの話に疲れると、席を外して、ウイスキーをビールで割って一人でガブガブ飲み始める。そのときに僕が呼ばれるんだけど、僕は爺さんが好きだったので、横にずっと座っていたらしい。そこからはずっと戦争の話だよ。

とにかく悲惨だよ。ほんと当時の戦争指導者などろくでもない。戦略や戦術などあったもんじゃない。僕も政治の世界に足を突っ込み、国会議員や中央政府の役人たちを間近で見たけど、当時とそれほど変わらないだろう。むしろ、まだ戦時中の戦争指導者の方が勉強はしていたんじゃないか。

僕は爺さんに、小学生ながら生意気に、当時の世の中についてダメ出しを連発していたらしい。

爺さんは、「徹、その気持ちを絶対に忘れたらいけんのじゃ。そういう気持ちがみんなからなくなったらまた戦争になるじゃけん。でもな、爺さんは当時の世の中を否定することはできんのじゃ。その世の中を守るためにみんな命をかけてたんじゃけん。爺さんの仲間も、弟も、おじさん、おばさんも、その世の中を守るために死んでいったんじゃけん。みんなもっと長生きしたかったかなんて考えるのが辛いんじゃ。だから爺さんは、その世の中を守るためにみんなは喜んで死んでいったと勝手に考えとるんじゃ。じゃけん、その世の中を否定されたら、仲間も、弟も、おじさん、おばさんも報われんのじゃ」(※方言は雰囲気で正確ではありません)と、毎回こうやって締めくくって、そのまま床に入るパターンだった。毎回、大きな目玉を涙いっぱいで濡らしながら、おやすみも言わずに去っていく。

それなのに、僕は爺さんとこの話になると、毎回、ダメ出しをするんだよ。まったく、三つ子の魂、百までだよな。

靖国にも、旧陸軍墓地にも、そして皇統にも、先人のたくさんの命が染みついていることを忘れてはならない。それが良いか悪いか、正しいか間違っているか、合理的か不合理か、論理的か精神論的かなんてことは問題じゃない。単純な2000年以上の伝統という話でもない。とにかく、そういう先人の命の上に、今の自分たちが生きているということを忘れてはならない。

熱狂的男系男子維持派の国会議員やインテリたちは、どこに男系男子維持の理由を見出しているのだろうか。なぜあそこまで熱狂的になれるのだろうか。いつから男系男子の皇統を守らなければならないと本気で思ったのだろうか。先人の命を想え! と一喝されれば納得するが、彼ら彼女らからそのような声は聞こえてこない。僕は彼ら彼女らを間近に見てきて、多分にファッション的なものを感じる。今も本気で皇統を守るために命を差し出す覚悟を持っている人も存在する。しかし、少なくても国会議員やインテリにはその覚悟はないだろう。彼ら彼女らには本気の熱を感じないんだよ。

僕が男系男子の皇統にこだわる理由の柱は、この先人の命の点だ。しかし、これも時代と共に変わってくることまでは否定できない。というのも、関ヶ原の戦いで命を落とした先人に対して、僕は正直そこまでの強い想いを抱いていないからね。

(略)

(ここまでリード文を除き約3300字、メールマガジン全文は約1万2500字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.151(5月14日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【令和時代の天皇制(2)】安定的な皇位継承のために僕たちの世代がやるべきこと》特集です。

(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=iStock.com)

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