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月定額で全乗り物乗り放題の時代がくる

プレジデントオンライン / 2019年6月10日 9時15分

■新しいサービスが進むフィンランド

自動車業界が「MaaS」(Mobility as a Service)に取り組んでいる。トヨタ自動車は現在を100年に1度の変革期と位置づけて、「モビリティのサービス化」を戦略として打ち出した。自動車はモノとして所有する時代から、サービスとして利用する時代に変わるというわけだ。

近年はカーシェアやライドシェアなど、新しいサービスが普及しつつある。自動車メーカーが危機感を持ち、サービス分野に関心を持つのは当然だろう。

ただし、MaaSを「モビリティのサービス化」ととらえるのは、正確ではない。カーシェアやライドシェアは、MaaSを構成する一要素にすぎない。それらのサービスに参入することを戦略の中心に据えていたら、時代の変化に取り残されてしまう可能性が大だ。

MaaSとは何か。それは利用者が多様なモビリティサービスを「1つのサービス」として自由にアクセスして利用する、新しい移動の概念である。モビリティサービスは自動車に限らない。電車、バス、タクシー、フェリー、航空、自転車、これから出てくる空飛ぶクルマ……。それらを統合し、プラットフォーム化することこそがMaaSの本質である。

MaaSには5つの段階がある。レベル0は、単独のモビリティサービス。カーシェアやライドシェアは新しいサービスではあるものの、もしほかのモビリティサービスと連携していなければ、MaaSとしては扱われない。

レベル1は、情報の統合だ。たとえば、ネットで経路検索をすれば、交通手段を問わず最適なルートを教えてくれる。日本では、「ナビタイム」がレベル1のサービスに該当する。

こうした情報サービスに予約や決済の機能が加わったものが、レベル2。さらに、各モビリティサービスがパッケージ化されて、専用の料金体系を持つ段階がレベル3だ。すでに世界ではMaaSが実施され始めており、フィンランドのMaaSグローバルが提供するアプリ「Whim」は、レベル3にまで達している。ヘルシンキ市内すべての公共交通機関にくわえて、カーシェアリング、レンタカー、タクシーを1つのサービスとして統合。スマホでルート検索を行い、アプリ上で予約と決済ができる。料金は、利用者がモノを買い取るのではなく、利用した期間に応じて料金を支払うサブスクリプションモデルを採用。月額499ユーロ(約6万3000円)のプランなら、タクシーは5キロ以内という条件で、前出のモビリティサービスが使い放題だ。登録ユーザーは6万人(2018年10月現在)。ヘルシンキの人口は約63万人なので、ほぼ1割の住民が利用している計算になる。

こうしたサービスがさらに地域政策と連携すると、レベル4になる。事故を減らす、過疎地域でお年寄りの足を確保するなどの目的で、官民連携で展開されるのが最終段階だ。

■自動車産業は衰退するのか

グローバルにおける移動のマーケットは、約9000兆円あると言われている。これから起こるのは、その巨大な市場を統合するプラットフォームの争いだろう。モビリティ市場のGAFAにならんとするプレーヤーは多い。鉄道系では、ドイツ鉄道が13年からMaaSのサービス「Qixxit」を提供している。また、ウーバーや滴滴出行といった配車サービス会社もプラットフォーマーを目指しており、グーグルなどルート検索や地図情報に強いIT系も主要なプレーヤーになりうる。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/pixelfit)

自動車メーカーも例外ではない。現時点で先頭を走っているのは、ドイツのダイムラーだ。子会社のムーベルは、ルート検索アプリの「Moovel」を提供。さらに公共交通のキャッシュレスサービスや、スマホで予約・決済ができるオンデマンド型乗り合いサービスを展開している。

しかし、自動車メーカーがサービスに舵を切れば、自動車が売れなくなって自分の首を絞めるようにも思える。また、フィンランドのMaaSは「自動車利用に依存した社会からの脱却」という目的があったため、MaaSは「対・自動車産業」という文脈で語られることが多い。とはいえ、必ずしもMaaSの普及に伴って、自動車産業が衰退するわけではない。

