育ちがよい人ほどウマく人の心に入るワケ

プレジデントオンライン / 2019年5月20日 9時15分

ジャーナリスト 佐々木俊尚氏

■未知の分野の知識を、一夜漬けで身につける

実際に初対面の人とお会いして、あいさつと名刺交換が始まりますが、そのとき気にする点はずいぶんと変わってきていると感じています。60代、70代の年配の人は、あいさつや名刺交換を“儀式”のように重んじますが、世代によって感じ方が違うので、やり方を変えていいと思います。相手が30代、40代なら、あいさつはさっと済ませ、すぐ本題に入っても気にしない人が多いですからね。

名刺交換の儀式が好きな人は、「名刺はささげるように持て」などと言いながら、相手に対するリスペクトがないことが多い。相手がしゃべり終えていないのに、関心がないのか「ハイハイハイ」って言葉を被せてきたり。逆に「へえ! そうなんですか」「その話もう少し聞きたいです」と、相手の投げたボールを投げ返すことが一番大事だと思います。名刺交換のマナーとかよりも、まず相手へのリスペクトを持つことじゃないでしょうか。

人に会うというのは「相手の時間を奪う」ことなので、時間の観念を意識するのが一番です。相手が若い人なら「いい天気ですね」などの雑談も不要です。ただ、いきなり本題に入っても気にするか否かは、世代で分けられると思います。60代、70代の人は、いきなり本題に入るのは抵抗があるようですが、40代より下なら大丈夫でしょう。

むしろ、相手の知識レベルがどれくらいかを気にする人のほうが多いので、訪問先の業界動向や専門用語、キーワードになりそうな基礎知識を前もって頭に入れておくことを優先したほうがいい。相手個人に関する情報がなくとも、相手の業界や属する企業の現状・戦略についての基礎知識を持っておけば、相手の話題にもある程度は合わせられます。

ジャーナリストの場合は、いろんな分野の人と会いますから、未知の分野の知識を一夜漬けで身につけるスキルが求められます。新聞記者というのは、それを延々とやっているわけです。大きな事故や事件が発生した際は、一夜漬けどころか30分漬けで頭に叩き込み、短時間で集中的に原稿をつくります。ビジネスシーンでも、初めての人に会うなら、そのぐらいの気概と覚悟で望んだほうがいいんじゃないでしょうか。

僕らの仕事は、インタビューは事前に誰と会うかがわかっているので、相手のことは事前に本人が覚えているよりも詳しく調べます。かつては大宅壮一文庫で過去の雑誌記事を調べましたが、今はネットで大まかに調べられますから、著名人ではなくともウェブでコーポレートのホームページの中の記事を読むとか、過去の新聞・雑誌記事検索で相手の経歴や著書を調べ、アマゾンなどで数冊買って読むのが基本スタンスです。

■育ちがよい人ほど、うまく人の心に入る

新聞記者をやってきて気づいたのは、事件記者の本質は、格好よさとかタフさとかではなく、どれだけネタを取ってくることができるかです。これは「人が言いたくないことをどれだけ聞いてこられるか」ということで、要するに「どれだけ相手の懐に入れるか」に尽きます。僕の見立てでは、育ちのよい人ほど人の心に入るのがうまい。育ちのよい人は、近づいても相手から跳ねのけられた経験があまりないから、人を信じることができるんですね。

一方、僕は生まれがものすごく貧乏で、周りにダメな大人がたくさんいた。そんな環境で育つと、接近すると嫌われる、怒られるんじゃないかと思って近寄れないんです。その心理的障壁を突破するのに、残念ながら特効薬はありません。ひたすら場数を踏むしかない。最初は慣れなくて辛いんですが、とにかく人に会いにいくのを何度も繰り返していれば、だんだん間合いが見えてきます。そうすると大抵の人は近づいても怒ったりしないのがわかってくる。僕は新聞社に12年いましたが「人間関係とはなんぞや」が見えてきたのは、働き出して5~6年経ってからです。

初対面で好感を持たれたいなら、まず自分が相手を好きになることです。加えて、自分が20代の頃に他人からやられて嫌だったことは絶対にやらないこと、年齢や肩書で差別せず、フラットな視線を持つことです。初対面の対応で「この人、苦手だな」と思うこともありますよね。やたらぶっきら棒だったりするんですが、そういうときは、実は相手が緊張している場合があります。まずはお互い緊張しないことです。それから「あなたのことが好きなんです」というオーラを出したり、「お会いしたかった」と口に出して相手に伝えれば、場の雰囲気を変えられます。たったそれだけですが、気分を悪くする人はいません。

■苦手な人は、笑顔でフェードアウト

もっとも、男性社会ではヒエラルキーを重要視する人が多く、名刺の肩書を見て、自分より上か下かを推し量る人がよくいます。露骨に態度を変える人もいて、初対面でこれをやられるとかなり嫌な気持ちになります。こういう人を反面教師として、自分は“マウンティング”しないことを心がけるべきでしょう。

僕は50代ですが、相手が20代でも、「君付け」や呼び捨てではなく「さん付け」で呼びますし、自分の知らないことを知っていたら「それはすごいですね。教えてください」と言って耳を傾けます。ITなんかは若い人のほうが詳しいですからね。

PIXTA=写真

■付き合わなければならないなら「スルー力」を身につける

自分が知っていることを、相手がしゃべり出すシーンも結構あると思います。ただ、そこで反論したり、話を被せたり、嫌な顔をしても、相手が気を悪くするだけで得することはありません。聞き流すのが無難です。考えようによっては、相手は「その程度の人」なんです。取引先などで、どうしても付き合わなければならないなら「スルー力」を身につけることです。苦手な人に対面したら、笑顔でフェードアウトしていけばいいんです。バシッと切ると敵をつくることになりかねませんから。

もし、初対面の人を怒らせたりイライラさせてしまったら……その状態を切り替えたり巻き返したりするのは正直、難しいです。相性もあるので「縁がなかった」と割り切って深追いせず、撤退する方向に持っていったほうがいいと僕は思います。逆に自分が相手を苦手だと感じてしまったら、マインドセットを切り替え、頑張って好きになるしかありません。相手の立場に立って相手の味方になるしかないんですよね。

Q:初対面の人にやってはいけないことは?
A:マウンティングしないことが大切

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佐々木俊尚(ささき・としなお)
ジャーナリスト
1961年、兵庫県生まれ。毎日新聞、アスキーを経てフリージャーナリスト。著書に『レイヤー化する世界』『キュレーションの時代』『家めしこそ、最高のごちそうである。』『自分でつくるセーフティネット』ほか。

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(ジャーナリスト 佐々木 俊尚 構成=篠原克周 撮影=的野弘路 写真=PIXTA)

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