西野亮廣が「いいっすね」を連呼するワケ
プレジデントオンライン / 2019年5月24日 15時15分
■「作家は書く人、売るのは出版社」は正しいか
――『新・魔法のコンパス』を読んで、西野さんの発信力の強さの秘密がわかりました。自分で本を売る力のある西野さんにとって、出版社にはなにを期待しているんですか。
【西野】ときどき、「売る能力のある作家はもう出版社を通さなくていいんじゃないか」という意見を耳にします。お金だけの面でいうと、たしかにそうかもしれません。しかし、僕はむしろお金を払ってでも出版社から本を出したいです。
本屋さんの棚面積を個人で押さえるのは、なかなか難しくて、そこには出版社が長年かけて積み重ねた信用が必要だからです。
本屋さんに関しては、地方の70歳、80歳のおじいちゃんおばあちゃんも自分の作品の前を通ってくれますが、ネットではその層にリーチできません。ネットの中で生きていると、それが世界のすべてみたいになりますが、日本の99%は田舎でほとんど高齢者。ネットなんて誰も見てないです。
僕が出ている「なんばグランド花月」という吉本の劇場には、毎日観光客の方が900人くらい来られますが、ネットでバズったワードなんてまったくウケませんから。
――出版社に求めているのは、棚を確保する機能だけですか。たとえば従来、出版社が担っていた販促力はどうでしょう。
【西野】その努力も絶対必要だと思います。そこはサボっちゃダメですよ。
――最近、幻冬舎の見城徹社長が作家の津原泰水さんの実売部数を明かすなどツイッター上で揶揄し、謝罪に追い込まれました。あの衝突の背景には「作家は書く人、売るのは出版社」という分業意識がありそうです。今後、作家と出版社の役割はどう変わっていくのでしょうか。
【西野】僕ら世代は「いいものを作れば売れた時代」を経験していません。僕はタレントとして2000年、本書く人としては2009年デビューで、TVバブルと出版バブルも経験していないんですよね。不況ネイティブ世代なので、常に「作家が売らなきゃいけないだろう」と思っちゃってる。
一方、バブル時代を経験されている方が、「作家は書く人、売るのは出版社」と思うのも自然なことで、どっちが正しいという話じゃなくて、たぶん生きた時代が違うんですよね。
■数字から目を背けるのが一番気持ち悪い
――西野さんが本を作るときは、クリエイターとして作品ありきで考え始めるのか、それとも最初から売ることを射程に入れながら考えていくのか。どちらでしょう。
【西野】絶対に作品ありきです。とはいえプロなので、数字から目を背けるつもりもありません。
僕が一番気持ち悪いのは、「売れてるものは悪だ」みたいな雰囲気。
その理屈を通してしまうと、文化ごと死んでしまうので、ちょっと苦手かもしれないです。
よく言われますが、出版の世界も売り上げの上位2割が下8割を支えています。売れている作品のおかげで、売れていない作品が世に出せているわけですね。少なくとも全作家が処女作で、その恩恵を受けている。
業界全体を支えるためにも、売れてるものは認めないといけない。その作品が好きかどうかはまた別の話ですが、売れている本があれば、僕はその理由を考えたいです。
――それを考えようとしない人を、西野さんはどのようにご覧になっていますか。
【西野】一緒に頑張ろうとは思いますけど。それ以上は言いません(笑)。作り手は人のことをワッと言うんじゃなく、その時間を使って自分の作品を手売りしたほうがいい。そのほうがみんな幸せになるし、僕はそっちのほうが好きです。
■目標は「勝敗を可視化」するための手段
――本を書くとき、部数の目標は立てますか。
【西野】一応アホみたいな目標は立ててますね。
毎回「100万部!」とか言っちゃってます。
――だとすると、どうして目標を掲げるのでしょうか。壮大な目標を掲げると、作品作りに何かいい効果がある?
【西野】ゴールを設定すると勝敗が可視化されるので。僕が来年出す映画は「ディズニーを超える」と宣言しています。そうやってぶち上げると、実際にその年のディズニー映画の数字と勝敗がつくじゃないですか。勝ったらすごいことだし、負けたら負けたで、「じゃあ西野を応援しよう」となる。もし目標を掲げていないと、1位ディズニー、2位西野と並んでいても、「頑張ったじゃん」となるので。
作り手は応援者を増やさなければいけませんが、そのためには物語と勝敗が必要です。それを可視化するために目標を掲げますね。
漫画『ONE PIECE』がどうして人気があるかというと、ルフィが「海賊王になる」とぶちあげるからですよね。ルフィが負けて逃げてるときって、すげえ物語がある感じがするじゃないですか。あの瞬間、ルフィは負けているけれど、読者は減っていなくて、「ルフィはここからどうやって巻き返すの?」と興味を引かれて、むしろ応援してくれる人が増えているはずです。
■自分のファンを増やすストーリーの描き方
――西野さんも、あえて負けを作ることがある?
