学校任せだと子供の才能が潰れる根本理由
プレジデントオンライン / 2019年6月11日 9時15分
■子供の個性に合わない学習方法を強いられる可能性がある
学校の勉強が苦手なわが子に対して、つい「ウチの子は努力が足りない」とか、「頭が出来が悪い」とか考えてしまう親は少なくない。しかし、実際はそうではなく、単に学習方法に問題がある場合も多い。
「プレジデントFamily2019春号」では、関西大学文学部教授の松村暢隆さんに取材した。松村さんによれば、いまの日本の学校教育では、その子の個性に合わない学習方法を強いられている可能性が高いというのだ。
松村さんは、2001年にハーバード大学の心理学者ハワード・ガードナー博士の著書『MI:個性を生かす多重知能の理論』を翻訳し、日本に紹介した。学校で子供の個性にあわせて才能を伸ばす「才能教育」の第一人者だ。
「ガードナー博士は、人の知能はIQのような単一のものではなく、8つあると提唱しました。人はこれらの知能を複合的に使っていて、それらの凸凹によって個性が決まるということから『多重知能(Multiple Intelligences=以下MI)』理論と呼ばれています。そして、8つの知能のうちどれが高いかの違いは、物事を学ぶ際の個性としてあらわれます。つまり、得意とする学び方にも違いがあるのです」
■知能はIQのような単一のものではなく、8つある
8つの知能の概要は次の通りだ。
言語的知能……文字や言語を処理する能力が高く、読み書きが得意
論理数学的知能……物事の筋道を考えたり、因果関係を見つけたりすることが得意
音楽的知能……リズム感や音感がよく、音程やハーモニーを理解することは得意
身体運動的知能……運動能力が高く、体をコントロールすることが得意
空間的知能……空間を的確に認識する能力が高い
対人的知能……他者の気持ちや感情を理解し、良好な関係を築く能力が高い
内省的知能……自分の内面に向き合い、思索したり、表現したりする能力が高い
博物的知能……自然について理解したり、識別したりする能力が高い
たとえば、言語的知能が高い子は「言葉による学習」が得意で、空間的知能が高い子は「絵や図などにビジュアル化すると理解しやすい」といった違いがある。これが学校で提供される指導方法とマッチしないと、結果的に勉強につまずいたり、自分に自信を持って能力を伸ばしたりすることができなくなる。
■「先生が一方的に話すスタイル」が苦手なタイプとは
ここでちょっとテストをしてみよう。知能の違いによって、得意とする学習方法が異なることを読者の皆さんにも実感してもらうために、下記の高校の物理の教科書の説明文を読んでみてほしい。
わかりにくい文章だが、理解しようとする時に知能のタイプがわかるという。
まず、この説明文を読んですんなり理解できた人は「言語的知能」の高い人で、図を描きながらなら理解できたという人は「空間的知能」が高い人、文章の内容を手で再現してみたら理解できたという人は「身体的知能」が高い人だ。
つまり、「空間的知能」や「身体的知能」が高い人は、先生が一方的に話すスタイルの授業では理解しにくいということになる。
「日本の学校教育は、先生の言葉による説明を聞いて理解するという方法が中心。言語的知能に偏っています。それ以外の知能の子たちは、端的にいうと学校の勉強で損しています。こうしたことをぜひ、知ってほしいのです」(松村さん)
■アメリカやオランダではMI理論を教育現場で活用
アメリカでは、1980年代にガードナー博士がMI理論を発表した直後から、個性化教育の実践の柱として学校現場に取り入れられていった。
「子供の得意分野を見いだし、得意な方法で学習させて評価するのが、個性化教育です。たとえば、子供が得意や興味にあわせて科目を選べるようにしたり、さまざまなタイプの教材を用意した学習コーナーを設置したり、プロジェクト学習をさせたりします。プロジェクト学習では、子供がそれぞれ得意分野を生かして役割分担をして、課題を進め、発表します。さまざまな知能の子に向いた学習方法を用意し、皆が力を発揮できるように工夫されているのです」(松村さん)
「子供の幸福度」の調査(※1)で1位になったオランダで人気の教育法「イエナプランスクール」(※2)でも、MI理論が子供の能力を考える時の土台となっている。たとえば言語的知能が劣っていても、ほかに高い知能があれば、そこに着目し、得意を伸ばそうと教師も親も考える。そのため子供は、劣等感を持たずに自分を伸ばしていくことができる。
「親はどうしても苦手なところに着目して、それを克服させようとしてしまいます。でも、そうではなく得意分野を伸ばしたほうが、秀でた能力を持つことができます(グラフ参照)。苦手を克服する教育では、どの力もまんべんなく伸びるものの、学習エネルギーが分散してしまい得意な分野を伸ばすことができません。ぜひ、得意を伸ばす学習方法を家庭で取り入れてほしいと思います」(松村さん)
たとえば、身体的知能が高い子は、教科書を音読したり、算数なら具体物を使って手を動かして考えさせたり、理科も実験をさせると記憶に残りやすくなる。こうした本人が得意とする学習方法をすることで、あまり得意ではないという判定だった論理数学的知能など、他の能力も自然に伸びていくという。
※1 ユニセフ・イノチェンティ研究所が2013に発表した『先進国における子どもの幸福度-日本との比較 特別編集版』より。前回の2007年調査でもオランダが首位だった。
※2 ドイツ発祥で、オランダで広がった教育。3学年ごとの異年齢クラスで学び、授業は個別学習と協働学習が2本柱となっている。学びの選択肢は多彩でオンライン学習をしたり、教科書と問題集で自習したり、グループ学習をしてみたり、いろいろ試す中で、自分が得意な学び方を見つけることが重視されている。
■チェックリスト わが子は8つの知能のうちどれが最も秀でているか
