"護憲なら消費増税"という安倍首相の脅し
プレジデントオンライン / 2019年5月9日 9時15分
■改憲をより確実にしようという老獪な戦術
安倍晋三首相が「令和」に入って早々に、改憲へのアクセルをふかしている。5月3日、改憲を訴える会合でビデオメッセージを寄せ、自ら先頭に立って2020年の新憲法施行を目指す考えを表明したのだ。
今夏の参院選では憲法が大争点になることが鮮明になったが、一方で安倍氏は、参院選の前に消費税増税の延期を宣言して衆院を解散し衆参同日選に持ち込むというシナリオも抱いている。この2つをつなぎあわせると、増税を見送ることで支持を高め、改憲をより確実なものにしようという、老獪な戦術が透けてみえる。
■「憲法記念日にビデオメッセージ」はいつものやり方
まるで2年前と同じ光景だった。2年前の2017年の5月3日、憲法記念日に、安倍氏は改憲派の集会にビデオメッセージを寄せ「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と語った。
そして、その2年後。令和最初の憲法記念日にあたる5月3日、同じく改憲派のビデオメッセージで「2年前、私は『2020年を新しい憲法が施行される年にしたい』と申し上げましたが、今もその気持ちに変わりはありません」と話した。そのうえで「憲法にしっかりと『自衛隊』と明記し、違憲論争に終止符を打つ。私は先頭に立って責任を果たしていく決意です」と続けた。
安倍氏は、憲法に関して重要なメッセージを発信する時は、この会合のビデオメッセージを使うと決めているのだろう。安倍氏にとってビデオメッセージは憲法記念日のルーティンとなっている。
■読売や産経にスクープを与えて、他紙に追いかけさせる
そういえば、もうひとつ2年前と同じことがある。2年前は事前に読売新聞の単独インタビューに応じ「2020年施行」を語っている。その記事は5月3日、読売の1面を飾った。そして同じ内容をビデオメッセージで語ったため、読売以外の新聞の4日朝刊に、同じ内容の記事が載った。読売を他社が一斉に後追いする形となったのだ。
今年は5月3日の産経新聞1面トップに安倍氏のインタビューが載り、「首相『改憲の旗掲げている』与野党超え結集努力」という見出しが躍った。そして4日朝刊で各紙が「2020年改憲施行方針変わらず」などと報じた。
読売、産経など安倍氏に好意的な論調の新聞にスクープを与えて大々的に報じ、翌日にリベラルなメディアも含めて全社に追随させる。約6年半にわたって政権を維持するなかで培ったマスコミ操縦法なのだろう。
■ただし改憲勢力「3分の2」維持は至難の業
いずれにしても、これで参院選は憲法改正問題が争点となる。自民党、公明党の与党が過半数を得て安倍政権が存続するかという問題よりも、与党に維新、希望の党などを加えた改憲勢力が、国会発議に必要な3分の2の議席を参院で維持できるかどうかが焦点となる。
今、改憲勢力は衆参両院で3分の2を維持している。しかし参院は自民党が圧勝した2013年の前々回当選組が改選を迎えるため、議席増は至難の業だ。定数の3分の2を維持するためには164以上の議席を改憲勢力が確保しなければならないが、3年前に当選した非改選議員は77人しかいないため、参院選では87人以上を積み上げなければならない。野党の共闘態勢が整っていないとはいえ、このハードルを越えるのは容易でない。
そこで「消費税増税の延期問題」だ。「消費増税凍結を発言させた安倍首相の狙い」で詳しく紹介しているように、安倍政権内では今年10月に迫った消費税率の10%への引き上げを延期する可能性を模索している。そして、延期を決断した場合、衆院を解散して国民に信を問うことも検討している。
■「8月4日同日選」と「時間差ダブル選」の2案が浮上
衆院解散のタイミングは6月から7月初頭の間に断行して今夏の参院選との同日選に持ち込む案(この場合、投票日は8月4日とするとの説がある)と、今夏は参院選単独で行っておいて今秋から暮れにかけて衆院選を行う「時間差ダブル選挙」とする案がある。
消費税率を上げるか、据え置くかという問題は、純粋に経済、財政状況をにらんで冷静に判断すべき話であって政局判断が含まれてはいけない。
しかし全く関係ない改憲問題をリンクさせて安倍氏が判断する可能性が浮上しているのだ。
■「増税見送り」で安倍政権は連勝している
いつの時代も増税をテーマに行う選挙では、与党が苦戦する。だから政府・与党は選挙が近づくと付け焼き刃の経済対策を乱発し、有権者の歓心を買おうとする。安倍政権もご多分に漏れない。安倍氏の常套手段は「消費税増税の延期」だ。安倍氏は2014年の衆院選、16年の参院選を前に税率アップの見送りを表明した。
「消費税率を見送ることは、アベノミクスがうまくいっていない証左だ」という批判を受けることはあっても「それならば増税したほうがいいのか」と開き直れば野党は口をつぐむしかない。結果として14年、16年ともに自民党は圧勝した。
先にも紹介した通り、安倍氏は今、憲法改正に向けて衆参両院で改憲勢力が3分の2を維持する事を最優先に考え始めている。ならば消費税増税を見送ることで、より有利な戦いを目指そうと考えないほうが不思議だ。
■「憲法を改正するために消費税増税見送り」の邪道
「選挙に勝つことだけを考えたら、消費税を上げるのをやめて衆参同日選。これが圧勝シナリオであることは間違いない」
「増税すれば自民党は20から30議席は減らすだろう。憲法改正を考えたら、その選択肢はないはずだ」
「9条改憲に異論が根強い中で憲法問題一本で選挙を戦うのはきつい。消費税増税見送りと2本柱にしたほうがいい」
自民党議員たちの間からは、こんなささやきが、そこかしこで漏れている。
選挙のために消費税増税を見送るのも、衆参同日選に打って出るのも、政治の世界では王道ではない。ましてや「憲法を改正するために消費税増税見送り」を目指すとすれば、これは邪道というほかない。
しかし、安倍氏は、政権を維持するために、時に邪道ともいえる冷徹な政治判断を行って「1強」を確立してきた。それだけに「消費税増税見送り、同日選、憲法改正」というシナリオが、日を追うごとに信憑性を帯びてきている。
(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)
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