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大学生が"ペイペイ払い"に尻込みする理由

プレジデントオンライン / 2019年5月22日 9時15分

原田曜平さん(撮影=プレジデントオンライン編集部、以下すべて同じ)

各社が一斉に参入した「キャッシュレス決済」。普及のカギを探るべく、今回6人の若者との座談会を収録しました。世界の「キャッシュレス社会」に関して研究を行っているサイバーエージェント次世代生活研究所・所長の原田曜平さんは「若者たちは『自分だけ使うと悪目立ちする』と話す。企業は『みんなが使っている』と演出する必要がある」と指摘します――。(前編、全2回)
【座談会メンバー】
法政大学国際高校3年・赤峰沙枝、早稲田大学3年・牧之段直也、中央大学2年・小川莉歩、日本女子大学2年・千葉愛子、青山学院大学3年・浅見悦子、青山学院大学2年・里村萌恵。

■500円目当てに1回だけ使って終わり

【原田】現在、サイバーエージェント次世代生活研究所では、キャッシュレス社会の研究を行っています。日本と世界のキャッシュレス決済事情やキャッシュレスサービスの最新店舗を調べ、日本の未来はどんなキャッシュレス社会になるのか、中国のようにQRコードが普及するのか、欧米や韓国のようにクレジットカードやデビットカードがさらに普及するのかなどを分析しています。

また、日本がキャッシュレス社会になった近未来、日本の小売りの店舗やそこにおけるサービスはどのようなものになるかを研究・分析し、サイバーエージェントの得意先である小売りやメーカーと共同し、未来の店舗作りや新しい販促活動に役立てようとしています。

さて、今日は、「キャッシュレス決済」が、どれだけ今の高校生や大学生たちの間で広がっているのか。また、彼らが「キャッシュレス決済」にどんな意識を持っているのか。そんなことをじっくり聞きたいと思って高校生と大学生に集まってもらいました。

「キャッシュレス決済」には大まかに分けて3種類あります。最近話題のスマホを使った「QRコード決済」。国内では「PayPay」「LINE Pay」「楽天Pay」「ORIGAMI」などがありますね。キャッシュレス先進国である中国で圧倒的に普及している「Alipay(アリペイ)」や「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」も、このタイプです。

次に、ICカードやスマホを端末にタッチする「非接触型」。交通系の「Suica」や「PASMO」、流通系の「WAON」や「nanaco」などがあります。「Apple Pay(アップルペイ)」「Google Pay(グーグルペイ)」もこの仲間ですね。

そしてクレジットカード。VISA、マスター、JCBといったブランドがあります。

今日は主にQRコード決済の話を中心に議論していきたいと思っているのだけど、皆さんはこの座談会のために、周囲の友達にも決済サービスの知名度や使用状況をリサーチしてきてくれたんだよね?

【赤峰】私は高校の部活メンバー40人に聞いてきましたが、「PayPay」「LINE Pay」の知名度は100%でした。

【原田】QRコード決済の代表的な2サービスの知名度は、高校生の間で100%なんだ。すごい。テレビ広告も大量にやっているもんね。で、その40人の中で、QRコード決済を実際に使った経験がある人はどれくらいいたかしら?

【赤峰】部活メンバーの40人中、使ったことがある人は3、4人というところです。それも「PayPay」の初回登録でもらえる500円が目当てで、それをもらうために一回使ったら終わり。アプリをアンインストールまではしないけど、その後もQRコード決済を普段使いしている子は1人もいなかったです。

【原田】あらら。高校生にとって500円という金額は相当でかいと思うのだけど、それでもその500円につられたのがたったの40人中3、4人か。しかも、その3、4人でさえ、500円だけが目的だったから、その後は使わなくなってしまっているんだね。大学生はどうだろう?

■キャッシュバックキャンペーンでアップル製品

【小川】私、「ORIGAMI」と「楽天Pay」は、今回初めて聞きました。「LINE Pay」はLINEをやっているので、アプリ内で見かけてその存在は知っていましたが、使ったことはなかったです。

インスタのストーリー(24時間で消える画像・動画投稿機能)上でアンケートを周りの友達に採ってみたところ、78人から回答があって、そのうちでQRコード決済の使用経験者は18人でした。2割ちょっとですね。

聞いた中で一番の高額決済は、普段割引されないアップル製品を「PayPay」の「100億円キャンペーン」を利用して買ったケース。大学生というより社会人の先輩で「PayPay」のキャッシュバック目当てで使った人は結構いましたよ。

