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トランプ氏に抱きつく安倍外交の手詰まり

プレジデントオンライン / 2019年5月9日 15時15分

トランプ米大統領との首脳会談で、握手を交わす安倍晋三首相=2019年4月26日、ワシントンのホワイトハウス(写真=CNP/時事通信フォト)

■トランプ氏と2人だけで45分間も会談したが……

安倍晋三首相とアメリカのトランプ大統領による日米首脳会談が4月26日午後(日本時間27日朝)、ワシントンのホワイトハウスで行われた。農産物や自動車などの輸出入を巡る日本とアメリカの貿易交渉が会談の中心だったが、気になるのが日米の北朝鮮への対応だ。

安倍首相とトランプ氏の会談は昨年11月以来になる。通訳を入れて45分間、2人だけで会談した。その後、麻生太郎財務相やポンペイオ国務長官らが同席した少人数の会合と他の関係者も交えた拡大会合が、1時間ほど行われた。

ベトナム・ハノイで2月に行われた米朝首脳会談後、米朝の交渉が行き詰まるなか、4月25日には北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とロシアのプーチン大統領が初めて会談した。今後、金正恩氏は中国の習近平(シー・チンピン)国家主席とともにプーチン氏を後ろ盾にしてアメリカのトランプ氏に制裁緩和を求めていくとみられる。

5月4日、北朝鮮では金正恩氏の指導のもと、「長距離ロケット砲」と「戦術誘導兵器」を日本海に向けて発射する軍事訓練が実施され、これを5日、北朝鮮国営の朝鮮中央通信が報じた。

北朝鮮が最後に弾道ミサイルを発射したのは2017年11月末だった。今回の発射は自国の核・ミサイル技術を誇示し、アメリカの完全非核化の要求には応じない姿勢を示したものだと思う。制裁緩和の実現に向け、金正恩氏はしたたかに動いている。北朝鮮を巡る情勢からは目が離せない。

■蜜月関係をアピールするだけの「抱きつき外交」

報道によると、4月26日の日米首脳会談でトランプ氏は米朝会談に触れ、「北朝鮮には完全な非核化が必要だ」と語るとともに金正恩氏とのパイプを維持する必要性を強調した。

これに対し安倍首相は、2月の米朝会談でトランプ氏が金正恩氏の求める制裁緩和に応じず、(金正恩氏の求めた)段階的非核化の合意を見送ったことに支持を表明し、「トランプ大統領だけが完全非核化の交渉を成し遂げられる」と述べた。

安倍首相はどこまでも、トランプ氏のご機嫌を取りたいのである。朝日新聞などは安倍首相の対米交渉について、国際社会と日本国内にその蜜月関係をアピールするだけの「抱きつき外交」と批判している。安倍首相の「トランプ大統領だけが完全非核化の交渉を成し遂げられる」との発言には、「抱きつき外交」のいやらしさが端的に表れている。

■もっと毅然とした態度でトランプ氏と向き合うべき

今回の日米首脳会談で、安倍首相とトランプ氏は北朝鮮の完全な非核化を実現させるため、対北朝鮮交渉の方針をすり合わせた。その成果について安倍首相は「会談では相当に突っ込んだやり取りを行った」と語り、続けて「次は私が金正恩委員長と向き合って解決する」と述べた。

2回目の米朝首脳会談の後に示した、金正恩氏との直接会談へのあの意思表明である。その意欲は評価できる。

だが、金正恩氏はトランプ氏への「抱きつき外交」を進める安倍首相の足もとを見ているに違いない。その証拠に安倍首相の求めに金正恩氏は応じようとはしない。安倍首相はもっと毅然とした態度でトランプ氏と向き合うことが必要である。

■5月、6月とトランプ氏は続いて来日する

北朝鮮の金正恩氏だけではない。北方領土問題で確固たる交渉が求められるロシア、空母の建造など軍事力を強める中国、そして国際社会が安倍首相の一挙一動を見ていることを忘れないでほしい。

