1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

従業員を"コスト"とみる会社に未来はない

プレジデントオンライン / 2019年6月21日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Dean Mitchell)

これまでの日本企業は従業員を「コスト」や「資産」とみなしてきた。だがその発想で社員を管理しても、自律的・能動的な仕事は生まれない。ゼネラル・エレクトリックで人材育成研修を行っていた田口力氏は、「従業員は自社への投資家と考える発想が必要だ」と説く――。

※本稿は、田口力『世界基準の「部下の育て方」』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■従業員を“投資家”ととらえる

近年、日本企業の人事施策においても「エンゲージメント」というキーワードがよく見られるようになりました。

GE(ゼネラル・エレクトリック)には、30年ほど前から「エンゲージメント」に取り組んできた蓄積があります。私もクロトンビルで、リーダーシップ研修の一部としてエンゲージメントを教えていました。部下育成の土壌として、エンゲージメントはとても大切な取り組みですので、まずその概略を紹介したいと思います。

エンゲージメントという概念は、従来の「従業員は会社の所有物(資産)」という発想を超えたところから始まりました。

従業員一人ひとりが持つ知識や経験、スキル、そしてアイデアや熱意といったものを、会社と自己の成長のために「投資」してもらうための取り組みがエンゲージメントです。

従来の考え方では、会社は従業員を「コスト」や「資産」と見ていました。そのため、総人件費の適正化や削減、あるいは従業員という資産への投資に対するROI(投資利益率)を最大化しようという取り組みをしてきました。

しかし、エンゲージメントという取り組みにおいては、従業員を、自社にとって最も大切な「投資家」と考えます。このパラダイム・シフトによって会社と従業員との関係性を捉え直し、従業員から、より高いコミットメントを引き出すことを狙いとしているのです。

■ジャック・ウェルチがなぜエンゲージメントを重視したか

GEのCEOを20年間務めたジャック・ウェルチは、エンゲージメントの重要性について次のように述べています。

「従業員のエンゲージメントを何よりも優先しろ。企業規模の大小にかかわらず、どんな企業も、組織のミッションを理解し、それをどうやって達成するかわかっている、やる気のある従業員なくしては、中長期的に勝ち続けることは不可能だからだ」

このように従業員に対する見方を、従来のような「管理する」対象としてではなく「エンゲージする」対象として見るというように、パラダイムを転換する必要があります。従業員を会社の所有物であると考えている限り、それを管理するというパラダイムから抜け出すことはできません。

■管理を強めると利己的な思考になっていく

エンゲージメントがなぜ大切なのかということを、その概念の対極にある“管理”という観点から考えてみましょう。

管理を強めれば強めるほど、指示・命令・統制が多くなりますので、当然ながら従業員が自律的、能動的に仕事に取り組むことが少なくなります。また、失敗することを恐れるようになるため、リスクを取ることがなくなり、イノベーションどころか画期的なアイデアさえも出なくなります。

さらに悪いことには、失敗を恐れると人は自分の利益を最優先するようになるばかりでなく、他者の成功をねたみ、他者の失敗を望む利己的な思考をするようになります。こうした職場や会社では、メンバー同士のコラボレーションなど期待できません。

■上司がなすべきなのは「サポート」

前述のような状況は、従業員の「学び」にも影響を与えます。

田口力『世界基準の「部下の育て方」』(KADOKAWA)

人は仕事の経験を通じてさまざまな学びを得て育ちます。しかし、仕事に取り組む姿勢の違いや、コミットメントの度合いの違いによって、学びの結果は大きく異なってくるのです。管理のし過ぎによって生まれるこうした負の効果は、部下育成において何のメリットもありません。

逆にいえば、このような状況を回避するためにも必要になるのが「エンゲージメント」という考え方です。

エンゲージメントという観点から見れば、上司としてなすべきことは「部下を管理すること」ではなく、「部下のアイデアや行動を強力にサポートすること」です。

そして、リスクを取ることに対する恐れを取り除き、挑戦的な課題に取り組むことを奨励しながら、メンバー同士のコラボレーションを起こさせることです。

そのためにも、“失敗に寛容な上司”になること、そしてそれをもう一歩進めて“失敗を奨励する上司”になることが、部下を持つ人の課題として浮かび上がってきます。

この課題を達成することは、簡単なことではありません。口では「果敢にリスクを取ってチャレンジしろ」と部下にゲキを飛ばしながら、失敗したら非難したり責任を追及したりする管理職が実に多くいます。