そして、やっぱりキャンペーンが終わると使わなくなる人が増えましたが、第二弾のキャンペーンが始まってからは、多少使い慣れたのか、その後、ファミマなどで継続して使用するようになった人も一部いるようです。

【原田】あくまで正確な定量調査ではなく、東京および東京近郊に住む若者である君たちの周りの友達の中だけでの話ではあるけれど、高校生は10%くらい、大学生は20%くらいがキャッシュバックキャンペーンに響いてQRコード決済と触れた経験がある、ということが言えそうだね。

【浅見】私が聞いた人でも、「PayPay」を使っていた5人中3人が、同じくキャッシュバック狙いでMacBook Airを買ってました。3人とも元々は現金派だったそうですが、キャンペーンをきっかけに登録したとのことです。でも、やっぱり、キャンペーンが終わってからは使わなくなったそうです。

【原田】「PayPay」に関しては、2018年12月に第一弾が行われた「100億円キャンペーン」で知名度がだいぶ上がったようだね。確かに僕もたくさんの若者たちから、キャッシュバックキャンペーンでアップル製品を買った、という声を聞いたなあ。でも、キャンペーンが終わると使わなくなるのなら、このキャンペーンを何度も何度もやり続けて、その度に一部の人が習慣化されるのを待つ、という体力勝負の超消耗戦になるね。今はさまざまなキャッシュレス決済サービスが乱立しているけど、そのうちに持久戦に負け、恐らくいくつかに絞られていくことになるだろうね。あるいは、この超消耗戦にどこも耐えられなくなり全社が撤退、なんて可能性も否定できないかもね。

【千葉】私は81人にアンケートを採りましたが、QRコード決済の経験者は同じく2割くらい。私自身は今から3年くらい前、高3の時から「LINE Pay」を使っています。高校生だった私は、クレジットカードを持っていなかったので、スタンプを買うときは常に携帯代を払っている親に請求がいき、それが本当に嫌でした。

LINE Payはクレジットカードがなくても登録できるし、自分の銀行口座と直結させることができるので始めたんです。今ではコンビニや一部のスターバックス(※)、こないだの東京ドームシティで開催された「ふるさと祭り」でも使いましたね。バイトに行く時もあまり現金を持って行きたくないので、何か買う必要が出る時はQR決済を使っています。

※編集部注:一部店舗で「LINE Pay」の決済が可能

【原田】なるほど。やっぱり、大学生は2割くらいなんだね。あと君のように、かなり前からQRコード決済を使っている若者もごく一部にはいるんだね。高校生は親の承諾なしにクレジットカードを作れないから、クレジットカードの代わりとしてQRコード決済を使い始めるっていうのは、結構明確な動機になり得るかもしれないね。

アメリカでも大学生はクレジットカードの上限が500ドルと決められている人が多いので、だから銀行口座直結のデビットカードが普及したんだけど、日本の高校生もこれと似た動機でQR決済が普及していく可能性はありそうだね。今のところ、高校生を狙ったQR決済の広告プロモーション施策があまりなされていないように見えるけどね。

■大学生でも、まだ「LINE Pay」を知らない

【牧之段】僕の周囲だと、大学生の使用経験者は20人に1人という感じです。

【原田】そうか、早稲田大学は5%か。大学によってもばらつきはありそうだね。

【牧之段】QR決済の知名度は、僕自身4つのQRコード決済のサービス名は聞いたことはありましたが、「ORIGAMI」だけは知りませんでした。周囲の友人たちも「ORIGAMI」はほとんど知りませんね。

【原田】しかし、社長さんの熱愛報道があったけど(笑)、「ORIGAMI」はあまり知られていないし、使われていないようだね。

【浅見】私は「LINE Pay」だけ知りませんでした。

【原田】えっ! 毎日LINEとにらめっこしている大学生でも、まだ「LINE Pay」を知らない人がいるんだね。

【浅見】「ORIGAMI」はロフトの店員さんから、「登録したら10%OFFのクーポンがもらえてお得ですよ」と聞いたので、知っていました。

■QRコード決済を使ったことがあるのは1人だけ

【原田】自分がよく行くお店から知らされる、というパターンも多そうだね。逆に言えば、若者と接点の多いお店で使えるQRコード決済が、未来の決済サービスのデフォルトになっていくかもしれないね。

