"孫請け工場"がNASAの取引先になれた訳

プレジデントオンライン / 2019年5月20日 9時15分

HILLTOP 米国法人社長 山本勇輝氏

世界最先端の技術が集まる米国シリコンバレー。ここで存在感を示す日本の試作品メーカーがある。京都府宇治市に本社を構えるHILLTOPだ。同社は多品種少量生産のアルミ切削加工を手がける。強みは、圧倒的なスピード生産。発注から5日目の納品をうたい文句に、NASAやUBERなど名だたる取引先を獲得している。

日本本社も「試作専業のトップ企業」として広く知られ、月間に生産する試作品は3000種以上。火星探査機、医療機器といった精密機械からアーティストのマイクスタンドに至るまで、多様な加工を手がける。その興味深い経営スタイルから、日本中から企業訪問が後をたたない。

1961年の創業時には、自動車メーカーの孫請け工場だった同社が、どのように変貌を遂げたのか。早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授が解説する。

■「これは正しい人間の働き方なのか」

▼第二創業

美しい曲線を描く壁に、ピンクのカーペット。騒音もなく、油まみれの作業着姿の工員もいない――。HILLTOPの本社には、工場に付きものの3Kのイメージはありません。清潔でシャープ、開放的な空間では若いプログラマーたちが楽しそうにCADに向き合っています。製造ラインの機械で作業する人の姿はごくまばらです。

このおよそ「工場らしくない工場」では、昼間にプログラマーが組んだデータをもとに、夜は無人状態で機械が自動加工を進行。人は翌朝、仕上がった製品を検品するだけ、というオンラインシステムが導入されています。

もとは小さな鉄工所だったという同社がここまで変貌を遂げた背景には、二代目、三代目と父子が巻き起こしたイノベーション、すなわち「第二創業」がありました。本連載では「第二創業」をテーマに中小企業の成功事例を取り上げていますが、HILLTOPは父から子へと変革のビジョンが受け継がれている特異な例といえます。経営学の3つのキーワードから解説しましょう。

第1のキーワードは、「内発的動機」です。人がお金や昇進のためではなく、本心から「面白い、ワクワクする」と思える動機付けのことです。HILLTOPは社員の内発的動機を高めることを、根本の哲学として常に考えています。

同社で初めて革新が起きたのは今から30年以上前。創業者の次男、山本昌作代表取締役副社長が事業内容を刷新したことから始まります。当時の山本精工(現HILLTOP)は、大手自動車メーカーの孫請け部品工場。冷暖房設備もない、昔ながらの鉄工所でした。昌作氏の長男で、入社12年目の山本勇輝経営戦略部長は、この頃の様子を次のように語ります。

「顧客から毎年5%のコスト削減を要求されるため経営は苦しく、家族総出で深夜まで作業を続けていました。年々経営が苦しくなる悪循環。機械も借り物だったため、オペレーションを改善することもできなかった。油まみれで働く祖父母の姿を見て、父は『これが正しい人間の働き方なのだろうか』と疑問を抱いていたそうです」

(写真上)作業場では若手社員が職人技を再現していく。(同下)壁を取り払い、部署を撤廃。話しやすい環境をつくる。

ルーティンワークに追われ疲弊するのではなく、人間本来の働きがいを取り戻したい、みんなが生き生きと楽しく働ける会社にしたい。その一念で昌作氏が踏み切った改革は、大胆というしかありません。なんと受注の80%を打ち切り、事業内容を試作品の製造、すなわち多品種少量生産に完全に切り替えてしまったのです。この時期には食費も切り詰め、3年間悪戦苦闘の日々だったといいます。

そのなかで、昌作氏はオンラインシステムの導入を図りました。まず、熟練工の技能を数値化、データベース化し、プログラムをつくりました。そのうえでレンタルの機械を撤去し、かわりに最新のNC旋盤を設置。パソコンと接続して自動運転するシステムをつくりあげました。

現在、この「HILLTOP System」と呼ばれる制御プログラムは、息子の勇輝氏に引き継がれ、人工知能(AI)やロボット技術を使ってさらなる革新に繋がっています。現在では、365日24時間稼働する無人工場となりました。

