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ワインのテイスティング"飲まなくていい"

プレジデントオンライン / 2019年5月21日 9時15分

ワインアンドワインカルチャー代表 田辺由美氏

■「香りを言葉で」は、やらないほうがいい

接待や会食など、仕事上の交流の場にワインを介するケースが年々増えていると実感されている方も多いでしょう。それゆえ、ワインとその周辺に関するご自身の知識や経験に不安を覚えるのかもしれません。

しかし、知らないことじたいがマナー上悪いことでも何でもないと思いますし、ワインの知識よりも箸の使い方のような基本的なことを知っておけば、何とかなります。

もっともマナーは、知っていて崩す分にはよいのですが、最初から崩れているのはあまりに世間知らず。あとは雰囲気を見ながら相手に合わせていくものだと思っています。

まずレストランに限っていうと、ワインにはビールやウイスキーのような“お酒を飲む”という感覚を持たぬことが大事。あくまで食事をおいしくするもので、酔うためのものではないのです。一般に、初対面の方やビジネスの席では、基本的に政治と宗教の話はNGとされていますので、目の前にあるワインが会話の糸口を見いだす一助ともなります。

見栄を張って知ったかぶりをするよりも、ソムリエや同席している詳しい方に「おいしいワインですね。どちらのでしょうか?」と国や地域を聞くか、「どんなブドウを使っていますか?」などと尋ねるのが無難なスタートです。相手がワイン好きの方なら、喜んで詳しく解説してくれるでしょう。このとき我々のようなプロはワインの香りをいろんな言葉で表現しますが、接待の場ではあまりやらないほうがいいと思います。

飲み物を出す順序は最初にスパークリング、そして白、その後に赤。お好みならば、さらにブランデーやシェリーのような強めのお酒を食後酒に持ってきても構いません。

料理に合わせて、味わいの軽いほうから重いほうへと流れていくのが基本ですが、もちろんそれぞれの好みに合わせてスパークリングを飛ばしてもいいですし、赤まで飲まなくても大丈夫です。

魚介料理には白が合うと言われるのも、魚介料理は軽めのさっぱりした調理法や味付けが多いからなのですが、例えば魚介類が濃い目の赤ワインソースで調理されているような場合には、赤ワインを選んでもいい。基本を知りつつも、そのとき同席している方々と一緒に柔軟に選べるのがワインの魅力なのです。

会食をするようなお店には、大抵ソムリエがいます。ソムリエはワインのプロですから、わからないことは正直に聞いて、味方につけるといいでしょう。ワイン選びは、本来は接待する側の役割ですが、私は時々、招待された側なのにその場でワインリストを渡されて「どれがいいですか?」と聞かれることもあります。ボトル1本でも5000円くらいから数十万円のものまで幅が広いのに、相手の予算を聞くわけにもいかず、困ってしまいます。もしゲスト側に伺うとしたら、「次はどんなお味がいいですか?」程度にして、それをソムリエに選んでもらうのがいいですね。予算の目安は、最終的にお食事の5~6割強程度。1万円のコース料理を4人でいただくならば、ワイン全体で2万~2万5000円くらいが妥当です。

■テイスティングで気になる2ポイント

接待する側の役割で困るのが、ワインをボトルでオーダーした際の、「ホストテイスティング」と呼ばれる試飲でしょう。ワインは瓶の中で何年も寝かされているうちに、何十本に1本かはコルクが傷んでダメージワインとなってしまうものがあるため、お客様に味わいのチェックをしてもらうのが一般的です。お客様にはいい迷惑ですが(苦笑)。

まずは目で見て色味のチェック。赤ワインの場合、新しいのに酸化や加熱で茶色っぽくなっていたらNGです。次に、グラスを鼻の近くに寄せ、香りを軽く嗅ぎます。コルクのダメージがワインに影響していると、洗濯機のようなカビ臭さがあり、酸化していると接着剤のような香りに。その2つのポイントが気にならなければ、「大丈夫です」とお任せしましょう。軽く口に含んでもよいですが、必ずしもその必要はありません。待っている他の皆さんが疲れてしまうので、場の空気を読んで10秒でサッと済ませましょう。

会席では飲み物は右、メーンディッシュは目の前、サラダやパンなど副菜は左が置き場所の基本。これでお隣のものと混同しません。ワインは必ず自分の右手奥にあるグラスを使い、飲んだ後も右手奥に戻します。

グラスはスパークリング、白、赤などワインによって形が異なり、セッティングされたテーブルにはすでに何脚もグラスが並んでいることがありますが、その右端から使えば大丈夫です。持ち方については諸説ありますが、細い脚(柄)の部分を親指と残りの4本の指先で優しく握るのがシンプルで美しいと思います。

■店・ワイン選びで思いやりが伝わる

乾杯の際は、軽く音を立てる程度にグラスを合わせても構いません。ただ注ぎ足しは要注意。接待相手のグラスを空にはさせじと、どんどん注ぎ足しがちですが、ワインはグラスの半分以下が目安で、並々と注ぐのはマナー違反。出てくる料理次第では別のワインに切り替えたい人もいるので、勝手に注ぎ足さずに「いかがですか?」と一言伺ってからだとスマートです。

女性相手の接待なら、ワインのセッティングだけでも喜んでもらえると思います。日本酒やビールを苦手とする人もいるので、和食などでもワインも選択できるお店だと事前に伝えるだけで気が楽になる人も多いでしょう。時に、女性が香水をつけていると、ワインは香りが大事だからとクレームをつける方がいます。プロは絶対つけませんが、特に禁じられているわけではありません。

■相手の宗教、アレルギー、好みなどをしっかりチェック

今後は海外のお客様との接待も増えるでしょう。相手の宗教、アレルギー、好みなどをしっかりチェックして品格ある会食にしたいですね。

相手の気持ちやコンディションも考えてお店や料理、お酒を選ぶという心遣いがさり気なくでき、食事の席では気持ちよく話が盛り上がるのがよい接待といえるのでは。相手を尊敬し、思いやっている姿勢は、迎合するような言動よりも、そうした店やワイン選びの気遣いで十分伝わります。傍目からは上下の差、接待する側とされる側の区別がつかないような場は、楽しそうで本当にいいなと思います。

Q:どのような場になれば、理想の接待といえますか?
A:接待する側、される側の区別がつかない場が最高

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田辺由美(たなべ・ゆみ)
ワインアンドワインカルチャー代表
日本ソムリエ協会名誉ソムリエ。北海道生まれ。津田塾大学数学科卒業。米国コーネル大学でワインを修得。1986年より現職。92年「田辺由美のWINE SCHOOL」設立。2009年仏政府より仏農事功労賞。著書多数。

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(ワインアンドワインカルチャー代表 田辺 由美 構成=岩辺みどり 撮影=初沢亜利)

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