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「ハーゲンダッツのバニラ味」が万年1位なワケ

プレジデントオンライン / 2019年6月11日 9時15分

日本での販売数量が1位の「ミニカップ バニラ」。発売35周年を記念し、6月にパッケージデザインを一新した(写真提供=ハーゲンダッツ ジャパン)

数あるアイスクリームブランドの中でも、高価格帯で圧倒的な人気を誇る「ハーゲンダッツ」。世界中にファンを持つが、日本ではバニラ味がダントツで販売数量1位なのだという。なぜ、日本人はそこまでバニラアイスが好きなのか。経済ジャーナリストの高井尚之氏がその謎に迫った――。

■別格上位に君臨するブランドアイス

スーパーやコンビニで手軽に買える「家庭用アイスクリーム」の市場は年々拡大し、2017年度には「5000億円」の大台を突破した。この春夏もアイスメーカーやコンビニから新商品が発売されている。だが「アイス売り場」の激戦区で生き残るのは、ほんのわずかだ。

そんな家庭用アイス市場で、年間売上高100億円を超えるメガブランドは、1位「明治 エッセルスーパーカップ」(明治)を筆頭に、2位「パピコ」(江崎グリコ)、3位「パルム」(森永乳業)などがある。その詳細は「"アイスの王"スーパーカップ人気の秘密」(5月6日)でも紹介した。

だが、この順位は単品ブランドのランキングで、表には入らない“別枠1位”がある。それが「ハーゲンダッツ」(ハーゲンダッツジャパン)だ。高級アイスの代名詞として知られ、シリーズ全体の売上高は500億円を超える。

6月11日に期間限定発売する「キャラメルバタークッキー」(同)

1984年に日本に上陸した外資系ブランドだが、現在も日本向けの新商品や限定商品を積極的に投入している。例えば6月11日にミニカップ(110ミリリットル)の「ハーゲンダッツ ミニカップ キャラメルバタークッキー」(種類別ではアイスクリーム。消費税込みで319円)、6月25日には「同 バナナ&マスカルポーネ」(同アイスミルク。319円)を限定発売する。これらはカップアイスだが、クリスピーサンドやバーアイスでも限定商品は多い。

国内販売を始めて35年のロングセラーブランドは、なぜ高いのに売れ続けているのか。同社に取材し、強さの秘密に迫った。

■スプーンが入らない“カッチカチで濃厚”の秘密

「ハーゲンダッツは長年、人気トップ3の『バニラ』『ストロベリー』『グリーンティー』の定番フレーバーを軸に、お客さまの好みと向き合いながら、期間限定のフレーバーも出し続けてきました。一貫して大人の方に支持されており、『自分へのごほうび』や『大切な人と一緒に食べたい』といった時にも選んでいただけます」

ハーゲンダッツジャパンの黒岩俊介氏(ブランド戦略本部マネージャー)はこう説明し、モノづくりへの思いを続ける。

「例えばハーゲンダッツのレシピは『世界共通』です。特に商品の生命線である主原料のミルクにはこだわってきました。日本では北海道の根釧地区(根室・釧路地区)の新鮮なミルクを使っており、酪農家は牧草が育つ土づくり、乳牛1頭1頭の体調に合わせた飼料の調整まで気を配っています」

さらに「濃厚なアイスクリーム」への思いも強い。

「アイスクリームを口にした時の舌ざわりにもこだわります。素材に加えて、なめらかで濃厚な味わいを出すために、空気の含有率を20%~30%と低く抑えています」(黒岩氏)

空気の含有率が低いと、アイスクリームの密度を高め、濃厚でクリーミーになるのだという。一方で、特に夏向けには果実系商品も手がけ、こちらはジューシーな食感を打ち出す。

■バニラ味が日本でダントツに売れる謎

外資系ブランドが「消費者の目が厳しい」日本で成功する秘訣に、「本国のやり方を押しつけず、文化や風土を意識して変える」がある。日本人の好みに合わせた商品開発もその1つ。

ハーゲンダッツ ジャパン株式会社ブランド戦略本部マネージャーの黒岩俊介氏=4月16日

ハーゲンダッツの定番フレーバーで人気第3位の「グリーンティー」は、1996年に日本側から持ちかけて、日米共同で開発された商品だ。当時は「真緑のアイス」が米国の担当者にピンと来なくて、日本の茶畑や茶室に案内してお茶文化を理解してもらったと聞く。

その後も「カスタードプティング」がヒット商品となり、餅を入れた「華もち」シリーズの「きなこ黒みつ」が新たな“和スイーツ”として大人気となった。現在は米国本社からも「日本はユニークな市場」として許容度が高まっているようだ。

「ユニークな市場でいえば、他国の販売数量は把握できていませんが、そもそもバニラ味が1位という国は日本ぐらいのようです。各国の1位は、ストロベリーやチョコレート系などどれもバラバラだと聞いています」(黒岩氏)

なぜ、日本人はそこまでバニラ味が好きなのか?

