退職する時に「株を下げる人」のNG行動6
プレジデントオンライン / 2019年7月2日 9時15分
■「退職をメール1本で済むと思っている」
多くの企業で終身雇用制度が揺らぎ、1つの会社で定年まで働き続けることが当たり前ではなくなりつつある現代。かつてはマイナスのイメージだった転職も、今ではポジティブなものとして捉えられるようになった。
しかし、転職が当たり前になったためか、転職に伴う常識・マナーが乱れ気味だという。長年、社会人に仕事のマナーの基本を伝授してきたマネジメントサポートグループ代表の古谷治子さんは、「退職をメール1本で済むと思っている人が少なくない」と頭を抱える。
「退職は年末の12月と年度末の3月に多いものですが、2019年のGWの10連休は、人事にとっては脅威です。連休明けに、やっぱり辞めると言い出す新人が、大量に現れるのではないかと危惧しているのです」(古谷さん)
人手不足の昨今、会社も慰留に必死。辞めたいのに会社が辞めさせてくれないと、労働基準監督署に駆け込む人もいる。
そもそも退職の申し出は、労働者側から労働契約を解約する旨の意思表示であり、会社の承認までは必要ない。しかし、退職には一定のルールがあり、それに従った手続きをとるというのが原則。
東京都のTОKYОはたらくネットでは、「就業規則のある場合は、その規定に従って、退職届を提出します。就業規則がなく、契約期間の定めがない場合には、労働者は14日前に退職を申し出ることによって、契約を解除できます(民法第627条)。ただし、就業規則を無視して退職を強行すれば、トラブルになる可能性が高くなるので、事前に会社と話し合う必要があります」と定義している。
「上司に面と向かって辞めますと言えないからと、退職の申し出や手続きを代行業者に委託する人も現れました。気持ちはわかりますが、自分自身で行動対応してほしいです」(古谷さん)
よほどのことがない限り、円満に退職するのが一番である。そのためには、退職に伴うマナーも知っておくべきだろう。
辞めるのだから、あとは知ったことではないという態度はもってのほか。転職エージェントmorich代表の森本千賀子さんも、仕事ができる人ほど、元の職場を考慮し、スマートに辞めていると断言する。
■退職の心得(1)転職活動は職場には内密に行うこと
転職先を決めずに退職し、それから転職活動をはじめる人もいれば、転職先が決まってから退社する人もいる。
森本さん(前出)は、転職先が決まってからの退職を勧める。
「人手不足の時代だから大丈夫だろうと、転職を安易に考えて退職したものの、なかなか就職先が決まらないという人は珍しくありません。転職市場では、ブランクはネガティブに映るポイントでもあります。半年ものブランク期間中に何をしていたのだろう? もしかして計画性がない人ではないか? それとも、いろいろな会社を受けたけれど採用されなかったのか? いずれにせよ採用にマイナスな要素として判断されてしまう傾向があります」
となると、在職中に転職活動を進めることになるが、転職活動は内密にすべきなのか? 内密にすべきだと古谷さん(前出)は言う。
「今いる会社から給料をもらいながらの転職活動。もう心ここにあらずなわけでしょう。職場の同僚や上司が知って、気分がいいわけがありません。会社に非常に失礼なことをしているのですから、黙っているのが礼儀です」
森本さんも、転職活動は現在の職場にコンフィデンシャルに進めるものだと言う。
「1つはメンタルの問題。いつまでに辞めると職場で宣言してしまうと、期日までに転職先を決めなければいけないというプレッシャーのなかで転職活動をすることになります。これがよい結果をもたらすとは思えません。
もう1つは、次へのチャレンジが決まっていないなかで退職の話を切り出すと、会社側が引き留めるために、さまざまな慰留対策を講じてきて、結局ずるずると辞めにくくなることがないとも言えません。いずれにせよ、転職活動は内密に行うべきなのです」
■退職の心得(2)慰留に曖昧な態度を見せるのは失礼
辞める旨を伝えると、必ず上司から慰留はされるもの。
「会社としても、辞めてほしくない人と、辞めてくれてホッとしているのが本音という人がいます。いずれにせよ、慰留されたら『ありがとうございます』と感謝の言葉を述べるのが礼儀です」(古谷さん、以下同)
まずは、これまでお世話になったこと、熱心に慰留してくれることに対して感謝を表し、それでも辞めることを明確に伝える。
「辞められたら困る」「もう1度考え直してくれ」という熱心な慰留に、「これまでお世話になった上司の頼みを頑なに断るのは失礼。説得に心が動き、悩んでいるところを見せたほうがいいのかもしれない」と気の弱い人は優柔不断な態度を見せがちだが、これは最悪だ。
曖昧な態度をとると、会社側は慰留できることを期待し、時間をかけて交渉をしてくる。そのうちに転職先に告げた入社日が迫り、結局、退職が間に合わず、転職先の内定が取り消しになった例もあるという。
「結局、あなたの優柔不断な態度で今の職場も、転職先も困ることになるのです」
