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未来の世界で「お金」より大事になるもの

プレジデントオンライン / 2019年5月28日 9時15分

単一社会は溶け、コミュニティが乱立する(画像=『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』

これからの日本はどうなるのか。事業家・思想家の山口揚平氏は「マジョリティとマイノリティの比率が逆転し始めている。経済の中心はタテ社会からヨコ社会へと変わり、そこではお金よりも信用や文脈が重視されるだろう」と予測する――。

※本稿は、山口揚平『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■小さなコミュニティへの回帰が始まった

お金が信用という本質に回帰するように、社会もまたその姿を変えつつある。それは社会の最小単位である小さなコミュニティ(共同体)への回帰である。「ソサエティからコミュニティへ」。それが一つの標語となる(図表1)。

これまでの日本社会は単一価値観のモノ・ソサエティ(単一社会)であった。右に向いたら全員が右、左だと言えば全員が左を向かなくてはならなかった。高校から大学へ進学し、卒業したら会社に入ってやがて出世し、家を持ち家族を養う。暗黙の了解でそうした単一的な人生のレールの上を歩く生き方が良しとされていた。

強烈な同調圧力が支配する一方でグローバル化は進み、さまざまな生き方を志向する人が増えてきた。結果、一つの価値観やライフスタイルで統一することは困難になってきた。

これまでの王道を生きてゆく人をマジョリティと言うのであれば、王道から外れた生き方をしている人はマイノリティと言われる。

今起こっていることはこのマジョリティとマイノリティの比率が逆転し始めているということだ。

■マイノリティの革命が始まっている

日本のマジョリティ層は、正規雇用労働者や従業員1000人以上の会社での勤務者、専門職、公務員およびその家族であり、マイノリティ層はニート(疾病ニート、コミュニケーション障害ニート、高学歴ニート等)、若年派遣労働者、LGBT、シングルマザー、独居老人、年収200万円以下の人たちである。車いすを使う人や働いていないニートの比率も、中年を中心に急激に高まっている。LGBTQも実際には50種類くらいあると言われている。つまり性的な指向も多様化しているのだ。

マジョリティとマイノリティの比率は今や、マジョリティが6だとすれば、マイノリティは4くらいにまでなっている。そのことによってマジョリティは日本全国を単一価値観のソサエティで治めることができなくなっている。

マイノリティはそれぞれ小さなコミュニティを作り、今はそこで静かに時を待っている。ソサエティという大きな社会にくるまれたマジョリティとの戦いに備えて。

ではこのマジョリティに対するマイノリティの革命はどのような変化を呼び込むのだろうか。

■「ヨコ社会」が経済の中心を担うようになる

人々は「国家」や「企業」といった大規模単一価値観のソサエティの限界を悟りつつある。新しいコミュニティへの民族大移動が静かに、だが確実に進行している。

それはタテ社会からヨコ社会へ、中央集権的な社会からネットワーク社会へのシフトと見ることができる。

国や大企業に代表される中央集権システムは、図で表すと円錐のような形をしている。時間やお金を下から吸い上げて上から再配分するのが特徴で、すでにでき上がったマジョリティのシステムは基本的にこのような形をしている(図表2)。

タテ社会とヨコ社会(画像=『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』)

これがいわゆるタテ社会だ。

一方で、これから社会の中心となっていくネットワーク社会とはフラットな世界で、資源を吸い上げる機構としての円心がない。必要な資源をその都度、横に配分していく。個人間の直接のやりとりもあれば、そのフラットな世界の中でハブとして機能する個人やコミュニティも乱立することになる。これがヨコ社会だ。

現時点でヨコ社会の住民は主にタテ社会のスキームに収まらないマイノリティが占めるが、いずれヨコ社会が経済の中心を担うようになる。

■非効率な「タテ社会」の生産性

タテ社会とヨコ社会では何もかもが違う(図表3)。

タテ社会とヨコ社会では何もかもが違う(画像=『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』)

世の中に存在するタテ社会が今後、自己変革を迫られていくのはもはや必然である。その理由はタテ社会の非効率な生産性にある。

たとえば大企業の多くが新しい世代のIT企業に勝てないのは、無駄なことに時間を割く文化を捨てられないからだ。図表4を見れば、代表的なわが国の大企業の生産性が海外企業に比べて低いことがわかる。

日本のインフラ大企業の生産性(画像=『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』)

社内の話だけではなく、外部のサプライヤーに対してのコミュニケーションコストも含めれば、企業によっては全体のコストの7割はコミュニケーションコストで、純粋な生産コストは3割ぐらいしかない。

先日、私たちはある大手企業に事業分析のアルゴリズムを納品した。そのアルゴリズムはコンサルティングファームのパートナーとAIのエンジニア、そして何人かの数学が得意なメンバーを土日に集めてスピーディに開発したものだが、一番苦労したのはそのアルゴリズムを導入してもらうまでのクライアント対応だった。

