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GDPプラスも"増税凍結解散"は止まらない

プレジデントオンライン / 2019年5月20日 15時15分

記者会見する菅義偉官房長官=2019年5月17日午後、首相官邸(写真=時事通信フォト)

■菅氏「不信任は解散の大義」発言の真の狙い

菅義偉官房長官が5月17日の記者会見で行った衆院解散を巡る発言が、波紋を広げている。野党が内閣不信任決議案を提出した場合、それが衆院解散の「大義になる」と語ったのだ。解散すると明言したわけではないのだが、永田町では事実上の衆院解散宣言と受け止められ始めた。

一方、20日に発表された1月から3月の国内総生産(GDP)速報値はプラス成長となったものの、勢いを欠く内容。消費税率を上げる環境ではないという空気も強くなっている。10月に予定される消費税増税を凍結し衆院解散、衆参同日選という流れは止まらないのか。

■なぜか「仮定の質問には答えられない」を使わなかった

菅氏の問題発言は5月17日午後4時半ごろに飛び出した。

午後の定例記者会見で菅氏は、大卒者の就職率が高くなった話、安倍晋三首相と中国要人との会談の話などに、よどみなく答えていたが、記者から「通常国会の終わりに野党から内閣不信任決議案が提出されるのが慣例になっている。時の政権が国民に信を問うため衆院解散・総選挙を行うのは(決議案提出が)大義になるか」との質問に答える形で「それは当然なるんじゃないですか」と回答した。

この発言に会見場に詰めていた記者団は色めき立った。菅氏といえば、慎重な答弁を繰り返すことで知られている。東京新聞の望月衣塑子記者の執拗な質問に対する木で鼻をくくったような答弁ぶりは、テレビ、雑誌などでも再三報じられている。意に沿わない質問に対しては「そのような批判はあたらない」「承知していません」「関係省庁に聞いてください」などと答えることが多い。

「野党が内閣不信任決議案を出してきた時、解散の大義になり得るか」という質問に対し、いつもの菅氏なら「仮定の質問には答えられない」と答えそうなものだ。もしくは「衆院解散については首相の専管事項です」と逃げる道もある。

しかし「当然なる」とクリアに打ち返した。報道陣も、本来なら真意を尋ねるべきだったが、追加質問は出なかった。記者たちも不意を突かれたのだろう。

■「菅発言」に記者団が色めき立ったもうひとつの理由

もうひとつ、記者団が色めき立った理由は、菅氏が衆院解散に反対の立場だと理解されていたからだ。

今、政府・与党内では、麻生太郎副総理兼財務相が、衆院解散・衆参同日選を主張する主戦論者。麻生氏と菅氏の間で、安倍氏が熟考しているという構図だったが、菅氏が解散容認に転じたと読み取れる発言をした。「同日選」で政府・与党内で意思統一ができたという見方が出ない方がおかしい。

通常国会の終盤には野党が内閣不信任決議案を出すことが多い。与野党が伯仲しているころは、与党議員の一部が造反するなどして不信任案が可決、衆院解散という流れになることもあったが、最近は与党が安定的に多数を維持している。不信任決議案が出ても反対多数であっさり否決されるパターンが続く。不信任決議案は、単なる野党のパフォーマンスとなってきている。

■「不信任決議案が大義になる」はあまりに都合がいい

菅氏の発言は「不信任決議案を出すのなら解散するぞ」という野党に対する警告と受け取っていい。

「警告」と言っても、単純に「不信任決議案を出すな」と言っているわけではない。衆院解散となった場合、その引き金を引くのは野党になるということを通告したのだろう。

安倍晋三首相は、首相の解散権を拡大解釈し、与党にとって有利となる時に衆院選を行う傾向がある。これには「党利党略のために解散権を乱用している」との批判がついて回る。しかし「不信任決議案を出したら解散する」と事前通告することで「解散しようと思っていたわけではないが、野党が不信任決議案を出したから解散した」という理屈で解散権の乱用批判を和らげ、野党に責任を転嫁することもできる。

もっとも、安倍政権に限らず、時の政権の多くは野党が不信任決議を出しても粛々と否決し、衆院を解散することもなく国会を閉じる道を選ぶことが圧倒的に多かった。不信任決議案が出た段階で「直接国民に信を問う」として衆院解散に踏み切った例は、あるにはあるが、まれなケースにとどまる。「不信任決議案が大義になる」というのは、あまりにも都合のいい理屈ではあることは指摘しておきたい。

■文字通り「進むも地獄、退くも地獄」の野党

いずれにしても野党側は苦しい選択を迫られる。表向きは同日選を歓迎するような立場を見せてはいるが、本音では回避したいのは明々白々。参院選の候補者調整もままならないのに、衆院選も同時に行われるとなれば、野党共闘の隊列を組むのは不可能に近い。野党内で解散の可能性を高める不信任決議案の提出を見合わせようという意見が出る可能性がある。

しかし、その場合は「解散が怖くて不信任決議案の提出をやめた」という「弱腰」批判をまともに受けることになる。不信任決議案の提出を巡って野党内で足並みが乱れることも予想される。菅氏の本当の狙いは、そこにあるのかもしれない。野党は、文字通り「進むも地獄、退くも地獄」だ。

■GDP速報値はプラスだったが「内需の弱さ」は顕著

安倍政権は今、「アベノミクスは機能しているが、米中の貿易戦争などの不安定な国際情勢の中、増税は好ましくない」という前提で消費税増税の見送りの検討を進めている。

5月20日発表された1~3月のGDP速報値は、前期比0.5%増とプラスだったが、内容を分析すると、設備投資と個人消費は低調。GDPを押し上げたのは、内需の弱さを反映して輸入が減ったことが最大要因という状況だった。

当初方針通り消費税増税すると断言する材料にはならない。増税を先送りする決断をした時は、衆院解散の流れは止まらないだろう。

■慎重居士・岸田氏も「同日選の雰囲気は感じる」

慎重すぎて面白みがないという評価が定着している自民党の岸田文雄政調会長も同日選について「そういった雰囲気は感じている」と、踏み込んだ発言をし始めた。

共同通信社が5月18、19日に行った電話世論調査では47.8%が衆参同日選を「行った方がいい」と回答。「行わない方がいい」の37.2%を上回った。永田町の空気も、世論も同日選容認に傾いているようだ。

そこに、菅氏の発言により(形式的ではあるにせよ)野党の出方が注目されるようになった。6月26日の会期末を巡り、与野党の複雑な心理戦が続くことになる。

(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)

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