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メルカリが禁断の"70%還元"をやった訳

プレジデントオンライン / 2019年5月13日 15時15分

スマートフォン決済サービス「メルペイ」について記者会見するメルカリの山田進太郎会長=2019年2月20日、東京都渋谷区(写真=時事通信フォト)

各社が「スマホ決済」の主導権を巡り激突している。このうちメルカリの「メルペイ」は10連休にセブンイレブンを対象に「70%還元」を実施した。先行する「ペイペイ」などは20%還元だったので、メルペイの還元率は破格だ。エース経済研究所の澤田遼太郎アナリストは「メルペイの優位は還元率だけではない。後発だが、他のスマホ決済より普及する可能性が高い」という――。

■「竹下メルペイ通り」の反響

フリマ最大手のメルカリは、今年2月、スマホ決済サービスの「メルぺイ」を始めた。4月には登録者数が100万人を突破。そしてGWでは、「GW半額ポイント還元」や、原宿・竹下通りを「竹下メルペイ通り」として、さまざまな特典を受けられるキャンペーンを実施し話題を呼んだ。

スマホ決済を巡っては、各社がキャンペーンを実施している。先行するソフトバンクとヤフーの「ペイペイ」は、昨年12月に「100億円キャンペーン」を実施して大きな話題を呼んだ。還元額が100億円に達するまで、支払額の20%か、抽選で全額のポイントを還元するというものだったが、家電量販店での行列や、SNSで全額還元を“自慢”する投稿が相次いで話題となり、わずか10日間で終了した。現在はその第2弾を実施中だ。

LINEペイは20%還元や2000円が当たるくじのキャンペーンを展開、楽天ペイでも還元やポイントプレゼントを行うなど、競争は激しい。

一方でこうしたキャンペーンやサービスはあくまでも“飛び道具”であり、サービスの本質ではない。現時点では「ペイペイ」が約600万人のユーザーを獲得し、認知度においても他社より先行しているが、筆者は後発のメルペイに優位性があると見ている。

ポイントは3つある。1つ目は入金の手間の問題、2つ目は利用できる加盟店獲得の問題、3つ目はサービスの利便性、あるいはデザイン性とでもいうべきスタイルの問題だ。

■メルカリの売上は「出口」を求めている

1つ目の入金については、ペイペイやLINEペイは、事前に現金をチャージするか、クレジットカードなどと紐づける必要がある。しかしメルペイは、メルカリを利用して得た売上金をそのまま使用できる。他のサービスより利用のハードルが低い。

このメルカリでの売上金は月平均で約400億円にも上る。メルペイができる以前は、このほとんどが銀行から出金されていた。出金は月の決められた日にしかできない不便なものであったため、今後その多くがメルペイに向かうと見ている。

これに対抗して、ペイペイでは、ヤフーのサービスから得たTポイントをペイペイポイントに切り替え、ヤフオクの売上金をチャージできるようにする方針を発表した。導入されれば相当数のユーザー獲得が見込まれるが、一人あたりのTポイントが少額にとどまり使いにくいことを考えると、メルペイの優位性は揺るがないだろう。

2つ目の加盟店獲得では、ペイペイが自社の営業網で開拓を進める一方、メルペイではNTTドコモの「iD」などのカード会社を中心に提携に注力している。とくに競合となるLINEペイと加盟店と業務提携し、両社のQR決済を使う加盟店を相互に開放し、各サービスの利用者がそれぞれの加盟店で決済ができるようにするのはペイペイと差をつけたといえる。

加盟店舗数はペイペイが約50万店に対し、メルペイは「iD」とコード決済の導入だけでも135万店舗以上の導入が見込まれている。今後も動きがあるだろうが、拡大ペースではメルペイの戦略に優位性があるだろう。また、メルペイがスマホ決済では唯一、セブンイレブンへの導入に成功していることは見逃せない。

■便利でも不格好だと普及しない

3つ目の利便性・デザイン性とは、実際に決済する場合のスタイルの話だ。

たとえばペイペイのコード決済ではスマホを店員に向けて提示し、店員に読み取ってもらう必要がある。QRコード決済にいたっては店員に出してもらったコードを読み取り、金額を入力してさらに店員に確認してもらうなど、手間も時間もかかる。

