中国には日米協力してFTAで対抗しよう
プレジデントオンライン / 2019年5月16日 15時15分
トランプ大統領は中国からの2000億ドル分に対する輸入品関税を10%から25%に上げた。日本に対してはどうなのか。米国側が、輸出振興を目的とした通貨安誘導をけん制する「為替条項」を扱う意向を示している日米貿易交渉について、トランプ政権に多大なる影響を与え続けているヘリテージ財団リサーチマネジャーのアンソニー・キム氏に聞いた――。
■TPPではなく、FTAにこだわる訳
――ヘリテージ財団のトランプ政権における位置づけは。
ヘリテージ財団は政策アイデアを作成するシンクタンクだ。保守的な政策を実現するため、トランプ政権に協力している。主に、トランプ大統領に対して、小さな政府、自由な企業環境、個人の自由、強力な安全保障の観点から提案している。ヘリテージ財団がトランプ政権に最初の2年間に提案した約7割の政策は実現されてきた。われわれは今後も減税政策、規制廃止、自由貿易などのトランプ政権の政策課題に資する政策を立案することに従事していく予定である。これには日本との経済関係を促進することも含まれる。
――2019年、本格的に開始している日米貿易交渉の望ましい見通しは。
米国と日本が自由貿易協定(FTA)の名の下に交渉を進めることは望ましいことだ。FTAを結ぶことはインド太平洋地域における重要な提携関係の構築を意味している。日米両国は過去数十年の間、良好な同盟関係にあった。そして現在、より実践的で強い同盟関係へ昇華させるときがきている。そのうえで、私はFTAは強力なものと思うが、経済的関係のさらなる深化は一筋縄ではいかないだろうと皆が理解している。時間を要することになるだろうが、この種の建設的な対話をすることは極めて重要なこと。ワシントンDCでも好意的に受け止められている。
――米国が環太平洋パートナーシップ(TPP)を離脱した。今回の貿易交渉についてはどう考えるか。
TPPは地域レベルの多国間協定、FTAは2国間関係で直接的に交渉される契約であり、FTAはワシントンDCと東京の間の直接的かつ友好的かつ重要なパートナーの間で構築されるものだ。われわれが期待しているのは決してチープなものなどではなく、未来に向けた偉大な同盟だ。すべての関係性は基本的に過去から引き継がれたものだが、いま問題としているのは21世紀を通じて両国がどのようなパートナーシップをつくり上げていくのか、という戦略的な観点から考えられるべきものだ。議論と交渉を必要としている。関税問題ももちろん議論することになるが、日本は独特な強みを持っている。同盟国ではない国は包括的な交渉の対象となるが、日本の場合は交渉範囲が絞られたものになると思う。われわれはルールベースかつ透明性が高い協定を結んでいくことになる。
■日本はアジアにおけるもっとも重要な同盟関係
――中国の全体主義的体制に日米が協力して対抗するべきか。
非常に重要なポイントだ。これはFTA交渉を進める理由でもある。貿易交渉は価値観を共有し、価値観を新たに付与するプロセスでもある。インド太平洋地域について互いに議論を重ねることによって、自由主義・民主主義のビジョンの原則を構築するべきだ。そして、それは米中交渉をより良いものにしていくうえでも重要である。日本はアジアにおけるもっとも重要な同盟関係にあり、日本との交渉を進展させることは、米国がインド太平洋地域に完全に関与していくことを象徴する。American First(米国第一)はAmerican Alone(米国の孤立)でなく、われわれは同盟国を必要としている。
――安倍晋三首相に対する評価は。
安倍首相は用意周到で戦略的な人物であり、外交政策に関して豊富な経験を持った政治家だ。また、日本の首相として選挙を通じて安定した政権基盤を構築していることを評価している。トランプ大統領と安倍首相は良好な関係を有しており、トランプ大統領の19年5月の訪日では多くのことが両者の間で議論されることになるだろう。また、トップの関係だけでなくシンクタンク同士などの意見交換も積極的に行っていくことが重要である。
(シンクタンク「パシフィック・アライアンス総研」所長 渡瀬 裕哉 写真=ヘリテージ財団、時事通信フォト)
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