それでは、「8つの知能」別に得意とする学習方法を紹介していこう。
最初に、自分の子供がどの知能が秀でているか別表でチェックしてほしい。各知能の有無を調べるべく、松村さん監修のもと、それぞれ5つのチェック項目を用意した。該当する項目が一番多いところが、秀でた知能ということになる(チェックのついた項目が同数の場合はどちらも秀でている)。知能は複合的なので、いくつか当てはまりそうなものがあればどれも試してみよう。
■子供のタイプ別の向いている学習方法はこれだ
そして、下記が該当する知能に適した学習方法だ。ぜひ家庭で取り入れてほしい。
<言語的知能が高い子>に向いた学習法
文字や言語を処理する能力が高く、読み書きが得意な子。口頭で言われたことを聞き取る能力も高いので、教科書を使って先生が説明する学校教育に向いている。テストでの記述や作文もお手のものなので、成績がいい子が多い。教科書や問題集を使って、これまで通りの学習をさせていこう。
<論理数学的知能が高い子>に向いた学習法
抽象的な思考能力が高く、物事の筋道を考えたり、因果関係を見つけたり、関連づけたりすることが得意な子。科目の中では算数(数学)、理科などが秀でている。問題集を与えると自学自習で伸びていく。暗記科目が苦手な場合は、因果関係を意識させよう。理科の植物は、自分で分類図を書かせてみる。歴史上の人物は、相関図を抱えると記憶に残りやすい。
■暗記科目は音楽的に覚えると記憶定着しやすい子
<音楽的知能が高い子>に向いた学習法
リズム感や音感がよく、音程やハーモニーを理解し、演奏したり、歌ったりする能力が高い子。暗記科目は音楽的に覚えると記憶に定着しやすいので、何でも歌で覚えるのがオススメだ。歌で覚える教材も市販されているので、探してみよう。また、教科書は音読するなど、声に出して耳で聞くという動きを取り入れることで覚えやすくなる。
<身体運動的知能が高い子>に向いた学習法
運動能力が高く、体を上手にコンロトールする。体をつかって自己表現したり、手を使って物作りをしたりするのが得意。このタイプの子は、座学は苦手。算数なら具体物を使って手を動かして考えさせたり、理科も実験をさせたりすると記憶に残りやすい。また、体を動かしながら勉強したほうが集中しやすいので、歩き回りながら教科書を読んだり、音読させたりするといい。
<空間的知能が高い子>に向いた学習法
空間を的確に認識する能力で、どこにどんなものがあるのかを立体的に捉えることができる。立体的なパズルで遊んだり、絵画を描いたり、造形したりすることが得意。このタイプの子の理解を補うために活用してほしいのが、ビジュアルだ。教科書だけでなく、写真や図版がたくさん載った参考書を買って与えてやろう。自分で参考書づくりをさせるのもオススメ。
■リビングではなく個室での学習が向く子がいる
<対人的知能が高い子>に向いた学習法
他者の気持ちや感情を理解し、良好な関係を築く能力に長けている。このタイプの子は、一人で勉強することに向いていない。一人では行き詰る問題も、誰かと一緒に勉強すると深く考え、集中できるようになる。家庭では個室ではなく、リビングで学習させよう。親も一緒に勉強できると理想的。
<内省的知能が高い子>に向いた学習法
自分の内面に向き合い、思索したり、表現したりする能力に長けている。小説家や芸術家、探検家などによくいるタイプ。このタイプの子は、人がたくさんいるところではうまく力を発揮できないことがある。一人でじっくり考える時間が必要なので、個室で勉強したほうがはかどる。
<博物的知能が高い子>に向いた学習法
動物や植物、気象といった身の回りの自然について理解したり、識別したりする能力が秀でている。このタイプの子は観察力に優れているので、どのような教科についてもフィールドワークをしながら学ぶと記憶に残りやすい。理科については動物園や植物園、科学館に連れていったり、社会科では工場見学をしたり、城めぐりをしたり実物に触れる経験をさせよう。
■「子供の鼻歌」を一方的にしかってはいけない
以上、8つの知能に適した学習法を紹介した。
勉強をする際に、鼻歌を歌ったり、歩き回ったり、友達と話をしながら、といったことを推奨するユニークな内容になっている。学習するなら、図書館で静かに黙々と机に向かうといった方法が正しいはず、と考えている親世代にとっては違和感を抱く方も多いだろう。
しかし、大事なのは、子供に適したやり方で学習を進め、本人が新しい知識を楽しく早く習得できるようになることだ。くれぐれも、やり方の「型」にはめて、芽を摘んでしまうのは避けたい。残念ながら学校の指導方法が偏っているのなら、なおさらのこと、親はできる限り子のスタイルに寄り添った方法をとってやりたいものだ。
前出の、知能のチェックリストは大人(親)も試してほしい。
今後、「人生100年時代」(※3)を生きる子供はもちろん、仕事や生涯教育において「勉強」するシーンの多い大人も学習方法のイメージをアップデートし、自分に最適なものを探究することによってこれまで以上に学習効率が上がるかもしれない。
※3 リンダ・グラットンの『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』によると、2007年生まれの日本人は107才まで生きる可能性が50%もあるという。これを受けて政府は、「人生100年時代構想会議」を設置。2017年9月に第一回会議を開催し、人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現するための政策のグランドデザインの検討を始めた。
(プレジデントFamily編集部 森下 和海 イラスト=fancomi 写真=iStock.com)
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