【西野】漫画を描くように自分の人生をデザインしています。心情的には、ぜんぶうまくいきたいです。でも、ルフィが全戦全勝している物語なんておもしろくない。だから僕も、ここは大負けしておいたほうがいいと思ったときには大負けします。主人公の感情曲線をちゃんと自分の人生に置き換えてやるという。
――負けが逆に勝ちを呼び込むんですね。
【西野】オンラインサロンが分かりやすいかもしれないです。オンラインサロンは入会者と退会者の数字が毎日出るんですけど、プロジェクトが失敗したときは退会者が減って、逆にうまくいった状態が続くと退会者が増えていくんです。それがわかると、「成功とは何か?」という話になってきて。成功の指標は、何万部売ったかじゃなくて、ファンが増えるどうか。僕の中では物語を描ければ成功で、描けなければ失敗です。
ほんと、守りに入れば入るほど数字は如実に減っていきますよ。だから毎回振り切って、ときどき死にかけてます(笑)。
――最近も死にかけたことがあったのですか。
【西野】いま美術館をつくっているんですが、勢いで美術館用の土地をバンバン買っちゃって、税金が払えなくなりそうになっちゃいました(笑)。当初の見積もりは3億円だったのに、いろいろやっているうちに15億円になってしまって。その瞬間は会社自体が死にかけました。スタッフからは「3月まで1円も使うな」と言われたときは大げさだと思ったんですが、ほんとに1円もダメで、マジなんだと(笑)。
これも全部オンラインサロンに公開して、みんな「おもしれえじゃん」と言ってくれたから成功です。そうやって応援してくれる人がいれば、なんとでもなります。
■僕が会社員なら“許され力”を伸ばす
――会社員が自分のやりたいことをやる場合は、どうやってファンをつくればいいでしょうか。
【西野】遅刻しない人間になるんじゃなくて、遅刻しても許される人間になるっていう(笑)。その“許される力”を伸ばすといいかもしれません。ええ感じにデレデレして謝るとか、キレられかけたら抱きついてクリンチに行くとか、どこか抜けていてかわいいところがある「もうあいつだからしゃあないよな」という人間になれば、たいていのことを通せます。
そんなポンコツ人間は、ロボットに代替されないし、いろいろオイシイです。
――西野さんは昔から、許されキャラだったんですか。
【西野】そうかもしれないですね。世間の皆さんには怒られるんですけど、同業者で一緒にお仕事した人にはあまり怒られないです。もともと師匠っ子で、じっちゃん芸人とよく飲んでいたから、そういうのは得意だったかもしれないです。
昨日も品川庄司の品川さんに呑みに連れていってもらったのですが、酔っ払って序盤で寝てしまっても、お咎め無しでした。
――許されキャラになるために心がけていたことはありますか。
【西野】とにかくよく笑うことと、リアクションをよくすること。何を聞いても、「いいっすね」「最高っすね。やりましょう」みたいな(笑)。飲んでるときはそれしか言ってなかったなあ。
――意外です。歯に衣着せず、「それ、間違ってますよ」と生意気なことをいうタイプかと思っていました。
【西野】イエスマンになることを選んだ方が賢いと思いますよ。上も下も含めてみんなアイデアは持ってるけど、実行できないという人がほとんど。だから、僕が「それいいっすね。やりましょう!」って言って実際にやっていくと、みんなアイデアをどんどん持ってきてくれるんです。その結果僕がコケたら、そのアイデアを持ってきた人は「次はいい思いをさせてやろう」と、もっといいアイデアを持ってきてくれます。もう最強ですよね。
■情報が蓄積される「プラットフォーム」になれ
――批評家タイプについては?
【西野】それが一番頭が悪くて。外からの情報が入ってこないから、自力でインプットするしかなく、しかも自分一人の経験値しかない。もう2~3年もすれば、イエスマンと情報量にすごい差が出ちゃうと思いますよ。
後輩でホームレス小谷ってやつがいるんですが、イエスしか言わない。以前、その小谷が急に宗教のことにむちゃくちゃ詳しくなっていたので、聞くと、知り合ったお坊さんに「飲みに行こうよ」といわれて「行きます!」と飲みに行ったみたいで。それでお坊さんから「こんなのしてみたら?」と言われたら、小谷は「やります!」と実行しまくって、お坊さんも小谷のことを面白がってたくさん濃い話をするから、宗教に関する小谷のインプットが急激に増えたという。だから小谷は会う度に賢くなってますね。行動を起こせば情報がどんどん蓄積されていく。自分が情報のプラットフォームになるということですね。
――いざ実行の段階で、社内やチームの頭の固い人からブレーキをかけられることもあると思います。西野さんはいままで、そうした壁をいかにして突破されてきたのですか。
【西野】ダメと言われたら、もうゲリラでやっちゃいます。幻冬舎から『えんとつ町のプペル』という絵本を出すとき、ネットで全ページ無料公開したら、大炎上しました。社長の見城さんも担当編集者に「そんなのよくない」と言ってたんですけどもう無視して、やっちゃいました。
上は結果が出ないと予想しているからブレーキを踏むのであって、ゲリラでやって結果さえ出せば、その理由もなくなります。実際、公開してすぐにアマゾン1位になったら、見城さんもすぐに「ごめんごめん!」と(笑)。
見城さんは最高っすね。大好きです。
もちろん失敗して死にかけることもあります。
その時は、そうですね……全力で謝るのがイイと思います。
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お笑い芸人、絵本作家
1980年兵庫県生まれ。99年梶原雄太とお笑いコンビ「キングコング」を結成。2000年、コンビ結成5カ月後にNHK上方漫才コンテスト最優勝を受賞。05年当時の代表番組『はねるのトビラ』ゴールデン進出時に、絵本制作に取りかかる。4年の歳月をかけて初の絵本『Dr.インクの星空キネマ』を09年に上梓。そのほか国内外の個展、小説・ビジネス本執筆、国内最大のオンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』を主宰するほか、美術館建設など幅広く活躍。著書に『革命のファンファーレ』(幻冬舎)『新世界』(KADOKAWA)『えんとつ町のブぺル』(幻冬舎)など。
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(お笑い芸人、絵本作家 西野 亮廣 聞き手・構成=村上 敬 撮影=湯浅 亨)
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