日本人1人当たりのユニクロ代を出す方法
プレジデントオンライン / 2019年5月20日 9時15分
※本稿は、斎藤広達『数字で話せ』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■数字を「自分事」にして伝える
数字が苦手な人が、数字を効果的に用いて話を展開するためにはどうしたらいいのか。そのための第一歩は、あらゆる数字を「自分事」として捉えることです。
世の中にはあらゆる数字が飛び交っています。
・GDP550兆円
・前CEOの報酬20億円
これらの多くは具体的に想像するのが難しいようなものばかりで、つい「ふーん」くらいに聞き流してしまうのではないでしょうか。では、
・消費税が8%から10%へ
・経理部の社員が500万円を着服
というニュースなら、どうでしょう。「それは困る」「ひどい話だ」となると思います。
これが「自分事にする」ということです。数字はそのまま伝えても伝わるとは限らず、相手にとっての「自分事」にして初めて、伝わったことになるのです。
■「1人当たり」「1個当たり」で見えてくるもの
数字で語る経営者やコンサルタントは、「@変換」という手法をよく使います。つまり、大きな数字を「1人当たり」「1個当たり」の数字や単価に変換する作業です。「数字に意味を持たせる作業」と言うこともできます。
たとえば会社の売上を社員数で割ってみる。100億円の売上で社員が200名なら、1人当たり5000万円の売上。仮にライバル社が90億円の売上で社員が150名なら、1人当たり6000万円。自社はまだまだ効率化の余地があるのではないか、と主張することも可能になります。
あるいは、売上目標に対する未達金額である500万円を、営業マンの数で「@変換」してみる。営業マンが10人なら、1人50万円。商品単価が10万円の商品を売っているとしたら、1人の営業マンがあと月にプラス5つ、商品を売り伸ばせばいいという具体的な指示をすることができます。
これがまさに「数字を自分事として伝える」ということです。単純に平均を計算するのではなく、意味のある数字に変換することが重要です。
■「@変換」で会社の数字を見てみる
実際の会社の数字を使って、少しトレーニングをしてみましょう。
![](https://president.jp/mwimgs/d/8/-/img_d8432da69394d0dc572b111fb29ec5c6207203.jpg)
ファーストリテイリング社が運営する「ユニクロ」を知らない人はいないでしょう。いまや日本国内だけでなく海外19カ国にて展開するグローバルブランドとなっています。2018年度にはついに、海外売上が国内売上を抜いたことでも話題になりました。
とはいえ、国内ユニクロ事業の年間売上だけでも約8647億円もあります(2018年8月期実績)。では、この数字を@変換すると、何が見えてくるのか。
まずはマクロの視点で「日本人の人口」で@変換してみることにしましょう。日本人の人口をざっくり1億人とすると、1人当たり年間8600円ほどとなります。
ユニクロのラインナップは幅広いですが、仮に購入単価を1500円として計算すると、
つまり、年間1人5~6アイテムを購入している、という計算が成り立ちます。
この数字からは、2カ月に1回1アイテム、あるいは年2回の季節の変わり目に2~3アイテムずつユニクロの商品を購入しているという仮説が成り立ちます。
確かに、夏前にはデザインTシャツを、冬前にはヒートテックなどの防寒着を、と考えると、そのくらいかもしれません。まさに国民服と言っていいほどのブランドだということがわかります。
■仮でもいいので「数字化」する重要性
一方、あなたがユニクロ事業の担当者だとしたら、この数字をどのように捉えればいいでしょうか。
定期的に商品を購入してくれるお客様がこれだけいる以上、まずは廉価で高性能な必須アイテムを常にそろえていくべき、ということになるでしょう。下手に高級感のある商品開発にばかり力を入れてしまっては、「せっかく来たのに欲しいものがない」ということになりかねません。
いかがでしょうか。もちろん、ここで紹介した@変換の手法とそこから得られた結論は、あくまで一例です。全国民がユニクロの商品を買っているわけではありませんし、他にもいろいろな切り口があります。詳細な会計数値を使うことで、より正確な分析をすることも可能です。
ただ、大事なのはざっくりでもよいので、その場で@変換を使い「現場感」を得ることです。@変換によって、脳が活性化される感覚を味わってみてください。
■売上10億円の出版社はどんな本を出すべきか
ユニクロのような規模の大きな企業だとイメージしにくい人もいるかもしれませんので、次に、年商100億円の出版社という架空の例で考えてみましょう。100億円をざっくりとした日本の人口1億で@変換すれば、1人当たり年間100円の購入額になります。
もちろん、100円で本は買えませんので、こうした場合は、本の平均単価から逆算してみます。仮にその出版社の本の平均単価が1000円だとしたら、国民の10人に1人がその出版社の本を年間1冊買っている、ということになります。
