オランダ人には不思議な"日本人の休み方"
プレジデントオンライン / 2019年5月27日 15時15分
■オランダの働くお父さんは18時にはソファに座る
日本人は働きすぎだ、というのはもはや世界の一般常識になっている。
朝は7時台の満員電車で出社し、夜は22時台に帰宅というのは珍しくない。カレンダー通りに働き、有休を使うのは緊急事態やどうしても外せない予定の時だけで気づいたら休日出勤もしている、というのは多くの人に身に覚えがあるのではないだろうか。
もちろん働くのが悪いわけではない、しかしそれが当たり前だと思うことに少々問題がある。ヨーロッパ、その中でも筆者の住むオランダを例に見てみよう。
日本人からすれば驚くべき話だが、オランダ人は基本的には17時には家に帰る。そして、家族そろって夕食を楽しむのだ。
オランダの家は壁の面積が少なく窓が広いのが特徴だが、彼らの多くはなぜか一切カーテンを閉めない。近所の家の中をのぞくとまだ外が明るい18時頃にお父さんがソファに座ってのんびりテレビを見ているのがよく分かる。なんとも和む風景だ。
それゆえにレストランも閉まるのが早い。18時に行けば満席で、20時に行けばほとんど客はおらず、21時に行けばもうラストオーダーの時間だ。どんなにおしゃれなカフェでも18時には閉まり、本屋や美容室や歯医者などは基本的に日曜日は閉まっている。
いつでも行ける、が当たり前の日本人からしたら最初は不便に感じるが、慣れてしまえばなんてことない。
■本当に必要なのは深夜のアイスではなく、冷蔵庫だ
そもそも日本は便利なサービスを提供しすぎている気がする。
365日24時間営業のコンビニはあれば便利だが、別に無くても生きていける。牛丼を夜中に食べたくなっても我慢すれば良い。深夜一時まで営業している駅のスーパーを日が変わって利用したことはあるが、無ければ無いで次の日に買い物をするだけだ。
余談だが、筆者は自販機まで歩いて一時間かかる森の中で18歳まで何不自由なく育った。必要なのは冷蔵庫と冷凍庫だけだ。
夜中3時に食べるコンビニのアイスは素晴らしいかもしれないが、それが23時になってもさして感動は変わらないはずだ。セブンイレブン、それで十分じゃないか。
要はそれを支える人たちの労働時間を減らすことによって、巡り巡って社会全体の労働時間が抑えられるのではないかと思うのだ。
多くの人が17時に会社を出る国でも、経済はきちんと回っている。需要がなければ供給も生まれないので、少しずつでも便利すぎるサービスから離れてみるのはどうだろうか。難しいかもしれないが。
それにもう一つ、日本人の働きすぎのイメージを作っている原因として3年連続で世界最下位の有休消化率がある。
年間30日間、100%の消化率で有休を取るブラジル、フランス、スペイン、ドイツに対し、日本は50%の消化率で10日間にとどまる。そもそも日本では自分に与えられた有休日数を知らない人も多い。
フランスやスペインはともかく、ドイツなんて勤勉なイメージがあるのに……と思うが、そもそも有休に対する姿勢がヨーロッパと日本ではだいぶ違う。
ヨーロッパの人たちにとっての有休は、いうなれば仕事中にお手洗いに行くのと同じレベルの当たり前に与えられた権利であるのに対し、日本人にとっては「どうしても休みたい時にその都度使う必殺のカード」である。
理論的には一気に消化することが可能でも実際会社を見渡すとそんなことはとてもできない雰囲気なのではないだろうか。
■ヨーロッパと日本の会社員の休日数はほぼ変わらない
ヨーロッパの人々にとって有休の概念がそもそも違うことに加え、オランダ人の国民性が超個人主義ということも、結果的に上手に休む秘訣なのかもしれない。
日本人のように、周りがこうだからこうする……という考えを絶対に持たない彼らは、かつての「3.11」の際も多くの大使館が撤退する中あえて日本から撤退しなかった。決して本国から残るように命じられたわけでもない、大使・職員たちが情報を吟味した上で個人の決断によって残ることに決めたのだ。
当たり前のように自分で考え、周りに流されずにやるべきことをやるという気質であるため、早く仕事を切り上げて家に帰ることもお手の物だろう。
しかし実は10日間しか有休を取らない日本人も、25日中24日とほぼ100%の有休消化をするオランダ人と年間労働日数は変わらない。理由は簡単、日本は祝日の数が先進国の中でずばぬけて多いのだ。
2019年に至っては、ヨーロッパの平均が10日間程なのに対し、日本では22日間と圧倒的だ。
祝日の一つが土曜日にかぶってしまった今年のオランダは祝日だけみるとたったの8日間(振替休日という概念はない)で、ゴールデンウィークにも及ばない。そういう訳で、祝日22日+有休10日の日本と、祝日8日+有休24日のオランダは、内訳は違えど休んでいる日数は同じなのだ。
■GW10連休が示した祝日の価値
結論から言おう。祝日の数が多くてうれしいのは子供だけではないか。
自分で好きな時に休みを取る権利を持たない子供は、当たり前だが祝日を有り難がる。しかし働く大人にとっては、日本の多すぎる祝日こそが、有休を取りにくくしている一番の原因なのだ。
それに拍車をかけるべく政府は2016年、20年ぶりに「山の日」という祝日を新設したわけだが、そもそも国に決められたタイミングで全国民一斉に休みを取らされるこの状況のどこが健全なのだろうか。
その問いの答えとして、今年のゴールデンウィークがある。
過去最長とも言われた今年の十連休は新元号のスタートも重なり、テレビの中ではどこかお祭りムードであっただろう。
しかしながら連休前のインターネット調査(全国の20~69歳が対象)によれば、ゴールデンウィークが「楽しみだ」と答えた人は全体のわずか4割。一方で「楽しみではない」と答えた人がそれを上回る6割という何とも後ろ向きな結果が出ていた。
