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余裕がない人ほど職場をダメにする仕組み

プレジデントオンライン / 2019年5月28日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/SilviaJansen)

例えば職場に自慢話ばかりする上司がいる。いつもイライラさせられるが、どう対応すればいいのか。慶應義塾大学の前野隆司教授は「なぜ自慢話にイライラするのかを考えてみるといい。相手を変えるより、自分を変えることを考えた方が手っ取り早い」とアドバイスする――。

※本稿は、前野隆司『幸せな職場の経営学「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)の一部を再編集したものです。

■自慢話ばかりする上司にウンザリ

大多数の方は、可能なら幸せに働いた方がいいということに異論はないでしょう。

しかし、職場にはさまざまな問題や課題があります。幸せに働くことなど、そう簡単にできるはずがない。うちには無理。言下にそうおっしゃる方も現実にはまだ多いのが実情です。

しかし、私はさまざまな企業や職場で共同研究や事例収集を行っていますが、そうした企業でお話を伺うと、職場における課題や悩みは業種や業態は違っていても、ある程度、似通っているケースが少なくありません。

ここでは、職場における悩みについて、幸福学や心理学に基づく解決策をご紹介します。

「自慢話ばかりする上司にうんざりしている。どうしたらいいか」【30代・金融】

社内のみならず、飲みの席でもひたすら自分の武勇伝や理想、理念を押し付ける上司というのは、どの組織にもいるものです。自分が嫌われていることに気づいていないから、「獲物」を見つけたら1分でも長く話したいという欲求を発散してしまうのかもしれません。管理型社会の中で対人関係について学び、人格を成長させる機会を逃した残念な方と言うべきです。

この状態を改善させる2つの方法を、幸福学や心理学の見地から述べてみましょう。

■嫌味なく「どうしてそんなにしゃべるんですか?」

まず1つ目の方法は、ややチャレンジングですが、対話によって、相手に話が長過ぎることに気づいてもらうこと。心理学用語で「アサーション(率直・素直、かつ相手のことも気にかけた主張)」と言います。

相手に、周囲の困惑や懸念について気づいてもらうためには、心の底から相手に興味を持ち、純粋な興味や関心、大胆に言ってしまえば、「愛」を込めて相手に聞いてみるのです。

「どうして、そんなにたくさんしゃべるんですか?」と。

相手は一瞬、戸惑うかもしれませんが、あまり嫌な気持ちにはならず、「あれ? どうして自分はこんなに長く話すんだろう」と自問するでしょう。

ここでの対話のコツは、皮肉や批判からではなく、「純粋に相手のことを知りたい」という気持ちからの問いかけであるべきだということです。相手の様子を慎重に慮りながら、「思ったことを素直に尋ねる」といった態度が重要です。

これは、あなたの対話力を鍛えてくれる大きなチャンスなのです。

■相手にイラっとしたときに使える「メタ認知」とは

2つ目は、話を聞く側の態度を変えること。私自身も実践している「王道の技」があります。

まずは、相手の話を「傾聴」してみます。「傾聴」とは、心を込めて耳を傾け、相手の話を興味深く聴こうと心がけること。これも対話のポイントの一つです。

私も、昔は話が長い人や要点がまとまっていない人と話していると、「もっと簡潔に話せよ」とイライラすることもありました。

しかし今は、じっくり相手の話を聞いた後で、「この人は過去に何かあって、こういう話し方になってしまったんだろうなあ」と冷静に相手の立場に立って判断できるようになりました。

このときに冷静になる一番の方法は、「メタ認知」という方法です。

自分の感情を客観的に、外側から見てみるのです。

相手の話を聞いていて自分の心がイラっとしてきたら、それも客観的に観察します。

「あ、自分は今イライラしているぞ。これはサインだ」と考える。そしてその瞬間、自分は目の前にいる人の話を聴きたくてたまらないのだという傾聴のモードに「あえて」変換してみます。意識して、その人の話に溶け込むようにするのです。

自分がイラっとしてきたときほど自分の感情にとらわれずに、自分の意識を相手に集中し直す。すると、相手は自分の話をしっかりと聞いてくれることがわかると安心するのか、言いたいことが伝わったと思うのか、その後の話が短くなることもあります。

また、聞く側もイラっとしていませんから、それまでほど話が長いとは感じません。

■幸せな社員は創造性が3倍高い

つまり、相手は簡単には変えられないので、自分が変わるべきだということ。

こちらが変われば、相手も徐々に変わっていくのです。人によって変化速度は異なりますが。

そのように自分の心の動きを客観的に見つめることを繰り返しているうち、周囲の言動によって、すぐに腹を立てることやイライラすることが徐々に減っていきます。嫌な上司の自慢話も、自分の傾聴とメタ認知のためのトレーニングと考えてみてはいかがでしょうか。

