私が起業を通して、日本人に伝えたいもの
プレジデントオンライン / 2019年6月4日 11時15分
■今日生まれた赤ちゃんに日本の伝統を伝えたい
和える社長 矢島里佳(やじま・りか)さん
矢島里佳さんが和(あ)えるを起業したのは大学4年のとき。子ども向けの商品はすべて“ジャーナリスト活動”から生まれたという。
慶應義塾大学法学部に入学した矢島さんは、日本のものづくりの技術を脈々と受け継ぐ職人に会いたいと、出会った人に企画書を渡しては思いを語り、旅行会社の季刊誌や週刊誌のコラム連載を手がけることに。取材する中で、伝統産業の担い手が高齢化し、滅びつつあるといったステレオタイプの報道をくり返すメディアのあり方に疑問を感じた。
「実は多くの若い職人さんが魅力的なものづくりをされていたのです」
しかしそのことが知られていない。子どもの頃から伝統産業品に触れる機会があれば、伝統を次世代に伝える循環が途切れることはないはず。
「そこで“今日生まれた赤ちゃんに、日本の伝統を伝えるジャーナリスト”になろうと考えました」
![](https://president.jp/mwimgs/5/a/-/img_5acb63ff8b12e7d112a6ffc03320753d355372.jpg)
まだ言葉では伝わらない赤ちゃんには、モノを通して伝統を伝えよう。そんな事業を行う企業を就職先に探したが、見つからない。ないなら自分で創るしかないと起業を決意。東京都中小企業振興公社が主催する「学生起業家選手権」で得た優勝賞金で和えるを立ち上げた。「和える」とは異なるもの同士が互いの魅力を残しつつ新たな価値を創造すること。先人の智慧(ちえ)に今を生きる自分たちの感性・感覚を「和える」ことで伝統を次世代につなぎたいという思いがあった。当初はライター・講演活動で収入を得つつ、取材で意気投合した徳島の本藍染職人と二人三脚で「徳島県から 本藍染の 出産祝いセット」を開発する。“0から6歳の伝統ブランドaeru”の商品第1号に。
「学生でお金も何もない私には思いと行動しかなかった」という矢島さんは、どこに行くにも「出産祝いセット」を携えて手売りし、「今日生まれた赤ちゃんを日本の藍でお迎えする」という思いを伝え続けた。
■2018年は森林問題解決の、土台づくり
「オンライン販売を始めましたが、実際に立ち寄っていただき私たちの思いを伝える場所、“和える君”の家が必要でした」
東京と京都に直営店を開き、そこに80を超えるアイテムが集う。例えば津軽塗りの“こぼしにくいコップ”は段差をつけ、手の小さな子どもが両手で持ったとき、指で支えやすく落としにくい形にしてある。
「なんでこの値段なの? というご質問に対して、なぜこのデザインか、なぜ伝統の技を活かしたのか、その意味を私たちはお伝えしています」
ジャーナリスト、“伝える職人”としての使命感が根底にあるのだ。現在、商品の原材料の原木や漆の生産に挑む“aeru satoyama”事業の構想がある。一企業が1つの山を育むビジネスモデルを確立できれば、日本の森林問題の解決につながると矢島さんは意気込む。2018年はその土台づくりをし、以後は本格的に事業着手したいという。
「伝統文化を継承し定着させるには長い時間がかかります。ただひたすら伝え続けるだけです」
「三方よし」。
買い手を第一に、売り手、世間の3つに利益があることを考えた、近江商人の考え。
【ハマっていること】
社交ダンス。映画『美女と野獣』のダンスシーンが大好きで、大人になったらワルツを踊りたいと熱望。
【好きな本】
『陰翳礼讃』谷崎潤一郎著/創元社ほか
【プライベートの野望】
創造のアトリエを生み、自身の考える豊かな暮らし。
![](https://president.jp/mwimgs/9/4/-/img_94c889a5c766715de25ddbc0f9f30374524017.jpg)
(梅原 光彦 撮影=佐伯慎亮)
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