【里村】バイト先や遊び友達13人に聞いてみましたけど、QRコード決済を使ったことがあるのは1人だけでした。私自身はPASMOを必要な時にチャージして使うだけで、他のキャッシュレス決済は一切やってません。クレジットカードすら持ってないんです。浪費家なので、親に作るのを止められていて。

【原田】あくまで正確な定量調査ではないけど、同じ東京の大学生の間でも5%~20%とばらつきがあるんだね。交通系のカードは全員使うけど、大学生ですらクレジットカードをもっていない人もいるし、ましてQRコード決済となるとさらにハードルが高いんだね。

【小川】「PayPay」は年末に大々的なCMを打っていたので、私もそこで知りました。高校生の赤峰さんの言ってた「PayPay」の500円のキャッシュバック目当ては私の周りでも多く、コンビニでおにぎりと飲み物とスイーツを買っておしまい、って感じです。高校生や大学生でそういう人は多かったんじゃないでしょうか。

【原田】QR決済化が進むとしたら、まずは変化の早い若者から、という仮説を持っている人は多いと思うけど、現状ではまだそうはなっていない可能性があるね。まあ、サービス側が若者を狙っていないというのも大きいんだろうけど。

少なくともキャッシュバックキャンペーンは一時的には若者に効くけど、終わるとともに使用されなくなるケースが現状で多いのは確かなんだね。

■財布が小さい女子は小銭とカードを減らしたい

【原田】QRコード決済以外で、プリペイドカードやクレカも含めたキャッシュレス決済を君たちが現状で行っているシチュエーションにはどんな時があるんだろう?

【赤峰】友人はコンサート会場でグッズを買う時は、ちゃっちゃと買い物を終わらせたいから交通系のICカードを使うそうです。出かける前に使う分だけチャージしておいて。

【原田】人気アーティストのコンサートなんかだと、グッズ物販の列はかなり長くなるからね。ひとりひとりの会計が短くなれば、他の全員のストレスも減るしね。ちなみに誰のコンサートだったのかな?

【赤峰】嵐です。

【原田】さすが嵐! 嵐の活動休止とともに若者のキャッシュレス化が止まってしまわないように、彼らの活動休止前にキャッシュレス化を普及させないといけないね(笑)。

【赤峰】あとは、コンビニで少額の買い物をする時もキャッシュレスです。小銭を出すのが面倒なので。これも交通系ICカードです。

【原田】コンビニでICカード使う人は多いのかな?

【小川・千葉・牧之段・浅見・里村】(全員同意)

【赤峰】高校生はお金がないので、遊ぶ予定がない日は学校に行く時に定期入れに1000円札とSuicaだけを入れている人が多いと思います。1000円札はもしもの時のためだから崩したくない。だから、Suicaに少額だけ入れて、コンビニではそれを使います。

赤峰さんの定期入れ

【原田】Suicaを使っても、1000円札を使っても同じ1000円ではないの?

【赤峰】小銭は重くなるので嫌なんですよ。最近はちっちゃい財布を使っている女子が本当に多いので。

【千葉】女子大生も同じですよ。今は小さい財布、小さいバッグが流行っているので、小銭だけじゃなくてカード類もなるべく増やしたくないんです。私のバッグも小さいので、スマホと定期入れと財布、全部はとても入りません(笑)。冬はアウターを着ているからポケットがありまだそこに入れられるけど、夏は本当に困っちゃいます。

千葉さんの財布とバッグ
小川さんの財布

【原田】なるほど。確かにここ数年、小さいカバンやバッグが女子の間で流行っているから、若者の間でキャッシュレスニーズが高まっている。そして、夏はよりいっそう荷物の少ないほうがよくなるからキャッシュレスニーズはさらに高まるんだね。

キャッシュレス決済サービス企業は、もし本気で若者女子を狙いに行くなら、夏のキャンペーンが狙い目かもしれないね。

■「オシャレな人ほどキャッシュレス」

【浅見】私の友人でもキャッシュレス派は、荷物を少なくするために、会員カードやポイントカードをできるだけアプリにまとめています。一方の現金派はお財布やバッグの大きい子が多いですね。

【原田】現金派は必然的にバッグが大きくなってしまうけど、トレンドに乗れてないタイプの子が多いんだろうか? ファッション感度の高い子がキャッシュレス化している、みたいな傾向はある?

