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米朝破談を招いた"お互い勘違い"のお粗末

プレジデントオンライン / 2019年5月30日 15時15分

互いを信頼しすぎていた2人。(時事通信フォト=写真)

■そもそも、お互い勘違いしていた

2019年2月27日と28日にハノイで開催された第2回米朝首脳会談は物別れに終わった。合意文書を出すことをドナルド・トランプ米大統領は拒んだのである。北朝鮮の最高指導者である金正恩が4月12日に「我々はハノイ朝米首脳会談のような首脳会談が再現されることに対しては嬉しくもないし、行う意欲もない」と語ったように、北朝鮮では失敗と認識している。

なぜアメリカが合意文書を出すことを拒んだのかというと、それは北朝鮮側が、寧辺の核施設のみの廃棄と引き換えにアメリカに受け入れられない要求をしたためだ。その要求とは、国連安保理決議による北朝鮮に対する制裁の解除である。

北朝鮮側が要求したのが制裁の全面解除か一部解除かという問題はおいておこう。それ以前の問題である。国連安保理制裁はアメリカ単独で解除できるものではない。まして、アメリカ本土に対する核兵器の脅威を取り除かないまま制裁解除を要求しても、アメリカが受け入れる可能性は低かったはずである。

18年6月12日にシンガポールで開催された第1回米朝首脳会談の共同声明では、制裁解除について何も触れられていない。共同声明では「トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を与えることを約束し、金委員長は朝鮮半島の完全非核化への確固で揺るぎのない約束を再確認した」と書かれている。つまり、北朝鮮が本来求めていたのは、制裁解除ではなく、安全の保証であった。それがどうして制裁解除に変わったのであろうか。

実は、その発端もまた第1回米朝首脳会談にある。第1回米朝首脳会談の後に、アメリカ側と北朝鮮側がそれぞれ記者会見や報道を行ったが、大きく食い違ったのが、制裁解除に対する認識であった。米朝首脳会談の直後に記者会見でトランプは「今や核兵器の脅威が除去されることになる。それまでの間、制裁は効力を維持することになる」と語っている。マイク・ポンペオ米国務長官も7月8日に日米韓外相共同記者会見で「これらの制裁の実施は非核化が完全なものとなるまで続けられる」と語っている。トランプとポンペオは、その後も完全な非核化まで制裁は続けることを明言してきた。

ところが、北朝鮮の国営通信社である朝鮮中央通信は第1回米朝首脳会談の翌日である6月13日に「アメリカ合衆国大統領は……朝鮮民主主義人民共和国に対する安全の保証を提供し、対話と交渉を通じた関係改善が進捗するのに応じて対朝鮮制裁を解除することができるとの意向を表明した」と報道した。この時点で、アメリカと北朝鮮は制裁解除について異なった認識を持っていたのである。アメリカ側は完全な非核化まで制裁を続けると言っているにもかかわらず、北朝鮮側ではアメリカが制裁を段階的に解除できると信じていたのだ。

■金正恩も制裁を批判

北朝鮮が非核化の見返りとして制裁解除をアメリカに求め始めたのは、18年10月2日に朝鮮中央通信が発表した論評からである。金正恩も制裁を批判したことが11月1日付の『労働新聞』に掲載された。

北朝鮮の会計年度は12月で終わるので、10月頃には各地方から、実際にそうなのかは別として、制裁のために経済計画に支障が出ているという報告が集まっていたことが想像に難くない。北朝鮮の制裁解除要求は、こうして対米交渉の最優先事項になったのだと考えられる。

しかし、アメリカ側は非核化まで制裁解除はないと発信していたのに、北朝鮮では制裁解除は難しいと思わなかったのだろうか。北朝鮮の論評などを読むと、そうは思っていなかったようだ。

ただし、それはトランプではなく、アメリカ政府の問題とされていた。北朝鮮では、大統領であるトランプさえ説得すればすべて解決すると思っていたのであろう。なぜか、米朝ともに相手のリーダーが決心すれば全部解決すると思っている節がある。どうも、その勝手な希望的観測が失敗の原因ではないだろうか。

(聖学院大学教授 宮本 悟 写真=時事通信フォト)

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