娘を桜蔭に逆転合格させた"クソ親"の魔法
プレジデントオンライン / 2019年5月14日 9時15分
※本稿は、メールマガジン「プレジデントFamily 中学受験部」の内容を再編集したものです。
■たった1年4カ月の受験勉強で桜蔭に合格
中学受験で難関校を目指そうと思ったら、「小学3年生の2月から入塾して準備を始める」のが一般的だ。ところが、偏差値70台である女子校最難関の桜蔭に合格したSさん(現中学2年、14歳)が準備を始めたのは、小学5年生の11月だった。当初の偏差値は40台で、受験勉強に充てられたのはたった1年4カ月。しかも、母親(47歳)は中学受験に乗り気ではなく、ほとんどサポートはしなかったという。
「算数だけ塾に通いたいという本人の希望で、4年生から早稲田アカデミーに算数だけ通わせていました。そのうち、塾側から中学受験を勧められるようになって。ずっとお断りしていたのですが、本人が桜蔭の文化祭を見に行きたいと言い始め、連れて行ったら最後、でした(笑)。他の学校の文化祭も行ったのですが、目もくれず……」
Sさんは、文化祭で主体的に行動する桜蔭生の姿に憧れ「私は絶対ここに行く」と言い始めた。そこで母親は「じゃあ、習い事と中学受験のどちらを選択するか決めなさい」と迫る。
もともと母親は地元の公立中に進学すればよいと考えており、中学受験の必要性を感じていなかった。また当時、週に4日ダンス、2日ハンドボールと、週6日間も習い事に通っており、特にダンスは本格的にやっていたので、中学受験との両立は到底、無理だったのだ。
最終的に、彼女は受験する覚悟を決めた。「ダンスで食べていくのは大変だから、中学受験をして別の道を探したほうがいい」というのが本人が下した結論だった。
■「勉強をしないなら中学受験はやめなさい」
本格的に塾に通い始めることになった娘に、母親はさらなる厳しい言葉をかけた。
「中学受験をしたいと言ったのは、あなた。塾通いにはそれ相応のお金がかかる。勉強しないならば、中学受験をしないといけない理由なんてないのだからやめればいい」
本当に中学受験にチャレンジするならば、親に頼らず自力で頑張ろうと思ってほしかったのだ。勝ち気なSさんだからこそ、突き放したほうが奮起するだろうという思惑もあった。
その思惑通り、Sさんは塾がある日もない日も塾に入り浸り、22時に迎えに行くまで自習室で勉強をする生活をスタートさせた。母親は「勉強しなさい」とは一言も言わなかったが、時には「落ちたら落ちたで、こっちは私立の学費もかからなくてラッキーだからいいよ」と挑発したそうだ。
「気が緩んでいるなと感じたときには、発破をかける意味でそういうことを言いましたね。本人は『うるさい!』と怒っていましたが(笑)」
■母親が「絶対、桜蔭に合格」と熱くならなかったワケ
娘は幼い頃から何かができなくて恥をかくことを極端に嫌がる性分。だから、人の何倍も努力する。とりわけ今回は大好きなダンスをやめてまでチャレンジする中学受験であるだけに、不合格になることは絶対避けたい――。母親は娘のそんな「気が強くて負けず嫌い」な性格を刺激するため憎まれ役に徹したのだ。
「もちろん、本音では彼女があれだけ頑張っていることに結果が伴ってほしいと思っていました。ただ一方で、私まで『絶対、桜蔭に合格しなきゃ』という気持ちになってはダメだとも思っていたんです。地元の公立中学でいいと思っていたのも事実だし、たとえ桜蔭に不合格だったとしてもここでの努力は学力となって身に付くわけだからそれでいい、と。とにかく、自主的に頑張るきっかけになってくれれば、と考えていたんです」
中学受験のためにやらせていたワケではなかったが、結果として受験に役立った朝の習慣がある。幼稚園の頃から、毎朝解かせていた、計算ドリルだ。幼稚園や学校に行く前に、数枚のドリルを与え、「終わるまで学校に行っちゃダメよ。遅刻してもいいから、必ず解いていきなさい」と。この言い方が、「集団登校に遅刻すること」を恥ずかしいと思うSさんには効果てきめんで、毎朝、時間までにきっちり解いて学校に向かった。
