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目上や上司に"猿も木から落ちる"は大失礼

プレジデントオンライン / 2019年6月10日 9時15分

奇才・河鍋暁斎『狂斎百図』の一部(写真、時田氏蔵)。妖怪と町人が入り乱れ、そこにことわざを添えたユーモラスな戯画集だ。1863(文久3)年~66(慶應2)年にかけてシリーズ刊行され、人気を呼んだ。

▼名言・ことわざを引用

■テレビで広がった3つのことわざ

ことわざと初めて関わったのは大学を出て少し経ってから。古い文献を探す過程で江戸時代の洒脱なことわざの絵や滑稽感満載の戯画、そして未知のことわざ資料などに出会い、ことわざの世界に引きつけられました。刀の鍔(つば)や小柄(こづか)、鎧兜などの武具を始め、印籠・根付、各種染織物や焼き物といった生活物品、さらに神社・仏閣の建築彫刻や石像などにも、ことわざを図案化したデザインが施されたり、紋様として描かれていて、途轍もなく多種多様な世界でした。

現在常用されていることわざは800程度ですが、総数は5万~6万になります。そのうえ、新たに外国から入ってくるもの、現代新たに作り出されるものもありますので、その全容は誰にもわかりません。

ことわざに対して一般的には昔から続く教訓といったイメージがあります。たしかにそうした面はありますが、実は時代と共に変化するものでもあるのです。古いものの代表格が憲法十七条にある「和を以て貴しとす」であれば、戦後生まれのことわざとしては「赤信号みんなで渡れば怖くない」「人の不幸は蜜の味」「亭主元気で留守がいい」などがあります。面白いのはこの3つがどれもテレビによって広がったということなのです。このうち「亭主元気で留守がいい」は80年代に流行したCMのキャッチコピー。もともとは「亭主は達者で留守がいい」ということわざを「亭主元気で」に変えた形で世間に広まったのです。

ことわざを日常会話でうまく使うには多少注意することもあります。まず、どういうことわざを使うかということがあります。情況をちゃんと捉えて表現することは当然ですが、相手との関係性は大事です。目上か仲間うちか、はたまた、目下か、男か女かも気づかう必要があります。例えば、相手の失敗に対して、それが上司であれば「上手の手から水が漏れる」「弘法も筆の誤り」、仲間や目下であれば「猿も木から落ちる」「河童の川流れ」と使い分けるのが無難です。相手が目上や上司であればその方を猿や河童にしてしまったら失礼です。弘法大師のような立派な人になぞらえれば相手の心証を損なうことはないでしょう。

ことわざの選び方にも気を使いたいものです。「勝って兜の緒を締めよ」「石橋も叩いて渡れ」などのような格言や金言などに重なる立派な内容をもつことわざは、相手の反論を許さないところがあり、上から目線になりがちです。もちろん、これとて状況によっては何ら差し支えないこともあるのですが……。

そこでお薦めしたいのがユーモア感にあふれる愉快なことわざです。

1「餡汁(あんじる)より団子汁」は「餡汁」と「案じる(心配する)」の同音を掛けたうえで、団子汁のほうが良いと言っているものです。いつまでもくよくよせずに美味しいもの(団子汁)でも食べなよ、と相手をいたわる心優しい言葉です。

2「冗談とフンドシはまたにしろ」は「又」と「股」を掛け、冗談を言うのはほどほどにしなよという意味。フンドシを股以外にする人はいないでしょうから、言葉の効果は絶大でしょう。

3「憚りながら葉ばかりだ」は意味の異なる「はばかり」をつなげ、葉っぱばかりで花も実もない(=実質がない)ことを表現しています。

ことわざは語呂合わせ等ことばの技が命ともいえます。真正面からぶつけると相手から反発を買いそうな言葉も、冗談交じりに伝えられる、知恵に洒落っ気を加えた言葉でもあるのです。小さなことわざが場の空気を変えることもできます。

■『八犬伝』に出ている、ことわざ800前後

使えそうなことわざを探すなら、しっかりとした解説があることわざの本を読むのが近道だと思います。ことわざ辞典のなかで気にいったものをピックアップして覚えてもいいですし、お子さんがいる方なら、「いろはかるた」もお薦めです。古典に親しみを持つ方なら、そこからことわざを探すのも一興でしょう。

古くは『古事記』『日本書紀』の中にもことわざが掲載されていますが、「令和」で話題となった『万葉集』にも、8つ程度見つかります。

そのうち現代でも知られているものは「夏虫の火に入るが如し(=飛んで火にいる夏の虫)」「痛き瘡(キズ)には辛塩そそぐ(=傷口に塩)」「鮑の貝の片思い」の3つです。

江戸時代になると、井原西鶴、近松門左衛門、曲亭馬琴(滝沢馬琴)などの作品に多く用いられています。馬琴の『南総里見八犬伝』には800前後のことわざが出ています。

現代作家、例えば村上春樹さんの作品にも、ことわざをパロディにしたものや、今後ことわざになっていくのではないかと感じる比喩表現が時折見つかります。その作品の1つが『村上かるた うさぎおいしーフランス人』です。「ニラレバの世界にタラレバはない」「アリの世界はなんでもありだ」など、カルタ仕立ての108篇が収録されています。

ことわざを日常的に使えるようになってきたら、村上春樹さんにならって、あなたも気の利いた言葉を使って自分なりのことわざをつくってみてはいかがでしょうか。「注意一秒、怪我一生」などの交通標語などは、世間の人が「いい!」と思って使っていくことで、徐々にことわざとして定着していきました。

いまの時代はSNSで全世界に発信できますから、一般の人のつくった言葉でも流行する可能性は十分あります。あなたのつくった言葉が将来、ことわざとして世間に定着するかもしれませんよ。

品格を上げるポイント:ことわざのユーモアで場の雰囲気を変える

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時田昌瑞
ことわざ・いろはカルタ研究家
日本ことわざ文化学会会長 1945年生まれ。早稲田大学文学部卒業。『思わず使ってみたくなる知られざることわざ』『岩波ことわざ辞典』『図説ことわざ事典』ほか著書多数。

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(ことわざ・いろはカルタ研究家 時田 昌瑞 構成=干川美奈子 撮影=小原孝博)

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