ただし、きっぱりと辞めることを告げつつも、申し訳ないという態度は示すべきだと古谷さんは続ける。
「少なくとも1人抜けたら、会社側は後任を探し、一から教育しなくてはいけない。時間とコストがかかるだけでなく、後任が育つまで生産性は間違いなく下がります」
自分が辞めても業務が滞らないように、きちんと仕事の引き継ぎをするのが常識だが、それすら疎かにする転職者が増えているそうだ。
「仕事の注意事項をきちんとまとめ、自分の仕事をマニュアル化して、後任にわかりやすく伝える。そして『わからないときは、いつでも電話してください』という一言を添える。そんな気の利いたことを言える人が少ない。『辞めるのだから、私は関係ない』と自分の都合しか考えない人が増えてしまいました」
世の中は狭い。辞め方で下手を打つと、あの人は自分のことしか考えないということになってしまうのだ。
「支給された貸与品、備品はすべて返却するのが基本です。パソコンを初期化すべきかなどは、会社の指示に従いましょう」
世話になった会社への配慮が欠けたビジネスマンに一流の仕事ができるわけがない、と古谷さんは厳しい。
「立つ鳥跡を濁さず。そうすれば、あの人はちゃんとしていたと評価も高まります」
■退職の心得(3)退職の理由はポジティブに説明する
なにも辞めなくても、うちの会社でも十分にできるじゃないか、という会社側の強い慰留には、どう対応すればよいのだろうか。
森本さんは「そういう展開にならないように話を進めることが大事」だと言う。
「例えば、自分のやりたいことが、社内の異動で実現できるのなら、人事異動でいいじゃないかという話になります。特に初めて聞くような希望であれば、上司は異動を提案するでしょう。でも、何度も異動を希望していたのに受け入れられなかったのであれば、『そうか、ずっとやりたがっていたけれど、叶えてやれなかったな。辞めてチャレンジするんだな』と上司も納得できます」
事前の段階を踏んだか、踏まなかったかで、円満に退社できるかどうかは大きく変わってくる。できれば、応援されるような形で辞めたいもの。
「実際、本当に仕事ができる人は、自分の社内での評価もわかっていて、慰留に時間がかかることも予測できます。ですから、繁忙な時期はいつか、引き継ぎにかかる時間はどれくらいかを見越したうえで、転職先と入社の期日の交渉もしています。そして、今の会社の事情を配慮して、自分がいなくなっても大丈夫な態勢を、辞めると申し出る前につくってしまっているのです」
ここまでしておけば、退職の意志が固いことが会社にも伝わるし、辞められても混乱は最小限だと安心できる。
慰留の際につい言いたくなる会社への不満。たとえ転職の理由がそれでも、絶対に口にはしないこと。「すぐに改善するから」と引き留められてしまうからだ。
「あくまでもポジティブに、自分はこれをしたいから辞めるというのが一番説得力があります。これがやりたいと自分はずっと思ってきた。でも、残念ながら、ここの会社ではできない。その整合性が取れているかですね」
慰留にもいろいろなスタイルがある。泣き落としに恫喝、待遇をアップするからというおいしい提案もあるだろう。
「退職すると決めたら、強い気持ちを持って臨むことです。給与を上げるから、役職を上げるからと言われても、それは一時的なものと考えたほうがいいです。条件に釣られて残るというのは、お勧めしません」
既に転職先が決まっていたとしても、慰留中は会社にそれを告げなくてもかまわない。「まさに転職活動中ですので、まだ決まっておりません」としておいたほうがいいだろう。
■退職の心得(4)退職を考えたら、就業規則を熟読する
そもそも、退社する旨を会社に伝える場合、いつ、誰に伝えればいいのか。
退職を申し出る前に、確認すべきなのが在籍している会社の就業規則だ。就業規則には「退職希望日の○カ月前までに、退職願を直属の上司を経由して会社に提出する」などと書かれている(1~2カ月前までに申し出ることと規定している会社が多い)。仮に「2カ月前までに退職願を提出する」とあるにもかかわらず、直前に提出すれば、退職交渉が難航することにもなる。
「最初に告げるのは、自分の人事評価を担当している直属の上司です。課長だとすると、『一旦、預かる』という話になり、辞めさせたくない場合には、部長と話をさせるとか、役員が出てくるとか、慰留のためのプロセスがあると思います。そして、仕事の引き継ぎ方法や退社日がクリアになったら、社会保険や退職金などの事務手続きを人事部とするというのが基本的な流れです」(森本さん)
退職の申し出は口頭でも有効とされているが、会社所定の書類か、自作の書類を提出するのが一般的だ。
ちなみに「退職願」と「退職届」と「辞表」。どれも同じようだが、内容は異なる。
「退職願」は、労働契約の解約を願い出るもの。会社に承諾されて初めて退職となる。「退職届」は会社への明確な意思表示なので、受理された時点で退職となる。
一般的に「退職願」は自己都合による退職。「退職届」は会社都合での退職の際に使用する場合が多い。
「辞表」は会社役員などが役を辞する際に使うもの。また、公務員が職を辞する場合も「辞表」を用いる。