ドリルの選び方の目安は、問題のレベルや量が「それなりに手応えがあるもの」。
「算数の土台になる計算力だけは、一朝一夕に身に付くものではないので、幼い時からやらせておいたほうがいいだろう、と思っていたんです。中学受験の算数でそこまで苦労しなかったのは、この朝の習慣で計算力が身に付いていたからかもしれません」
■娘は言った。「中学受験なんて小学生がやるもんじゃない」
そうやって、あっという間に2月1日の受験本番を迎えた。実は、憧れの桜蔭の試験前の1月に受けた渋谷教育学園幕張(千葉)は不合格だった。この結果に精神的なダメージを負ったSさんは母親にポロッとこうつぶやいたそうだ。
「中学受験なんて、小学生がやるもんじゃないよ」
母親は「おや?」と思ったという。というのも、それまでSさんは「受験勉強は楽しい。自分に将来、子供が生まれたら絶対、中学受験はやらせる。受験をさせない親のほうが信じられない」と言っていたからだ。
「中学受験をしなくていい、という私への当てつけもあったとは思うのですが(笑)、テンションが変わったなって。それだけ精神的にキツかったんだと思います」
さらに、桜蔭の試験前日には、普段は食欲旺盛なSさんが食事も喉を通らない様子で、わが子ながら「ここまで緊張するのか?」と驚いたという。本番の朝も緊張した様子だったので、桜蔭に向かう道すがら「ここまでこれて良かったじゃん。あとは思いっきりやってきなよ」と声をかけた。
それは、中学受験生としてはかなり遅いスタートを切り、偏差値40台から粘り強く成績を伸ばしてきた娘への心からのエールだった。
■娘に「親がクソだからしかたないよね」と言われた母は……
今、Sさんは桜蔭での学校生活を思いっきり満喫している。多くの気の合う仲間と出会い、ハイレベルな勉強も優秀な仲間に刺激を受けながら頑張っているそうだ。
中学受験期のピリピリとした雰囲気が収まり、親への反抗的な態度も少し収まったという。中学受験期は受験のストレスと反抗期が重なり、ひどい親子ゲンカもしょっちゅうだったそうだ。母親は言う。
「どのような文脈で言われたかは覚えていませんが、『親がクソだから仕方ないよね』とか、ひどい言葉が返ってくるんですよ(笑)」
ただ、そういった反抗は「ある種、必要なもの」と割り切っていた。大人になるためのステップであって、避けては通れない。だから、「ここで感情的になって言い返してはいけない」と親として静観することにしたという。それが結果的に功を奏した形だ。
■あくまで子供を信じ、子供の自主性に任せる
割を食ったのが4歳下の妹だ。中学受験期にイライラした姉からストレス解消の標的にされ、意味もなく蹴っ飛ばされたりしたこともあった。母親が叱っても言うことを聞かない姉を尻目に、妹は「もう仕方ないよ。放っておくしかない」と。姉とタイプは違うが、妹も強い子なのだ。
ちなみに、妹は「私は中学受験しない」と宣言している。
「姉の姿を見て、私は嫌だ、と思ったようですね(笑)。なので、わが家の中学受験はこれにて終了です。しかし、まだまだ親業は終わりません。今後も子供たちの人生の岐路は何度もやってきますから。だけど、子供の人生はあくまで子供のもの。親としての軸をぶらさず、横で見守る。それしかないなと思っています」
あくまで子供を信じ、子供の自主性に任せる。1年4カ月という短期決戦に勝利できた裏には、そうした母の信念があった。
※本稿は、公式メールマガジン《プレジデントFamily 中学受験部》の一部を再編集したものです。続きはメールマガジンで配信します。これから購読いただいても、本稿で紹介したSさんの母親のエピソード(全3回)をすべてお読みいただけます。
(フリーランス編集・ライター 松本 史 撮影=末木佐知 写真=iStock.com)
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