トランプ氏は日本政府の招待で5月25日~28日に来日し、天皇陛下に会見する。天皇陛下にとって即位後初の外国首脳との会見となる。さらに6月28日~29日には大阪で主要20カ国・地域首脳会議(G20)が開催される。5月、6月とトランプ氏は続いて来日することになる。

安倍首相はこの夏の参院選を自民・公明の与党勝利で乗り切りたい考えだ。一方のトランプ氏は来年の大統領選に向け、地盤固めを急いでいる。

外交や政治には思惑が付きものだ。安倍首相とトランプ氏、日本とアメリカ。直近の課題は、この両者両国の利害損得をいかに調整するかにかかっている。

■トランプ外交に「振り回されてはならない」

「首脳同士の親密ぶりを強調されても、難題をめぐる具体的な議論や実際の進展を伴わなければ、空しさだけが残る」

4月24日付の朝日新聞の社説の書き出しだ。見出しも「日米首脳会談『蜜月』の乏しい内実」と掲げ、安倍政権を嫌う朝日社説らしい皮肉が込められている。

朝日社説は「しかし、伝えられる会談内容からは、首相の強いメッセージはうかがえない」と前置きしたうえで、安倍首相を具体的に批判していく。

「焦点の貿易交渉も、事前の担当閣僚間の合意をなぞる形で終わった。会談の冒頭、トランプ氏が5月末の来日時までの早期合意に意欲を示したのは想定外だったようだが、振り回されてはならない。環太平洋経済連携協定(TPP)など多国間の枠組みでの合意を背に、公正で自由な貿易の原則のもと、粘り強く交渉すべきだ」

トランプ外交は毀誉褒貶である。しかも予測のつかない行動に出ることがある。朝日社悦が指摘するように、トランプ氏に「振り回されてはならない」のである。

■トランプ氏は褒めたり、悪口を言ったりと実に忙しい

安倍首相に対してはそうした態度を取っていないようだが、日本以外の国との外交を見ていると、トランプ氏は褒めたり、悪口を言ったりと実に忙しい。

たとえば対北朝鮮外交。2017年6月にシンガポールで行われた1回目の米朝会談の前には、金正恩氏を「ロケットマン」と激しく貶(けな)していた。

ところが、2回目の米朝首脳会談を終えると、5月4日に北朝鮮がロケット砲を飛ばしても貶すことはせず、「彼は私が味方だと知っているし、私との約束を破りたくないはずだ」と親密さをアピールするようなツイートまで飛ばしている。

安倍首相はトランプ氏の毀誉褒貶ぶりと予想外の言動に踊らされることなく、日本の国民の利益を最優先して対米外交を進めるべきである。

朝日社説は「トランプ氏は、今回も『日本は途方もない数の軍事装備品を米国から購入している』と歓迎したが、兵器を買い込んで米国の歓心を買うのは、健全な同盟関係とは言いがたい」と指摘する。

■一方的に兵器を買いまくるのは健全な同盟関係なのか

「途方もない数の軍事装備品」というトランプ氏の言葉には驚かされる。日本の防衛費が増え続けている現実を改めて考えさせられる。日本は対米関係を潤すためにアメリカから次々と兵器を買いまくっている。日米両国が、健全な同盟関係とはいかなるもので、それを築き上げるにはどうすべきかを真剣に議論すべきである。さらに朝日社説は指摘する。

「米国製の最新鋭ステルス戦闘機F35Aの墜落事故の原因究明や、米政権内で検討されている在日米軍駐留経費の大幅な負担増なども意見交換されなかったという。いったい、何のための首脳会談だったのか」

戦闘機墜落の事故原因を究明することは、防衛につながるはずだ。欠陥のある戦闘機では、抑止力にもならないからだ。最後に朝日社説はこう主張する。

「軍事技術が急速に進展し、安全保障と経済がリンクする米中対立の時代に、いかに地域の安定を保つのか。頻繁に顔を合わせるだけでなく、首脳らしい本質的な議論を望む」

同感である。前述したようにトランプ氏はこの5月と6月に連続2回も来日する。安倍首相はその絶好のチャンスをうまく生かし、日米の本質的な問題についてトランプ氏としっかり論議してほしい。

