人事が語る「社内不祥事」情状酌量ライン

プレジデントオンライン / 2019年5月28日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/taa22)

社内不倫、セクハラ、パワハラ、不正……社内の不祥事に対して、企業はどう対応しているのだろうか。厳罰が下されるケース、はたまた揉み消されてしまうケースは何が違うのか。製薬業人事担当役員、食品メーカー法務担当役員、サービス業人事担当役員、IT企業人事部長の4人に匿名で話を聞いた――。「プレジデント」(2019年6月17日号)の特集「職場で役立つ『法律』大事典」より、記事の一部をお届けします。

■パワハラへの処分は重くなった

――セクハラ、パワハラだけではなく、メーカーの不正検査など社内不祥事が頻発しています。実際にどんな事件が多いのですか?

【食品】すでに2000年初頭からグループ企業を含めて違反行為を告発するホットラインを3カ所設けている。どんな些細なことでも通報してほしいと社員に周知しているが、件数は多いときでも年間30件、平均で20件程度だ。内容はハラスメント関係が約6割、異動や賃金への不満、サービス残業などの労務管理系が4割だ。ハラスメントではパワハラが9割を占め、セクハラは減っている。

【IT】最近多いのは「情報漏えい」。しかも意図的ではなく、お客さんの見積書が入った端末を飲み屋に忘れて紛失したケースなどだ。そもそも飲みに行くときにお客さんの資料を持っていくのは禁じている。間違ってデータをよそに流したり、会社が貸与するスマホやパソコンをなくしたりしたら、過失でも会社に多大な損害を与える。その場合は懲戒解雇もある。他の電機・ITメーカーでも同じだと思う。

【製薬】うちも内部通報窓口のホットラインを第三者の外部機関に設置している。違法行為に気づいた社員が連絡する仕組みだが、件数は年間100件程度。約半分がハラスメントだ。ホットライン以外では労務に関する告発が人事に直接入ることもある。ハラスメントではセクハラよりもパワハラが多くなっている。

――不祥事を発見し、調査・処罰する仕組みはどうなっていますか。実際の処分はどうなりますか?

【食品】就業規則に、こういうことをしたら、こういう処罰を受けますという懲戒規定がある。最も重いのが懲戒解雇、続いて諭旨解雇、降格、減給、出勤停止、けん責だ。懲戒解雇は「刑法その他刑事罰に該当する行為」に限定され、犯罪事実が明白になれば解雇する。まず告発があれば社内の倫理委員会に報告し、調査に入る。いきなり加害者に接触することはなく、被害者や周囲の人間の話を聞いて証拠を固めてから本人に問いただすという流れだ。

【IT】うちも内部通報による告発、監査法人の外部監査、内部監査の3つで発覚する場合が多い。たとえば不正会計が組織ぐるみで行われていることが発覚した場合、懲罰委員会に諮り、迅速に関係者を個別に取り調べる。まず末端の社員から聞き「今だったら情状酌量の余地があるから、誰が首謀者なのか言って」と、やんわりと尋問する。結果として上司の名前が出てくることもあるが、頑なに名前を言うのを拒否する社員もいて、かなりてこずるケースもある。

■児童買春で逮捕されたら即解雇

【製薬】社員が刑事事件を起こして逮捕されると懲戒解雇か諭旨退職になる。比較的軽い罪でも諭旨退職を迫るが、それでも聞き入れない場合は懲戒解雇にする。たとえば児童買春で逮捕されたら即解雇だ。

【サービス】痴漢でも刑事事件になると処分は重くなる。ただ、罰金を払ってすぐに出てくるケースもあるので会社にはわからない。でも「私はやっていない」と否認し、3日間取り調べを受けたケースがあるが、会社に出勤せず行方不明状態になった。結局、会社にばれたが、たとえ冤罪でも解雇になる可能性がある。

――パワハラ規制が今国会で法制化されます。パワハラ、セクハラをしたらどんな処罰を受けますか。

【食品】すでに就業規則に「職務上の地位や人間関係の優位性において業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的に傷つける行為をしてはいけない」という規定がある。でもパワハラ通報のうち、明らかに人権侵害のものは半分、残りの半分は言われた本人も責任があり、処分まで発展しないケースだ。部下を育てたい思いで上司が多少きつい言い方をした場合は注意だけにとどめる。でもなかなか部下は納得しないね。処分されるのは継続的に暴言を吐き、被害者だけではなく周囲もその人の言動に嫌な思いをしている場合。懲戒解雇まではいかないが、減給処分に至るケースもある。

【IT】パワハラの加害者はどんなにひどい言動をしていても大体「そんなことは言っていません」と否定する。そのためにも被害者本人や周囲の信頼できる人の話を事前に聞いて問いただす。具体的に発言した日時の状況をぶつけていくと、加害者もしぶしぶ認める。事実関係がはっきりし、周囲にも悪影響を与えていたら降格処分もありうる。

【製薬】本社の優秀な若手社員を育成の意味も込めてグループ会社の役員として送り出すことがある。だが、その役員の1人が地位を利用してパワハラをしているという通報があった。監査部に調査を依頼したが、明らかにパワハラを繰り返していることが判明した。罰則として停職5日間とし、本社に戻した。再び同じことをやったら罪は重くなるし、厳罰に処することになる。

【サービス】パワハラへの処分は昔以上にはるかに厳しくなっている。社員も敏感だし、たとえばうつの原因がパワハラにあると証明されたら会社も多大な迷惑を被る。電通の高橋まつりさんがパワハラを受けて自殺したが、それが原因で社長まで辞める事態に発展した。そうした痛い思いをした会社ほど厳しく処分するようになった。それに比べてセクハラや不倫問題は昔ほどの関心はないような感じだ。

■情状酌量してもらえるケース

――犯罪を揉み消す場合もありますか?

