エリート議員の戦争発言は酒だけのせいか
プレジデントオンライン / 2019年5月17日 9時15分
■党からは除名処分も、議員辞職はツイッターで否定
「戦争で島を取り返すことには賛成ですか、反対ですか」
「戦争しないとどうしようもないじゃないですか」
丸山穂高衆院議員(35)は、5月11日、北方四島の「ビザなし交流」の訪問団に顧問として参加し、元島民の訪問団長(89)に対し、こうした発言を繰り返した。団長は「戦争はするべきではない。戦争なんて言葉は使いたくない」と反論したが、丸山氏は酒に酔っており、取り合わなかった。
丸山氏は13日夜になって「非常に配慮を欠いていた」と発言を撤回して謝罪し、14日に離党届を提出した。だが日本維新の会は同日午後、「党として発言は容認できない」として離党届を受理せず、除名処分とした。
維新の会の代表で大阪市長の松井一郎氏は「政治家としてあるまじき行為と発言だ」と述べ、議員辞職も求めている。これに対し丸山氏は、14日、自身のツイッターで「これより先の期間は無所属にて活動する」と投稿し、議員辞職を否定している。
■なぜ戦争を肯定するような国会議員が存在するのか
日本国憲法はその9条で「戦争の放棄」を掲げている。国会議員はこの憲法を尊重し、擁護する義務がある。
丸山氏は憲法を無視する発言を繰り返した。酒を飲んで酔っ払った末の不祥事だというが、国会議員としての自覚がない。問題の発言以外にも、宿舎から外出しようとしたり、大声で騒いだりして、訪問団事務局から注意を受けていた。
憲法の尊重擁護義務を知らなかったとしたら、あまりにも勉強不足だ。議員辞職を促されて当然である。後述するように、新聞各紙の社説もそろって国会議員の辞職を求めている。
それにしてもなぜ、戦争を肯定するような発言を行う、国会議員が存在するのだろうか。
■東大経済→経産省→松下政経塾→最年少衆院議員
35歳の丸山氏は経済産業省の元官僚だ。東大経済学部を卒業し、2006年に入省。原子力問題を扱う部署の係長を務めた後、2009年に退官。同年4月、松下政経塾に入った。小学生の頃から政治家を目指していたという。日本維新の会の公認を得て大阪19区から立候補し、衆議院議員としてこれまで連続3回の当選を果たしている。2012年の初当選では3人出た28歳の最年少議員の1人として注目された。
一見、将来を期待される政治家のように思える。だが、2015年12月、酒に酔ってトラブルとなり、相手の男性の手を噛むなどして警察沙汰となった。この事件では日本維新の会から厳重注意を受け、一度は「禁酒」(2年前に解禁)を誓った。
おそらく酒に飲まれるタイプなのだろう。アルコールが入ると、自分の立場が分からなくなり、暴言を吐く輩は多い。丸山氏もその類いなのかもしれない。
酒は、人と人とを結び付けてくれる。肩肘張らない交際の助けにもなる。しかし酔ってわれを忘れると、とんでもない事態に追い込まれる。
■なぜ、国会議員は分別のない発言を繰り返すのか
政治家の思慮に欠けた無謀な発言は度々、問題になる。
最近では、自民党の塚田一郎参院議員が「忖度発言」の責任を取って4月5日に国土交通省の副大臣を辞任している。塚田氏は山口県下関市と福岡県北九州市を結ぶ道路整備を巡り、安倍晋三首相と麻生太郎副総理兼財務相の立場を「忖度して予算を付け、国直轄の計画に引き上げた」などと発言して問題になった。沙鴎一歩は、4月10日に「だれもが首相を忖度する日本政治の異常さ」との見出しで書いた。
なぜ、国会議員は分別のない発言を繰り返すのか。数の力で政策を推し進め、忖度やおごり、緩みが問題にされている安倍政権だけでなく、野党議員にも政治家としての自覚がなく、自ら責任を取らない風潮が広がっている。酔っ払って人に絡む丸山氏などは、社会常識にも大きく欠けている。
いま一度、政治家に考えてもらいたい。政治はだれのためにあるのか。自分たちはだれによって選ばれたのか。
■戦争を体験した人を敬う気持ちはないのか
