小学生も"やせたい"という日本社会の異常

プレジデントオンライン / 2019年5月28日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/ShotShare)

「やせすぎ」の女性が増えている。小学校高学年では女子の70%が「やせたい」と思っているという調査結果もある。政策研究大学院大学の鈴木眞理教授は「思春期のやせ願望がファッション性の追求というのは誤解だ。背景にはつらい現実から目を背けたいという心理がある」と指摘する――。

■小学校高学年女子の70%が「やせたい」

日本人女性で「やせすぎ」の増加が問題になっています。日本の20~50歳代の女性のやせ(BMI18.5未満)の割合は、いずれの年齢階級も10%以上で、特に20歳代では21.7%と、5人に1人です。驚くことに、平成25年度の20代女性の1日の平均摂取エネルギーは1628kcalで、第2次世界大戦直後の1696kcalを下回っていました。日本のミスユニバース代表のBMIの変遷を見ると、1959年:19.5、2006年:18.4、2012年:17.3になり、明らかにやせすぎです。

ダイエットの低年齢化も起きています。平成13年に首都圏の小学4~6年生を対象に行われたベネッセの調査では、普通体型の女児の70%がやせたいと思っており、やせたい理由は「自分に自信がもてる」「人からバカにされなくなる」などで、小学生がすでに、やせが自信や自分の価値につながると認識していることが分かりました(ベネッセ教育開発センター「モノグラフ・小学生ナウ VOL.21-2」2001年)。

注目すべきは、健康を害してでもやせたいと思う児童は、そうでない児童に比べて他人の評価を気にする傾向があり、学校や家庭でのストレスをより多く感じていたことです。ストレスから逃れるために安易にやせにのめりこんでいくという傾向が認められました。

■骨のピーク量は「15歳まで」に決まってしまう

女性のやせはどのような健康被害をもたらすのでしょうか? 脂肪はダイエットの敵と思われていますが、体重の20~30%を占める最大の「臓器」です。脂肪細胞からは食欲や代謝に関わる重要な物質が分泌されていて、その一つであるレプチンは性腺機能に重要です。

女性では、体脂肪が15%以下になるとレプチン低下によって卵巣からの女性ホルモンが低下し、無月経になります。女性ホルモンは女性らしい皮膚や頭髪、ウエストのくびれた体型を維持します。女性に心筋梗塞が少ないのも、女性ホルモンのおかげです。

加えて、女性ホルモンには骨が過剰に壊されないようにする役割もあります。骨カルシウム量が減り、骨がスカスカになって骨折しやすくなる病気が骨粗鬆症(こつそしょうしょう)です。高齢者が寝たきりになる三大原因の一つは骨粗鬆症関連の骨折です。

その予防は思春期に始まっています。日本人女子の場合、14~15歳に全身の骨カルシウム量のピーク値(Peak bone mass)が決まります。この値を高くすればするほど、骨粗鬆症のリスクが低減しますが、低栄養と女性ホルモン不足はPeak bone massを低下させるのです。

■健康のためには「一生涯やせないこと」が重要

思春期以降にも体重は骨カルシウム量に影響を与えます。日本人の19~25歳の健常女子学生の場合、正常な骨密度を維持するためにはBMI20.8以上が必要です(※1)。成人女性の骨カルシウム量が低下するリスクは、20歳時と現在のBMIがともに18.5以上の女性を1とすると、「両時期とも18.5未満」では3.94、「現在のBMIだけが18.5未満」の場合は2.95に上がります(※2)。

※1) Miyabara Y, Onoe Y, Harada A et al.: Effect of physical activity and nutrition on bone mineral density in young Japanese women.J Bone Miner Metab 2007;25:414-8.

※2) Tatsumi Y1, Higashiyama A, Kubota Y et al.:Underweight Young Women Without Later Weight Gain Are at High Risk for Osteopenia After Midlife: The KOBE Study. J Epidemiol 2016;26:572-578.

