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丸山議員は自然治癒しない進行性の病気だ

プレジデントオンライン / 2019年5月30日 9時15分

報道陣の取材に応じる丸山穂高衆院議員=2019年5月20日、国会内(写真=時事通信フォト)

北方領土問題で「戦争」に言及し、日本維新の会を除名された丸山穂高衆院議員は、5月24日、体調不良を理由に議院運営委員会の聴取を欠席した。提出した診断書には「2カ月の休養が必要」と記されていたという。精神科医の和田秀樹氏は「過去のトラブルから考えるとアルコール依存の可能性がある。進行性で自然治癒はしないため、一刻も早く専門医の診断を受けるべきだ」という――。

■丸山氏が議員活動を休養して即刻治すべき進行性の病気とは

前回の記事「『突発性バカ』になる東大出身者の共通点」では、冒頭で3人の東大卒エリートが発した「暴言」に関して書いた。

3人とは、元衆議院議員の豊田真由子氏、兵庫県明石市長の泉房穂氏、そして、今、渦中にある衆議院議員の丸山穂高氏である。3人とも舌禍による自業自得と言えるが、5月11日、北方領土へのビザなし交流に参加中、「戦争で島を取り返すことに賛成か、反対か」などと発言した丸山氏と、他2人の暴言とは決定的な違いがある。

それは、酒を飲んでの暴言だったということだ。丸山氏の暴言に関しては多くのメディアが取り上げたが、その背景にある「アルコール」を深く掘り下げた報道は少なかった。

ここで、丸山氏は酒を飲んだ上での暴言だから許される、と言いたいわけではない。私の見立てでは、丸山氏には、単なる酒好き、酒癖が悪いといった範疇を超えたアルコール依存という診断をつけざるをえない。彼が今、議員活動を休養しているのは適応障害と医師から診断されたからとの指摘もあるが、それ以前に治すべき病気があるのだ。

あの暴言を撤回・謝罪する様子を見るに、泥酔していなければあのような失言はしなかっただろうと考えられる。また、答弁などで失言が許されない元キャリア官僚という経歴を考えても、飲酒していない時間帯はマトモな人であったのだと思われる。その政治信条の是非はともかく。

■アルコールに「節度」を破壊する作用がある

アルコールが人間の抑制を解き、判断を狂わせ、知的能力を低下させることは誰もが知るところだ。飲酒運転の厳罰化もその流れによるものだろう。

その後の報道で、丸山議員は、北方領土へのビザなし交流中に「おっぱいをもみたい」「女を買いたい」などという破廉恥な発言もしていたことも明らかになった。

社会的地位の高い人たちのセクハラ事件も、酒の席のものが多い。

アルコールが賢い人をバカにする危険な薬物であることは疑いがない。いっぽうで、アルコールは少量であれば、覚醒度を上げ、脳の働きをよくすることも知られている。栄養ドリンクでごく少量のアルコールが成分になってきたのもこのためだ。

日本の場合は、酒席で接待したり、商談したりことは珍しくない。節度をもった飲み方をすることで親愛度を高めるのは非難されるどころか、歓迎されることでさえあることだ。

問題は、アルコールそのものに、その節度を破壊する作用があることだ。その結果が依存症である。

■丸山議員が「アルコール依存」であると言える科学的根拠

アメリカ精神医学会による最新のアルコール使用障害(現在では依存症と呼ばず、使用障害とされている)の診断基準(DSM-5)は下記である。以下のうち少なくとも2つが、12カ月以内に起こるとアルコール使用障害の診断を受けることになる。

1. アルコールを意図していたよりもしばしば大量に、または長期間にわたって使用する。
2. アルコールの使用を減量または制限することに対する、持続的な欲求または努力の不成功がある。
3. アルコールを得るために必要な活動、その使用、またはその作用から回復するのに多くの時間が費やされる。
4. 渇望、つまりアルコール使用への強い欲求、または衝動
5. アルコールの反復的な使用の結果、職場、学校、または家庭における重要な役割の責任を果たすことができなくなる。
6. アルコールの作用により、持続的、または反復的に社会的、対人的問題が起こり、悪化しているにもかかわらず、その使用を続ける。
7. アルコールの使用のために、重要な社会的、職業的、または娯楽的活動を放棄、または縮小している。
8. 身体的に危険な状況においてもアルコールの使用を反復する。
9. 身体的または精神的問題が、持続的または反復的に起こり、悪化しているらしいと知っているにもかかわらず、アルコールの使用を続ける。
10. 耐性、以下のいずれかによって定義されるもの:
(a)中毒または期待する効果に達するために、著しく増大した量のアルコールが必要
(b)同じ量のアルコールの持続使用で効果が著しく減弱
11. 離脱、以下のいずれかによって明らかとなるもの:
(a)特徴的なアルコール離脱症候群がある。
(b)離脱症状を軽減または回避するために、アルコール(またはベンゾジアゼピンのような密接に関連した物質)を摂取する。

■「公職に在職している間は、公私ともに一切酒は飲まない」を反故

最初は2杯でやめておこう、2時間で帰ろうと思っていても、それができないのは、この診断基準の1に当てはまり、依存症の症状のひとつと考えられる。

丸山議員の場合は、2015年12月末に居酒屋で酒を飲み、一般男性と口論になり、相手の手をかむなどのトラブルを起こしたことを受け、「公職に在職している間は、公私ともに一切酒は飲まない」と明言したことがあった。

ところが今回、酒を飲んでトラブルと起こしたとすれば、診断基準の5に当てはまる。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/invizbk)

