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トランプ氏が米国民から愛され続けるワケ

プレジデントオンライン / 2019年5月8日 15時15分

ホワイトハウスで行われた米大統領自由勲章の授与式で、男子ゴルフのタイガー・ウッズ選手(左)の肩を抱くトランプ大統領=2019年5月6日(写真=AFP/時事通信フォト)

■ダウ平均は「史上最高値」を更新する勢い

米国の株高が続いている。ダウ工業株平均は上昇基調で、昨年10月の史上最高値2万6828.39ドルを更新する勢いだ(※)。この背景には、トランプ大統領が米国の中央銀行であるFRB(連邦準備理事会)に対して、強い利下げ圧力を加えていることがある。

※編集部注:5月7日にダウ平均は大幅安となった。終値は前日比473ドル安となる2万5965ドルで、下げ幅は約4カ月ぶりの大きさ。ただし1年前の2018年5月の終値(月次)は2万4415ドルで、依然として過去最高をうかがう水準にある。    

トランプ大統領がFRBに圧力をかけるのは、2020年の大統領選挙に勝利したいからだ。米国の有権者の支持を得るには、株価の上昇が欠かせない。米国家計の金融資産は約36%が株式だからだ。株価が上昇すると、「大統領がよくやってくれた、生活が楽になった」「将来に関して明るい見通しが持てる」との実感を持ちやすい。

トランプ氏は、さらなる金利引き下げによって株価を上昇させ、有権者に自らの成果を示したい。それが、米国だけでなく世界的な金利の上がりづらさを支える要因となっている。

■トランプ大統領への支持率は42%で安定推移

株価の動向は、その国のトップ(大統領、首相)の通信簿だ。株価が上昇すれば、支持率は上向く可能性がある。反対に、株価が下落すると、支持率は低迷しやすい。

株価が上昇すると人々の心理(マインド)は上向く。これを「資産効果」という。保有する資産の価値の変化が、需要に与える効果だ。簡単に言えば、株価が上昇すると、以前よりも多くの人が、高額商品などを買い求めるようになる。株価が上昇すると、何となく気持ちにゆとりができる。まさに、「景気は気から」である。株価は家計だけでなく、企業経営者のマインドにも無視できない影響を与える。

株価が上がるか、それとも下がるかは、その時々の大統領への支持に大きく影響する。株価が上昇すると、政治家は、自分の経済運営の手腕(成果)をアピールし、有権者からの信頼を得ることができるだろう。反対に、株価が下落すると、支持を獲得することは難しい。まさに、株価はその国トップの通信簿だ。

今年3月のCNNの世論調査によると、米国経済について好調だと考えている人の割合は71%で、これは2001年2月以来の高水準だった。トランプ氏の経済政策についても51%が肯定的な評価を下した。そしてトランプ氏に対する支持率は42%で、歴代大統領と比べると低い水準だが、安定している。

■「民主党政権であれば経済も金融市場も低迷していた」

トランプ氏は就任直後から株価の動向に神経をとがらせてきた。例えば、2017年11月、ニューヨークダウ工業株30種平均株価が当時の最高値を更新した。この時、トランプ氏は株価の上昇が自らの手柄であると主張し、民主党政権であれば経済も金融市場も低迷していただろうとツイートした。

昨年9月下旬から本年年初まで、米国の株式市場では「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)」をはじめとするIT先端銘柄をはじめ、多くの企業の株価が急速かつ大幅に下落した。それはトランプ氏にとって、自らへの評価が大きく低下していることを示唆する動きに他ならなかったのである。

株価を押し上げるために最も効果があるのは、金利を低下させることだ。金利が低下すれば、投資資金はより高い期待収益を求めて、株式に流れ込む。この考えに基づき、トランプ氏は米国の中央銀行であるFRBを批判し、金利を引き下げるように強く求めている。

■「FRB理事に求められる資質」が変わってきた

昨年10月、トランプ氏は、自らの手腕で米国経済が上向いているにもかかわらず、FRBの利上げが成長の妨げになっていると批判した。トランプ氏は、FRBが景気回復に合わせて段階的かつ慎重に利上げを行ってきたことが気に入らない。この考えは、FRBの金融政策に無視できない影響を与えている。

