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力強く安心元気を誓う"自民党公約"の稚拙

プレジデントオンライン / 2019年6月11日 9時15分

参議院選挙公約を掲げる自民党の岸田文雄政調会長=6月7日、東京・永田町の同党本部(写真=時事通信フォト)

■絵に描いたような「やっつけ仕事」でつくった公約

自民党は夏の参院選に向けて6月7日、選挙公約を発表した。絵に描いたような「やっつけ仕事」でつくったとしか言いようがない内容だ。目玉といえる政策は、ほとんどなく、具体性も乏しい。現段階では有利な選挙戦が予想される中、安全運転を心掛けてのことなのだろう。

しかし、そんな公約の中に選挙戦での火種となる記述がある。今後の選挙戦で野党の追及を受けて守勢に回ることになりかねない。

■2年前の衆院選公約の「コピペ」といえる内容

手元にある自民党の参院選公約では、スーツ姿の安倍晋三首相がほほ笑む写真に「日本の明日を切り拓く。」と記されている。2年前、2017年の衆院選の時の公約「この国を守り抜く。」とデザインはそっくりだ。

1枚めくると安倍氏が4月1日に新元号「令和」について説明している時の写真とともに「自民党総裁」の肩書で安倍氏のメッセージが書かれている。これも、国連での演説と思われる安倍氏の写真とメッセージが書かれている2年前の公約とよく似ている。

さらにページを進めていっても17年公約と酷似している。自民党の公約は主要項目をまとめた「本編」と、詳細な政策を羅列した「政策バンク」の2層構造になっており、今回もそれを踏襲している。

今回の「本編」は18ページで前回と同じ。主要政策の数は前回も今回も6つ。両方とも最後の6番目に「憲法改正」を置いている。ここまでくると「コピペ公約」といわれても仕方ない。

■21枚のうち20枚に安倍氏が写る「首相依存」

掲載写真も安倍氏の活躍を前面に出すコンセプトは同じ。17年公約では表紙を含めて20枚の写真のうち10枚に安倍氏が写っていた。一方、今回の公約は21枚のうち20枚に安倍氏が写る。2年間のうちに自民党は「安倍氏依存」がさらに進んでいるということだろうか。

こんな公約にも、火種は潜んでいる。先ほど紹介したように自民党の公約は「本編」と「政策バンク」に分かれているが、火種は注目度の低い「政策バンク」の冒頭「外交・安全保障」の項目にある。

北朝鮮政策について「政策バンク」では「制裁措置の厳格な実施とさらなる制裁の検討を行うなど国際社会と結束して圧力を最大限に高め……」とある。

■北朝鮮に対し「追加制裁の検討」というズレた表記

安倍氏は現在、北朝鮮による日本人拉致問題を打開するため「前提条件なし」で金正恩朝鮮労働党委員長との日朝首脳会談の実現を目指すことを表明している。その方針と「追加制裁の検討」という表記は明らかにずれている。

もう一つ。「政策バンク」の中では北方領土については「わが国固有の領土」と明記している。

安倍政権は北方領土交渉を前進させるため、ロシアを必要以上に刺激しないよう神経をつかっており「わが国固有の領土」という表現も使わないようにしている。ところが公約の方には明記されている。ここでも政府と与党の足並みはそろっていない。

なぜこのようなことが起きたのか。

■保守派の意見を「政策バンク」だけに載せて調整した

自民党内には、従来の対北朝鮮、対ロシアの外交方針を軌道修正する安倍外交に違和感を持つ勢力が少なくない。北朝鮮やロシアに毅然たる対応を維持すべきだという保守的な勢力が中心だ。特に北朝鮮については、圧力を弱めるべきではないという意見が強い。彼らは安倍政権を支持する層の核を占める勢力で、無視するわけにはいかない。

自民党関係者は耳打ちする。

「そういった保守派の意見は『本編』には載せない代わりに『政策バンク』に載せることで妥協を図ったのだろう」

つまり「本編」の方は政府の方針に沿った書きぶりにして、格下の「政策バンク」でバランスを図ったということのようである。

「融通無碍」で鳴る自民党らしい発想ではあるが「政策バンク」とはいえ公約は公約。与党の公約に政府の方針と齟齬(そご)のある記載があっていいはずがない。

当然ながら野党側は、この矛盾を突いてくるだろう。終盤国会での論戦や、選挙の際の討論会で「安倍氏は条件をつけずに交渉をすると言っていたが、追加制裁も検討するのか」「公約では北方領土が『わが国固有の領土』と書いてあるが、そういうことでいいのか」という追及が相次ぐことになるだろう。

■当初の自民党公約は、民主党の「失敗」を教訓としていた

冒頭でも紹介した通り、今回の自民党公約は、かなりの「手抜き」と言っていい。2000年代、公約を「マニフェスト」と呼び、数値目標や期限が明記された具体的な公約とすべきだという運動が広がった。その流れにそって2009年、民主党が政権についた。

だが、民主党はマニフェストで掲げた約束の多くを実現できなかった。その結果、民主党は3年あまりで政権から転落するのだが、同時に「マニフェスト」ブランドも失墜した。失敗したのは政策実現能力のなかった民主党であって、マニフェスト自体に罪はないのだが……。

その後、政権に復帰した安倍自民党は、これまで2度の参院選、2度の衆院選を経験してことごとく勝利してきたが、民主党の「失敗」を教訓として、公約は抽象的な内容や決意表明のような言葉が並ぶものを発表していた。

■これまでの公約の中でも最も具体性が乏しい内容

政権復帰後、5度目の国政選挙公約となる今回は「力強い」「しなやかで」「安心」「元気な」「快適で」「強靱な」などの形容詞が続く。これまでの公約の中でも最も具体性が乏しい内容といえる。

今回の対北朝鮮、対ロシア政策についての記載は、常勝自民党が公約を軽視したことによって生じたことと言うことができる。

政府方針と齟齬のある内容が自民党の公約に紛れ込んだ理由について、先ほどは「『本編』と『政策バンク』を使い分けた」という自民党関係者の見立てを紹介した。その一方で「政策バンク」の方は従来蓄積された政策をそのまま羅列させただけで、きちんとしたチェックが入らなかったのが原因との見方さえある。

どちらが正しいのかは分からないが、いずれにしても、自民党内で公約に対するこだわりが乏しいことにかわりはない。これは、有権者を軽視していると言ってもいい。

参院選に合わせて衆院を解散し、衆参同日選となる可能性が今も語られ続ける中、選挙戦で有権者軽視が明らかになってくれば、自民党は選挙戦で思わぬ逆風にさらされるのではないか。

(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)

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