衣服のような日用品ではない商品において、「10人に1人が買っている」というのは、かなりの影響力を持っていると言っていいでしょう。実際、売上100億円を超える出版社は、ごく少数の有名どころだけです。
実際にはもっと小さな出版社が無数にある、というのがこの業界の特徴です。たとえば、年商10億円の出版社の場合、100人に1人が買ってくれる、という計算が成り立ちます。
■@変換で人材戦略すら見えてくる
では、こうして見えてきた情報を踏まえて、どう「数字で伝えていく」のか。
たとえば、あなたが年商10億円の出版社の社長だとしましょう。それを年商100億円まで伸ばしたいという野望があるとしたら、「10人に1人」が購入するような出版社にならなくてはなりません。そのためにはコアな読書好きだけでなく、ライトな層の取り込みが不可欠だということがわかります。
「当社が売上を伸ばし、10人に1人が買ってくれるような出版社を目指すためには、やはりライト層を狙っていくほかない。たとえばダイエット本や健康本を手がけるなど、そのための方針を考えてほしい」などと伝えれば、社員はより活動のイメージを持ちやすくなります。
一方で、売上をしっかり維持していきたいなら、「100人に1人」が買ってくれるような、読者層は限られるけれどハズレがないような企画を出していったほうが安全です。歴史好きや野球好き、ゲーム好き……100人いればこういう趣味を持った人は1人はいそうです。ならば、そうした層を狙い撃ちするような書籍企画を立てていくべきです。
これは、人材戦略にも影響を与えます。もし年商100億円を狙うなら、ミーハーな感性を持った人、場合によってはあまり本を読まないような人を採用するのも手です。一方、10億円を維持したいのなら、あるジャンルにはとことん詳しい目利きのような人材が求められます。
@変換からは、自社のポジショニングから将来戦略、人材戦略まで、あらゆるものが見えてくるのです。
■ビジネスの「効率」を可視化する変換
ここまでは日本の人口というマクロの数字を使ってきましたが、日常ではもっと細かい@変換が活用されます。
たとえば、先ほどのように会社の売上を社員数で割ってみる。そして、1人当たりの売上の業界平均と自社の数字を比較する。すると、自社のビジネスは効率がいいのか、それとも悪いのかが見えてきます。
もっと細かく、商品ごとに1個当たりの宣伝コストを出してみることも可能でしょう。
その結果、実は儲かっていると見られていた商品が意外と利益が取れておらず、宣伝をあまりしないのに売れている別の商品が利益を支えていた、などという現実が見えてくるかもしれません。
この@変換を最も頻繁に活用している業界の1つが、小売業です。その代表的な例が「1坪当たり」の@変換。チェーン展開をしている小売店が、各店舗のパフォーマンスを判断する際、単純に売上の大きさを比較するだけではあまり意味がありません。店によって店舗の大きさが違うからです。
■「坪単価」が重要視される理由
そこで、売上を1坪当たりに@変換してみると、「A店は売上は大きいけど、効率はあまりよくない」「B店は売上は中程度だけれど、坪効率は非常に高い」などといった、その店舗ごとの実力や特徴が見えてくるのです。
ちなみに最近は「1㎡当たり」で数字を出すことが多いようです。経済産業省が公表している商業統計(平成26年)によれば、売場面積1㎡当たり平均年間商品販売額は、コンビニエンスストアで149万円、百貨店で103万円、専門スーパー53万円、ドラッグストア64万円などとなっており、いかにコンビニが効率よく稼ぐことができるかが見えてきます。
もちろん、ここで上げたような@変換の例はあくまで仮説であり、実際には見当外れのものであることも十分考えられます。ただし、数字を元にした仮説があるからこそ、それを前提として議論ができるようになる。そして、物事も前に進むようになるのです。
間違いを恐れずに、あらゆる数字を@変換し、自分事として語ってみましょう。「数字で話す」のは、そこがスタートとなります。
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経営コンサルタント
シカゴ大学経営大学院卒業。ボストンコンサルティンググループ、ローランドベルガー、シティバンク、メディア系ベンチャー企業経営者などを経て、経営コンサルタントとして独立。数々の企業買収や事業再生に関わり、社長として陣頭指揮を行い企業を再建。その後、上場企業の執行役員に就任し、EC促進やAI導入でデジタル化を推進した。現在は、AI開発、デジタルマーケティング、モバイル活用など、デジタルトランスフォーメーションに関わるコンサルティングに従事している。
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(経営コンサルタント 斎藤 広達 写真=iStock.com)
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