すでにトランプ氏は、自らの考えに近い2人(ハーマン・ケイン氏とスティーブン・ムーア氏)をFRBの理事候補に指名した。すでに2人とも理事指名を辞退しているが、大統領自ら利下げを重視する人物をFRBに送り込もうとしていることは、軽視できない。

これまでの米国の政権であれば、理事に求められる資質(学位の取得状況、経済や金融市場に関する実務経験の有無、景気動向に関する客観的かつ理論的な分析能力など)を慎重に評価し、複数の候補者の中から最も適していると考えられる人物を選んできた。これに比べ、現在のトランプ氏は利下げに共感できるか否かを軸に、理事候補を選んでいる。

このマグニチュードは大きい。市場参加者は、大統領が利下げを重視していることを真剣に受け止めているのだ。実際、4月30日と5月1日に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会、米国の金融政策を決定する会合)に関して、かなりの市場参加者が利下げの可能性が示されると考えた。

■大統領がFRBの利上げを批判し続ける異様さ

足元、米国の経済は好調だ。労働市場はタイトである。賃金は緩やかに増え、個人消費も堅調だ。設備投資も底堅い。財務内容が相対的に劣るジャンク級企業の資金調達も活発だ。この中で、FRBが慎重に利上げを行い、金融政策の正常化を行う意義はある。それは、将来の金融緩和の余地を確保するためにも重要だ。

しかし、大統領がFRBの利上げを批判し続けるという異例の展開を受けて、FRBが大統領の要請に配慮するだろうとの見方が増えている。それほどに大統領がFRBに利下げを求めることのマグニチュードは大きい。FRBの独立性は、かなり揺らいでいる。

■FRBは「利下げ観測」を必死で牽制しているが……

4月30日、トランプ氏は米国の金利が1%低ければ、経済は記録的な成長率を達成するだろうと、再度FRBを批判した。これに対して、5月1日のFOMCにてFRBは、金融政策の決定において政治要請は考慮しないことを明示した。

同時にFRBは、忍耐強く現状の金融情勢を維持する考えも示した。これは、FRBによる政治要請への抵抗といえる。FRBは、政治要請を反映した利下げ観測を牽制し、経済状況を確認しつつ、慎重かつ客観的に金融政策を運営する姿勢を表明した。

ただ、FRBの立場は劣勢だ。FOMCの後、米国の株価は下落した。利下げへの期待は、かなり強かった。株価下落は、トランプ氏にとって我慢できるものではない。同氏は、理事候補の指名などを通して、FRBへの影響力を強めようとするだろう。決め打ちはできないが、米国の金利は上昇しづらい状況が続く可能性がある。

この状況から思い出されるのが、かつての日本銀行だ。2012年12月の総選挙で、自民党は政権与党に返り咲いた。安倍首相は財政政策、構造改革よりも金融政策を重視し、さらなる金融緩和に積極的な専門家を日銀の政策委員に指名し、デフレ脱却を目指したのである。

■このままならバブルとおぼしき状況が出現する展開も

その後、2013年4月の量的・質的金融緩和、2016年1月のマイナス金利政策の導入など、日銀は“異次元”の金融緩和を進めたのである。この結果、わが国の景気が緩やかに持ち直してきたにもかかわらず、長期金利が0%を下回るという異常な事態が続いている。

FRBは日銀化しつつある。「米国の金利が低すぎる」「異常事態だ」という指摘もあるが、わが国が経験してきたことを基に考えると、政治要請の高まりに直面した中央銀行が、独立性を維持し続けることはかなり難しい。政治要請の高まりに直面したFRBが追加的な利上げを行うことは困難だろう。

多くの投資家は低金利が続くと楽観を強めている。米国では株式市場への投資資金の流入が増え、株価が大きく上昇して相場の過熱感が高まり、バブルとおぼしき状況が出現する展開も排除できない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=AFP/時事通信フォト)

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