"1万人に1人"を志すと転職で失敗する訳
プレジデントオンライン / 2019年5月27日 9時15分
※本稿は、松本利明『「いつでも転職できる」を武器にする』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■キングコングの西野亮廣さんが伝えたやり方だが……
1つのキャリアを5年~10年ほど経験して1人前となり、その掛け算で希少性を獲得しましょう――この「100人に1人」の領域や実績をつくり、それを3つ掛け合わせると唯一無二のオリジナルの存在になれるというキャリア形成の話はきいたことがあるでしょう。
元リクルートの藤原和博さんが提唱され、キングコングの西野亮廣さんを含め、今、時代を動かしている識者が伝えているものです。
たしかに、藤原さんや西野さんがご自身の例をもとにした解説をきくと納得感があります。しかし、普通の人がご自身の経験や実績からこの方程式で自分をブランド化しようとすると成り立たず、悩むのです。
ひとつやってみましょう。あなたが「人材紹介の営業マン」だとしましょう。
最初は普通に今の仕事を置いてみましょう。
続いて、経験や知見がある。相性がよさそうな分野「マーケティング」を掛けてみましょう。
かなり、よさそうですね。最後に業界の「人材紹介」を掛けてみると、
とループしてもとに戻るのです。普通に働いているとこの「3つ目」に掛けるものが中々見つからないのです。
なぜかというと会社は、今、あなたが担当している仕事を基本にして、できそうな仕事しかアサインしてくれないからです。
なぜなら、毎回一から新しい仕事を覚えてもらうのは時間もかかります。会社はあなたに現場で成果を出してもらうことを第一に考えるので、どうしても関連した仕事を任せるか、よくて同じ仕事で昇進になってしまうのです。
■あえて土俵を移し、「よそ者」になってみる
100人に1人の特技を3つ掛け合わせるブランディングは普通のビジネスパーソンで成り立たせるのは難しいと解説しました。では、普通のビジネスパーソンはどうすればいいのでしょうか。頂点を目指すのではなく、スライドしてオリジナルの価値を「見いだして」いけばいいのです。具体的に解説しましょう。
普通にキャリアを考えると、業界やその会社で上に登ることになりますが、上にいけばいくほど狭くなります。ライバルも同期だけではなくなります。上司や先輩、先人の識者などで上は詰まっているからです。熾烈なポジション争いになります。
しかし、苦労して1ミリでも上に上がっても、下のマーケットは増えていきません。まさに血の雨がふるレッドオーシャンになります。そこで発想を変えましょう。
今の居場所で自立して一人前になったら、勇気を出して横の山に進むのです。対象となるマーケットを移し、そのマーケットでよそ者の視点と知見から、新しい価値を提供すればいいのです。
同じマーケットを相手にしていると同じような思考パターンに陥るので確実に喜ばれます。ライバルもいないので一人勝ちになります。
キーは、逆張りです。ライバルがいないか少ない「アウェイ」にスライドし、自分の資質や経験の中から、相手に喜んで貰えそうなことを行えばいいのです。
有名人ではなく、普通のビジネスパーソンで成功するパターンを紹介しましょう。
■役者と営業の二足のわらじでブレイク
Aさんは30歳まで役者を目指して挫折。初めての就職は研修会社の営業。役者で培った洞察力と度胸が活き、あっという間にトップ営業へ。しかし、役者の夢は諦めきれず、35歳で再度劇団へ。役者をする傍ら、スポンサー集めの営業をしたら大成功。役者は演技力があっても営業力はない。逆にAさんは演技力が並でも営業力がある。
結果、Aさんは劇団の幹部へ大昇進。現在は元役者の演技力をベースにした営業研修でブレイク中。
資質を活かしてライバルがいない分野にスライドして成功した典型です。
同様にIT系はどの会社もエンジニアの確保に苦しんでいます。なので、エンジニアから人事にスライドすると美味しいキャリアになります。エンジニアの立場や気持ちがわかるので、エンジニアに響く人事の打ち手が湧いてくるからです。職人や職人の意見を聞くようにエンジニア出身だと現場との心の距離感は近くなります。
55歳で大手のシステム会社で役職定年になったBさん。マネジャーまで出世できなく、上司の8割は元部下や後輩。技術も過去のもので窓際族でした。
そこで、過去の経験を洗い出し、成長中のIT会社の社長が困っていることで、他のエンジニアが苦手なことをピックアップ。30年以上のプロジェクトの中からメンタル不調者や退職者がでなかった経験に着目し、そこを売りにしてアプローチした結果、伸び盛りのITベンチャーの管理部門の執行役員に転職が決まり、年収も2割アップしました。
■上だけを目指すキャリアが危険なワケ
私の友人である早川哲朗さんは、元日本を代表するDJの一人でしたが結婚を機会に土日仕事のDJを減らし、インタラクティブプロデュース業を行う一方で、子守もできるし、周囲もハッピーにできるので趣味だった牡蠣バーベキューを発展させ、牡蠣尽くし料理会を展開。子供の学校や友達家族を巻き込み、家族ぐるみで楽しめると評判となり、収益化に成功。元DJらしく楽しませる演出力を活かした結果と言えます。
上だけを目指すキャリアは危険です。AIやロボットをはじめ、テクノロジーの変化で仕事がなくなってしまうと道がなくなるからです。
視野も狭くなります。天井を見ると床が見えなくなることと、不思議と一緒なのです。視野が狭く上しかみなくなるので、環境変化に疎くなります。上がなくなると全てがパーになるので、上があるはずだと信じ続けるようになるのです。
「この道一筋40年。ある技術の世界的権威で研究所にいたのですが、テクノロジーが変わり私の技術がいらなくなりクビになりました」という笑えない状況が起きてしまうのです。
残念ながら、こうなってからでは手遅れです。
今、横を向けば天井や床も視界に入るように、スライドすることを意識さえすれば、おのずと変化とチャンスに敏感になります。
ここでは逆張りでスライドして成功するパターンを3つ紹介しました。いかかでしょう。
これならあなたもできそうな気がしてきたでしょう。まだまだパターンはあります。あなたにピッタリのパターンが見つかることを約束します。
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人事・戦略コンサルタント、HRストラテジー代表
日本人材マネジメント協会執行役員。外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。『「稼げる男」と「稼げない男」の習慣』(明日香出版社)、『「ラクして速い」が一番すごい』(ダイヤモンド社)など著書多数。
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(人事・戦略コンサルタント、HRストラテジー代表 松本 利明 写真=iStock.com)
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