この結果から、女性は一生涯やせないことが重要です。やせは、重力による骨への負荷の減少、栄養不足、女性ホルモンの低下を伴うからです。

また栄養状態は妊娠・出産にも影響します。現在では「成人の健康や特定の病気へのかかりやすさは、胎児期や生後早期の環境の影響を強く受けて決定される」〔Developmental Origins of Health and Disease(DOHaD)〕という概念が認められています。母体の栄養状態が悪いために小さく生まれた子供は、成人期に動脈硬化性疾患や2型糖尿病、高血圧、うつ病が併発しやすいことが明らかにされたのです。

■初潮が遅れたり、無月経になったりする

心理的な原因で小食やむちゃ食いをする病気を「摂食障害」と言います。極端にやせる「神経性やせ症」(マスコミでは拒食症)と、過食後に嘔吐したり下剤を乱用したりする「過食症」があります。両疾患とも女性のcommon disease(一般的な疾患)になりました。

厚生労働省調査研究班の疫学調査では、拒食症は小学4年生から見られ、中学生で急増して、女子高校生の有病率は地域差があるものの0.17~0.56%。これは米国の13~18歳女子の有病率と同じかそれ以上です。過食症はやせていないので、見た目で発見できず、有病率は拒食症の5~10倍と見積もられています。

拒食症では栄養状態の悪さから、体が省エネモードになるため、低血圧、徐脈、低体温になり、女子は初潮が遅れたり、無月経になったりします。低血糖、肝機能障害、不整脈、感染症などの重症の合併症があり、入院治療を受けた「神経性やせ症」患者の死亡率は6~11%という報告もあります。成長期に発症すると身長の伸びが悪くなり、青年になっても骨粗鬆症や嘔吐による歯の喪失などの後遺症があります。

■「無理なダイエット」が必ずリバウンドする理由

拒食症になると、少食、低カロリー食品の摂取、過剰な運動、長風呂など、体重を増やさない行動をとります。一方で、料理番組や料理雑誌を食い入るように見る、食品売り場巡りをする、有名で高級な食品にこだわる、大量の食料品を隠し持つ、料理好きになり家族に無理やり食べさせる、栄養士や調理師を志望するという、食に執着する異常な行動をするのも特徴です。

これは飢餓の反動です。無理なダイエットが必ずリバウンドするのは、生体の防御反応だからです。拒食症の経過中にも過食が始まります。しかし、患者はやせたいので自分で嘔吐したり、市販の下剤を乱用したりします。脳の反応なので、低栄養が改善しない限りは止まりません。

小食にもかかわらず大量に食べたと虚偽を言い張り、病気だと認めずに周囲を困らせることもあります。これは大きさや味覚に対する認識が狂うからです。飢餓が重大な精神症状や人柄の変化をもたらすことは意外にも知られていません。

1940年代に米国で強健な男性に約60%のカロリー制限食を6カ月摂取させる臨床試験が行われました。拒食症に似た食への執着が見られ、試験後に全員が過食になりました。さらに、不眠、気分の不安定、思考力の低下、社会性や人格の変化、認知の偏り、病的な頑固さなどの深刻な精神的合併症や、ささいな窃盗が見られました。

■人生がうまくいかない時に「やせたい」と言う

拒食症のやせ願望は「似合う服を着たい」「もっとかわいくなりたい」といったファッション性の追求だと誤解されがちです。しかし、やせの最大のメリットは、やせるとつらい現実を考えないで済むような気分になり、達成感、優越感、安心感、周囲の関心、義務の免除などの誤った代償を得られることです。

つらさに対する感受性が鈍くなるので、いじめられていても通学でき、つらい練習や勉強もこなせるようになります。やせてから成績が上がることはよく経験されます。

患者さんは「やせる行動にかまけていると楽だ」と言います。反対に、体重を増やすことは嫌な現実に立ち向かうことを意味しているので治療を拒みます。体重が回復すると不登校や引きこもりになることもあります。体重の数字が怖いのではなく、健康体重になって困難な現実に直面するのが怖いのです。

摂食障害は人生がうまくいかない時にかかる病気です。多くの場合、学校や習い事に追い立てられるような生活、勉学や進路の悩み、人間関係(クラス、部活動など)、家族内葛藤など、理想が高く完璧主義の本人が思い通りにいかないことや心身の疲労の積み重ねが背景にあります。そんな時に「ぽっちゃりしている」と言われたり、クラブでレギュラーに選ばれなかったりという、思春期にはよくある出来事が引き金を引いて発症するのです。