膨大な資料を作って、20人くらいを前に、当たり前のように「機械学習とは何ぞや?」というレベルからくり返し説明をしないといけない。これでは対等なパートナーシップは結べないし、効率的な仕事もできない。

■ヨコ社会で重視されるのは「信用や文脈」

今、私は自分のクライアントに対して、少しでも出資提携をするようにしている。わずかでも株主になれば対等な関係になれるので、それだけでかけるコストが7割とは言わないものの、5割は減らせるからだ。コミュニケーションを取るためだけの無意味な資料を作る必要がなくなれば、空いた時間で本質的な価値創造に専念することができる。

タテ社会の住民は少しずつだが、ヨコ社会にシフトしていかねばならないだろう。

ヨコ社会で生き抜くためのルールをもう少し詳しく説明しよう。タテ社会ではお金が重視されるが、ヨコ社会では常に信用や文脈が重視される。

お金(数字)という言語は、衣(医)食住を満たす領域で有効だった。なぜならそれらは必需品であり、一つひとつの製品・サービスに独自性を求められないからだ。

しかし経済が進み、人々がつながりや承認欲求といった社会的欲求を求めるようになると、お金ではその欲求が満たせなくなる。それよりもこれまで述べた通り、文脈が求められるようになるのだ。

特にヨコ社会のやりとりでは信用がお金を駆逐する。コミュニティの中ではなく、コミュニティとコミュニティの間でやりとりされる(価値観の違う人とのコミュニケーションに使う)のがお金なのである。

■お金を使う主体は個人からコミュニティへ

コミュニティの中では原則、お金が必要ないと考えられる。理想的なコミュニティの仲間は、家族間の関係を拡張したものだ。家族間でお金を使用してコミュニケーションを取る必要はない。

コミュニティの中ではお金の代わりにシェアや貸し借りなど、信用を中心とした経済システムが有効に働く。そしてお金を使わないということは、「文脈の毀損」を防ぐことができ、健康的で心地の良い生活が送れる。それが、コミュニティが貨幣経済に関する問題の解決策となる理由である。ここにきてお金の問題と社会の問題の対立構造は解決し、ウェットな人間関係が構築される。

ただし、コミュニティの外にはお金を使うことになる。異なるコミュニティ同士のコミュニケーションの手段ということである。お金の役目は残しつつ、お金を使う主体は個人からコミュニティに移行していく。またそれらを下支えするのは、もはや国家ではなく、ブロックチェーンベースの仮想通貨やトークンといったテクノロジーに変化する。

■超国家的なコミュニティが乱立する時代が来る

社会がコミュニティへと分化してきた背景についても考えてみよう。

世界は長らく国境によって分断されてきた。ビジネスの世界も企業体単位で戦うことが常識だった。

そうした「断絶の時代」に風穴を開けたのがインターネット。ウィンドウズが出てきたあたりからインターネットという世界への扉が開き、グーグルの登場やグローバル資本主義の台頭で世界は「遍在かつオープンな時代」へと入った(図表5)。

多層化したコミュニティの時代へ(画像=『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』)

そして近年、フェイスブックやインスタグラムなどによる「仲間分け」が起きた。個人の社会的なつながりや信用がコミュニティ内でたまっていき、レーティングの対象となる社会に入ったのだ。多層的コミュニティ時代の幕開けである。

今後の社会で予見されることは、そうしたコミュニティが成熟していき、法(ルール)や教育、福祉、市場、貨幣などのインフラを持った超国家的なコミュニティが乱立することである。

それは地域に根ざした小規模コミュニティや共通の価値観を持った人たちが集うコミュニティ、そしてギルド(組合)のような同じスキルを持った人たちによって作られるコミュニティかもしれない。私たちは日本国民であると同時に、そうした超国家のコミュニティに多層的に所属していくことになる。お金が信用という起源に戻るように、社会は小さな共同体という濃厚な人間関係に戻っていく。

■「自分らしい生き方とは何か?」を問い続ける

山口揚平『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』(プレジデント社)

そんな時代に必要になることは、各自が自分なりのコミュニティ・ポートフォリオを持つことだ。つまり、自分の持っているリソースを、どのコミュニティにどれくらいの割合で割くのかについて真剣に考えないといけない。

最近では大企業による副業解禁の動きが目立ってきているし、これからはプロボノ活動(自分の専門知識やスキルを活かして社会貢献活動を行うこと。pro bono publico)も大事になる。

今までは「仕事とプライベートの割合をどうするか?」というシンプルな問いでしかなかったが、多層的なコミュニティの時代では「自分らしい生き方とは何か?」という本質的な問いを持ち続けることが重要になる。

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山口揚平(やまぐち・ようへい)
事業家・思想家
早稲田大学政治経済学部卒。東京大学大学院修士(社会情報学修士)。専門は、貨幣論、情報化社会論。1990年代より大手外資系コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わったあと30歳で独立・起業。劇団経営、海外ビジネス研修プログラミング事業をはじめとする複数の事業、会社を経営するかたわら、執筆・講演活動を行っている。

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(事業家・思想家 山口 揚平 写真=iStock.com)

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