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AIより頭がよくなる"世界標準の勉強法"

プレジデントオンライン / 2019年7月2日 9時15分

AIが台頭するこれからの時代に求められるのは、既存のルールのなかで高い成績を挙げる力ではなく、自ら新しいルールをつくっていける思考力だ――。※写真はイメージです(写真=iStock.com/sarra22)

AI(人工知能)が多くの仕事を代替する時代には、「優秀な人材」の条件が変わる。脳科学者の茂木健一郎氏は、「過去の事例や情報が膨大に蓄積されている分野においては、AIと競ってもかなうわけがない。しかしAIにも苦手な分野はある」と指摘する――。

※本稿は、茂木健一郎『本当に頭のいい子を育てる 世界標準の勉強法』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■記憶力と知識量に加え、判断力も機械が有利に

AIが台頭するこれからの時代、思考の柔軟性や論理的思考力、自分の頭で考えられる力がなければ、社会の中で必要とされる人材として働き続けていくことは難しいでしょう。

いままでは、優秀な人材とは記憶力に優れ、たくさんの知識を持っていることが条件でしたが、記憶力と知識量だけでは、インターネットにはかないません。その結果、知識に代わって判断力が問われるようになったのですが、それすらもAIに取って代わられようとしています。

AIが得意とするのは、ビッグデータをもとに学習し、適切な答えを見つけ出すことです。したがって、既存の分野のなかで、過去の事例や情報が膨大に蓄積されている分野においては、AIと競ってもかなうわけがありません。

一方で、AIにも苦手な分野はあります。これから成長が見込める新たな分野を開拓したり、今まで誰もやってこなかったアイデアを実現させたりといったことです。そして、ここでこそ人間の思考力が発揮されます。ここで求められる能力は、競合相手のいない新しい市場(ブルーオーシャン)を切り拓ける思考力です。

■なぜ「探求学習」が重要なのか

従来の教育では、与えられたルールのなかで正確な答えを出す人が優秀とされてきました。しかし、それはまさにAIが得意としていること。これからは、既存のルールのなかで高い成績を挙げる人ではなく、自らルールをつくっていける人が必要とされます。

その力を育むためにいま注目されている学習法こそが、探究学習(=地頭力を鍛える教育)なのです。これは、従来のような、一方的に知識を得るだけの学習ではなく、自ら設定した課題に対して、仮説を立てたり、情報を集めたりして、主体的に課題の解決策を探っていこうという学習法です。

そして探究学習には、「探求心」「続ける力」「集中力」「記憶力」「思考力」という五つの能力が必要とされます。本稿では、最後に挙げた「思考力」を身につける方法を伝授しましょう。

最近あった、ある大学でのエピソードです。ある日のゼミで、教授が学生たちに、簡単には答えの出ない、少し考え込んでしまうような問いかけをしました。すると学生たちは、考えるのではなく、口々に「先生、ヒント!」「答えは?」「教えて!」と無邪気に尋ねたそうです。

いまの学生たちは、自分で考えるということをあまり楽しめず、すぐに答えを求めて白黒はっきりさせたがる傾向にあります。それというのも、インターネットの便利さに慣れきっているからです。「ググれば答えがすぐに出てくるから、考える必要はない」と思っているのです。

■子供の好奇心を邪険に扱わない

それは、日本の教育にも問題があります。欧米では幼いころから、自分で考えることを習慣づけさせます。幼稚園では毎日、園児たちは「今日は何をしたいか」を尋ねられ、自分でその日にすることを決めなければなりません。一方、日本の幼稚園では、毎日みんなで同じことをします。

家庭でも、「勉強をしなさい!」だの「早く支度をしなさい!」だの、大人が子供にやるべきことを指示してしまうため、子供が持っている子供なりの考えが潰されてしまうのです。

また子供は、知的好奇心から「空はなぜ青いの?」「どうして勉強しなければいけないの?」などと、自分が知らないことを親や大人に聞いてきます。その際、大人がすぐに答えられるかどうかは微妙なところ。自分が知らなかったり、忙しくて答えるのが面倒くさかったりすると、「そんなことはどうでもいいでしょ」と突き放してしまうこともあるでしょう。あるいは、「子供の質問にはなんとしても答えてやらねば!」と、張り切って自分で調べた答えを教えたり、自分の考えを絶対的な正解のように言ったりしてしまう。

子供に対して、やるべきことを指示したり、質問に対して突き放したり、答えを教えてしまったりといった態度は、子供が自分で答えを見つける機会を永久に奪ってしまいます。

こういうとき、どうすべきでしょうか?

