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一流店と同収入で5時間早く帰れる定食屋

プレジデントオンライン / 2019年6月24日 9時15分

「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」の様子(画像=『売上を、減らそう。』)

1日8時間勤務で、有給取得率がほぼ100%の飲食店が京都にある。一流店から移ったシェフは、収入は同じ程度で、5時間も早く帰れるようになったという。「佰食屋」代表の中村朱美さんは「全員が毎日全力で頑張らないと回らない会社は続かない」という――。

※本稿は、中村朱美『売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』(ライツ社)の一部を再編集したものです。

■DJの活動をしながら正社員として働く

実際に従業員たちはどんなシフトで働いているか、例を挙げて説明していきます。

・(正社員Nさんの場合)朝9時出勤、夕方17時45分退勤の8時間勤務。

休みは完全週休2日制で、月8日から9日ほど。8月には夏季休暇として4連休をとりました。2カ月に一度は3連休を入れるようにしています。

Nさんは佰食屋以外にDJとしても活躍しています。DJの活動は夜の時間が多いため、イベントがあるときはその当日と翌日の2日間、休み希望を出しています。また、佰食屋で働くようになって、3連休がとれるようになったため、キャンプに行くという新しい趣味もできたそうです。

また、正社員には年末年始休暇以外にもゴールデンウィーク分の代替休暇(5日間)があり、それ以外の時期でも、公休と有給休暇を合わせて4連休で休む人もいます。

■有給休暇に理由なんていらない

佰食屋の有給休暇の取得率は、ほぼ100%です。基本的には本人の希望優先で、自由にとることができます。申請は、その理由を問いません。

「彼女とつきあいはじめた日の記念にごはんを食べにいくから」素敵です。「彼氏と旅行に行くから」とっても楽しみじゃないですか。

「そんなことで休むの?」と感じる人もいるかもしれません。でも、その人にとってなにが大切なのか、どんなことを優先させたいかは、それぞれ違います。

ある社員の入社面接をしたときには、こんなことを言われました。「6カ月後に家族で旅行に行く予定を立てているのですが、9日間休んでもいいでしょうか?」会社によっては「勤める前から休むことを考えるなんて!」と、その人を採用しないかもしれませんね。けれどもわたしは、「前もって素直に言えるなんて、なんていい人だろう!」と感じました。その人を採用して、予定通り9日間の連休をとってもらいました。

■出産後に育児休暇を取った男性店長

2店舗目の「すき焼き専科」で立ち上げから勤務していた従業員Kさんは、子どもが生まれたときに男性の育児休暇を取得しました。

本当は「2~3カ月育休取得したら?」と勧めていたのですが、当時彼は店長で、責任感も人一倍ありました。幸せを決めるのは自己決定権。だからこそ、彼は自分で休む期間を決め、「出産後、奥様が退院する日から1週間休む」という育児休暇を選択しました。

病院から退院する奥様とお子様を迎えにいき、そこから自宅での新生活を3人でスタート。1週間後に職場に復帰されたとき、奥様からわたしたち宛に感謝のお手紙をいただきました。まだまだ男性の育児休暇が浸透していない社会で、奥様がいちばん大変なときに一緒に寄り添える時間を持ってもらえたことを、わたしも自分のことのように嬉しく感じています。

会社によっては、有給休暇をとるために、前日に残業して仕事を終わらせたり、逆に休んだ翌日に仕事が溜まってしまったり、「有給休暇をとるとかえって大変になる」本末転倒な状況も起こっているといいます。

■従業員の休みで減った売上は「必要経費」

けれども、佰食屋では、思う存分休むことができます。それはなぜか? 休みをとってもほかの従業員にしわ寄せが来ることがないから、です。

そもそも、そのためにわたしは経営者として、従業員数に余裕を持たせて採用しています。正社員が休んでも、代わりに誰かがカバーできる体制があります。

ただ、どうしても代わりの人が見つからないとき。それでもムリしてその人に出勤をお願いするようなことは絶対にしません。いつもよりも一人少ない4人体制でお店を回すことになるなら、そのぶん20食少ない80食を目標にします。

足りないなら、減らせばいいのです。

そうすれば、休んだ従業員の負担を誰かが負う、なんていうことにはなりません。「あの人が休んだせいで大変だった」などと、誰も思わないはずです。

もし経営者が、「悪いけど4人でお店を回して。でも100食は売り切るように頑張ってね」とお願いしたら、その4人は、休んだ人に対して不満を持ってしまうでしょう。そうやってお店の中がギスギスして、誰かが休むことをほかの人が歓迎できない環境になってしまえば、大きな問題となります。

「休んでいいよ」と許可するのは、経営者であるわたしの責任です。

従業員が「休みたい」という気持ちを尊重し、結果として4人でお店を回すことになったのなら、売上を下げてでも休ませてあげるのが経営者としての役割。その日に出るマイナス分の売上は、必要経費です。

■「給与より休みを優先する」選択肢をつくった

正社員、短時間正社員、アルバイト。それぞれが働きたい働き方で働けるように、勤務形態に選択肢を設け、柔軟に対応するなかで、いつも気をつけているのは「不公平感」が出てしまわないようにすることです。

基本的には、本人の希望優先でシフトを決めているのですが、完全に自由に任せていると、不公平になってしまうこともあるのです。

たとえば、正社員のなかに2名ほど、家庭の事情のため土日に集中して休みをとることの多い社員がいます。その社員がいる店舗では、どうしてもほかの人が土日の休みをとりにくい。表向きは「大丈夫ですよ」と言ってくれていても、長期間となると、少しずつ「あの人ばかり土日に休んでズルい」という意見が出ないとも限りません。