理由は前述した通りで、全国民が一斉に休む混雑の中でそうそうリラックスできないということだ。渋滞していると分かっているのに車を走らせて遠くへ行ったり、飛行機代が高騰していると分かっているのに海外へ旅行するなど、やりたくない人が大勢いるのは当たり前だ。
■三週間は休まなければ、それは休みではない
筆者は2カ月前からオランダに住んでいるが、ヨーロッパに来てまずビックリしたのはお休み(Holiday)の概念が日本とはまるっきり違うことだ。
移住する前は恋人が住むオランダへ年3回渡ったが、期間はそれぞれ10日間ほどだった。日本人の感覚でいえばかなり思い切って休んでいる方だが、恋人の会社の同僚たちと食事に行った際にそのうちの一人からひどく驚かれた。
「いつまでいるの?」
「来週帰るよ。」
「え!!? 短すぎるわよ!!」
休めば休むだけ収入が落ちる無情なフリーランス業だった私が、生活と恋人を天秤にかけて精いっぱい考えた結果が10日間だったわけだが、ヨーロッパの人々にとっては海外に来るにしては信じがたいほど短かったのだろう。
前述の通りヨーロッパでは有休休暇が平均25~30日程度与えられているが、国民の大部分がその有休を一気に消化する。というのもまず彼らの感覚として、Holidayというのは3週間がスタンダードだ。
最初の1週間で“仕事の気分を捨て去る”。次の1週間で“思い切り神経をリラックスさせて脳をほぐす”。そして最後の1週間で“楽しみつつ少しずつ仕事のマインドに切り替える”という感じだ。
そんな彼らからしたら、10日間のゴールデンウィークも「何その中途半端なHoliday?」という感じだろう。
■フリーランス稼業は本当に自由なのか
全力で三週間羽を伸ばすことよってその後の仕事の効率も上がるそうだが、それをまねするのは日本人には難しい。
フリーランスになれば、“理論的”には自分の好きなタイミングで好きなだけ休みを取ることが可能だが、実際その通りにすることは難しい。
前述の通り、休めば休むだけ収入がダイレクトに減るし、休んでいる間に大きな仕事のチャンスを逃すかもしれない恐怖もある。フリーランス経験者なら、分かる方も多いだろう。
だが長く休めないからといって悲観する必要はない。あるニューヨークの心理セラピストによれば2、3日の小旅行でも精神的には長期休暇と同じ程度、あるいはそれ以上のリラックス効果があるというのだ。
一つは、気持ちがポジティブになり鬱になりにくくなること、そして仕事への集中度や生産性があるということがある。またストレスからくる頭痛や腰痛が緩和されるというデータもあり、身体的にもメリットがあるということが分かっている。
■いい意味で何も期待しない「小旅行」のすすめ
祝日の多い日本では頻繁に遭遇する三連休、ベッドでゴロゴロとしたり家の雑用をするだけであっという間に終わってしまう人も多いと思うが、例えばそれに一日有休を足して小旅行に行くのはどうだろうか。
海外でも国内でも良いが、普段の生活から切り離せる方がより良いだろう。重要なのは、その数日間の休みの中に一切仕事を持ち込まないこと。
メールやSNSの通知を完全にオフにすることは今のご時世では勇気がいることだが、一度やってみることをオススメする。旅行中だけでも、アプリを消去するもの手だろう。
そしてもう一つは、旅行中のやることリスト・行くところリストを作らないこと。このリストがある限りその旅行はある意味「クリアするべきタスク(=仕事)」になり、結果予定通りにいかないとストレスがたまるという逆効果になってしまう。
筆者も以前、初めてパリに行く際に友人にオススメのレストランリストを作ってもらったのだが、それによって自分の首を絞めた経験がある。
海外のレストランでは営業時間通りに店へ行ってもオープンしていなかったり、急に臨時休業することも多いため、旅行前に考えたオススメレストラン巡回プランが全く機能しなかった。自分の完璧(のはずだった)プランが一瞬で崩れた瞬間、楽しいはずの旅行がどこか苦いものになり、罪のない恋人の前でこれでもかと不機嫌になった。
本当にどうしようもない話だが、この経験のおかげで今後旅行では一切具体的なプランは立てないことに誓った。
日本ではともかく、海外の知らない土地では何もかもが予測不可能であり、基本的にプラン通りに進むことなんてありえない。それを知っていると随分気持ちが楽だ。
行きたいレストランや行きたい美術館をチェックしたとしても、いつ・どのタイミングで行くかは現地に着いて何となく気分で決めるのがいい。旅行中はいい意味で何にも期待せず、ただその場にいることを楽しんでみよう。
そうすることで目の前の景色や体験を十分に吸収でき、自分にとってよりプラスになる息抜き体験になるはずだ。
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フォトグラファー
1988年大分県生まれ。米・サンフランシスコにて写真を学ぶ。帰国後スタジオアシスタントを経て、2014年鳥巣佑有子氏に師事、16年独立。雑誌や広告、Webを中心に活動。19年3月オランダに移住。欧州や日本の仕事を行ったり来たりしながら、オランダでのゆるやかな日々を楽しむ。オランダの牛乳が美味しい。Sakie Miura Photography
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(フォトグラファー 三浦 咲恵 写真=著者)
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