【サービス】就業規則の「会社の信用を著しく傷つける行為」とは、要するに犯罪が「外部に漏れて会社の名前が出た場合」という意味だ。たとえばセクハラでも「私、お尻を触られました」と、労働局に訴えたり、裁判沙汰になれば会社の名前が出るのでアウト。懲戒解雇もありうる。表に出なければ異動させるなどの処分で終わる場合が多い。要するに外部に漏れなければ甘い処分もある。

【食品】たとえばグループ企業の社員が痴漢行為をしたとか、暴力行為で警察沙汰になった場合、一般社員と幹部社員とで対応が違う。部長クラスが私的時間内で痴漢行為や児童買春で新聞に名前が出れば「会社の信用を著しく傷つける行為」として懲戒解雇にする。だが平社員が痴漢の容疑者になり、本人が否認している場合は事実が確定するまで処分は下さない。揉み消すわけではないが、会社として公表することもない。

【IT】うちでは人事部が懲罰委員会の資料をつくる。そのときに「情状酌量の余地があるか」を記載する欄がある。たとえば会社のためにやった、会社のお偉いさんの指示を受けてやったことがわかれば酌量の余地がある。その場合に懲戒解雇ではなく、出勤停止、あるいは減給にしようということはあるね。そうではなく私利私欲のために片棒を担いだとなれば酌量の余地がない。これは過去の犯罪事実に即した罰則を科すことになる。

【サービス】たとえば組織ぐるみで会社の金を使い込むなどの業務上横領をした場合、間違いなく懲戒解雇になる。だが、下っ端の社員が言われるまま帳簿の操作をした場合、諭旨解雇にとどめるケースもある。懲戒解雇になると退職金は出ないが、諭旨解雇は出る。恩情というより外に情報を漏らさないための口止めの意味もある。本人にも「おまえは悪いことをしたが、退職金を払っているからやったことを辞めてから言うなよ」と念押ししている。

【IT】ゼネコンの談合ではないが、明らかに会社のためにやった違法行為は最も軽いけん責程度にとどめ、ほとんど許される。社内的にも「彼はちょっとやりすぎたな」という程度。世間とのギャップはあるだろうね。

【サービス】揉み消しは会社の大きさと強さによってはやるだろうね。たとえば現場の作業中に死亡事故が発生しても表に出ないケースもある。マスコミも抑えられるぐらいの力を持っている企業もある。

【IT】他の大手企業では警察署、消防署、税務署など署のつくところのOBを天下りで入社させているところもある。情報を収集したり、問題が起こったときは、OBが一本電話をかけてお目こぼしをお願いしたり、マスコミに出ないようにすることもあるらしい。

■社内不倫の噂が!そのとき人事部は

――社内不倫など異性関係の不祥事の処罰はどうしていますか。

【食品】これまで社内不倫で処分したことはない。妻子持ちの男性社員が社外で不倫をしている場合はそれほど問題にしない。つまり私的時間内の非違行為なのか、社内の秩序を乱す行為なのかに分けて考えている。仮に某部署の部長と秘書役の女性が不倫をしているのを見たという通報があった場合、そのことを職場の誰もが知っていて、嫌な思いをしていれば調査に入る。不倫の事実が判明し、部長の信頼が職場で失われていれば役職の剥奪や降格の処分をすることになるだろう。

【サービス】噂になっている程度だったら何もできない。職場内の不倫が周囲に知られていても問題にすることはない。ただし、業務に支障を来すようなことがあれば別だ。痴話ゲンカ状態になっているとか、奥さんから電話がかかってきてから、初めて動き出す。

【製薬】役員に昇進させる場合は、特に異性がらみの“身体検査”はチェックするようにしている。素行調査をするのはなかなか難しいが、外部の調査機関に依頼している。

――処罰を受けたら出世にも影響しますか?

【IT】昇進に影響するかどうかは会社のルールによって違う。たとえば罰則によって禊の期間を2年、あるいは5年に設定し、その期間は昇進させないという会社もある。うちは明確なルールはないが、昇進の可能性があっても、昇進候補者から1回は外すことにしている。

【食品】いったん処罰を受けても敗者復活も認めている。部下の不祥事の管理責任を取って降格されても、その後に実績を積み上げれば昇進も可能だ。だが罪によっては人事上ゼロになるわけではない。得意先と契約上のトラブルを引き起こし、降格になった社員もいる。2回、3回と繰り返せば処罰も重くなる。

【製薬】処罰されたら本来は昇進にも歯止めをかけるべきだ。だが、人事のデータベースにどれだけ賞罰が記録されているかは企業によって異なる。うちの場合は各事業本部付の人事担当がいて、事業本部の人事で昇格・昇進させるときに本部長に対し「この人は10年前にこういう処罰を受けた人です」と、過去の処分歴について具申することにしている。

【食品】じつは役員に昇進する場合は社外役員で構成する指名委員会の審査を受ける。その際に「過去の処分歴」の資料も提出する。たとえばけん責や出勤停止、減給など3つも4つもある人は「この人は大丈夫か」となるだろうね。

【サービス】役員の要件に「能力、実績。品格・人格が優れている」とある。もし女性関係が乱れている人であれば、とても品格があるとはいえない。もし、将来の役員候補と言われている管理職がいれば、人事から「身辺整理ぐらいちゃんとやっておけ」と言うだろうね。

(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング