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大企業ほど"部署間対立"が起きる根本原因

プレジデントオンライン / 2019年5月13日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/CreativaImages)

日本では大企業ほど部署間、部門間での対立が起きてしまう。原因はなにか。大阪ガス エネルギー・文化研究所の鈴木隆氏は、「組織が細分化されて、コミュニケーション不全に陥り、隣の部署の仕事内容すらよく知らない。企業は“開かれた対話”を取り入れる必要がある」と提言する――。

※本稿は、鈴木隆『仕事に効くオープンダイアローグ 世界の先端企業が実践する「対話」の新常識』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■精神医療におけるイノベーション

1984年にフィンランドで始まった「オープンダイアローグ」は、「独白」に陥りやすい統合失調症の患者を「対話」の力で治す精神療法です。この「開かれた対話」はシンプルな治療法ですが、統合失調症は投薬による治療が不可欠である、というそれまでの医学界の大前提を崩したのですから、精神医療における画期的なイノベーションと言えるでしょう。

現在では、うつ病、依存症、摂食障害、ひきこもり、家庭内暴力などの治療やケアにも用いられているほか、職場の人間関係や夫婦関係における問題の解決にも有効であることが明らかになっています。つまり、社会生活を営むうえにおいて、対話は、これまでわたしたちが考えていたよりも、はるかに大切であることがわかってきたのです。

■効率化のための細分化が視野の狭さを招く

いまの日本は、みんなが疲弊し閉塞感が漂っています。組織が大きくなると、効率化のために、機能ごとに組織を細分化するのが一般的です。すると、複雑だった機能が単純になるので効率があがります。

しかしその一方で、視野が狭くなり、外への関心が薄れて内向きとなります。狭い範囲で同質化することになるので、異質な情報が減り、アイデアも枯渇してゆきます。複雑さに対応するために細分化したはずなのに、細分化することで複雑さに対応できなくなっているのです。

わたしはかつて5年ほど、企業の基幹となる業務の情報システムを構築し、ICT(情報通信技術)を使って業務そのものを革新する仕事に従事していたことがあります。ユーザー側の窓口として、全体を取り仕切るのが役割でした。

基幹となる業務は、さまざまな組織を横断して流れてゆきます。そこで、全体の業務の流れに沿って、それぞれの組織の担当者に携わっている業務の内容をヒアリングすると、まさに「隣は何をする者ぞ」でした。組織の細分化に合わせて、業務も分断されていたのです。おのずと業務は部分最適化することになります。

■細分化された組織はコミュニケーション不全になる

生産性や創造性の低化が見られる日本の組織の多くの問題は、ここに起因します。細分化された組織は独白に陥り、コミュニケーション不全になってしまうのです。

鈴木隆『仕事に効くオープンダイアローグ 世界の先端企業が実践する「対話」の新常識』(KADOKAWA)

日本を代表する政治学者である丸山眞男さんは『日本の思想』において、日本の学問は「タコツボ型」であり、欧米は「ササラ型」である、と図式化しました。1本の縄で並列につなげて使うタコツボには共通の根元がなく、ツボがそれぞれ孤立しています。タコツボと対照的なのが、竹の先を細かくいくつにも割ったササラです。食器の洗浄などに使い、共通の根元から細かい枝が分化しています。

欧米では、包括的・総合的な学問から専門化が進んでゆきました。日本は、欧米ですでに専門化していた学問を明治になって取り入れました。その結果、日本では、共通の基盤のないかたちで専門が分かれ、それぞれ仲間集団をつくり、お互いにことばが通じなくなっています。企業などの組織でも学問と同じような状況となっています。

■専門や自説は留保して多様な人の話をじっくり聴く

タコツボ化した組織や専門の壁を越えるためには、対話することが必要です。組織や専門にこだわらず、オープンに対話するようにしなくてはなりません。利害や感情、知識、先入観などにとらわれない素直な心で、話し合うことが大切なのです。

