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なぜ人は空気を吸うようにウソをつくのか

プレジデントオンライン / 2019年5月10日 15時15分

※画像はイメージです(画像=iStock.com/NaokiKim)

人は空気を吸うようにウソをついてしまう。そこには悪意があるわけではない。かしこまった状況が、「よそゆきの顔」をつくってしまうのだ。デザインディレクターの石川俊祐氏は「市場調査のインタビューは、『会社の会議室』より『自宅のリビング』でやったほうがいい。リラックスできる場所なら、自然と本音が出てくる」という――。

※本稿は、『HELLO,DESIGN 日本人とデザイン』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

■一問一答ではなく、「対話」で深層心理を探る

デザイン思考の「リサーチ」において、観察と並んで大切なのが「インタビュー」です。対象となる人々を傍で「観る」だけでなく、正面から向き合って話を「聞く」。実際のユーザーやターゲットに問いを投げかけ、その答えから「潜在ニーズ」を導き出すヒントを得る。それが、インタビューの役割です。

話を聞く中ですぐに得られるのは「顕在ニーズ」。常日頃から「こうだったらいいな」と感じていることですから、みなさん前のめりで教えてくれます。

しかし、これはちょっとインタビューすれば誰でも得られる情報。話を聞くスキルもいりませんから、必然的にライバルが多くなる。似た商品やサービスが増える。スピード勝負になる。価格競争に陥りやすくなってしまいます。

そこで本物のデザイン思考家がインタビューで探っていくのは、人々の潜在ニーズです。本人も気づいていないような欲求を見つけるために話を聞いていく……と言うとシンプルですが、そう簡単ではありません。

まず、一問一答式のアンケートのようなやりとりではなく、「一答」もらうごとにていねいに掘り下げていく「対話型」のインタビューでなくてはなりません。なぜそう思っているか? いつからそう感じているか? たとえばこういうシチュエーションだったらどう思うか? アンテナを研ぎ澄まし、どこかにあるはずのヒントをその場で探っていきます。

■インタビューでは“よそゆきの顔”になる

その中で気をつけなければならないのが、インタビュー中の「ウソ」です。

オフィスに来てもらったりカフェで話を聞かせてもらったりすると、その時点でインタビュイーは「よそゆき」の顔になります。緊張するし、いいことや期待されていることを答えようとする。よくも悪くも優等生的で、ある意味「誘導尋問に引っかかってくれる」。どこにいても自分の意見をはっきり持ち、ブレずに述べることができる人などほとんどいないことを忘れてはいけません。

ある食品ブランドは、それまでのターゲットとは別に、ファミリー向けにもサービスを展開したいと考えていました。そこで小さい子どもを持つお母さんにグループインタビューをしてみると、「健康にいいオーガニックな食品を選んでいる」「子どもにはできるだけ手作りの料理を食べさせている」と答えた層のボリュームがもっとも大きかった。……これだけ見ると、「イケる」と思いますよね。

ところが、このお母さんたちの「お宅訪問」をして、ちょっと冷蔵庫を見せてもらうと……冷凍食品がわんさか出てきた! 電子レンジでチンするだけの総菜や、瓶詰めされた離乳食など、リアルな食生活がそこにはありました。

■だましたくなくてもウソをつく理由

さて、この家庭に、オーガニック食材を一から調理するようなニーズがあるでしょうか?

答えは、「ノー」です。

手を抜きたいわけじゃない。子どもの健康が気にならないわけじゃない。なるべく農薬が少なくて栄養豊富な食品を、自分の手で調理したい。

でも、お母さんは圧倒的に忙しいんです。「共働き夫婦のライフスタイルたるもの」「母親たるもの」という理想に基づいたすばらしい食材を送られてきても、実際は活用できません。

もし、グループインタビューを素直に信じたら、「子育て世代向けオーガニック野菜の定期配達」を企画することになるでしょう。

しかし、はじめは理想から申し込んでくれたお母さんたちも、冷蔵庫の中で腐りゆく野菜を見て後悔し、1カ月後には解約してしまう。……遠くない将来、サービス自体をストップさせることになるはずです。

もちろん、彼女たちは「だましてやろう」なんて思っているわけではありません。ただ、「自分をどう見せたいか」「どんな自分でいたいか」という気持ちで味つけされた回答になってしまっただけ。

■願望と本音は、どちらも知る価値がある

そうさせないためには、どうすればいいか。できるだけ「リアル」に近い状況で、取り繕わなくていいような状況をつくるしかありません。会社の会議室に招いてインタビューするのではなく、一軒ずつ「お宅訪問」する。リラックスできる場所で話を聞く。できるだけ

「よそゆき」じゃないその人と対話するしかないんですね。

とはいえ、「ウソ」のリサーチがまったく役に立たないかというと、そうではありません。いわば、ユーザーの「願望」があらわれているわけですから。

この場合、インタビューでの回答(願望=家族の健康を気にかけたい)と冷蔵庫の実状(忙しい)、そしてオーガニックブランドのやりたいこと(ファミリー層に健康的な食事を広めたい)を掛け合わせて考えると、「実現可能なオーガニック」に鉱脈がありそうだと気づけます。「15分でできるオーガニック料理のキット」なんてサービスもいいかもしれませんね。

「観察」と同じくリアルな現場を用意し、インタビューで本心を引き出すことがいちばんの理想です。でも、もし本心を語ってもらえなかったと感じても、それを情報として次のプロセス(「問い」を設定する)で活かすこともできる。宝の山であることに変わりはないのです。

■「極端なユーザー」に話を聞きに行こう

私がリサーチの取っかかりとしてよく使うのは、「極端なユーザー」へのリサーチでした。一般的なユーザーではなく、プロやオタクのような「超ユーザーの人たち(A)」と「ユーザーではない人たち(C)」に話を聞くのです。

たとえばスマホに関するリサーチだったら、3台持ちで使いこなしているユーザーと、人生で一度もスマホを所有したことがない人、というふうに。

なぜこれら両極端な人たちに話を聞くべきか。

「スマホを持っていて、主に使うのはメッセージアプリとSNS」といったコアのユーザー(B)は、「すでに使ってくれている人」だからです。ものすごい不満や要望がないから、またそこそこのリテラシーがあるから使ってくれているわけで、出てくるのは「おサイフケータイ機能がついてるといいな」「もうちょっと軽かったらいいな」といった、現実的で顕在的なニーズのことが多い。言ってしまえば、誰でも考えつくレベルのアイデアに留まってしまうんですね。

それらを聞いて素直に反映しても、「あっ」と人を惹きつけるものにはなりません。改善で終わってしまうのです。

■スマホを使わない人には“意志”がある

石川 俊祐『HELLO,DESIGN 日本人とデザイン』(NewsPicks Book/幻冬舎)

一方、AとCの人の話は、開発側に大きな気づきを与えることが多い。Aの場合は、開発者が想像もしていなかった、特殊な使い方をしていることがあります。すると、そのプロダクトに関する、隠されたニーズを発見することができるのです。

Cの場合も同様です。これほどスマホが普及しているにもかかわらず、あえて使わないユーザーには、「使わない」明確な理由が存在します。その理由を掘り下げていくうちに、多くの人が「そういうものだ」と無意識のうちに我慢している課題や、それを乗り越えるための手段が見つかるはずです。

つまり、極端なユーザーは、肯定的であれ否定的であれ、明確な意見や要望を持っていることが多く、それによって効果の高い調査結果を得ることができるのです。

(AnyProjects 共同創業者 / パートナー 石川 俊祐 画像=iStock.com)

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