ネット右翼がドンキを叩く「本当の理由」
プレジデントオンライン / 2019年5月27日 9時15分
■「朝鮮半島にルーツ」があるだけでレッテル張り
ネット右翼には、全くつける薬がない。ネット右翼は体系的な知識を持たず、本を読まず、一次資料にあたることは一切なく、自分より上級の自称「保守系言論人」に寄生し、その珍説・トンデモ陰謀論を垂れ流し続けている。その「垂れ流し」は、まるで上流にある公害企業が、下流にある清廉な漁場を重金属で汚染するかの如く、ネット上に播種し、取り返しのつかないネガティブなイメージを特定の企業に与えることになる。
連載第3回目の今回は、小売店の革命児「ドン・キホーテ」(以下、ドンキ)に対するいわれなき反日企業、在日企業のレッテル張りを検証したい。
前回の連載(第2回)で、孫正義社長率いるソフトバンクが在日企業として名指しされ、ネット右翼界隈から不契約運動なるものが巻き起こったことを描いた。その理由はただ一つ、孫正義氏が在日コリアンの帰化人であったことに尽きる。
この国のネット右翼は、日本国家に帰順を誓い帰化しようがしまいが、「元在日コリアン」「朝鮮半島にルーツを持つ代表者」という事実のひとつがあれば、それを際限なく拡張して反日企業・在日企業のレッテル張りをする。それに踊らされ、珍妙な都市伝説を披露したのが、当時ネット右翼番組の領袖のひとりである水島総氏であったことは前回連載で指摘した。
■「安田姓=反日企業」という脳が爆発しそうな屁理屈
さて、今回は、ドンキとその創業者、安田隆夫氏へのネット右翼のいわれなき攻撃についてだ。ネット右翼がゼロ年代から攻撃を強めたのには、2つの理由がある。それは創業者・安田氏の名前と、ドンキが持つ身体的イメージである。後者は後に触れるとして、前者の"創業者・安田氏の名前"とはどういうことか。
例えば「安」という氏名の在日コリアンが、通名使用や帰化の際に「安田」や「安本」を名乗る、改姓する、ということは決して珍しくはない。だが、「安田」姓自体は伝統的に日本の氏族(桓武平氏の系統など)であることは自明であり、そもそも「安」という一文字の姓も日本固有の氏族として存在する。
にもかかわらず、ネット右翼はこれを以て、在日コリアン、若しくは帰化人には「安田」姓が多いと勝手に断定している。
事実、昨年(2018年)10月、シリアで武装勢力に拘束され、3年4か月ぶりに解放されたフリージャーナリスト・安田純平さんをめぐって、ネット右翼は彼が「安田姓」であることだけを根拠に、「在日」もしくは「帰化人」である、と妄想をたくましくして「自己責任論」をぶちあげた。安田さんが日本人ではないのなら、日本の税金を使って救助するのは筋が通らないというものだが、安田さんは歴とした日本人であった。実に馬鹿馬鹿しいと言わなければならないが、所謂ネット右翼による「在日認定」とは、この程度の根拠で行われているものなのである。
だからドンキの創業者である安田隆夫氏も、在日コリアンか、ないしは元在日コリアンに違いないのだから、その企業全体が反日企業であり、在日企業である、という脳が爆発しそうな屁理屈を考案したのである。試しに、グーグルで「ドンキ 安田」と検索すると、真っ先に「在日」と検索候補が出るのは、こういったネット右翼の根拠なき名前のみに依拠した「在日認定」の消し難い負の遺産なのだ(グーグルも、こういった悪質なデマ検索の痕跡は、削除する努力を行ってほしいものである)。
■安田隆夫氏の生まれは「岐阜県大垣市」
安田隆夫氏が在日コリアンや帰化人であるという、これら珍妙な都市伝説は、氏の自伝である『安売り王一代 私のドン・キホーテ人生』(文藝春秋)からして、一目瞭然で間違いだとわかる。
安田隆夫氏は前掲書によると、「1949年、岐阜県大垣市」の生まれで、「父親は工業高校の技術科の専科教師。厳格な教育者のイメージそのままの堅物で、酒もたばこも一切やらない。長男である私にはとりわけ厳しく、テレビも“NHK以外は見るな”と言われて育った。いま思えば、父親は戦争を経験し、家庭を守るために必死だったのかもしれない」(P.18)
とある。ネット右翼は何かにつけてNHKを「反日偏向報道局」と敵視し、昨今「NHKから国民を守る党」というカルト的地域政党も誕生するくらいだが、当の安田氏の実父が、バリバリのNHK信仰者であり、所謂「戦後民主主義」の申し子のような人物であったといえる。そうした環境の中で安田氏は育った。
