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桂文枝"僕が明石家さんまに説教したこと"

プレジデントオンライン / 2019年5月23日 9時15分

落語家 桂 文枝氏

世界最長放送の同一司会者によるトーク番組が、日本の番組であることをご存じだろうか。その番組は『新婚さんいらっしゃい!』。司会者である桂文枝師匠に、長く活躍する秘訣を伺った。

■「こんにちは」を使ってはいけない

芸能界でもビジネス界と同じように礼儀は大切です。特に挨拶。師匠に言われて一番印象に残っているのは、「こんにちは」や「こんばんは」は使ってはいけないということ。「客が来ん」ということで験を担いでいるということもあるのですが、「こんにちは」や「こんばんは」は丁寧語ではないから失礼に当たるとのことです。だから、芸人の場合は、昼も夜も挨拶は必ず「おはようございます」なのですね。

私も以前はよく若手芸人に、礼儀やマナーの注意をしたものでした。今と違い昔は、芸人といえば軽く見られることが少なくなかった。それで人前で騒いだりする若手には、「芸人である前に1人の社会人として認められることが大切なんだぞ」と諭したりしたのです。当時よく私から注意を受けた某Aさん……明石家さんまさんという方ですが(笑)、今もそのことをネタにして面白おかしく話しています。

でも、さんまさんも今では一緒に仕事をする若手に、よく礼儀に関する注意をしていると聞きます。きっと私のお説教も「悪いことではなかった」と思ってくれているのでしょう。最近は、芸能人もまともで真面目でないとテレビに出してもらえません。世の中の目は確実に厳しくなっています。

今の若い芸人の多くは、先輩に対する挨拶や礼儀はきちんとしていますが、中には人を見て態度を変える人もいます。私自身も若いとき、反省することがありました。師匠と現場を回っていたら、偶然、学生時代の友人と出会ったのです。懐かしさから「おまえ今どこで働いてんの?」「ここでサラリーマンやってる」「ほな、また遊びに行こうな」などと言って別れたのですが、それを見ていた師匠から、後で「今のは誰や?」と厳しい口調で尋ねられたのです。「学生時代の親しい友人です」と答えると「おまえは芸人としての自覚がないな」と叱責されました。「芸人にとってはすべての人が客や。友達だろうが何だろうが、ぞんざいな口のきき方をしていたらいい芸人になれん」。そう注意され、芸人としての矜持を持ち、誰に対しても丁寧に接することの大切さを教えられました。

■「新婚さん」が、世界最長の理由

私が放送開始から司会を続ける『新婚さんいらっしゃい!』という番組は、2019年で49年目を迎えました。同一司会者のトーク番組としては世界最長放送だそうで、ギネス世界記録にも認定してもらいました。僕らにとってテレビに出て喋るのは日常ですが、番組に出演する夫婦にとっては「一生に1度の晴れ舞台」です。だからこそ2人には「出てよかった」と思ってもらえるよう、収録はいつも全力投球です。この番組を続ける中で、「礼儀とは、相手への好奇心から生まれる」と思うようになりました。

番組を見た人からは「毎回素人を相手に、よくあんなに面白い話を引き出せますね」と言われるのですが、それは私が出演夫婦に対して、心から関心と好奇心を持っているからなのでしょう。無愛想で喋らない旦那さんなら「なんでわざわざテレビに出はったんやろう?」と不思議に思って聞いてみる。そこから面白いエピソードがバーッと出てきます。真面目そうな人のネクタイが歪んでいたり、ズボンがシワだらけだったりすると、それだけで面白いものです。

出演する夫婦が準備をしていないであろう意外な質問をぶつけると、隠れた人間性がどんどん表れてくるのです。それが自然にできるのは、恐らく私が落語家であることと関係があると思います。落語というのは、市井の人の暮らしの中から面白さを見つけてネタにする芸能です。落語的な世の中の見方をすると、あらゆることに面白さを見つけることができる。「面白くない人」でも、その「面白くなさ」で面白くできるのですね。

■漫才にも活かせる、フィギュアスケート

相手への好奇心を持ち続けるためには、自分自身が世の中のあらゆることに対して興味を持ち、勉強を続けることが大切だと思います。

先日も『グリーンブック』という映画がとても面白いと聞いたので、次の日に朝一番で映画館に観に行きました。また、フィギュアスケートの大会も、それまでテレビでしか見たことがなかったのですが、知人から誘われて行き、勉強になりました。出場する選手は自由演技の4分間で自分のすべてを出し切って表現します。4分間というのは、「M-1グランプリ」の決勝で漫才師に与えられている時間と同じです。中には「4分だけでは短くて笑いがとれませんよ」などと言う人もいますが、フィギュアの選手ぐらい凝縮した演技をしているか、そう振り返る機会になりました。

いろんな場所で見たり聞いたりしたことが、そのまま自分の仕事のネタにもなれば、初対面の相手とコミュニケーションするときの話題にもなります。そんな自分自身の「引き出し」の中身を充実させることが、礼儀やマナー以前に、相手と良好な関係を築く根本にあるような気がします。

テレビの世界は今、Netflix(ネットフリックス)やAbemaTVなどの登場で、大きく変わろうとしています。小中学生の間では、テレビの芸人より人気があるユーチューバーも出てきています。そういう新興勢力の作り手は、既存のテレビ番組や映画をものすごく研究して、NetflixはAI(人工知能)なども活用して視聴者が好む番組を分析し、自分たちでさらに面白いものを作り出そうと日夜努力を続けています。テレビの視聴者や寄席に来てくれるお客様のことを第一に考えて、どうすれば楽しんでもらえるのか、好奇心を持って勉強を続け、工夫を重ねることが、芸能界で長く活躍できる条件だと私は考えています。

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桂 文枝(かつら・ぶんし)
落語家
1943年、大阪府生まれ。桂三枝として『新婚さんいらっしゃい!』などの司会で高い人気を得る。同番組で同一司会者によるトーク番組の最長放送世界記録保持者(現在も更新中)。2012年7月、六代桂文枝を襲名。

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(落語家 桂 文枝 構成=大越 裕 撮影=福森クニヒロ)

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