■退職の心得(5)退職の挨拶はくれぐれも慎重に
退職するにあたり、お世話になった人に挨拶をするのは基本的なマナー。最近では一斉にメールを流して済ますことも多いが、人一倍お世話になった人には実際に会って感謝を伝えたい。
社外への退職の挨拶はどうすべきか。退職の挨拶状を出すほうが礼儀正しいような感じも受けるが、「場合による」と古谷さんは注意を促す。
「会社にしてみれば、人が辞めたというのはマイナスの印象を与えます。あの会社また人が辞めたみたい、となることもあるので、取引先への挨拶状は、会社の指示に従ったほうがいいでしょう。
仕事の引き継ぎの際も、辞めることは言わずに『今度、異動になったので後任を連れてきました』と紹介すべきです」(古谷さん)
■転職の心得(6)管理職採用された場合の心得
管理職採用された場合、転職先でどのようなことに気を配るべきなのだろうか? 古谷さんは、気概を持って新しい職場に挑むことを進める。
「会社が中途採用者に期待するのは、教育に時間を割かずに済む即戦力だということ。そして、ウチになかった新しい視点・発想・工夫。ですから、すぐにでも新しい発想でバンバン仕事をしてもらいたい。
管理職採用の場合、部署をあなた色に染めていいと思います。チームとは、もちろん社員一人一人が職場の雰囲気をつくるのですが、やはりその部署の上司の言動で決まる。部長が1人代わっただけで、職場はガラリと変わるでしょう」
ただし、と古谷さんは続ける。
「初めから暴走してはいけません。組織の風土などを知るためにも、3カ月ぐらいは様子を見たほうがいい。会社の雰囲気、職場のキーマンは誰かを知って、それから動くべきです」
まずは社内のネットワークづくりから。たとえベテランでも腰は低く。明るい笑顔も新人の基本だ。
「組織ですから、そこは役職者を大いに活用しましょう。課長として入るのなら、直属の部長はもちろん、他部署の課長にも、新人なので教えてくださいと進んで話しかけ、頼んでみる。相談された人も、悪い気はしません」
■転職の心得(7)転職先で、これをするのは御法度
前の会社ではこうやっていました……。つい口にしてしまいそうなフレーズだが、これは転職先で口にすべきではない、と森本さん。
「前の会社と比べることは御法度です。それを聞いて、誰もいい気はしません。逆に言うと、それをわかって入ったのでしょう?と周りは思ってしまいます。
会社によってやり方が違うのは当たり前です。意識して比べないように、言わないようにしたほうがいいですね」
変えるべき点があれば、建設的に話を進めればいいだけのこと。わざわざ前の会社を持ち出して比べることはない。社風や慣例が異なるのも当然のこと。
「大きな企業から小さなベンチャー企業に転職した方に多いのが、こんなことまで自分がやらなければいけないの?的な発言。これも御法度です」
転職者に期待されるのは、新しい発想。では、新風を巻き起こしてくださいと言われて、その気になっていいものなのか?
「よくあるのが、経営陣から、今の会社を変革してほしいと、散々言われて採用された方は、とにかく、できるだけ早く実行しなければいけないと、現状の問題点を洗い出しては、これはダメ、あれもダメ、全部ダメとやってしまいがちです。
でも、そこには、できない事情があるのかもしれません。予算の問題なのか、逆にあえてそうしているのか。その辺の事情までを踏まえたうえで提案すべきでしょう」
管理職採用された人が絶対にしてはいけないことがあると森本さんは注意を促す。
「一番してはいけないのは、現社員を敵に回すこと。何より、現場を否定してはいけません。改革するにしても、1人でできることは限られています。職場の社員と信頼関係をつくり、味方となってもらい、同じ方向を向いて、一緒に取り組むチームとならない限り、大きなムーブメントは起こせません」
まずは自分のファンをつくること。ファンを増やして巻き込むことが大事。そのためにも、自分はどんな人間なのかをみんなにわかってもらう努力をし、職場の人はどういう人なのかをキャッチアップしておく。
「すごい人が入ってきたと思って、声が掛けづらかったり、遠慮したりすることもあるでしょう。仮にもし、声が掛からなくても、自分から積極的に声を掛けながら、人間関係を築く努力はしたほうがいいですね」
最初が肝心。まずは人間関係の構築だ。
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マネジメントサポート代表
オーダーメイド型研修で企業の課題解決、業績アップ、組織活性化を支援する。著書に『社会人1年目の仕事とマナーの教科書』ほか多数。
森本千賀子
morich代表
25年間のリクルート勤務を経て、独立。主に経営幹部・管理職クラスの採用支援をコーディネート。著書に『のぼりつめる男課長どまりの男』ほか多数。
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(フリー編集者 遠藤 成 写真=iStock.com)
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