そもそも、ネット右翼が「在日認定」する企業人の多くは、企業人自らが自伝を書く中で、在日コリアン、元在日コリアンであることをことごとく否定している。ネット右翼から反日、在日の批判をゼロ年代の末期から10年代の初頭にかけて受けた電通の成田豊会長もその一人だ。公に刊行されている書籍を少し読むだけでも、彼らネット右翼の言が嘘であることはすぐに分かる。
だが、彼らは資料や本を一切読まない。ただひたすらネット上に繁茂する言説をコピペすることによって、特定の企業やその創業者を「在日コリアン」「元帰化人」と決めつけているのだから救いようがない。
■ドンキの店舗が醸す「むき出しの欲望」
さてネット右翼がドンキへの攻撃を強めたもう一つの原因に、筆者は“ドンキが持つ身体的イメージ”を挙げた。これはどういうことなのか。ITmediaの記事「ドンキ創業者が自伝に記した『金銭欲と名誉欲』」(2018年9月19日)にその輪郭が端的にあらわされているので紹介したい。
なぜドンキはここまで嫌われるのか。もちろん、深夜営業が引き起こす騒音問題が深刻だったという理由もあるだろうが、記者は別の理由もあるのではないかと考える。それは、ドンキの品ぞろえや店舗の雰囲気が醸し出す「むき出しの欲望」に対する嫌悪感だろう。
例えば、ドンキには男性用の精力剤や筋トレグッズ、女性用のブランドバッグや美容品が所狭しと並ぶ店舗がある。これは、「異性にモテたい」「カッコよくなりたい」という顧客の潜在的な欲望が、むき出しになった状態ともいえる。
ドンキは引用文中にあるように「モテたい」「カッコよくなりたい」という欲望を隠さずに陳列棚に並べている。筆者は、このドンキ自身が持つ身体性へのアピールが、ネット右翼の攻撃を呼ぶ原因ではないかと考えている。
■「身体性の清廉」を重視するネット右翼
ネット右翼は、筆者の独自調査によれば全国で約200万人。その中枢をなすのは、40歳から50歳のミドル・エイジで、比較的社会的立場の高いものや自営業、会社役員など金銭的に余裕のあるものが目立つ結果となった(2012‐13年調査、筆者著『ネット右翼の逆襲』総和社、2013年)。ここにこそ、ネット右翼のドンキへの嫌悪感が隠されている。
自らは衰え行く肉体。しかしドンキは、その老いに対抗する存在として商品を準備し、そこに身体的には活発と思われる「ヤンキー系」などの客が群がる。その図式その物が、老いに差し掛かりつつあるネット右翼にとっては、羨望の対象としての目障りな異物でしかないのだ。
ネット右翼は、異様に身体性の清廉を重視する。それはタトゥーへの嫌悪感にはじまり、LGBT許容による伝統的家族観の破壊にもつながる。ネット右翼の世界観の根底にあるのは、「純潔と潔癖」である。
ジェンダフリー教育に対して狂ったように反対の声をあげ、青少年の性の乱れを声高に叫ぶ一方、女性宮家の創出が万世一系の男系男子の「国体」の毀損につながる、とのたまう男系男子論者に決まってその種のネット右翼が多いのは、「純潔と潔癖」への信仰が、彼らの中で抑えようもなく強いからである。
■「ヤンキー文化」を蔑視嘲笑するワケ
つまり「純潔と潔癖」への信仰は「処女信仰」と同じ純血主義に他ならない。そしてそれは、日本以外の血統を持った在日コリアンや元在日コリアンの帰化人への蔑視と攻撃につながっていく。実に分かりやすいヘイトの構造である。
櫻井よしこの言う「凛として美しく」という、ガラス細工のような繊細性を美とし、一方で地方の「ヤンキー文化」など、一見粗野とみられる人々を蔑視嘲笑するところがその最大の特徴といえる。
そしてネット右翼を構成する主たる部分が、肉体性の衰微を隠し切れないほど高齢化した中年男性であるということも、この問題を考えるうえで重要だ。あるいは彼らネット右翼は、なまじの中産上位階級で温室育ちのために、身体性をむき出しにした「ヤンキー文化」への接点が無いことも原因と言える。
つまりネット右翼の「ヤンキー文化」への攻撃と禁忌は、自らが過去に手放した若さへの嫉妬と、「ヤンキー文化」への無条件の禁忌と反作用に他ならないのである。
■タトゥーを「反社会性」と結びつけて批判する
例を挙げると、在特会(在日特権を許さない市民の会)のヘイトデモに対するカウンターとして、レイシストをしばき隊(通称しばき隊)の行動が、おおむね2013年ごろから活発となった。「しばく」とは、関西弁で「殴る、蹴る」を意味し、その名の通り在特会などのヘイトデモやヘイト街宣を封殺するため、「しばく」ことも辞さないという姿勢をとった。
ネット右翼は当然この「しばき隊」に強い反発を抱くわけだが、その反発の根拠として、「しばき隊」の人々の一部が両腕にタトゥーを入れた写真を引用して、彼らを「反社会的勢力」と断じたことにある。
筆者は自衛のためやむを得ない場合を除いて、いかなる暴力活動にも反対の立場を採るので、当時「しばき隊」が行っていた積極的なカウンター活動を支持するものではない。
