ツイッター創業者が"批判に動じない"理由
プレジデントオンライン / 2019年6月26日 15時15分
■ツイッター創業者が語るフェイクニュースへの心構え
私は、2011年から、TEDの本会議に参加している。開催場所は最初は米国カリフォルニア州ロングビーチだったが、14年からカナダのバンクーバーに移った。
一つ一つのトークの内容はもちろん、全体を貫くテーマや、会場の雰囲気から、その時々の世界の重要な課題を体感することができる。
4月中旬に開かれた18年の会議の最も大きな関心事は、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアのあり方であった。
インターネットは、社会をより開かれた、進歩的で自由な場所にすると期待されていたのに、最近はおかしい。フェイクニュースがあふれ、ヘイトスピーチの温床となり、アメリカ大統領選挙やイギリスのEU離脱の国民投票の結果までが左右される。
会議の最中に何度も議論されたのは、今のソーシャルメディアがユーザーの注意をひきつけて、アクセス、閲覧、コメント、リツイートといった「エンゲージメント(※)」を最大化することばかりに最適化されているという点だった。
ソーシャルメディアの多くは広告収入に依存している。エンゲージメントが増えればそれだけ収益が上がる。
一方で、人々の感情を刺激するフェイクニュースや、差別的なコンテンツがどうしても注目を集めて拡散されてしまうことも事実である。
TEDの会場を支配していたのは、もはや、ソーシャルメディアの担い手の企業だけに任せておくわけにはいかないという雰囲気であった。米大統領選挙においてフェイクニュースが果たしたとされる役割や、ロシア介入疑惑など、民主主義の根幹さえ揺るがしかねない事態に対する危機感がそれだけ強いのだろう。
そんな中、スピーカーとして登場したツイッター社のCEO、ジャック・ドーシーさんの発言が興味深かった。
ドーシーさんは、司会者や会場からどんな批判が上がっても動じることなく、ツイッター社が行っている対策について淡々と述べた。
不適切な投稿を検出する人工知能の性能を向上させる試みや、ツイッター上で行われているやりとりの「健全度」を定量的に評価する研究など、問題を解決する取り組みについて冷静に説明し、理解を求めていた。
ドーシーさんのアプローチが印象的だったのは、それが技術的かつシステム視点に基づくものだったからだろう。
ソーシャルメディアについての議論は、喧伝されたフェイクニュースや、トランプ米大統領のツイートなど、特定の事象に焦点が当たりがちである。それに対して、ドーシーさんはあくまでも「全体」としての対策に辛抱強くフォーカスしていた。
※SNSにおけるユーザーと運営側の繋がりを測る指標。企業や商品、ブランドなどに対してどれだけユーザーが「愛着を持っているか」を示す。
■ネットの将来をどう設計するか
ネットの将来をどう設計するか? 個別論では足りない。私たちの未来は、システムの設計を通してこそ開かれなければならない。
考えてみれば、今日私たちが直面しているのは、「スケール」の問題である。一つ一つの事象に感情的になるのではなく、全体として何をどのように保証するかを考えなければならない。
ツイッターのような会社は、個別の問題を超えたもう1つ上のレベルの課題に取り組まなければならないのだろう。
聴衆の深い懸念と、ドーシーさんのあくまでも論理的な対応。熱さと冷静さが入り交じったスリリングな議論の中に、次へのステップが見えたような気がした。
(脳科学者 茂木 健一郎 写真=Bloomberg/Cole Burston)
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