【浅見】私のバイト先はとあるアパレルショップでオシャレな人が多いんですが、バイト先を見るとその傾向はあるかもしれません。私はともかく、オシャレな女子はみんなバッグもお財布も小さいですよ。

【里村】「オシャレな人ほどキャッシュレス」は、女子大生の中ではあるかも。

【原田】カード類って全部はなくせないよね? キャッシュカード、クレジットカード、各種会員証、ポイントカードとかいろいろ種類があるし。スマホのアプリにできないものは持ち歩くしかないよね?

【里村】女子だと、自分が使っている化粧品メーカーの顧客カードを何枚か持っている人が多いので、それは手放せませんしね。

【赤峰】私はカードを持ち歩きたくないので、よく行く店以外では、ポイントカードやスタンプカードをそもそも受け取りません。

【原田】えっ! 高校生にとってポイントを貯めるって相当死活問題だと思うんだけど、小さい財布トレンドというファッションの方を優先させるんだ!

【赤峰】そりゃそうですよ(笑)。かつ、かわいいカードだけを厳選して持ち歩きたいんです。ダサいカードは財布に入れることすらしたくない。TSUTAYAのTカードはダサいから、「ゴンチャ」(※)のカードで覆い隠してます(笑)。

※編集部注:タピオカミルクティーなどを提供する台湾ティーの専門店。女子高校生・女子大生に人気。

小川さんが財布に入れているカード類の一部。右上はゴンチャのカード、その下がTカード

【千葉】めっちゃわかる!

【牧之段】え、Tカードはかっこいいから、むしろ財布では見える位置に出してるんですけど。

【千葉】その感覚ヤバいですよ(笑)。この黄色がやだ。原色はちょっと……。財布の中もインスタと同じですから、そこはこだわりたい。

【原田】財布の中もインスタと同じなんだ(笑)。しかし、佐藤可士和さんデザインのTカードは、今の女子受けはしないんだね……。

【千葉】あと、QR決済の話に戻っちゃうんですけど、私の先輩で社会人2年目の銀行員の男性がいるんですけど、「LINE Pay」をよく使っているそうです。理由を聞いたら、お昼を買いに行く時に財布を持たなくていいからって。

【原田】自分の席に財布を置きっぱなしで、スマホだけ持ってお弁当を買いに行くわけだね。夏だったらジャケットを脱いで行くこともあるだろうし、たしかに身軽なほうが楽なシーンはたくさんあるね。ちょっと暴論だけど、キャッシュレス決済を若者に普及させる狙い目のタイミングは、「女子は学生時代の夏、男子は社会人の夏」かもしれないね。

■「登録が面倒」「利用可能店舗が少ない」

【赤峰】今回の座談会の機会があったので、初めて「LINE Pay」をやってみようと登録してみたんですけど、設定・入会・ログイン手続きがけっこう面倒くさかったです。この機会がなかったら途中であきらめちゃっていたかも。

【小川】私の周りでも、「登録がめんどくさそう」という理由でやってない学生はかなり多かったですね。

【牧之段】「LINE Pay」は「PayPay」に比べて登録のための工数が多いと感じました。登録の途中で外部サイトに飛ぶあたりがわかりにくくて。あと、「LINE Pay」はクレジットカード登録ができないですよね? クレジットカードを登録できれば、わざわざ現金でチャージするためにコンビニに行く必要もなければ、通帳を見なければいけない銀行口座の情報を登録する必要もありません。だから、クレジットカード登録ができないLINE Payは、それができるPayPayに比べて、使用までの工数がかかると感じます。

【原田】できないんだっけ?

【牧之段】そのへんも、よくわかんなくて……。コンビニでLINE Payに現金でチャージするか、銀行口座をLINE Payに登録してLINE Payの口座にチャージするかの二択じゃなかったでしたっけ?

(「できないよね?」「できたかも?」で全員ざわつく)

【牧之段】あ、今、スマホで調べてみたら、一応クレジットカード登録、できるみたいですね。ただ、LINE Payからクレジットカードを通して決済はできるものの、クレジットカードからLINE Payへのチャージはできないようです。

PayPayの場合はYahoo!JAPANカードからはチャージできるようですが。

また、クレジットカードからLINE Payで決済可能なのは、「LINE STORE(ラインストア)」や「LINE Taxi(ラインタクシー)」などのLINEサービス関連サイトのみで、コンビニや飲食店などの実店舗では今のところ使えないようです。