■蜜月批判の朝日に対し、緊密連携評価する読売

一方、4月28日付読売新聞の社説は安倍首相とトランプ氏の関係を冒頭から評価する。社説自体の扱いも半本の朝日新聞とは違い、大きな1本社説である。

「日米両国は強固な関係を維持し、アジア太平洋地域の安定と繁栄を図らねばならない。首脳間で緊密な連携の重要性を確認した意義は大きい」
「安倍首相がトランプ米大統領と会談し、新たな貿易協定交渉を加速させることで合意した」
「米国は、貿易摩擦の長期化などで中国や欧州と緊張関係にある。日米関係にまで綻びが生じれば、世界経済は先行き懸念が一段と高まりかねない。両首脳が、通商問題などを巡る対立を表面化させなかったのは適切だと言えよう」

朝日社説と読売社説を読み比べると、同じニュースでもその新聞社のスタンスによって書き方が180度違うことがよく分かる。これに産経新聞の社説(主張)が加わると、さらに論調の違いがはっきりする。

■国民の利益よりも、己のことが大切

読売社説は日米双方の思惑の相違まで指摘して忠告する。

「会談でトランプ氏は、交渉の合意時期について『私が訪日する(5月下旬より)前かもしれない』と述べた。2020年の大統領選をにらみ、早急に成果を上げたい意向があるのだろう」
「一方、日本は夏の参院選後の合意を望む。協定の内容次第では、農業関係者の反発を招く恐れがあるためだ。こうした思惑のズレが今後の交渉に悪影響を与えないよう注意を払う必要がある」

参院選と大統領選。安倍首相もトランプ氏も、自らの政策を実行に移すために自らの地位の安定を望んでいる。裏を返せば、国民の利益よりも、己のことが大切なのである。

■北朝鮮には制裁を緩めずに完全な非核化を求めるべき

読売社説は、朝日社説には触れられていない北朝鮮問題にも言及している。その点は評価できる。

「2回目の米朝首脳会談が物別れに終わった後、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、中露を後ろ盾に、対米けん制を強めている」と指摘したうえで、評価を下す。

「こうした情勢を踏まえ、日米の首脳が、北朝鮮との交渉方針をすり合わせた意味は小さくない」
「重要なのは、非核化に道筋がつくまで、北朝鮮への圧力を維持することだ。国連安全保障理事会の制裁決議を履行するよう、各国へ働きかける必要がある」

沙鴎一歩も、北朝鮮に対する制裁を緩めずに完全な非核化を求めることに賛成だ。制裁が効果を上げているからこそ、金正恩氏はプーチン氏との会談やロケット砲の発射などあの手この手でアメリカの圧力をかわそうと懸命なのだ。したたかな金正恩氏には、さらにしたたかになる必要がある。

■「条件を付けずに」という甘い方針転換で大丈夫か

読売社説は書く。

「米朝首脳会談でトランプ氏が日本人拉致問題を提起したことに、首相は謝意を伝えた」
「首相は、金委員長との直接対話に意欲を示す。拉致と核・ミサイル問題を解決することで、初めて国交正常化の道が開ける。北朝鮮への経済支援も可能となろう。こうした道筋を北朝鮮に伝え、粘り強く譲歩を促さねばならない」

しかし、問題は金正恩氏が安倍首相を見下して相手にしようとしないところにある。この点を安倍政権擁護の読売社説はどう考えているのだろうか。あの金正恩氏を「粘り強さ」で制することが本当にできるのだろうか。

安倍晋三首相は5月6日、トランプ氏と電話で会談し、拉致問題について「あらゆるチャンスを逃さない。私自身が金正恩委員長と条件を付けずに向き合わなければならない」と話した。

これまで安倍首相は「日朝首脳会談を行う以上、拉致問題の解決に資する会談にしなければならない」と強調していたが、6カ国協議の参加国のうち、日本だけが北朝鮮と首脳会談を行っていない現状を考えて方針を転換した格好である。

「条件を付けずに」という甘い方針転換。金正恩氏にまた足もとを見られるのではないか。心配が募る。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=CNP/時事通信フォト)

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