筆者も実際に利用してみたが、見知らぬ店員に自分のスマホ画面を提示することに抵抗を感じる上、時間がかかると後ろに並ぶ人からの目が気になってしまう。そしてそんな自分の姿を格好悪いと感じた。

一方、メルペイはスマホをかざすだけで決済できる「iD」に対応している。使い方は店員に告げて端末にタッチすればいい。このスマートさは大きな違いだ。

少し脱線するが、これらスタイルの「格好良さ(かわいさ)」は新しいものが受け入れられるかを図る上でとても重要な要素だと考えている。突飛な例えに見えるかもしれないが、ウォークマンやカップヌードル、スマートフォンを持つ姿が不格好だったら過去のブームは起きただろうか。乗用車などもデザインが生命線である。逆にグーグルグラスやVRなど、期待されながらも見た目の問題でヒットしなかったとされる例も多数存在する。

話を元に戻すと、筆者はメルペイの「iD」対応は、このハードルを十分にクリアしているように思う。おそらくだが最初のキャンペーンの場所に若者文化の発信地・竹下通りが選ばれたのも、メルペイを「格好良い」サービスにしたいという思惑があったのだろう。

ただ、これだけの優位性があってもキャッシュレス決済サービスの主流となることができるかといえば、それは難しいだろう。この分野ではやはりクレジットカードが圧倒的に強く、それに輪をかけて現金は強い。スマホ決済が主流となるには、スマホがあれば財布が必要ない、というくらいまでいかなければ難しいだろう。

■メルカリが爆発的に普及した本当の理由

とはいえ本業のメルカリとの相乗効果には大いに期待できる。メルカリの利便性が向上する、決済データが得られる、その決済データを活用して広告や販売促進などの新規事業が展開できる……といったことに留まらず、コンテンツとしてのメルカリを強化し、飽きられないサービスとすることにその真価があると考えている。

筆者は、メルカリをただのフリマアプリではなく「楽しいコンテンツ」であると考えている。実際にメルカリの資料でもユーザー体験の差別化として、「宝探し感覚での買い物体験」「チャット機能」「“いいね”や“フォロー”」など「楽しい」要素が挙げられており、ユーザーの利用時間が他のフリマアプリと比べて2~5倍も長い。

モノをお得に売り買いするだけならこんなに長い時間アプリを見ている必要はないだろう。ユーザーは楽しいからメルカリを使うのである。これは、メルカリがコンテンツであるということと同時に、ユーザーがメルカリに飽きた時がメルカリの終わりであることを示している。

しかし、メルペイによる決済データ、つまりユーザーがメルカリで得たお金を何に使うのかのデータや、これに基づいた広告展開は、メルカリのコンテンツとしての可能性を大きく広げると考える。

■「こんまり」ブームからひも解く米国進出の可能性

今後のカギを握るのは、やはりメルカリ自体の米国展開だ。グローバルで大きく成長するためには、海外市場、特に規模の大きい米国市場での成功が欠かせない。前述のメルペイについても、プラットフォームと紐づいているので、メルカリが成功しないとメルペイも成功しない。

米国ではガレージセールが一般化しているため、フリマアプリが流通する見込みは薄いと見る向きも強い。しかし筆者はメルカリが付け入る隙もあると考えている。

それは米国人の価値観の変化だ。米国人のライフスタイルと言えば、映画で見るような大きな家や広い庭のイメージがあるかもしれない。だがリーマンショック以降、米国人の持ち家率は下がり、居住空間自体も縮小傾向にある。

都心に住む志向の高まりと相まって、特に若い世代では「必要なモノだけを持って暮らす」スタイルが広がりつつある。片づけコンサルタントの近藤麻理恵(こんまり)氏が米国で大ブームとなっているのも、その影響の1つと言えるだろう。

居住空間の縮小は米国人の生活様式を大きく変えるだろう。米国でも、フリマアプリで不要なモノを売りながら身軽に生活する、そんなライフスタイルが主流になれば、メルカリにとっても大きな商機となりうる。メルカリがGAFAに準ずるような存在にのし上がることも、不可能ではないだろう。

(エース経済研究所 アナリスト 澤田 遼太郎 構成=衣谷 康 写真=時事通信フォト)

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