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国家予算100兆円を「自分事」で語る方法

プレジデントオンライン / 2019年5月24日 9時15分

『数字で話せ』(PHP研究所)より

日本の国家予算は約101兆円。この数字の意味を説明するには、どうすればいいか。経営コンサルタントの斎藤広達さんは、「大きな数字を1人当たり、1個当たりに直す『@変換』を使うといい。つまり日本人は1人当たり年間62万円の税金を払っていることになる」という――。

※本稿は、斎藤広達『数字で話せ』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■大きな数を読み解く際には「@変換」

「@変換」とは、あらゆる数字を「1人当たり」「1個当たり」に換算してみることで、巨大な数字を手触り感のある数字に落とし込む手法のこと。『世界がもし100人の村だったら』(マガジンハウス)というベストセラーを覚えていらっしゃる方も多いと思いますが、まさに、「@変換」によって大きすぎる数字を身近なところに落とし込んだ好例です。

同様に、一見とっつきにくい国の数字も、@に落とし込むことで急に身近になるのです。

では、「とっつきにくい数字」の代表として、先日閣議決定された平成31年度一般会計歳出歳入概算案、いわゆる「国家予算」を見てみることにしましょう。初めて100兆円を超えたことで話題になりましたが、では、この100兆という数字は我々にとってどんな意味があるのか。それを知らなければ、議論をすることもできません。

■兆単位の数字は結局「他人事」

財務省から公表された資料を見やすく加工したのが、図表1です。

まずは歳入を見てみます。概算額は約101兆円です。内訳を見ると、税金が62兆円、公債が33兆円、その他が6兆円強。収入が62兆に対し、借金が33兆、というのは少し多すぎる気がしますが、数年前までは収入よりも借金が多かったくらいなので、相当に回復しているとも言えます。

今度は歳出を見てみます。総額は約101兆円で歳入と同じ額です。内訳を見ると、基礎財政収支対象経費が78兆円、国債費が23兆円です。つまり、国家運営に必要な費用が78兆円、積み上がった借金の返済に23兆円を充てているわけです。

費用の内訳は、社会保障費34兆円、文教及び科学振興費5.6兆円、防衛関係費5兆円、公共事業関係費7兆円などです。

さて、ここまで見てきて、いかがでしょうか。社会保障も防衛も公共事業も非常に大事なことには違いありませんが、正直、兆という単位はあまりに大きすぎ、どうも現実感が持てず、他人事に見えてしまうのではないでしょうか。

■「夫婦で124万円の納税」は高いのか?

では、@変換を使って国家予算を日本人1人当たりの金額に変換し、手触り感のある数字にしてみましょう。

分母となる日本の人口は約1億3000万人です。計算を簡単にするため、1億人を分母で仮置きして、各予算を@変換します。すると、各数字は図表2のように変化します。

『数字で話せ』(PHP研究所)より

歳入は国民1人当たり101万円。税金が62万円で、公債が33万円です。

1人当たり年間62万円の税金を払っている、と考えると、急に感覚的に理解できるようになるのではないでしょうか。確かに所得税や固定資産税、あるいは消費税など含め、そのくらいは払っているという実感はあります。夫婦であれば、年間124万円の税金を払う計算です。

この税収によって、夜に出歩いても比較的安全な治安や、諸外国と比べてもかなり整ったインフラなどを享受できているわけですが、そのための対価が62万円ということです。

もちろん、多いと思う人も少ないと思う人もいるでしょうが、自分事として考えられるようになったことは確かだと思います。

■税金をランチ代にたとえてみる

これらの数字のうち、ここ数年で最も増えたのが「社会保障」関連の支出です。現在は34兆円ですが、6年前にはこの数字は29兆円でした。つまり、1人当たりの負担が29万円から34万円に増えているわけです。月当たりで2万4000円から2万8000円くらいに上がった計算になります。

さらにいえば、国民年金や厚生年金、健康保険は、別途控除という仕組みで徴収されています。その金額は給与明細を見ればおわかりいただけるように、かなりの額。その額に加えて、税金から3万円弱が社会保障に使われている、ということなのです。

月3万円あれば500円のお弁当を60個買えます。ひと月当たりのランチ代がこのくらい、という人もいるでしょう。6年前にはこの数字が2万4000円ほどだったことを考えると、「結構、負担が増しているな」という印象を持つ人が多いのではないでしょうか。

その他にも、たとえば自身の業界規模を@変換してみるのもお勧めです。

経済産業省が公表している統計資料などから、各業界の売上規模がわかります。それを@変換することにより規模感がわかると、自社の戦略や目指すところが見えてくるはずです。

「我々の業界は今はまだ1兆円規模ですが、今後10人に1人が手にするような時代になれば、この倍になり得るのではないでしょうか」などと、未来の戦略を語ることができるようになるのです。

■大きな数字に「思考停止」になりがちな日本人

「数字について敏感になる」ことは非常に重要ですが、今の日本はどうも、「数字で話す」文化が根づいていないように思います。数字の裏づけがないままに意思決定が行われ、指示命令が下される。「売上○○万円」「利益○○万円」などという数字が飛び交っていても、その根拠があいまいなまま。

斎藤広達『数字で話せ』(PHP研究所)

その原因として私は、大きな数字について日本人が「思考停止」になりがちなのが原因の1つであるように思います。その最たるものが、日本全体の数字。諸外国と比べて日本人は、国家予算や貿易収支のような話題を避けたがる傾向があるように思います。

確かに、「国家予算100兆円」「GDP 550兆円」などというあまりにケタの大きな数字は、@変換をしたとしてもイメージしにくいものかもしれません。

■「国の数字を直視する」のは国民の使命

ただ、「数字と直面しない」というのは、いわば「現実を見ようとしない」という姿勢にも思えます。

福沢諭吉はその書『学問のすすめ』にて欧米列強からの圧力の中、国として、個人として自立することの重要性を説きました。その言葉に促されるように、150年にわたって努力してきた先人たちの歩みがあってこそ、今の私たちの生活があります。

大げさな話かもしれませんが、国の数字に敏感になること、国の数字を自分のこととして考えることは、自立した人間かどうかの試金石のようにも思えます。だからこそ、もっと「大きな数字」を直視してもらいたいと思うのです。

そしてその際に「@変換」は、大きな武器になるはずです。

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斎藤広達(さいとう・こうたつ)
経営コンサルタント
シカゴ大学経営大学院卒業。ボストンコンサルティンググループ、ローランドベルガー、シティバンク、メディア系ベンチャー企業経営者などを経て、経営コンサルタントとして独立。数々の企業買収や事業再生に関わり、社長として陣頭指揮を行い企業を再建。その後、上場企業の執行役員に就任し、EC促進やAI導入でデジタル化を推進した。現在は、AI開発、デジタルマーケティング、モバイル活用など、デジタルトランスフォーメーションに関わるコンサルティングに従事している。

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(経営コンサルタント 斎藤 広達)

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