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中学受験をダメにする"コンサル父"の口癖

プレジデントオンライン / 2019年5月20日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/SelectStock)

中学受験が失敗する原因の一つに、「コンサル父さん」の存在がある。論理的思考力が高く、ロジカルに受験指導をすることで、子供が成績不振になってしまうのだ。この教え方は、なぜダメなのか。プロ家庭教師集団「名門指導会」代表の西村則康さんが解説する――。

■「3カ月後までに偏差値を15上げてほしい」

長年家庭教師をしていると、最初の訪問でその後の展開がおおよそ予測できるようになる。6年生の春、ツバサくんの家を訪れたとき、父親から真っ先に言われたのが、「3カ月後までにこの子の偏差値を15上げてほしい。そのための学習プランを出してほしい」という無理難題。あぁ、またこの子も伸び悩むな……と悪い予感が走る。

「失礼ですが、お父さまのご職業は?」
「7年前に独立して、今はフリーでコンサルをしています」

悪い予感は確信に変わった。

近頃、中学受験に熱心な父親が増えている。その背景には「イクメン」をたたえ、「働き方改革」を推進する世の流れがあると感じている。父親が子どもの教育に関心を持つことは、とてもよいことだと思う。だが、ときに父親が介入することでうまくいかなくなるケースもある。

その最大の原因が、ビジネスと同じやり方で押し進めようとすることだ。なかでも要注意人物になりやすいのが、“コンサル父さん”なのだ。

■「努力すればできる」という思い込み

都内に暮らすツバサくんは、小学2年生から大手進学塾に通っている。志望校は御三家の一つ、開成だ。父親の母校でもある。しかし、当のツバサくんの成績は中の下。父親が示す数字の通り、開成合格まであと「15」も偏差値が足りない。6年生のこの時期に、偏差値が15足りないということは、「そろそろ志望校を変えた方がいい」を意味する。

5年生の秋から家庭教師をつけ、同じく無理難題を突きつけては結果が出ずに、次から次へと家庭教師を変えてきたツバサくん。その表情は疲れ果てていた。

高額な授業料をいただいている以上、親御さんの希望には添わなくてはいけない。「3カ月後に偏差値を15上げる」だなんて机上の空論と思いつつも、何をどのくらいやるかプラン立てをしないと父親は納得しない。そこであえて、小学生の子供には絶対に実行不可能なプランを作ることになる。表向きは父親の希望通りの開成合格のためのプランだが、その中に偏差値5ポイントアップ、第二志望合格のための内容をまぎれ込ませるのが腕の見せどころだ。

普通の親ならそこで「こんなこと、小学生の子どもにできるわけがない」と気づくはずだ。だが、“コンサル父さん”は「人間は無理だと思ったことも、努力をすればできる」と思い込んでいる。

■中学受験は「ビジネス」ではない

そう思えるのは、自分自身に成功体験があるからだ。企業から独立してフリーでコンサルをしているような人は、自身が高学歴で、今現在仕事で成功している人が多い。そういう人は、家庭教師を頼むときに必ず学習プランを出させる。いつまでにこれだけのことをすれば、これだけの成果が出るといったコミットメントを要求するのだ。

“コンサル”とは、結果を出すための道しるべを示す仕事。そうやってこれまで、自分の提案で多くの企業を成長させてきたのであろう。それと同じことを家庭教師にも求めるが、中学受験はビジネスではない。大人であれば自制心もあるし、仕事となれば多少無理をしてでもがんばるだろう。そうやって、結果を出してこられたのかもしれない。でも、小学生の子供に同じことを求めても無理だ。

精神的にまだ幼かったり、あるいは思春期に差しかかり心身ともに不安定な状態にあったりと、個人の成長差が大きい10歳~12歳。人生経験が浅く、生き抜くスキルも持ち合わせていない子供には、努力や気合だけでは乗り越えられないことがあると知ってほしい。

■口癖は「○○をすれば、○○になるはず」

「○○をすれば、○○になるはず」

“コンサル父さん”の口癖だ。そういう親は、やるべきことにこだわる。「これをやらないからできない」という考え方なのだ。

だが、成績不振の原因は、やるべきことの不足ではなく、やり方が間違っていることのほうが多い。

例えば、質より量を求める親が言いがちな「もっと早く解け!」。

この言葉を浴びせられた子供は、必ず問題を読み飛ばし、字が雑になる。また「○○をいつまでにやること」という期限付きの課題の出し方をするのも、同じような結果になりやすい。

