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書店が客好みを選ぶ"1万円選書"人気爆発

プレジデントオンライン / 2019年6月18日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/evgenyatamanenko)

北海道・砂川にある小さな町の書店が、各方面から脚光を浴びている。

店主が応募者に1万円分の本を選び、発送するシンプルな「一万円選書」が幾多のメディアで紹介され、いまや全国からの応募者が3000人待ちという人気ぶりだ。

見知らぬ客一人ひとりにとっての「いい本」を、店主の岩田徹氏(67歳)は何を手掛かりに選ぶのか。

▼愛読書を聞かれた

■名物書店の主が伝授「自分に合った一冊の見つけ方」

父が始めたこの書店は、昔は繁盛していましたが、商社を辞めて後を継いだ僕が、ローンを組んで店舗を改装・改築したのが1990年。直後にバブルが崩壊し、以来、向かい風にさらされ続けてきました。

全国で町の書店がどんどんつぶれていく。うちも新聞販売店といっしょに宅配を始めたり、ホームページを開いたりと色々試してみましたがうまくいかず、赤字続き。僕自身が何度も入院し手術したりと、にっちもさっちもいかなくなりました。

2006年、函館ラ・サール学園時代の先輩たちとの飲み会で「本が売れない」とぼやいたら、裁判所の判事だった先輩に「これで俺に合った本を選んで、送ってくれ」と1万円札を渡されたんです。先輩のことを想像しながら10冊くらい選んで、手紙を添えて送ったら、「面白かった」と喜んでくれて、「俺みたいなのが100人いたら、経営も安定するべ」と。それがきっかけでした。

読書で人から一目置かれるといっても、それは世界の名作全集のような、いわゆる立派な本を読むのとは違います。むしろ、ある1つの事柄に関してそのバックグラウンド、深いところをきちんと知っている、理解していることが大切だと思います。

例えば、サッカーならオシム(元日本代表監督)の著書。哲学的な語りで、サッカーを通じての平和を本気で考えている人です。オシムの本を数冊読み込んで、そこから欧州史を語れるまでになる、といったことが他の人に一目置かれるわけです。

そもそも、立派な本とあなたに必要な本とは違うことに気づいている人が、非常に少ないのです。マスの時代から個人の時代に移っている今、“皆が言っていること”を追う必要はありません。少数意見にこそ正解があるような時代なのですから。

■未来の自分は、今から変えられる

「一万円選書」の本を選ぶ際は、「カルテ」と称してお客様にいくつかの個人情報、過去に読んだ本のベスト20といくつかの質問項目にご記入いただきます(図参照)。実は、お客様にはこれがかなりの難行。「1週間かかった」「10回以上書き直した」という方もいれば、「これまでの人生で苦しかったことを書き出してみてください」という質問で涙が出て、作業が進まなくなった方も。所定のA4用紙3枚を超えてすごい分量で書いてこられる方もいます。

既読の本のベスト20を挙げるということは、自分の過去を振り返るということ。自分が今までどんなことを考えてきたのか、何に興味があったのかを思い出すんです。多くの人は、目の前の仕事、自分の評価や成績しか視界に入っていません。自分と周囲を引いて眺めたり、人生という時間軸のうえでの現在位置を掴むのに、自分の読書歴を振り返ることが役に立つのではないでしょうか。

“一万円選書”でよみがえった町の書店●一見、何の変哲もない町の書店だが(写真上)、本棚には隠れた良書がズラリと並んでいる(同下)。壁一面に並んでいたコミックも一掃した。九州など遠方からも頻繁に客が来訪するという。

「上手に歳をとることが出来ると思いますか?」「10年後どんな大人になっていますか?」という質問もあります。60歳、70歳、80歳になったとき、あなたはどうなっていたいのか。田舎で畑仕事か、都会の一等地か等々を具体的にイメージして、そのために必要なことと必要でないことを考えてみれば、無駄なことはしなくなりますよね。時間をどう使っていくのか。一番忘れがちな「今」という時間がすごく貴重だということを思い出してほしい。そんな観点から、例えば「今」の尊さを描いた青春小説をお勧めしたりするんです。

いつも僕が大推薦する『逝きし世の面影』は、我々日本人のご先祖を外国人が描写した一冊ですが、僕らはご先祖のその後を、幾多の戦争を経験する厳しい運命を知っています。もし時間を遡れるとして、彼らに訴えかけることが何かあるかを考えると、涙が出そうになりますよ。

そこから一歩考えを進めると、過去に戻って今を変えられるとしたら、未来の自分は今から変えられる、ということ。10年後の自分はどうなっていたいのかを考えれば、今から10年計画を立ててそれを目指すことができます。そんな意味合いからこの2つの質問を置いています。

■まず、嫌なことから書き出す理由とは

実は、僕が選んだ本を読む以前に、この「カルテ」に回答するプロセスを通じて自分をさらけ出すことで、「これはしたくない」「本当はこんなことをしたい」といった本人にとっての“答え”がほぼ出てきているのです。僕は「カルテ」を読み込むことで、その人にとっての“答え”を見出し、それを肯定してくれそうな本を選ぶわけです。

人は自分が欲しがっている文章と出会いたくて本を読むんです。「あ、太宰治も同じことを言っている!」とかね。それに出会うことで、前に向かっていけるんです。一人ひとりに寄り添って、「僕は味方だよ」「大変だったね」って言ってあげるための本を選ぶのは大変な作業ですが、やり甲斐がありますね。

■あなたにとっての一冊

自分をさらけ出していない「カルテ」だと、当たり障りのない選書になってしまいます。まず嫌なことから書くべきです。嫌なことに1度向き合わなければ、前には進めません。

もし、あなたにとっての一冊を探すなら、この「カルテ」をご自身で書き込んでみるのもいいし、あるいはご自分の年表、自分史を作ってみたらどうでしょうか。いわば自分を時間の中に置いてみる作業です。ゆくゆくは誰しも死んでいくけれども、それまでに何をしたいのか。年を取るにつれて可能性が減っていく中で、したいことは何か。本当の優先順位を、ご自分で考えてもらいたいのです。本当の答えはすでにあなたの中にあるし、それがあなたの愛読書を見つけてくれるでしょう。

品格を上げるポイント:1つのことについて読み込み、背景を知る

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岩田 徹
いわた書店社長
1952年、北海道生まれ。函館ラ・サール高校卒業。商社勤務を経て現職。2006年に開始した「一万円選書」のサービスが各メディアで話題に。
 

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(いわた書店社長 岩田 徹 構成=岩辺みどり 撮影=本田 匡 写真=iStock.com)

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