日本維新の会が丸山氏の除名処分を発表した翌日(15日)付で、朝日新聞と毎日新聞、それに東京新聞が社説に取り上げ、一斉に議員辞職を求めている。丸山氏の議員辞職は時間の問題だろう。
朝日社説はその後半で指摘する。
「90歳近い元島民の団長は、からむように質問を続ける丸山氏に対し、『戦争はすべきではない』と何度も繰り返した。戦争によって故郷を奪われた悲痛な体験を踏まえた見識である。戦後生まれの35歳の丸山氏と、なんと対照的なことか」
1970年代前半に流行った古い歌だが、丸山氏は「戦争を知らない子供たち」である。戦争を体験した人を慮って敬おうとする気持ちはないのだろうか。
朝日社説は「政治家としての見識を欠き、自らを律することもできないのでは、国会議員の資格がないと言わざるを得ない。本人は無所属で活動を続ける意向を示した。となれば、衆院として辞職勧告を検討すべきではないか」と主張して筆を置いている。
日本維新の会に続き、国会(衆院)からも辞職を求められれば、丸山氏には議員辞職しか道は残されていない。この夏、参院選1本ではなく、衆参同時のダブル選挙の可能性もある。まだ35歳である。本当に反省しているのであれば、議員辞職は早いほうがいいだろう。
■「領土問題の歴史をきちんと理解しているのか疑わしい」
毎日社説も中盤でこう指摘する。
「国家間の問題をいとも簡単に戦争で解決しようと言う政治家がどこにいるだろう。現代では、政治の究極的な目的は戦争を起こさないことにある。あまりの見識の無さにあきれるほかない」
毎日社説の指摘の通りで、戦争を起こさないように外交努力を続けるのが政治家である。丸山氏には政治家としての資質がないと思う。
さらに毎日社説は指摘する。
「大戦末期、ソ連が中立条約を一方的に破棄して対日参戦し、北方四島を軍事占領したのは史実だ」
「戦後、北方四島の帰属をめぐって交渉が続けられてきた。そうした経緯を無視して武力で取り返せばいいというのは、時代錯誤も甚だしい」
「丸山氏は衆院沖縄・北方領土特別委員会の委員として同行した。35歳の丸山氏は経済産業省の元官僚だ。領土交渉を国会で審議する重要な立場だが、領土問題の歴史をきちんと理解しているのか疑わしい」
丸山氏は東大卒の学歴と官僚の経歴を持つが、戦争発言を聞いてだれもが「領土問題の歴史を勉強しているのだろうか」と疑ったと思う。やはり政治家としての資質がない。
毎日社説は続けてこう書いている。
「ソ連侵攻時、北方四島に住んでいた約1万7000人のほぼ半数が脱出した。残りの島民も後に強制退去させられ、多くが抑留を経て日本に帰還した苦難を体験している」
「そんな戦争被害者である元島民に『戦争』を解決の手段として押し付けるというのは無神経に過ぎる。元島民が不快感を示したのは当然だ」
丸山氏は、戦争体験者の悲しみや苦労をまるで理解していない。これまでどんな環境で暮らし、何を学んできたのだろうか。
■憲法の条文を理解せず、尊重も擁護もできない国会議員
次に東京新聞の社説を見てみよう。
後半で「国内外に多大な犠牲を強いた先の大戦の反省から、戦争放棄と戦力不保持を憲法に明記した。平和主義は国民主権、基本的人権の尊重と合わせて憲法の三大理念だ」と指摘し、次のように訴える。
「外国による『不法占拠』が続く日本固有の領土は平和的な外交手段によって取り戻すべきであり、戦争という強硬手段で奪還すべしと考えているのなら、極めて不穏当で、平和主義を踏みにじる」
「ましてや国会議員としての発言だ。憲法の条文を理解せず、尊重も擁護もできないのなら、そもそも国会議員たる資格はない」
その通りである。憲法を無視し、平和主義を顧みない丸山氏。国会議員たる資格ばかりか、政治家としての資質に欠けていると言わざるを得ない。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)
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