「経営陣からは新規事業開発や事業イノベーションを求められるが、簡単に良いアイデアが生まれるはずがない。現場は日々の業務をこなすのに精一杯で、そんな余裕もない」【40代・メーカー】

幸せな社員は不幸せな社員より、創造性が3倍高い。エド・ディーナーらの論文によると、幸福度の高い人はそうでない人に比べて、創造性は3倍、生産性は31%、売り上げは37%高い傾向にあります。

また幸福度の高い人は、職場において良好な人間関係を構築しており、転職率・離職率・欠勤率はいずれも低いという研究データもあります。

こうした創造性の研究結果からもわかるように、幸せとイノベーションは相関しています。つまり、イノベーションの起きる職場は幸せな職場、イノベーションが起きない職場は不幸せな職場とも言えます。

■アインシュタインも取り入れた「マインドセット」

イノベーションを起こすためには、「幸せに働くこと」が一番です。

しかし、イノベーションがなかなか起きない不幸な職場が多いのも事実です。ブレインストーミングをしても良いアイデアが出ない、どれも似通ったアイデアばかりで目新しさがないなど、多くの企業が閉塞感に悩まされています。

「ある問題を引き起こしたのと同じマインドセットのままで、その問題を解決することはできない」――アルベルト・アインシュタイン

これは、社会課題解決やイノベーションを語る上でしばしば用いられるアインシュタインの言葉です。今の組織に求められることは、まさにこのマインドセット(個々の思考様式のこと)の変革です。

広く一般的な事象はもちろんのこと、ビジネス界でも、この十数年の間にそれまで当たり前であったことが見事に崩壊し、思いもよらないようなビジネスが台頭してきました。特にテクノロジーの進化は目覚ましく、過去を踏襲するだけではまったく太刀打ちできません。マインドセット変革のためには、世界と自分を俯瞰しつつ、多様な人や自分と対話することが有効です。

すると、世界と自己を深く知ることができ、何が課題で、どんな変革が求められているかが浮き上がります。家族や友人、会社のチームメンバーたちとの対話のみならず、ブレインストーミングも有効でしょう。

■日ごろの業務以外で「ワクワクする」ことをつくる

たとえば、ANAホールディングスには、「デジタル・デザイン・ラボ」(以下、DD‐Lab)という新しい組織があります。2016年4月に立ち上がったDD‐Labのミッションは、「やんちゃ」な発想で「破壊的イノベーション」を起こすこと。既存事業の枠にとらわれない、新しい技術やビジネスモデルの可能性を、トライアル&エラーを繰り返しながら探究し続ける、まさに「ラボラトリー(研究室、実験室)」です。

ラボのメンバーには、エンジニアや空港スタッフ、マーケッター、キャビンアテンダントなど多様なキャリアの人々が集められました。

DD‐Labのチーフ・ディレクターを務める津田佳明さんは、さまざまなバックボーンを持つ個性的な部下たちが、自分のやりたいことに対して失敗を恐れずにチャレンジできるようなチーム作りを実践するリーダーです。

前野隆司『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)

津田さんは、突拍子もないアイデアやビジネスモデルを頭ごなしに否定することなく、部下との対話を通して、リスクやメリットを明確化し、その上で「行ける!」と思ったプロジェクトに関しては、部下たちを信じ、任せています。

仮に失敗したとしても、そこはリーダーとして責任をとる覚悟を持っておられます。チームメンバーそれぞれが、やりたいことに邁進できる環境作りもリーダーに求められる資質の一つなのです。

私が勤めていた頃のキヤノンにもイノベーティブな思考を喚起させるような取り組みがありました。過去にGoogle社なども導入して話題となった「20%ルール」です。勤務時間の20%を、通常業務とは異なる自分が取り組みたい研究やプロジェクトに使える制度です。

キヤノンという企業全体の制度ではなく、私が所属していた研究所の所長が発案し、責任を持って取り組んだ試みでしたが、大変ワクワクしたことを覚えています。

毎日同じ業務ばかり遂行しているとマンネリになり、クオリティも低下しがちです。

そこで、たとえわずかな時間でも自分が心から「やってみたい!」と思える事柄に取り組む。これがモチベーションアップにつながり、ひいてはイノベーションへとつながるのです。

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前野 隆司(まえの・たかし)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授
1962年山口県生まれ。84年東京工業大学工学部機械工学科卒業、86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等などを経て、2008年慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年同研究科委員長兼任。17年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、など。『脳はなぜ「心」を作ったのか』『錯覚する脳』(ともに、ちくま文庫)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)など著書多数。

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(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授 前野 隆司 写真=iStock.com)

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