データの設計も、プログラミング画面をクリックするだけでできるまでに進化、言語入力すら必要ありません。

「入社したての新人でもできる、簡単な仕様になっています。さらにいえば、プログラミングそのもののAI化も進めており、23%はすでに無人化でできるようになっています」

このようにHILLTOPでは、AIや機械に作業を任せることによって、エンジニアたちは機械設計やシステムデザイン、プロダクトデザインなど、より付加価値と創造性の高い仕事を手がけられるようになりました。

■エンジニアにとっては最高の仕事場であり、遊び場

社内に併設された最先端の「Foo's Lab(フーズ ラボ)」では、デザイナーや研究者などとコラボレーションし、自社プロジェクトやクライアントのアイデアを自由に形にしています。最新製造マシンや工作ツールを一通り揃えたこの部屋は、エンジニアにとっては最高の仕事場であり、遊び場となっています。

「受注した仕事に必要だから機械を買うのではなく、興味を持った機械を買って、これで何ができるかなと考えるのが我々のやり方です」

このような「ルーティンワークではなく、人間らしいワクワクする仕事をする」という、親子二代にわたるHILLTOPの哲学と施策が、社員の内発的動機を高めたことはいうまでもないでしょう。もちろん、ルーティンワークにも大きな価値があります。しかし、創造性が求められる現代社会において、ルーティンワークが若者など従業員の内発的動機を高めにくいのも事実です。実際、米ペンシルべニア大学の著名経営学者アダム・グラント教授等の研究では、「内発的動機が高い人ほど、人は創造性が高まる」という結果が得られています。まさに、HILLTOPが高い創造性を発揮し、社員が活き活きと働いているのは、この顕著な例といえるのです。

■業務を効率化するほど、仕事量が増えてしまう

HILLTOPの成功のカギを示す第2のキーワードは、「シェアードリーダーシップ」です。特定のひとりがリーダーになるのではなく、組織メンバー全員がそれぞれビジョンを持って自律的に動き、お互いに影響を与え合うことを指します。

変化のスピードが速くなり、経営環境が不透明化した現代では、あらゆる仕事がプロジェクトベースで動くようになりました。こうした環境では、ひとりのリーダーがビジョンを掲げて変革をめざすより、メンバー全員がリーダーシップを発揮するほうが、成功確率やスピードは高まる、という主張も経営学ではされています。まさにシェアードリーダーシップの時代なのです。

取材した2018年5月、同社は折しも組織を再編成したばかりでした。

「会社の部署を実質的に全部撤廃してしまったんです。組織図としては残っているのですが、基本的にやりたいプロジェクトがあれば部署に関係なく自由に参加していいよ、という方式をとっています。おかげで今、みんな大混乱に陥ってオペレーションがぐちゃぐちゃという状態です(笑)」

抜本的な組織改革を行ったきっかけは、会社の規模が急激に大きくなったことだった、と勇輝氏は言います。

「組織の生産性を高めようと効率化を進めたのですが、効率化すればするほど仕事が増えてしまうことに気づきまして。余裕ができた分、クリエーティブな仕事をしてもらいたかったのですが、暇になった組織はすぐ別の仕事を抱え込んでしまう。だからこの際、組織そのものをなくしてしまえ、と。上から降ってくる業務がゼロになれば、みんなやりたい仕事をやれますから」

組織がないということは、上司も存在しないということ。つまり、誰かに言われた通り働くのではなく、社員全員がリーダーシップを持ち、自主的にプロジェクトを動かしていかなければ、仕事が回らないということです

「じつは私自身も、肩書は持っていません。名刺はHILLTOP経営戦略部長ですが、社外活動の都合上、適当につけただけなんです」と勇輝氏。

■メンバー同士がお互い理解し合っていることが望ましい

ただし、リーダーシップを発揮し、他人を巻き込むには、組織内の誰がどんなノウハウ、スキルを持っているか、事前に知っておく必要があります。また、プロジェクトチームを機能させるには、メンバー同士がお互い理解し合っていることが望ましいでしょう。

