バカな管理職は"俺は部下より優秀"という

プレジデントオンライン / 2019年6月14日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Dean Mitchell)

管理職の仕事とはなにか。それは優秀な部下を育成することだ。ところが「自分自身は部下より優秀」「管理職は『あがりのポスト』」という誤解をしている管理職が少なくない。ゼネラル・エレクトリックで人材育成研修を行っていた田口力氏は、「そんな管理職には誰もついてこない」と説く――。

※本稿は、田口力『世界基準の「部下の育て方」』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■マネジャーが会社で「表彰」される理由

今から3年後のある日、あなたは最優秀マネジャーとして会社から表彰されることになりました。広報部から社内報に記事を掲載したいとの申し出があり、インタビューを受けることになりました。あなた自身はまだ、表彰の理由を聞かされていません。

インタビューの質問は次のように始まりました。「今回表彰を受けることになった最大の理由は何だと考えていますか。また、それはどのような努力によって成し遂げられたのでしょうか」。

あなたはこの質問に対して、何と答えるでしょうか――。

■部下の育成は企業にとっても喫緊の課題

これはマネジャー研修の最後に、私から参加者に対して行う質問です。この記事を読んでいただいている方であれば、その答えは「数多くの優秀な部下を育成したこと」になるでしょう。

実際の研修で同じような質問をすると、参加者全体の6~7割が「部下育成によるもの」と回答します。これは、マネジャーたちにとって部下育成が最も重要な課題であり、本人もそれを認識しているということを表しているのは言うまでもありません。

また、現在の日本では、「組織としての生産性の向上」という話題はもちろん、「人手が足りない」「いい人材を探せない」「人材流動性が高く、社員が定着しない」といった企業としての悩みが取り沙汰されています。こうした状況を打開するためにも、人を教え導き、育てることの重要性はますます増しています。

「部下の育成」は、マネジャー個人にとっても、企業にとっても喫緊の課題なのです。

■GEは「人材開発に年間10億ドル」を投資する

「部下育成」の課題に対する処方箋のひとつは、「年間10億ドルを人材開発に投資」し、リーダー輩出企業として高い評価を得ているGE(ゼネラル・エレクトリック)にあると私は考えています。

田口力『世界基準の「部下の育て方」』(KADOKAWA)

私は7年半にわたり、「世界最高のリーダー育成機関」と言われる、GEのクロトンビルで、幹部から若手リーダーたちまで各階層の選抜メンバーを育成しました。

GEでは各階層の上位約10%にランクされた社員だけが、クロトンビルの研修に参加することができます。そして参加者に共通して見られた特徴は、高い業績を挙げたということだけでなく、部下の育成に真剣にコミットして実行するということでした(だからこそ研修に選抜されたという見方もできるでしょう)。

私は「部下育成」について研修で教えながら、高い業績を上げるビジネスパーソンの「部下育成」に対する考え方や取り組みを知る機会に恵まれたのです。

GEから独立した後は、世界基準としてGEで教えてきた部下育成に関する方法論や考え方を、日本企業に対して導入してきました。その時に感じた私の驚きは、「グローバル展開している欧米企業では常識とされている方法論や考え方が、同じくグローバル展開している日本企業においてはまったく知られていない」というケースがとても多くあるということです。

基本的な「管理職の責務」についての考え方もそうです。

■優れた管理職はまず「自己の成長」を重視する

私はGEに入る前までの約20年間、日本企業を対象とした管理職研修の冒頭で「管理職の3大責務」について教えていました。

その3つとは、「(1)業績目標の必達」「(2)組織の活性化」そして「(3)部下の育成」です。組織の一員として働く管理職であれば、この3つは世界中どの企業で働いていても組織から求められるものです。

ところがGEに入ってみたら、この3つだけでは足りないということを実感しました。

もうひとつ必要なのは「自己の成長」です。GEではこれを、「3大責務プラス・ワン」という表現で教えていました。

管理職になると部下の育成という責任が生じるため、「育成」というテーマの焦点は部下に当てられ、ややもすると自分を成長させることに対する関心が無意識のうちに薄れてしまいます。

