転職で「実績アピール」を控えるべき理由
プレジデントオンライン / 2019年5月17日 9時15分
※本稿は、松本利明『「いつでも転職できる」を武器にする』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「不本意入社」から転職する人が増えている
最新の労働力調査(2017年)では、転職者は311万人(総務省統計局「労働力調査年報」)となりました。転職者の数はここ5年間で24万人増えており、最も多いのが30代後半で、それは「就職氷河期」に新卒で仕方なく就職した世代であり、今の「売り手市場」をチャンスに、「不本意入社」だった現在の就業先から大手・有名企業への転職を模索する向きがあるといいます。
こういった時代になりましたが、「転職のセオリー」はまだアップデートされていません。給料アップ、楽しい、やりがいがあるなど、「今よりちょっといい会社」を目指すことは重要ですが、それだけでは表面的で薄っぺらいのは、あなたも気づいているでしょう。
「今の自分に市場価値はあるのか?」「自分の好きなことで稼げるのか?」「このままで世の中で認められるようになるのか?」「不安なく、自分の価値をアップデートし続けていけるのか?」といった、あなたの本音の問いに答えていきます。
最初に簡単なエクササイズから始めましょう。
次の4つのタイトルの本の中で「これがいい!」と突き抜けているタイトルはどれだと思いますか?
A:『やさしい経営入門』
B:『超・経営入門』
C:『経営者1年目の教科書』
D:『渋沢栄一が教える、小学生でもわかる経営』
■「強み」は、他の人との誤差の範囲でしかない
いかがでしょうか?同じようなことが書いてありそうなタイトルですが、1番印象に残ったのは、D『渋沢栄一が教える、小学生でもわかる経営』ではないでしょうか。A、B、Cはちょっとした違いにしか感じないので薄くしか印象に残りません。
そう、あなたが考えている仕事における「強み」や「実績」も、他人からみれば他の人との違いは誤差の範囲なのです。
転職を考える際、自分の強みとして、アピールする側は一生懸命に「実績」を振り返り、自分を掘り下げてひねり出してみても、それを評価する側が下す結果は想定の誤差範囲にすぎないのです。
理由は簡単です。仕事が同じであれば誰でも同じような経歴や強みになるからです。なぜなら、仕事が同じだからです。
経理の仕事だとしましょう。評価される項目は会社の垣根を越え、業界・業種共通です。同業であれば、なおさら違いが出ないので実績で差はつきにくいのが当たり前なのです。
これは「強み」も同じです。そもそも出てくる項目も共通です。新規開拓の営業であれば、元気よく、前向きで、顧客志向が高く、共感力がある。達成志向が強く、粘り強いなど、マニュアルや評価項目にありそうなことが強みとして浮かんでくるでしょう。
仕事が同じだと強みも他人との違いが出しにくくなるのです。
■成果を「強み」として競うのは際限がない
さらに、「強み」は残酷です。「強み」で勝負すると自分より強い人が出てきたら負けるので、不安は常につきまとうからです。
「定年になりましたので引退します」という横綱はいません。そう、「強み」は、自分よりもっと強い人が現れたら負けるのです。なぜなら、強みの価値は相対比較で決まるからです。ライバルは社内だけとは限りません。社外にもあふれているのです。
都道府県チャンピオンでも日本チャンピオンと比べられると不利でしょう。日本で1番でもアジアなら。世界なら。とにかく上には上がいるものです。
また、強みは永遠に保証されるものではありません。毎回トーナメントで勝ち上がるようなものです。圧倒的な強さがあっても、未来永劫(えいごう)続くとは限りません。強みで争うと果てしない厳しい戦いになるのです。
「同期で売上1番」でも会社全体では何番なのか? 業界や市場全体の中で先輩や後輩たちとガチで争い続け、勝ち続けるしかありません。強みを生かしたパーソナルブランディングは、圧倒的な強さをキープし続け、アップデートし続けることが好きでたまらない人にしか通用しません。
普通に会社に勤めて仕事をしているだけでは、他を圧倒するレベルの強みを勝ち取れる機会は少ないものです。実際、あなたも「強み」を生かしてキャリアプランを考えて行き詰まってしまったことがあるのではないでしょうか。普通の人がブランディングをするなら「強み」を基本にするのは危険なのです。
では、何を武器にすればいいのか。それは「持ち味」です。
■職場の人からの「感謝の声」を集めてみる
先ほどの本のタイトル例では、内容を意識すると差がつきませんでしたが、「渋沢栄一が教える~」とその本独自の「持ち味」を打ち出した結果、記憶に残りやすくなるタイトルになったのと一緒です。
「持ち味」を知るにはどうしたらいいかというと、あなたが普段お仕事をしていて、「どんな人」から「どんな『ありがとう』の声」をもらっているのかを集めると分かります。同じ経理の仕事をしていても、
・「正確で」ありがとう
・「気が利いて」ありがとう
・「速くて」ありがとう
・「みんなを引っ張ってくれて」ありがとう
など、その人の持ち味に合わせ、「ありがとう」の声は違います。
頼まれる仕事も「急ぎが多い」「ドラフトで経営会議用にまとめてほしい」など、あなたの持ち味に合わせた傾向があるはずです。
そこが、あなたの売りになるのです。「強み」で団子状態から一歩抜け出る基点になります。「ありがとう」の声が、あなた独自の持ち味であり「提供価値」になるのですが、ここで注意が必要です。
■自分の「一貫性」を知れば、「向いていること」が見えてくる
この「ありがとう」の声は、「こうありたい」「こうすべき」という「べき論」ではNGなのです。「べき論」は「こうありたいと目指す姿」であり、現時点の実績ではないので根拠になりません。昨日まで毎日寝坊していたのに、「明日からは心を入れ替えて遅刻しない」と言われても信用できないのと一緒です。本気度合いは関係ありません。人は、その人の過去の実績から判断するからです。
「ありがとう」の声を支えるのは「一貫性」です。この一貫性が保証となり、個人のブランドになっていくのです。仕事が速いのが売りなのにA課長とB課長で仕事の速さを使い分けしていたら、周りに見透かされてブランドにはなりません。
自分のキャラはこの「ありがとう」の方程式に沿って固めていくことで、自分軸が「ハッキリ」します。「ありがとう」の声が、あなたの「持ち味」であり、そのまま「向いていること」になるのです。向いていることは、速くラクに爆発的に実績が出ます。向いていること、稼げる市場や仕事を知れば、自分をいつでも最高値で売ることができます。
これが「いつでも転職できる武器」になるのです。
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人事・戦略コンサルタント、HRストラテジー代表
日本人材マネジメント協会執行役員。外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。『「稼げる男」と「稼げない男」の習慣』(明日香出版社)など著書多数。
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(人事・戦略コンサルタント、HRストラテジー代表 松本 利明 写真=iStock.com)
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