しかし注目したいのは、彼ら「しばき隊」を忌避するネット右翼が、「しばき隊」のタトゥーに代表される身体性の毀損を、反社会性と結び付けて批判していたことであった。
■儒教的世界観を頑なに保持する「高齢化したネット右翼」
現在、タトゥーは西欧圏では日常的に受け入れられており、東南アジア圏でも日常化しつつある。ところが日本、韓国、中国など儒教文化圏では、「親からもらった体に傷をつけるとは何事か」という根底意識が強く、日本では現在でもタトゥーを公の場で晒すのは禁忌とされ、公衆浴場やプールでは入場拒否看板が堂々と掲げられている。「身体性の純潔と潔癖」は、日本が近世から持つ特有の儒教的世界観だが、そういった観念も、もはや若い世代では形骸化しており、日本の青年層にはタトゥーを入れる事に抵抗を持たない人々が多い。
すでに述べたように、ネット右翼は40歳から50歳のミドル・エイジを中心とした人々のため、こうした身体性の毀損に抵抗のない若い世代の価値観を受け入れることができないのである。
近年では、「儒教」をキーワードに、中国と韓国を呪詛する書籍がにわかヒットする状況が生まれている。だが、何のことはない、日本も近世以降儒教国家の一員だ。その旧い儒教的世界観を頑なに保持しているのは、当の高齢化したネット右翼自身であった、という笑えないオチなのである。
■「日本人なら身体的にも精神的にも純潔」と自画自賛
ネット右翼の世界観の根底にある「凛として美しく」路線は、和装や伝統文化の保持など、身体性の純潔と潔癖、ならびに精神的清廉潔白を重視する世界観に、徹頭徹尾貫かれている。
自分たちは平然と中国人や韓国人を差別するという不道徳な行いをしているのに、それを忘却して日本人ならば身体的にも精神的にも純潔であり、道徳的であると自画自賛しているのだから救いようがない。
それほどネット右翼とは、繰り返すように「親からもらった体に傷をつけるとは何事か」という儒教的世界観にとらわれている。だからこそタトゥー文化に極めて激しい嫌悪感を覚え、それに連なるヤンキーや「ヤンキー的なるもの」をDQN(どきゅん)と言い換えて嘲笑の対象とし、当該の日本人は「伝統的な日本文化にはそぐわない異物=日本人ではない」として排斥する。
余談だが、ネット右翼は「激しい身体性」の具現化であるクラブカルチャーにも、抵抗感を持つものが多い。改正風営法をめぐり、おおむね2010年~2015年にかけて、大阪を出発点として全国でクラブの摘発が行われた。これらの恣意的な摘発に疑問を投げかける声が、多くの文化人などから上がったが、ネット右翼も、いわゆる「保守系言論人」も、この問題にはまったく無関心で、中国人と韓国人への呪詛にしか興味がなかったことがその証左である。
■「理想的な日本人像」の真逆にある小売店
上記のように「客層にヤンキーが多い」と思われているドンキは、当然、ネット右翼の描く理想的な日本人像とは真反対に位置する小売店ということになる。これを以てしてネット右翼にはドンキが日本の破壊者、すなわち反日企業、在日企業と映るのだろう。
だが、実際にはドンキの主要顧客にはヤンキーが多い、という客観的データは示されておらず、筆者も日常的に郊外のドンキを利用しているが、特段客層にヤンキーが多いという皮膚感覚はない。これらはすべてネット右翼の思い込みが亢進した異常極まりない世界観に他ならないのである。
ネット右翼の私企業への攻撃は、看過しがたい事実であると同時に、その攻撃の理屈が、まったく根拠がないことが最大の害悪である。本連載では、ネット右翼による私企業への攻撃が、いかに馬鹿馬鹿しく理不尽なものであるかを逐一検証していく。次回以降も是非、お付き合いいただきたい。
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文筆家
1982年生まれ。保守派論客として各紙誌に寄稿する他、テレビ・ラジオなどでもコメンテーターを務める。2012年に竹島上陸。自身初の小説『愛国奴』(駒草出版)が話題。他の著書に『女政治家の通信簿』(小学館)、『日本を蝕む「極論」の正体』(新潮社)、『「道徳自警団」がニッポンを滅ぼす』(イースト・プレス)他多数。近著に『日本型リア充の研究』(自由国民社)。
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(文筆家 古谷 経衡 写真=iStock.com)
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