美智子さまがCAにかけた「感動の4文字」
プレジデントオンライン / 2019年5月29日 9時15分
■VIPたちの㊙エピソード
私はANA(全日本空輸)のCA(客室乗務員)だったころ、定期便のファーストクラスだけでなく、VIP専用チャーター便の担当客室乗務員をしていました。これらの便を利用するのは、天皇皇后両陛下や政権のトップに立つ方、国賓として招かれた他国の王族などに限られます。このような正真正銘のVIPのお世話をするうちに、気がついたことがあります。それは、超一流と呼ばれるような方であればあるほど、誰に対しても分けへだてなく礼儀正しい態度をとられるということ。そして感謝を表現なさる場合は、とてもシンプルで、かつ的確な言葉をお選びになるということです。つまり、どなたも素晴らしく「お礼上手」。
超一流の方はとにかく周囲の人のことをよく見ていらっしゃる。何かしてもらったら、ただお礼を言うのではなく、相手がしてくれたことの裏側や本質を見て、それについて褒めてくださったり、お礼をおっしゃったりする。なんでもかんでも「ありがとう」ではないのです。
たとえばある年配の男性は、別れ際に必ず「今日は、○○してくれてありがとう」と、具体的にお礼を言ってくださいます。「今日はわざわざ足を運んでくれて、ありがとう」「今日は面白い話を聞かせてくれてありがとう」というように。これも相手をよく見ているからこそではないでしょうか。
超一流の方は、想像力も豊かなら表現力も豊か。タイミングも絶妙で、ここぞというときを逃しません。たとえば小泉純一郎元総理は、「ワンフレーズ・ポリティクス」と称されるほど、短いけれど印象的な言葉をお使いになる方でしたが、実際にお会いしてもそれは同じ。瞬間的にポンと短い言葉を口にされるのですが、それがとても心に残るのです。
当時、小泉総理のチャーター機のアテンドを務めさせていただいたときのことです。離陸後、私が新聞各紙をお持ちすると、小泉総理は2、3紙に目を通されました。そのあとしばらく秘書の方とお話しなさっていたのですが、どことなく話を切り上げたいようなご様子です。そこでタイミングを見計らって、すでに読まれたものを除いた新聞を何紙かお持ちしてみました。ただし、お話し中なので声はかけず、黙って「よろしければ……」というようにお見せしただけです。小泉総理は新聞を手に取られると、一瞬、会話を中断してこちらを見て、「ほう、すごいね、きみ」と言ってくださったのです。私はにっこり笑って黙礼し、何も言わずにその場を離れました。もちろん、私のしたことは全然すごいことではないので、過大な評価をいただいたのですが、こちらの配慮に気づいてくださったことを、とてもうれしく思ったものです。
小泉元総理もそうですが、お礼の言葉は短いほうが心に残るような気がします。私の知人の男性も、シンプルだけれど、とても心に響く言い方でお礼をおっしゃる方です。実を言うと、その方は相手の耳が痛いこともおっしゃるし、横柄な印象を与えることもあります。その代わり、本当にここぞというときだけ、「どうも、ありがとう」とおっしゃるのです。「どうも」と「ありがとう」の間に一拍の間があり、私の目を見ながら低い声でゆっくりと「どうも、ありがとう」と言われると、心がじんわりと温まってくるよう。部下の指導においては、「褒めるのは人前で、叱るのは二人きりで」が鉄則だと言いますが、その方は二人きりになったときや少人数のときに限って、「どうも、ありがとう」とおっしゃるので、それも言葉に真実味を感じる理由の1つかもしれません。
■「ありがとう」だけがお礼ではない
「ありがとう」以外の言葉でも感謝を伝えることができるのだと気づいたのは、天皇皇后両陛下が地方に行幸啓になられる往復フライトにお供したときのことです。美智子さまが、行きのフライトを終えて専用機を降りられるとき、頭を下げて見送る私たちCAに向かって、「行ってきます」とお声をかけてくださいました。そして復路で再び専用機に乗られるとき、機内入り口に立ってお迎えする私たちの前でふと足を止めて、小声で、「ただいま」とおっしゃったのです。
通常、私たちCAはお客様の目を見てご挨拶します。しかし両陛下に対しては最敬礼のままお迎えするので、美智子さまから私たちの顔は見えません。つまり行きと同じスタッフかどうかわからないにもかかわらず、私たちの前でいったん歩みを止めて、「ただいま」と言ってくださった。このたった一言で、「親しみを感じています」「あなたたちを信頼しています」「いつもありがとう」「また会えましたね」など、実に多くの意味を表現なさったのですから、やはり人の心を慮ることに長けておられます。周囲の人間が「してくれる」ことに対して常に気を配り、心を砕いていらっしゃるからこそでしょう。
■「お心にはお心で返す」のが私たちのモットー
他方、言葉だけでなく、プレゼントやお礼状などで感謝を示してくださるお客様も少なくありません。たとえば機内販売で高級チョコレートをお求めになり、外側のパッケージを破いたあと、「みなさん、長いフライトで大変でしょう。よかったら食べてください」と言って、私たちへの差し入れにしてくださるお客様もいらっしゃいます。ただ、私たちはチップや贈り物などを受け取ってはいけないことになっていますから、「お気持ちだけで十分です。どうぞこのままお持ち帰りください」と言ってお断りするところです。しかし、わざと私たちの前で開封してから渡されるのです。そうすればきっと私たちも受け取りやすくなるだろうというお気遣いなのだと思うにつけ、そのお気持ちに感服しておりました。こちらも、できるだけそのお気持ちにお応えしようと機内食のデザートプレートに「お気遣いをありがとうございます」とチョコレートでメッセージを書いたりする。「お心にはお心で返す」のが私たちのモットー。地上からはるか離れた上空で、そんな「気遣い合戦」が繰り広げられているのです。
Q:感謝の気持ちを伝えたいときどうする?
A:「どうも」と「ありがとう」の間に一拍の間をつくる
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ANA元トップCA
全日本空輸で国際線のチーフパーサーとして乗務。うち15年間はVIP特別機を担当。現在は一般企業や医療法人でコミュニケーションスキルアップの指導を行う。『「また会いたい!」と言われる女(ひと)の気くばりのルール』など著書多数。
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(ANA元トップCA 里岡 美津奈 構成=長山清子 撮影=むかのけんじ 写真=読売新聞/AFLO、AFLO)
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