「日本では『アイス=バニラ』がディファクトスタンダード(事実上の標準)で、特に年配者の方は指名買いをされます。シンプルな味を好む文化が根強いですし、バニラが他の素材と組み合わせやすいのもあるでしょう」

■スーパーに並ぶ前は直営店でファンを増やした

ラグジュアリーブランド以外の商品ブランドは「お高くとまる」のではなく、どこかで「降りてくる」姿勢も大切だ。高級感を打ち出しているハーゲンダッツも、販売手法の歴史はそうだった。

現在は全国各地の小売店で買えるが、1984年の初上陸時は、東京・南青山の直営店をオープンした。青山通りに面したこの店は、オープン当初から若者を中心に行列となった。今では珍しくない「行列文化」のさきがけだったのだ。

1980年代は直営店での販売が主体で、2013年まで一部を運営した。筆者が最初に取材したのは15年前(2004年)で、国内店舗数は66店あったが、総売り上げに占めるショップの売上比率は6%に過ぎなかった。

「当時は直営店に来て、体験として楽しんでいただくことも重視していました。ある時期まで『ハーゲンダッツのファンづくり』には不可欠な存在だったのです」(黒岩氏)

流通戦略としては、スーパーなどの量販店で販売する現在も、安売りの目玉商品になることは少ない。逆に「あのハーゲンダッツが今日は安い」と買い込む消費者は多い。長期保存がきくアイスは「特別な日」まで取っておけるからだ。

■アイス支出額は、1世帯で年間1万円近くにも

冒頭でアイスの市場規模を紹介したが、別の調査データも紹介しよう。

コンビニにあるアイス売り場。来店して新商品を知り、購入する消費者も多い=5月17日、筆者撮影

日本アイスクリーム協会のホームページ掲載の資料(総務省「家計調査」)によると、2018年の1世帯当たりのアイスクリーム支出金額(全国平均)は「年間9670円」だった。2014年の同支出額は「年間8006円」だったので、5年で20%、1600円以上も増えた。月別で1000円台を超えるのは6~8月の夏季だが、近年は冬季の支出額も上がっている。

また都道府県庁所在地・政令指定都市で見ると、過去10年で7回首位の石川県金沢市に代わり、今回の調査では静岡県浜松市が首位になった。金沢市の首位陥落を、地元では「冬季に大雪の日が多く、外出機会が減った。特に2月は臨時休業する店が目立った」と指摘する声もある。

■ハーゲンダッツが最も売れるのは「12月」

冬季にアイスを食べる「冬アイス」の消費動向は、いずれ紹介したいが、実はハーゲンダッツの売り上げ月別で最も売れるのは盛夏ではない。「12月が最強のブランド」なのだ。

「先ほど話した『大切な人と一緒に食べたい』もそうですが、特に年末年始は、家族や親戚、昔の同級生などが一堂に会する機会が多い時期。そうした時に選んでいただいています」(黒岩氏)

何年か前の取材で「インビジブル・ファミリー(経済的に支え合う家族)」と呼ぶ消費の話を聞いたことがある。例えば、リタイア世代の夫婦2人が来店し、大量に食品を買う。年配夫婦だけで食べるのではない。自宅の冷蔵庫に保存しておくと、子どもの一家が食品を目当てに孫連れで訪ねてくるそうだ。

ハーゲンダッツ日本上陸時に35歳だった人も現在は70歳。それより上の世代は「高級アイス=レディーボーデン」(当時は明治乳業。現在はロッテアイスが販売)だが、今では「高級アイス=ハーゲンダッツ」に変わった。

商品価格はアイスとしては高いが、生ケーキなどに比べれば高くはない。その「手の届くぜいたく」を上質感と新鮮味で上手に訴求するところに、ハーゲンダッツの強みがある。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之 写真提供=ハーゲンダッツ ジャパン)

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