大人が答えを教えてあげる必要はありません。それよりも、子供の好奇心を邪険に扱わず、かつ邪魔をしないようにするには、「問いかける」ことが大事なのです。人は問いかけられれば、答えを考えようとします。「○○しなさい!」と命令されても考えませんが、「どうしたらいいと思う?」と聞かれたら、「どうしたらいいだろう?」と考えるものです。

それでも、子供が答えにたどり着けない場合は、答えにたどり着くためのヒントを与えるといいでしょう。いわば、子供たちの知的好奇心を支えてあげるコーチ役に徹するのです。例えば、インターネットで調べる方法を教えてあげたり、その道に詳しい人を紹介してあげたりするのです。

そして最終的には、子供自身が「自分で考えるものだ」と理解すること。そして、大人にできることは、知的好奇心を支えてあげて、子供が自分で考え、答えを出し、行動し、そこから学び続けることができるようにすることだけなのです。

■読書こそが抽象的な思考能力を鍛える

2018年秋、学術誌『ソーシャル・サイエンス・リサーチ』に、大変興味深い調査結果が発表されました。本に囲まれて育った中卒の人と、本がない環境で育った大卒の人は、ほぼ同じ学力だというのです。なぜなら読書は、思考力を高めるには打ってつけのツールだからです。

読書をしているときの脳は、言葉を通して世界を知り、整理されるという、一番高度な働きをしています。つまり言葉を通して想像力を育んだり、「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」という五感の記憶が言葉によって喚起され、遠い世界に思いを馳せたりするので、抽象的な思考能力を鍛えるには非常にいいのです。

抽象的思考とは、物事を大きなまとまりで、広い視点で捉えることを言います。もっとわかりやすく言うと、「大切なのは、○○(細かい問題)ではなく、△△(もっと大切なこと)なのではないか?」と考えてみることです。

この抽象的思考の利点は、次の三つです。

①対立した事柄に共通した、本来の目的を考えることによって、問題解決策を出せる

例えば、「円安のほうがいいか、円高のほうがいいか」と意見が対立したとき、「本来の目的」は何だろうと考えます。大切なのは、私たちが安心して毎日過ごせることではないか。ならば、為替に影響されない生活を築こう、という解決策を導き出せるのです。

②本来の目的がわかることで、「なぜ、それをするのか」が明確になる

「将来、エンジニアになりたい」という夢を持っている人がいたとします。「エンジニアになることで、どうなれるのか?」を考えてみると、「自分が本当にやりたい仕事ができる」のようになるでしょう。さらに、「自分が本当にやりたい仕事ができると、どうなれるか?」を考えてみると、「毎日充実した気持ちで働ける」となり、さらに、「毎日充実した気持ちで働けると、どうなれるのか?」を考えると、「毎日が楽しい。幸せ」のような答えになるでしょう。

このように考えると、エンジニアになりたいという気持ちの背景には、「毎日を楽しく、幸せな気持ちで働く」という本来の目的があることがわかります。すると、「自分はなぜエンジニアになりたいのか」という動機が明確になり、普段の勉強に対するモチベーションも上がるでしょう。

③本来の目的と手段の区別ができ、目的をかなえるための選択肢が広がる
茂木健一郎『本当に頭のいい子を育てる 世界標準の勉強法』(PHP研究所)

資格取得を例に挙げて考えてみると、資格とは第三者から「この人はこのぐらいのことができますよ」という証明になります。そのために、多くの人は「第三者からの信頼の証し」を得ようと、一生懸命に勉強します。ですが、本来の目的が「他人からの信頼」ならば、資格以外にも「目の前の勉強に一生懸命取り組み、親や先生から信頼される」ことも選択肢としてはあることがわかります。つまり、本来の目的がわかると、手段の延長上にはない、まったく新しい選択肢を得ることができるのです。

こうした「思考力」を身につけることが、探究学習には欠かせません。2020年の大学入試改革では、思考力・判断力が重視されることになります。AI時代のいまは、探究学習こそが、本当に頭のいい子を育てるための「世界標準の勉強法」なのです。

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茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年東京生まれ。脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学理学部、法学部を卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程を修了、理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア(意識のなかで立ち上がる、数量化できない微妙な質感)」をキーワードとして、脳と心の関係を探求し続けている。『脳と仮想』(2004年、新潮社)で小林秀雄賞を、『今、ここからすべての場所へ』(2009年、筑摩書房)で桑原武夫学芸賞を受賞。

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(脳科学者 茂木 健一郎 写真=iStock.com)

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