しかし、管理職や経営幹部が部下育成に関してまず行わなくてはならないことは、自分自身が積極的に学んでいるという姿を見せることです。自分の上司が進んで学んでいる姿を見れば、部下は自然とその姿勢を見習います。

■全社員のなかで「CEOが一番学んでいる」会社

私がGEにいた当時、30万人の社員の中で最も熱心に学んでいたのはCEOのジェフ・イメルトでした。

イメルトは、各ジャンルの気鋭の学者たちをブレーンにして、最先端の情報を取り入れて経営戦略に生かしていました。週末には本社の執行役員を一人ずつ自宅に招き、夕食をとりながら、現場で起こっていることや将来に向けた課題などについて、じっくりと学びます。

また、彼は週に最低1回はクロトンビルにやってきて、さまざまな研修クラスの参加者たちと1~2時間を過ごしていました。

私が受講者として参加したエグゼクティブ向けの3週間連続のコースには、CEOのみならずCEOの直属である各部門の責任者たちがやってきて、同様に参加者と2時間くらい議論をします。

■研修参加者に逆質問するCEO

そのコースでイメルトは、GE全体のビジネスについての現況を、スライドを1枚も使わずに1時間弱話した後に、参加者と質疑応答を行いました。ここまでで約1時間半が経過しています。

普通はこれで終了になっても不思議ではないのですが、驚いたことにその質疑応答の後にイメルトは、「自分は今、このような戦略のアイデアを持っている。それについて君たちの意見を聞きたい」と、逆に参加者に対して質問してきたのです。

参加者は、世界中から選び抜かれた、いわばGEのオリンピック選手たちです。GEのトップであるイメルトは、世界各国の現場を指揮する各部門の参加者たちから学ぼうと、さまざまな意見に対して誠実に耳を傾けていたのです。

■マネジャーは「あがり」のポストではない

経営トップや上司のそうした姿を直接、間接に見聞きすれば、その下にいる社員たちは放っておいても自己の成長に向けて貪欲に学び続けます。

逆に、部下にはうるさく指導的なことをしたり言ったりするくせに、自分では何も学ぼうとしない経営者や管理職の下では、部下は彼らの言うことに従おうなどと思うはずがありません。

経営者や管理職は、すごろくでいう「あがり」のポストではありません。

ところが、いろいろな企業で役員研修や管理職研修をしていると、たまに「自分は完成した人間である。もう学ぶべきことはない」とでも言いたげな態度を取る人がいます。自分は仕事の能力や人格などすべての面において、部下よりも優れているから管理職になっているのだ、と誤解している人の典型です。

■優れたマネジャーは皆「謙虚な学習者」

そうした誤解をさせてしまうような昇進・昇格基準を持つ日本企業の人事制度にも問題はありますが、管理職としての意識転換ができていない上司の側にも問題はあります。

普通に考えれば、組織の上位階層の職務になればなるほど、その果たすべき責任範囲と重さは大きくなるはずですから、部下たちよりも学ばなければならないことは多くなるはずです。

求められる人材としてのスペックも、階層が変わればそれに伴って異なりますから、職務を全うするために自分を成長させて変化(自己変容)させられなければなりません。

また、過去の経験や蓄積した知識、スキルなどが、今日あるいは明日、未来においても通用するものばかりとは限らないということも、学び続けることが必要である理由のひとつです。環境の変化によって、自分の知識・スキルが通用しなくなることがありますし、むしろ偏見や先入観などといったバイアスの元となり得る危険性さえあるのです。

優れたマネジャーは皆「謙虚な学習者」です。部下を持つ人は誰でも、自分が責任を持つ職務で成功を収めるためにも、そして部下の良き模範となるためにも、自己の成長を忘れないでください。

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田口 力(たぐち・ちから)
上智大学グローバル教育センター 非常勤講師
1960年、茨城県生まれ。83年早稲田大学卒業。政府系シンクタンク、IT企業の企業内大学にて職能別・階層別研修や幹部育成選抜研修の企画・講師などに従事。2007年GE入社。14年に退社し、TLCOを設立。04年、一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース修了(MBA)。

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(上智大学グローバル教育センター 非常勤講師 田口 力 写真=iStock.com)

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