早く解こうとするあまりに、問題や設問をきちんと読まず「読み取りミス」をする。例えば国語の問題文では、登場人物の気持ちを聞く問題が多い。なかには「主人公の気持ちの変化を答えなさい」と、“気持ち”ではなく、“気持ちの変化”を聞いてくる問題もある。ところが、設問をきちんと読んでいない子は、“気持ち”という文字を見ただけで、「主人公の気持ちを書けばいいのだな」と早とちりしてしまうのだ。

■「がんばって解け!」と言う親が忘れていること

また、中学受験において「字が雑」は致命的だ。解き方はわかっているのに、自分の書いた字が汚いために読み間違えて計算ミスをする、漢字のハネがいい加減で「×」になることほど悔しいものはない。

こうしたミスは本人の資質と思われがちだが、実は親から「早く解け!」「もっと解け!」と言われ続けている子供に多い。

解けない問題を前に苦しむわが子を見て、「わからない問題でもがんばって解け!」と言う親がいる。これも“コンサル父さん”に多い。どんなに難しい問題も自分で解いてきた(解決してきた)という成功体験があるから、わが子ならできると思っているのだ。

だが、その成功体験は大学受験、あるいは大人になってからのことであることを忘れている。先にも述べたが、成長過程の途中にいる小学生には、努力しようとしても努力の仕方がわからないことがある。がんばって考えても解けないものは解けないのだ。

解けない理由は2つある。ひとつは知識がなくて解けないというもの。もうひとつは意欲がなくて解けないというものだ。

■子供は「感情で動く」

知識がなくて解けないときは、授業の受け方に問題があることが考えられる。習ったことはあるけれど、思い出せないという場合、先生の話をただ聞いているだけの、受け身の姿勢になっている可能性が高い。そういう授業の受け方をしていると、必ずどこかで伸び悩む。

授業中に「これは使えそうだな」と自分事に捉えたり、「あ~、なるほど」と納得したり、「わかった!」と快感を味わったりといった“感情の動き”がなければ、知識は定着しない。この感情の動きが、小学生にはとても重要なのだ。

意欲がなくて解けない場合は、目標を少し下げてみるといい。大人は大きな目標に対しても、努力をしてがんばることができる。それは、これまでの人生経験の中で、「がんばったからできた」という体験をしているからだ。しかし、人生経験が浅い子供は、そういう体験をまだしていない。だから、大きな目標に対してがんばろうという意欲を持ちにくい。

だが、子供はちょっとがんばればできそうなことはがんばれる。だから、目標は小さく設定し、それができたら褒め、自信を持たせることが大事だ。いきなり難問を突きつけると、ひるみあきらめてしまうが、「このくらいならできそう」という問題なら、やってみようという気持ちになる。「なんとかなりそうだ」「できるかもしれない」、そう思わせることで前へ進むことができる。このように子供は感情で動くのだ。

■本当は「中学受験親」に向いているコンサル

子供の感情を無視し、大人の感覚で無理難題を突き付ける“コンサル父さん”。誤解しないでいただきたいのは、“コンサル父さん”がみんなダメと言っているわけではない。

そもそもコンサルという職業は、伸びていく要素を見つけることに長けているので、本来なら“中学受験親”に向いている。やり方さえ間違えなければ、これほど心強い存在はいないだろう。上質なコンサルは、社員の持っている能力を認め、それを伸ばすことを考える。

一方、ダメなコンサルは成長のテンプレートにあてはめようとする。どちらのやる気が出るかといえば、もちろん前者だ。

子供は感情が動かなければ伸びない。「あれをやれ、これをやれ」「早く解け、もっと解け」と指示されるだけでは、感情は動かない。「ちょっとがんばればできそう」といった成功の予感や、「なるほど!」「わかったぞ!」といった納得や快感がなければ、がんばろうという気持ちにはなれないのだ。

大人からすると、小学生の子供はできないことがたくさんある。それをデメリットとして指摘するのではなく、少しでもできたこと、がんばったことに目を向け、そこを刺激し、伸ばしてほしい。それができるのは、塾の先生でも家庭教師でもなく、わが子をよく知る親以外ないのだ。

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西村 則康(にしむら・のりやす)
プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。

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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美 写真=iStock.com)

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