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なぜ日本の「自動運転」は遅れているのか

プレジデントオンライン / 2019年5月24日 15時15分

2018年10月よりアウディジャパンが販売する最上級セダン「A8」の新型モデル。車両本体価格は1140万円(税込み)から。日本ではレベル3の自動運転を「封印」されている。(写真=時事通信フォト)

■他国に比べて「法整備」の遅れが目立っている

5月17日、参院本会議にて改正道路運送車両法が成立した。この法律は、2020年をめどに高速道路における、自動運転の実用化やその一段階上の無人自動運転のサービスの実用化を目指している。

改正道路運送車両法の成立は、新しい“移動”のコンセプトを目指すために欠かせない。自動運転が実用化できれば、それまで運転が苦手だった人々の移動はかなり楽になる。移動をしながら別のことに取り組むという、これまでになかった生活のスタイルも実現可能だ。

ただ、わが国の自動運転技術開発などへの取り組みは、先進の他国に比べて大きく見劣りする。まず、各国に比べ法整備の遅れが目立つ。米ナビガントリサーチによると、世界の自動運転車システム開発において、トップは米アルファベット傘下のウェイモであり、米独企業が上位にランクインする。中国のIT大手バイドゥ(百度)が8位に入り、9位がトヨタ、10位がルノー・日産・三菱アライアンスだ。

わが国は「改正道路運送車両法が成立したから大丈夫だ」といっていられる状況にはない。政府は、より積極的に民間の意向をくみ取り、各企業が重視する“オープン・ノベーション”を促進するために、実証実験をサポートしたり規制を緩和することが求められる。それが、社会全体が安心してアクセスできる、新しい移動のコンセプト創造に欠かせない。

■「100年に一度の変革」を迎えた自動車業界

今、世界の自動車業界が大きな変革に直面している。それはトヨタ自動車の豊田章男社長によれば「100年に一度の大変革」だ。

変革を表すコンセプトとして「CASE」というキーワードがある。Cは、ネットワークとの接続性(コネクティビティ)を意味する。Aは自動運転のオートノマス、Sはシェアリングエコノミー(共有)を指している。Eは自動車の電動化(エレクトリック、EV化)だ。

今回の改正道路運送車両法(以下、改正法)は、CASEの中でもAの自動運転を対象にした法律である。国土交通省の資料によると、改正法が成立した理由は、現行の法律が自動運転車を想定していないことにある。つまり、テクノロジーの進歩に対して、国のルールが追い付いていない。

■レベル3の「アウディA8」が、レベル2に下がる日本

レベル3の自動運転では、高速道路などの特定の場所において、システムがすべての運転を行い、緊急時は人間が運転操作を行う。すでに2017年、独アウディはレベル3のシステムを搭載したモデルA8を発表した。

ただ、わが国では法制度が未整備であったためアウディは人間による運転を前提としたレベル2に抑えて発売している。改正法により政府は企業の先進的な取り組みにキャッチアップしたい。それでも、インフラ整備や自動運運転に対する社会の受容度という点で、わが国は欧州各国や米国に後れを取っている。

これは、軽視できない。わが国をはじめとする主要先進国にとって、自動車産業は経済成長を支える重要な基盤だ。組み立てのための労働需要や、3万~5万点に上るともいわれる部品の生産など、自動車生産は経済に無視できない影響を与える。

■新聞を読んでいるときに運転を要請されたら?

経済の屋台骨である自動車産業が世界全体で大変革を迎える中、わが国は安全と信頼性を両立させつつ、CASEの実現に向けた法規制や競争環境を実現しなければならない。レベル3の実現を念頭に置いた改正法を成立させた意義はあるが、それに満足してはいられない。

政府には、さらに先のテクノロジー開発を見越して、法制度の制定に向けた議論や、民間の実証実験への支援を期待したい。レベル3は、基本的に人間による操作を必要とする。レベル3の自動運転車両の場合、緊急時は乗っている人が操作を行わなければならない。システムがすべてを自律的に管理する自動運転ではないのである。自動運転システムが車を操縦している際に電話をかけたり、新聞を読むことができはするが、安心はできない。

見方によっては、レベル3には危ない部分がある。新聞を読んでいるときに急にシステムが運転を要請した際、とっさに状況を判断し、適切な操作を行うことは難しい。

■社会全体で納得できる自動運転のテクノロジーを

2018年には米ライドシェア企業、ウーバー(Uber)テクノロジーズの自動運転車両が死亡事故を起こした。地元警察は人間が運転していたとしても避けるのが難しい事故だったとしている。

問題は、自動運転車両が起こした事故の責任が、システム開発者にあるか、それとも乗車していた人間にあるかだ。この議論は難しく、「自動運転の実現はかなり難しい」と指摘する自動車業界の実務家もいる。

各国は、こうした議論を深めなければならない。それが、社会全体で納得できる自動運転のテクノロジーを生み出し、システムの能力向上につながるだろう。そのためには、より多くの実証実験を行うことが求められる。

実証実験を重ねれば、本当に実用可能な自動運転とは一体どんなものなのかも見えてくる。この考えに基づき、海外ではレベル4以上の自動運転テクノロジーの実証実験が進んでいる。中国では百度、ファーウェイ、ドイツではアウディなどがレベル4の実証実験に取り組んでいる。

■日本郵便がレベル4の実証実験に着手済み

レベル4の場合、自動運転システムで走行する範囲が限られるが、非常時に人間の操作が求められることは想定されていない。わが国では、日本郵便がレベル4の実証実験に着手した。そのほか、トヨタやホンダなども自動運転の実験に取り組んでいる。

足元、IT先端企業や物流企業など、多様な企業が、カーシェアリングやコネクテッドカー、EVの開発に取り組んでいる。CASEのコンセプトを実現し、付加価値の創造を目指そうとする民間企業の野心は、今後も高まるだろう。それに伴い、世界の自動車業界では、従来とは異なるプレーヤーを巻き込み、よりダイナミックに変革が進むはずだ。

大規模かつ加速化する変化に対応するためには、“オープン・イノベーション”が大切だ。それは、自前主義ではなく、社外と連携しつつ新しいソフトウエア(考え方、それを実現する仕組み)を生み出し、従来にはない人々の生き方(文化)を創出することだ。

■トヨタが「ハイブリッド」の特許公開を決断したワケ

すでに、トヨタはソフトバンクと共同でMONET Technologiesに出資した。また、トヨタは、世界のITスタートアップ企業と提携し、IoT(モノのインターネット化)などCASEの実現に必要な要素を取り込んでいる。トヨタはこれまでの成長をもたらしたハイブリッドシステムに関する特許の公開も決断した。

トヨタは自社のテクノロジーが使われる機会を増やし、新しい移動の基盤を提供する企業(モビリティーのプラットフォーマー)になりたい。トヨタのハイブリッドテクノロジーは、大気汚染問題に直面する中国などにとっては喉から手が出るほど欲しいものだ。それを自ら公開することで、トヨタは各国との関係を強化し、CASEに必要な要素の取り込みを加速させようとしている。

このように考えると、自動車の常識は大きく変わり始めている。自動車企業は、従来にはない移動のコンセプト、そこから得られる満足感を創出することにチャレンジしている。その取り組みを促進するためには、政府が各企業の要望などを聞き、実証実験の空間や、先端テクノロジーの実用化を可能にする規制緩和などを積極的に進めなければならない。

わが国が自動運転技術をはじめCASEの開発競争に適応し、成長を実現するには、人々のさらなるチャレンジを引き出すルール作りが欠かせない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=時事通信フォト)

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