また、昼間からウオッカを飲んで酔っ払っていたとも報じられており、これは診断基準の1に当てはまる。

つまり、丸山氏に関しては少なくとも2項目は該当する(おそらくは、もっと多いだろう)。精神医学の立場からみると、丸山議員は立派なアルコール依存症である。

■依存症は「進行性で自然治癒がない」ので一刻も早く治療を

少なくとも前回の事件のときにアルコール依存症を自覚して、断酒していれば、今回の事件は起こらなかったはずだ。

たった2項目当てはまっただけで依存症の診断基準に当てはめるのは、いかがなものか。と感じる人もいるだろう。しかし、ギャンブル依存症治療の第一人者である帚木蓬生医師によると、「(この病気は)進行性で自然治癒がない」。

要するに、激しい離脱(禁断)症状が出て、昼間から連続飲酒をしてしまい、会社をクビになったり、社会生活が維持できなくなったりしては遅いから、その前に治療的介入を行おうという考え方に基づいた診断基準なのである。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/NicolasMcComber)

糖尿病であれ、高血圧であれ、高脂血症であれ、数値上の異常はあっても、よほどの重症でない限り、自覚症状はないし、動脈瘤などがない限り、いきなり脳の血管が破れることはない。しかし、それを長年放置しておくと、将来、心筋梗塞や脳卒中のリスクが増えるということ、つまり、それらの予防のために血圧や血糖値をコントロールする。

それと同じ発想で、重篤な問題が起こる前に治療を受けるなり、自制の習慣をつけるために診断基準を厳しいものにしているのだ。

■大王製紙元会長(東大法卒)はアルコール&ギャンブル依存症

このアルコール依存によって、本来賢い人がバカになってしまうということで思い出されるのは、大王製紙元会長の井川意高(もとたか)氏である。

筑波大付属駒場高校から東大法学部を卒業し、父親が経営する大王製紙に入社、慢性的に赤字だった家庭紙事業(ティシューペーパーなど)を黒字転換させるだけでなく、同社のブランド「エリエール」をトップシェアに押し上げる名経営者になった。

非の打ちどころがない「頭のいい人」と言える。しかし、カジノにはまって100億円以上の金を失い、子会社7社から計86億円の金を不正に借りたと訴えられ、最終的には懲役4年の実刑判決を受けている。

本人が収監される前に書いた『熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録』(双葉社)の中で、自身が精神科医から「アルコール依存症」と「ギャンブル依存症」の診断を受けたことが記されている。

同書の中で、本人も、自分はアルコール依存症の診断基準の多くが当てはまり、いくつかの項目は「まさにドンピシャである」と明言している。

彼も依存症のためにまともな判断力が働かなくなっただけでなく、社会的に許されないことに手を染め「バカになってしまった」と言える。

■依存症に陥るのは、頭がいい人、有能な人、勝ち組の人

依存症は立派な病気なのだが、誤解が多い。意志の力で、アルコールであれ、ギャンブルであれ、やめられると思う人が多いが、その意志が破壊される、つまり脳のプログラムが破壊される病気なのだ。

また、だらしのない、もともといい加減な人がなる病のように思われがちだが、井川氏の著書にもあるように強迫性格の人、つまり、とことんやらないと気が済まない人が陥りやすい。負けず嫌いの人もそうだ。

だから、だらしないのとは正反対に、仕事で手を抜かない人、出世競争に勝ち抜いた人などが陥りやすいのだ。依存症に陥る前は、有能な人、勝ち組の人というわけである。

まさに賢い人をバカにする病と言ってよい。

■24時間いつでも酒やたばこが買える珍しい国・日本

※写真はイメージです(写真=iStock.com/egadolfo)

もうひとつは、依存症というものは、依存するものへのアクセスがよいほど陥りやすい。日本では24時間、酒やたばこが買えるが、そういう国はむしろ例外だ。日本人の約44%は、お酒を飲んだ時に発生する有害物質アセトアルデヒドを分解する酵素「ALDH2」を持たないか、その働きが弱くアセトアルデヒドが貯まりやすい。脳より先に肝臓がやられる人が多いが、それでも230万人のアルコール依存症の診断に当てはまる人がいると推定されている。ニコチンの依存症は2014年の推計で1487万人である。

さらに日本の場合、海外のカジノと違って、いつでも行ける場所にパチンコ屋があり、毎日開催をしているからギャンブル依存症が多い。厚生労働省の発表ではなんと320万人である(2017年度推計)。これは諸外国と比して突出して多いとされている。

それを考えると、四六時中離さないでもっているスマホはきわめて依存症に陥りやすいものと言える。スマホが普及していなかった頃のインターネット依存症は成人だけで全国に270万人(2008年度に厚労省が実施した調査からの推計)だったということだが、今は500万人を超えているだろう。

実際、開成や灘のような名門校で、成績が急落する子供の多くはゲームやスマホの依存症状態だという話を聞いたことがある。まさに賢い子もバカにしているのである。

依存症の治療は確かに難しいが、40歳で、アルコール依存症を克服し、その後、州知事から大統領に上り詰めたジョージ・W・ブッシュのようなケースもある。

依存性物質や依存性のある行為(ギャンブルやゲーム)は一定の確率で人間を壊す。意志の強い弱いは関係ない。その最も確実な予防法は、近づかないことである。依存性の強い麻薬や覚せい剤、ギャンブルは、世界中で、手を出した人間が処罰されるようになっているのは、それに近づかせないためだ。

合法のものでも、依存性の強いアルコール、たばこ、ゲーム、そしてパチンコやカジノに手を出す際は、自分が依存症になることはあり得ないといった思い込みを捨て、その怖さを自覚することが重要だ。それが、もともと頭のいい人がバカになってしまったり、身を破滅させてしまったりしないための重大なポイントと言えるだろう。

(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹 写真=時事通信フォト 写真=iStock.com)

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