消費行動が所有から利用にシフトすれば、個人向けの販売台数は減る公算が大きい。だが、個人で自動車を持たなくなったとしても、モビリティサービスを提供する事業者が増えて、その会社は自動車を所有する。問題は、事業者用にどれだけ売れるかだ。

MaaSはサブスクリプションモデルであるため、普及すれば移動のコストが下がって、人々が気軽に自動車を利用できるようになる。たとえば「定額制で料金は変わらないから、ライドシェアで隣町までランチに行く」といった使い方が一般的になれば、自動車による移動距離は逆に増えるだろう。サービス化によって1台あたりの稼働率が高まり、使い倒せば買い替えのサイクルも早くなる。それらを考慮すれば、自動車の販売数はほぼ同じ、あるいは増えるのではないだろうか。

自動車というモノのニーズがなくならないことを考えると、自動車メーカーにとって、必ずしもプラットフォーマーを目指すことだけが最適解ではないかもしれない。アメリカの西部開拓時代、ゴールドラッシュで一番儲けたのは、金を掘りに行く人ではなく、彼らにツルハシを提供した会社だった。MaaSも同じだ。多くのプレーヤーがプラットフォーマーになろうと殺到しているなら、あえてそこを狙わず、MaaSのサービスに適した車両を提供することに徹してもいい。実際、トヨタはモビリティサービス専用の次世代EV「イーパレット」を発表している。このようにMaaS時代のツルハシを提供する戦略のほうが、ものづくりの強みを生かせる可能性も高い。

■モビリティ以外の産業にも影響大

MaaSへの適応を迫られているのは、自動車をはじめとしたモビリティ業界だけではない。不動産業界も影響を強く受ける業界の1つだ。都心から同じ距離にある町でも、MaaSが整備されて移動しやすい町と、そうではない町では、不動産の価値は大きく変わってくる。それを踏まえて、企画段階からMaaSと併せて開発するケースが増えていくはずだ。ほかにも、損害保険会社がカーシェアなどに対応して一時利用の損害保険を売り出す、金融会社がプラットフォームに即した決済サービスを提供するなど、新しい動きが次々と出てくるに違いない。モビリティ産業以外のビジネスパーソンも、これからはMaaSが普及した後の世界を念頭に置いて、商品やサービスを考えていくべきだろう。

MaaSの普及は、遠い未来の話ではない。おそらく日本で実装されるのは地方からになるのではないか。MaaSの展開に適しているのは、人口50万~100万人で、交通事業者が1~3社ほどの都市だ。日本全国において鉄道事業者は200以上、タクシー事業者にいたっては1万以上ある。東京だけでも交通業者が多く、統一したプラットフォームをつくるのは難しい。エリアごとにサービスが立ち上がっていく可能性が高いものと思われる。

有力なプレーヤーは鉄道会社だ。多くの鉄道会社は、グループとしてバス会社を持ち、沿線の不動産を扱っており、統合的なプラットフォームをつくれる条件はそろっている。

一方、海外勢の日本進出も間近に迫っている。MaaSグローバルの「Whim」はすでにイギリスやベルギーに進出しており、19年10月には日本でも展開予定という報道もある。

インターネットの世界のように、海外企業にプラットフォームを握られるのか。それとも日本勢が地の利を生かしてリードしていくのか。この競争にも、注目していきたい。

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日高洋祐(ひだか・ようすけ)
MaaS Tech Japan代表取締役
2005年、鉄道会社に入社。ICTを活用したスマートフォンアプリの開発や公共交通連携プロジェクト、モビリティ戦略策定などの業務に従事。18年、MaaS Tech Japanを立ち上げ、MaaSプラットフォーム事業などを行う。共著に『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』(日経BP社)。

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(MaaS Tech Japan代表取締役 日高 洋祐 構成=村上 敬)

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