登録手段自体はLINE PayのほうがPayPayよりも多い。LINE Payはクレジットカードによるチャージはできないけど、銀行口座からのチャージの他、ファミリーマートやセブンイレブンのようなコンビニでの現金チャージが可能。PayPayではコンビニでの現金チャージは基本的にできず、銀行口座からのチャージもPayPayに連携したYahoo!ウォレットアカウントに登録済みの金融機関口座からしかできないので限られています。

つまり、LINE Payは登録できる手段が多い一方で、クレジットカードにおいては非常に限定的な使用しか現状ではできないみたいです。

使うまでに把握しなければいけないことがあまりに多く、若者にとってはコンビニなどでクレジットカードを通しての決済もできるPayPayと比べると、やっぱり、LINE Payは始めにくいなあと感じてしまいます。

座談会中に表示させた「LINE Pay」登録画面

※編集部注:「LINE Pay」もクレジットカード登録自体はできるが、クレジットカードで直接支払いができるのは、LINE STOREなどLINEのサービスに限定される。

【原田】「PayPay」はアプリをダウンロードしなきゃいけないけど、LINEはもともとメッセンジャーアプリとして、ほとんど全ての若者のスマホにインストールされていて、「ウォレット」というメニューから「LINE Pay」にすぐ行ける。だから、「LINE Pay」の方が若者にとっては面倒が少ない気もするけど。

【小川】アプリのダウンロードはスマホの指紋認証機能を使用できるため、いちいち個人情報を登録する手間がありません。でも、キャッシュレスサービスに登録する時は、自分の個人情報を全て打ち込まなければならないため面倒でストレスです。

■LINEという会社をいまいち信用してない

【原田】ただ、あまりに登録が簡単だと、逆にセキュリティ面で不安にならない?

【牧之段】最近出てきたばかりのベンチャー企業とかじゃなければ、登録上の不安はありません。

【原田】アメリカの若者にインタビューをしていると、個人情報の流出とかセキュリティへの不安がたくさん声として出てくるけど、日本の若者たちはそこにあまり不安は感じてないのかしらね。

【里村】あ、でも「LINE Pay」をやらない理由として、「LINEという会社をいまいち信用してないから」という人がいました。

【赤峰】プライバシー管理の設定をOFFにしないと、LINE本社にトーク内容を送られるって噂が流れてやだなあって思いました。だから私の周りはみんなOFFにしてますよ。不信感とまではいかないけど、絶対的な信頼は置いてません。

【原田】LINEが出始めた頃、韓国のNAVER社の100%子会社ということも影響したのか、情報流出に関していろいろな噂が流れたよね。それからLINEが完全に日本に普及してそうした話はあまり聞かなくなったように思うけど、やっぱりまだ高校生の間でもそんな噂が流れるんだね。

ちなみに、一応ネットで調べてみると、トークルーム情報がオンになっていても、トーク内容が閲覧されるわけじゃなく、スタンプや無料通話時のうさぎとか猫とか耳がついたりするフィルターなどが情報として本社に提供されるだけみたいではあるけどね。

キャッシュレス決済業者は、お金という大切なものを扱うだけに、前提として大きな社会的信頼が大切だから、そういう意味ではLINE PayはLINE自体の不信感がもしまだあるのなら、それを払拭するということも大切になってくるのかもしれないね。

【牧之段】あと僕らは確かにLINEになじんでいるけど、「LINE Pay」は「PayPay」に比べて利用可能店舗が少なくて不便な印象があります。あくまで僕や僕の周りの人の生活圏内での話ですが。

【浅見】というか、QRコード決済はまだ全体的に使える店舗が少ないです。たとえばセブンイレブンは「nanaco」推しだから、「PayPay」も「LINE Pay」も使えませんし(※)、服を買うお店でも使えないところが多い。だから私は結構クレジットカードを使います。丸井やルミネはカード払いで10%OFFの期間があるので。友人でもクレカ決済で服を買う人が多いですよ。

※編集部注:座談会収録の2月時点。LINE Payは5月21日に、「7月からセブン-イレブンでの決済対応を開始する」と発表している。バーコードをレジで読み取ってもらうことで、「コード支払い」が可能になるという。

■キャッシュレス決済は「恥ずかしい」

【赤峰】私、あるファストフード店でバイトしてるんですけど、「PayPay」にしろクレカにしろ、店員の立場からするとキャッシュレス決済って超めんどくさいんですよ。レジは基本的に現金支払いの設定になっているので、いちいち設定を変えなきゃいけない。正直、100円くらい現金で払えよって思っちゃいます。

