橋下徹「堺市長選・接戦勝利に意義あり」
プレジデントオンライン / 2019年6月12日 11時15分
■「接戦」と報じられた堺市長選挙だが、11%差は立派な勝利だ
6月9日、大阪の堺市長選挙において、大阪維新の会の永藤英機氏が勝利した。主要な相手は自民党元堺市議の野村友昭氏。永藤氏は13万7862票獲得。野村氏は12万3771票。約1万4000票差での勝利だった。
堺市は大阪府内において大阪市に次ぐ大都市であり、人口約82万人で有権者数は約70万人。投票率は、前回を約3.5%下回る40.83%だった。確かに4月7日に維新が大勝した、大阪ダブル・クロス選の勢いでそのまま押したという感じではなかった。
ゆえに、この約1万4000票差をとらえて、「維新の勢いがなかった」「予想外の接戦だった」などなど厳しい評価も散見され、永藤氏も当選確定後の記者会見では笑顔を見せることなく厳しい表情だった。
でも、立派な勝利だ。物事は比較優位で考えなければならない。これは拙著『実行力』(PHP新書)に詳しく書いた。他の選挙結果と比較して考えなければならないんだ。
(略)
永藤氏は、野村氏の票数を基準に約11%の差をつけて勝利した。他の選挙と比べれば、立派な勝利であることに間違いはない。
それでも永藤氏には辛いことだが、4月7日の大阪ダブル・クロス選挙の維新圧勝の選挙と必ず比べられる。しかし、ダブル・クロス選挙の方が異常だった。このときの維新圧勝は、松井さんと吉村さんの圧倒的な実績が評価されたことが勝利要因だ。両名の実績には、橋下や維新は嫌いだという人さえ、認めざるを得ないところがあった。松井さんの2期8年、吉村さんの1期4年の実績は大変重く、裏を返せば、実績さえきっちりと残せば、敵が自民党から共産党までの既存政党ががっちりとタッグを組もうが選挙で勝てるということだ。
(略)
■2013年以来の市長選挙で負け続けた原因は僕にある
僕が大阪維新の会の代表だった2013年の堺市長選挙は、投票率50.69%。敵方竹山修身氏が19万8431票。大阪維新の会の候補は14万569票で完敗だった。
僕が政治家を辞めた後の2017年の選挙は、投票率44.31%。敵方竹山修身氏が16万2318票。大阪維新の会は今回当選した永藤さんが挑戦して13万9301票で負けた。今回よりも約3.5%投票率が高い中で、竹山氏は約2万3000票差の勝利なのだから、今回の永藤さんの約1万4000票差の勝利が軽く扱われるいわれのないことは明らかである。
この2017年の選挙も、僕に責任がある。
もともとこの堺市長選挙は維新にとって因縁のある選挙だった。まず2009年に、僕が全面支援した元大阪府庁幹部、つまり僕の部下であった竹山修身氏が、当時の現職候補者を破り当選。ところが竹山氏が、堺市長就任後、大阪都構想に猛反対し、自民党から共産党までの既存政党とがっちりタッグを組み、維新と敵対。竹山氏は、維新と組むよりも、自民党から共産党までと組んで多数派を味方にした方が、議会運営が楽だと思ったのだろう。
そこで2013年の堺市長選挙において竹山氏を交代させようと、大阪維新の会が候補者を擁立したところから因縁が始まる。竹山陣営は、自民党から共産党までが反都構想で一致団結し、僕と大阪維新の会は、先ほど述べたように竹山氏に完敗した。そこから維新の勢いがなくなったとか、都構想は頓挫したとか散々言われるようになった。そして堺は反都構想のシンボルとなる。
この2013年の維新候補者に当初擁立しようとしたのが大阪では著名な若手テレビ・アナウンサーだった。このアナウンサーは、堺市出身で市長になりたがっていたのだが、結局はテレビ局に止められて断念し、アナウンサーを続けた。そこで維新は、当時の維新堺市議を候補者として擁立したが敗北。この候補者は堺市議の身分を捨てて、急遽の擁立に応じてくれたが、準備不足は否めなかった。
そして2017年の選挙。このテレビ・アナウンサーが再度、堺市長選挙に挑戦したいと僕に言ってきた。ある夜に、彼と話したところ「必ずテレビ局を退社するので、もう一度チャンスを与えて欲しい」と言い、堺市政をこうしたい、ああしたいと熱く語ってくれた。僕は維新執行部にそのことを伝え、維新執行部はこのアナウンサーと定期的に会食を持ち、コミュニケーションをはかっていた。
(略)
そして選挙まで2カ月くらいに迫って最終的に、このアナウンサーは「立候補しない」と維新執行部に連絡してきた。こんなギリギリになってのすっぽかしである。選挙の責任者である馬場さんは、僕の言を信じて、他の候補者を準備していなかった。馬場さんは責任者として大阪維新の会内部で針のムシロ状態となった。これは馬場さんには申し訳なかった。
この状況で急遽、大阪府議の身分を捨てて立候補したのが、永藤さんだった。今回の永藤さんの当選を受けて、記者会見で馬場さんが涙したのは、このような経緯も背景となっていた。
このように2013年、2017年と、僕が2009年に全面支援して当選させた竹山修身氏に大阪維新の会は破れ続け、そのことが維新批判、都構想批判の支柱となっていた。2019年になって、ようやく大阪維新の会が勝利した。松井さんと吉村さんの実績が評価され、府と市が一体となる大阪都構想の意味合いが、少しずつ堺市民に浸透してきた結果であろう。
大阪府と大阪市は一体となって、著しい成果を上げてきた。堺市も大阪府と一体となるべきではないか、大阪市と一体となるべきではないか、堺市だけが孤立していては衰退あるのみではないか。堺市民は徐々にそのように感じてきたのであろうが、それは全て松井さんと吉村さんの実績による。僕のときには、まだ口だけで訴えるしかなかった。それでは有権者は支持してくれない。
僕が竹山堺市長を誕生させたことの尻拭いを大阪維新の会が完了するのに10年もかかってしまった。これが民主政治における物事の進み方の現実なのであろう。学者やインテリたちのように理想を語るだけの世界とは全く異なる。現実の世を動かそうと思えば莫大なエネルギーと時間が必要になり、その中心は「実績」「実行力」だ。野党国会議員は、そこを肝に銘じるべきだ。国会議員同士の離合集散でチャチャっと世の中が動くなんて、そんな甘いものじゃない。
(略)
(ここまでリード文を除き約2500字、メールマガジン全文は約1万3200字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.155(6月11日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【決定!大阪万博(3)】ついに維新候補・永藤氏が当選! 堺市長選挙が大阪維新の会の原点だった》特集です。
(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=時事通信フォト)
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