■「手のかからない良い子」が拒食症になりやすい

発症は遺伝因子と環境因子の相互作用だと考えられています。家系内にも拒食症患者がいたり、2卵性より1卵性双生児で発症の一致率が高かったりと、遺伝素因があることは推測されています。

発症しやすい性格傾向も指摘されています。「手のかからない良い子」と評されますが、良く思われたい気持ちが強く本音を出せなかっただけです。自己評価は低く、不安症で他者からの評価に過敏です。

また、「全」か「無」の発想、関係ない出来事と自分を関係付ける、自分を追い詰める「すべき」思考などの認識の偏りも強く、ストレスを作りやすく、ためやすく、発散するのが苦手です。家族が心配性で過保護で本人に失敗・挽回の経験が少ない場合、ますますコーピングスキル(問題対処能力)が未熟なままになります。

対応は、当面のストレスと思われる問題を軽減します。ただ、ストレス要因を容易に除けることは少ないので、コーピングスキルの向上を図ることが最終目標です。拒食症患者は誰にも本音を言えずに孤独を感じており、自己主張、感情を言葉にする、頼む、断る、相談することが苦手です。家族は思春期を経験してきた先輩としてモデルを示すことが重要です。

■体重が増えても「太った」「前のように頑張れ」と言ってはいけない

低体重や飢餓による精神症状は知的作業である精神療法の障害になるので、ある程度の体重増加は急ぎます。加えて、日常生活の出来事をテーマにして適切な対処法を学び、実際に試していくという援助をします。「生きやすさ」の獲得ですから、医療機関だけでは達成できず、ご家族、学校、周囲の方々の協力のもと本人が体験しながら力をつけていくしかありません。

コーピングスキルが向上し、思春期にありがちな問題にどうにか対処できるようになりながら、体重と食行動も改善していくという地道な作業です。特効薬も、保険に適用された薬剤もありません。

薬剤は胃腸症状や抑うつ気分などに補助的に使用します。周囲の人には、体重増加で現実に近づくつらい気持ちを理解して、「太った」「元のようにまた頑張って」「体は治ったのになぜ登校できないの」などの声かけは慎んでほしいと思います。

新体操や体操、陸上競技など低体重が記録や成績に影響する競技では、指導者が無理な減量や、月経が止まるほどの練習を強いている場合があります。日本陸上競技連盟から指導者向けに「ヘルシーアスリートをめざして2014」が出され、女子アスリートの健康問題の3主徴、Low energy availability(摂取カロリーより運動カロリーが大きい)、無月経、骨粗鬆症に注意するように警告がされていますが、現場での教育は不十分です。

■医学情報に基づいた「健康被害のないダイエット」はできる

摂食障害を予防するためには学校による対策も必要です。提言としては、①完璧主義、過剰な頑張りへの礼賛を考え直す、②クラブ活動におけるダイエットに厳格な節度をもつ、③ストレス対処能力を高めるような講義を授業の中に組み入れる、が挙げられます。

若い女性がファッション性からやせたいと思うのは理解できます。ただ、21世紀の科学の時代には、正しい医学情報に基づいた、健康被害が起こらないダイエットができます。医学的に減量の必要のない女性が、健康被害を招きかねないダイエット情報をうのみにしないようにメディア・リテラシーの教育も強化したいものです。

もし、お子さんが必要のないダイエットに没頭している場合は、何か困っていることはないか、心身とも疲弊していないか、逃避したい課題を抱えていないかを気遣いましょう。そして、必要なダイエットは医師や管理栄養士などの専門的知識を得て行いましょう。

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鈴木 眞理(すずき・まり)
政策研究大学院大学 教授/医学博士
日本摂食障害学会理事。1979年長崎大学医学部卒業、1981年東京女子医科大学付属病院内科2練士研修医。1985年東京女子医学博士学位取得、アメリカ・ソーク研究所神経内分泌部門留学。1999年東京女子医科大学内分泌疾患総合医療センター内科准講師。2002年より現職。日本内分泌学会理事、日本摂食障害学会理事、一般社団法人日本摂食障害協会理事。

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(政策研究大学院大学 教授/医学博士 鈴木 眞理 写真=iStock.com)

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