対話は、会話や議論とは異なる話し合いとして、使い分けるのがおすすめです。話し合いは、(1)会話で交流し、(2)対話で探究し、(3)議論で決定する、という流れに応じて使い分けます。

対話は、あるテーマについて、いっしょに知恵を絞って探究し理解することを目的とします。お互い対等な立場で、相手のことを尊重し、衆知を集めて広く深く考えるのです。日本では、タテ社会として上下の秩序を重んじ、イエ社会として満場一致の決定を是とすることから、とりわけ対話が阻害され欠落してしまう傾向が顕著です。

ビジネスにおいてオープンな対話がうまくいくためのポイントは5つあります。(1)多様性(ダイバーシティ)、(2)主体性(サブジェクティビティ)、(3)傾聴(リスニング)、(4)質問(クエスチョン)、(5)内省(リフレクション)です。

ポイント(1)の「多様性」は、社員一人ひとりが持つ違いを受け入れ、多様性を活かすことで新しい意味(価値)を生み出し、組織の競争力を高めます。

■シリコンバレーでは「主体性」が交じり合う

多様性が競争力を高める好例はシリコンバレーです。シリコンバレーでつぎつぎと新しいビジネスが生まれるのは、最新の技術があるからというわけではなく、世界中から、技術者はもちろんのこと、科学者、ハッカー、起業家、投資家、デザイナー、芸術家など多種多様な人たちが「世界を変えてやろう」と集まり、交じり合っているからです。

ポイント(2)の「主体性」は、自分の意見や判断にもとづいてやりとりする態度です。言われたことのみをこなすだけの指示待ちや、上の意向をひたすら推し量って対応する忖度とは、正反対の態度です。

もちろん、やみくもに自己主張をすればよいというものではありません。相手の主体性も認めて、おたがいに主体性を尊重し合うことが必要です。

日本では、幼いころから「わたしは」ということを抑えられて育ちますから、主体性を持つことが容易ではありません。ましてや、役職や入社年次など、上下の身分関係が強く現れている会社や組織では、自分の意見を述べにくくなります。しかし、このことをなおざりにしては、対話が成り立ちません。

■専門家ほど「傾聴」する態度が重要になる

オープンダイアローグには、相手の主体性を尊重し、その話をよく聴く、ポイント(3)の「傾聴」が不可欠です。声や音を耳で感じ取る「聞く」(hear)ではなく、注意して耳を傾ける「聴く」(listen)です。

カウンセリングの神様とも呼ばれる臨床心理学者のカール・ロジャーズさんによると、カウンセラーは、多くの知識を持っていたり、その道の権威であったりすることは必要ありません。むしろそうしたことで、クライアント(患者)の話を素直に聴けなくなってしまうのです。大切なのは、カウンセラーがクライアントに対して傾聴する態度をとることであり、これはビジネスにおいても同様です。

■「適切な問い」を見つける

ポイント(4)の「質問」は傾聴とセットのようなものです。相手の話に真剣に耳を傾けていると、おのずと疑問や質問が生じてきます。

問題について適切な問いかけをすることは、答えを見つけて解決することよりも大切です。不適切な問いかけをしてしまうと、解決につながらなくなったり、解決が困難になってしまったり、解決できたとしても満足な結果を得られなくなったりしてしまいます。適切な問いさえ見つけられれば、答えを見つけることはさほど難しくありません。

■対話を振り返って内省する

とはいえ、やみくもに対話するだけでは、学びがありません。深く学んで成長するためには、ポイント(5)の「内省」が鍵となります。内省とは、前提から疑い、自分自身の考え方ややり方について深くかえりみて吟味すること、すなわち、振り返りです。

振り返りというと、過去のことばかりを見る後ろ向きのような感じもしますが、実は未来をよくしていくために過去を活かそうとして実践を見直す前向きな取り組みです。対話と内省を繰り返すのです。

以上の5つのポイントを意識してオープンダイアローグを実践すれば、ビジネスは劇的に変化するでしょう。

(大阪ガス エネルギー・文化研究所 主席研究員 鈴木 隆 写真=iStock.com)

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