(写真上)約1億円をかけて無人搬送車システムを開発した。(同下)多国籍のデザイナーやエンジニアが知恵を形にする「Foo's Lab」。

その点、同社では以前から部署をまたいだ交流が活発だったと言います。ワインパーティーは年3回、バーベキューは年2回、そのほかにもボウリング大会、ソフトボール大会などいろいろなイベントがあり、毎月のようにみんなで顔を合わせ、雑談を交わす機会があるそうです。勇輝氏自ら宴会部長として幹事を引き受けることも多いとのこと。水平型の人間関係が組織風土として根づいているのです。

想像ですが、同社でシェアードリーダーシップが充実しているのは、勇輝氏がアメリカ現地法人を立ち上げた経験も、寄与しているのかもしれません。

「ある日父親から、2億円をやるからアメリカで何かやってこいと言われまして。海外取引をしたこともなければ、英語も喋れなかったのですが、無謀にも部下とふたりで現地に乗り込み、いきなり工場をつくってしまいました」

自分のビジョンを体当たりで実現した体験は、組織やリーダーのありかたについて深く考えるきっかけになったのかもしれません。

HILLTOPを読み解く最後の経営学キーワードは「エボリューショナリーセオリー(進化の法則)への逆行」です。進化の法則とは、「あらゆる企業は、誕生した瞬間から徐々にイノベーティブではなくなっていく」という主張です。ベンチャー企業が成長していく過程をイメージしてください。創業期の企業はまさにカオス状態。メンバーがやりたい放題やるおかげで、毎日がトラブルの連続です。だからこそ生まれたての職場は楽しくスリルに満ちていて、時にあっと世間を驚かせるようなイノベーションが起こる。

しかし、企業規模が拡大し、成熟していくと、次第に組織は管理の色を強め、硬直化していきます。財務部門、コンプライアンス部門などができ、手続きが増え、あらゆる仕事に許可申請が必要になる。新しいことはやりづらくなり、イノベーションが起こる確率はどんどん低くなってしまいます。

ところが、HILLTOPでは規模が拡大し、海外進出もしたというのに、管理体制を強化するどころか、逆に部署を撤廃してしまいました。おかげで社員たちは制約を受けることなく、新しいアイデアをどんどん考え、実現できる環境にあります。まさに、企業が硬直化していくという「進化の法則」に逆行する動きなのです。

■「分散型ものづくり」の実現

今、同社が取り組んでいるのは、HILLTOP Systemを搭載した新しいプラットフォームづくり。AIを活用し、世界中の工場にプログラムを配信する「分散型ものづくり」の実現です。

「僕らがプログラムをアウトソースすることで、あらゆる工場が従来稼働していなかった休日や夜間にものづくりができるようになる。米国がドイツから受注した製品のプログラムをその夜ドイツに送り、夜中に生産して翌朝納品、といったことも可能になります」

熟練職人の技で操業していた初代、システム化・オンライン化を進めた二代目の最初の「第二創業」時代、そしてAIで世界を繋げる三代目の第二創業、いや「第三創業」の時代、同社の快進撃は続きそうです。

▼第二創業成功のポイント:若い世代がリーダーシップをとれる環境をつくる

会社概要【HILLTOP】
●本社所在地:京都府宇治市大久保町
●資本金:3600万円
●売上高:17億3200万円(日本)、4億3000万円(米国)(2017年度)
●従業員数:126名(日本)、20名(米国)
●経営者:山本正範社長、山本昌作副社長、山本昌治専務
●沿革:1961年創業。80年、山本精工として株式会社化。自動車メーカーの孫請け企業から多品種小ロットのアルミ試作品企業に転換。2014年にはアメリカ現地法人が発足した。

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入山章栄
早稲田大学ビジネススクール准教授
三菱総合研究所を経て、米ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.取得。2008年よりニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールの助教授を務め、13年より現職。近著に『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』。

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(早稲田大学ビジネススクール准教授 入山 章栄 構成=西川敦子 撮影=福森クニヒロ)

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