【原田】さっき自分はコンビニではキャッシュレスって言ってたのに、お客には現金を求めるんだ(笑)。でも、その理不尽さがレジ側の店員の本音を表しているように思えるね。

確かにキャッシュレス決済普及の鍵の一つに、お店側にとってどんなメリットがあるかということもあるよね。もちろん、キャッシュレス化が理想的に進めば、省人化・無店舗化にもつながることにはなるんだけど、それはお店の運営側にとってのメリットであって、手間のかかるレジのバイト店員にとっては何もメリットがないもんね。

特に今のさまざまなキャッシュレス決済サービスが乱立している状況は、この超人手不足の日本で、単なる手間になってしまっているもんね。

【牧之段】店員さんがどう思ってるかなというのは、買う側も気にしてしまうかも。前にコンビニで、「PayPay」で決済しようとしたら店員さんがよくわかってなくて、店長さんを呼んできちゃったんです。結構待たされてすごく恥ずかしかったですね。深夜だったからよかったですけど、昼間で後ろに客がいたら、絶対スマホを引っ込めて現金決済してますよ。こっちが慣れてなくてあたふたするのも恥ずかしいけど、お店側のあたふたも今は多いと思います。あと、どの店舗がどのキャッシュレス決済に対応しているのかもお客にとっては非常にわかりづらいです。

【原田】レジ前まで行かないと、どのキャッシュレス決済サービスが使えるか、わからないお店が本当に多いよね。しかも、店員が慣れていなくてあたふたするなら、「だったら現金でいいや」となってしまうかもなあ。

【牧之段】レジまで行ってから、「それはうちでは使えません」って言われるのも嫌ですし。

【千葉】昨日、ちょうどそれを経験しました(笑)。

【小川】レジで「PayPayで」って言うのが、そもそもすっごく恥ずかしいです。まだ言葉自体が浸透していないから。

【原田】「ペイペイ」って言葉を発すること自体が女子は恥ずかしいんだね。

【千葉】「WAON」を使ったときに「ワオーン」の音が鳴るのも恥ずかしいです。

■キャッシュレスはすごいやつしか使えないイメージ

【原田】よく「五感マーケティング」が大事、なんて言われるけど、「音」のマーケティングは非常に重要になってきているね。若者たちにとってクールな音とは何か、ということをキャッシュレス決済サイドの企業はきちんと研究しないと、音を理由にしてキャッシュレス化が進まない、なんてことが起こるかもしれない。

ちなみに、「意識高い系」という、意識高い行動をしている若者を他の若者が揶揄する言葉があるけど、「電子マネーとか使ってる私、意識高い」と思っている人がダサい、みたいなことはあったりするのかな?

【牧之段】それはないですね。僕は逆にアーリーアダプターの人たちがSNS上で「PayPayのキャンペーンで○○をお得に買えた!」という風な、キャッシュレスサービスを使いこなしているような投稿をしているのを見ると、「自分はスマートに使いこなせないのにすごいな」と気後れしてしまいます。

むしろ、キャッシュレスはすごいやつしか使えないイメージです。そういう意味でも、周りのみんなが使ってるかどうかって大事ですよ。誰もQRコード決済を使ってないのに、自分だけ使うのははばかられます。

【小川】あとはお店の雰囲気としても電子マネーを推してくれていると、使いやすくなると思います。ファミマは「PayPay」を店内放送や貼り紙で推しているので、そういう空間だったら使っても良い気持ちになります。そこまで店内でフィーチャーされていたら、恥ずかしさはなくなりますね。

【原田】単に便利かどうかだけじゃなく、「自分が使っても良い雰囲気があるかどうか」が今の若者にとっては重要になっているんだね。SNSの普及によって多くの友達とつながり、周りの友達の動向や目をかなり気にするようになっている今の若者たちは、キャッシュレスサービスを使うことによって、周りからどう見られるか、ってことをかなり意識するようになっているんだね。今の若者気質が表れてるなあ。(後編に続く)

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原田曜平(はらだ・ようへい)
サイバーエージェント次世代生活研究所 所長
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年12月よりサイバーエージェント次世代生活研究所・所長。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『さとり世代』『ヤンキー経済』『これからの中国の話をしよう』などがある。2019年1月より渡辺プロダクションに所属し、現在、TBS「ひるおび」、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」、日本テレビ「バンキシャ」レギュラーとして出演中。

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(マーケティングアナリスト 原田 曜平 構成=稲田豊史、撮影=プレジデントオンライン編集部)

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