そこで、休みの希望が誰よりも優先され、土日に休みを固定する代わりに基本給が少し低くなる、という契約を本人承諾のもとに結びました。「給与より休みを優先する」という選択肢を設けることで、ほかの正社員と不公平感があまり出ないようにしたのです。そしてそれを「あけみからのメッセージ」で共有し、お互いの事情を理解できるようにしました。

ほかにも、アンケート形式で「今月はもっと出勤して稼ぎたい」という人と、逆に「扶養控除内で働きたいから今月はもっと出勤を抑えたい」という人とをマッチングして、シフト調整を行なったり、みんなが「どのくらい働きたいか」をオープンにする環境づくりを心がけています。

■百貨店と同じ収入で5時間早く帰れる

佰食屋の給与形態は、正社員の場合、基本給に各種手当や賞与などがつく、一般的な企業と同じものです。たとえば、正社員の基本勤務を朝9時半から17時までとすると、朝の出勤を30分前倒しすると+1万円、退勤を30分遅らせると、もう+1万円手当がつきます。これは必須条件ではなく、あくまで本人の意思に任せています。

モデルケースを挙げると、百貨店のレストランで働いていた40代の社員は、それまでの年収とほぼ変わらない水準で収入を得ているにもかかわらず、労働時間はこれまでより1日5時間も短くなったそうです。残業ゼロ、しかも圧倒的に労働時間を削減することができたのに収入はほとんど変わらない、と言うのです。

■「誰一人として、仕事が原因で体調を崩してほしくない」

佰食屋では、税理士の先生に呆れられるほど、人件費が高くかかっています。それだけ、事業規模に対して多めに従業員を採用している、ということです。

「もう1人か2人分、削ってもいいんじゃないですか」と、たびたびアドバイスされます。けれども、目先の利益だけのことを考えても、ちっともいいことなんてないのです。

働く人にとって他人事でないのが、心の問題です。

中村朱美『売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』(ライツ社)

心に変調をきたし、休職や退職を余儀なくされる人がたくさんいらっしゃいます。その原因の多くは、経営者が効率や生産性を優先させ、「従業員全員が毎日全力で頑張らないと会社が回らない」という状態を放置しているから、です。

従業員は人です。一人ひとり生きている人間です。

日々のメンテナンスが必要ですし、たまに体調不良にもなります。家族や子どもが体調を崩し、その看病をしなければならないときもあります。それに、病気になった人のケアに経費をかけても、その対象者以外の人にはなんの恩恵もありません。それよりも、会社側が前もって人員を確保することで、すべての従業員のために経費をかけたい、と思っています。

誰一人として、仕事が原因で体調を崩してほしくない。そして、これからも働き続けたい職場にしたい。

ギリギリの人員で組織を運営して、せっかく教育した社員が続々と退職してしまってから、必死で新しい人材を探すのか。それとも、みんなが気持ちよく仕事できる環境をつくり、長く勤めてくれる従業員ばかりの組織にするのか――。

どちらを選ぶか、ということ。

わたしは、迷わず後者を選びます。

■なぜ「長時間労働は当たり前」になっているのか

これは佰食屋でないと実現できないことなのでしょうか。あるいは、京都だからこそ可能となっている実例なのでしょうか。

講演会でも「うちは業種も規模も違うから無理」「会社で導入するとなると難しい」そんなことを口々に言われます。では、そもそも経営者はなぜ、従業員に残業を強いているのでしょうか。従業員もなぜ、「長時間働くのが当たり前」だと考えているのでしょうか。

日本の労働基準法では、こう定められています。

・使用者は、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません。

これは、国が定めた「国民が適切に働ける条件」です。それなら、この基準内で、そもそも就業時間内に利益を出せない商品とか企画ってダメじゃないですか。

基準を大幅に超えて、従業員が必死に働いて維持している商品やサービスは、たとえ多くの人に支持されて、たくさん売れたとしても、「誰かが犠牲になっている」という事実は消せません。

就業時間内に利益が出せない事業なんてやめてしまえばいい、と思います。

■自分がやりたくないことは従業員にさせない

「人を雇用する」ことは、その人の人生はもちろんのこと、その人の家族や大切な人の幸せまで面倒を見る、ということです。

果たして、そこまでの覚悟を持った経営者が、どれほどいるのでしょうか。

「従業員はせいぜい頑張って、稼いでくれたらええねん」「営業時間を伸ばせば伸ばすほど、売上は上がる。なんとか頑張ってもらおう」。そう考える経営者の、どれほど多いことか。そんな経営者を見ると、こうツッコミたくなります。

「自分がやりたくないことを、なんで人にやらせようとするん?」

わたしは、絶対に自分がやりたくないことを、従業員にさせたくありません。

わたしが絶対にやりたくないことは、人のせいで残業させられること。18時以降働くこと。京都以外に転勤すること。だからこそ、佰食屋の「1日100食売り切って、早く帰る」仕組みはできました。

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中村朱美(なかむら・あけみ)
「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」代表
1984年、京都府生まれ。2012年に「1日100食限定」をコンセプトに「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」を開業。行列のできる超人気店にもかかわらず「どれだけ売れても1日100食限定」「営業わずか3時間半」「飲食店でも残業ゼロ」というビジネスモデルを実現。また、多様な人材の雇用を促進する取り組みが評価され「新・ダイバーシティ 経営企業100選」に選出。2019年に日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー大賞」を受賞。6月に初の著書『売上を、減らそう。』(ライツ社)を出版。

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(「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」代表 中村 朱美)

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