■「失敗は糧」を実践できない人は多い

部下が持っている知識や経験、スキル、アイデアや熱意を、積極的に会社に投資してもらうためには、そのための取り組みのみならず、部下の知識や経験、創造力などを増強するための取り組みも同時に必要です。

それを推進するには、失敗を否定的に捉えるのではなく、イノベーションや改善を補完する教材であると捉えることが大切です。

「失敗を冷静に分析し、学習や成長の糧にすべき」という議論は大昔からありますが、実践できている人(組織)はごくわずかです。GEのように、失敗に対して報償を与えている会社は少ないのではないでしょうか。

しかし、こうした土壌があってこそ、人は大きな学びを獲得する機会に恵まれるのです。

■エンゲージメント・リーダーの「特徴」

部下育成の土壌としてのエンゲージメントを高めるために、上司としてもつべき行動特性・能力について考えてみましょう。

GEクロトンビルの研修の中で、本社執行役員とその候補者を対象とした最上位のクラスは、年1回、3週間連続で開催されます。世界中から選抜された35人がニューヨークのキャンパスに集まり、CEOから出された課題に取り組みます。

クラスの参加者は、2週目に3~4人に分かれて世界中に飛び、インタビュー調査をします。その週末にニューヨークに戻り、3週目にはクラスとしての結果をまとめてCEOにプレゼンテーションを行います。

2009年のクラスに与えられたテーマは、「21世紀のリーダーシップとは」というものでした。参加者は世界110カ所の有力な企業や公的機関を訪れ、それらの組織が将来を担う人材をどのようにして育成しているか調査しました。

その結果として、「エンゲージメント」が次世代リーダーの必須スキルになるということが改めて確認され、21世紀のリーダーシップ像を象徴する言葉として「エンゲージメント・リーダー」が提案されました(下記図表1参照)。

『世界基準の「部下の育て方」』(KADOKAWA)より

この提案では、これからのリーダー像として6つの特徴を持つ人物像が描かれています。それぞれの特徴は、3つずつの「行動特性」で説明されています。図中では、エンゲージメントに関わる単語を太字で表しています。

このクラスの参加者のうち日本担当のチーム4人は、トヨタや武田薬品工業など日本を代表するグローバル企業や大学を訪問し、そこでのインプットがこの提案内容にも生かされています。世界基準で考えたときのエンゲージメント・リーダー像についての、ひとつの参考として見てください。

■エンゲージメント・リーダーの「能力」

次に、部下をエンゲージするためには、上司としてどのような「能力」が求められるか。私がクロトンビルで教えていた内容を踏まえて紹介しましょう。

世界基準で考えてみれば、エンゲージする対象となる部下は、実に多様性に満ちた人たちになります。人種や宗教、国の文化や習慣、基本的な価値観など、さまざまな変数の掛け算によって出来上がる多様性は、計り知れなくなります。

そのような条件下で上司として求められる能力を一言で表せば、「多様性を生かす包容力」と言うことができます。

包容力を具体的に定義すれば、「組織の目標を達成するために社員間の相違を積極的に受け入れ、それらをうまく調和させる力」です。多様性は、「組織に属する社員間の相違の幅」を表しますので、多様性が増すほどに、求められる包容力も増すことになります。

この多様性を生かす包容力を身に付けることができれば、部下に対するエンゲージメントが高まり、部下の会社に対する忠誠心やコミットメントも高まります。

■「多様性を生かす包括力」チェックリスト

最後に、「多様性を生かす包容力」が身に付いているかどうか、次の各項目をチェックリスト代わりに自己点検してみてください。

「多様性を生かす包容力」のチェックリスト
□ 部下とのつながりを大切にし、チームを鼓舞している
□ 部下それぞれの個性を尊重し、独自の関心事に訴えられている
□ 1人の個人として部下に関わり、信頼を築くことでチームとの一体感をつくれている
□ 部下を元気付け、より大きな成功への意欲を持たせられている
□ 個人や文化の相違を理解し称賛する環境を促進できている
□ 価値あるフィードバックや一貫したコーチングを行い、部下の成長を促せている
□ 部下を創造的に評価し、個人やチームの実績を認識する機会を見つけている
□ 議論を盛り上げるような思慮深い質問を尋ね、新しいアイデアを受け入れている
□ 部下からの微妙なメッセージを捉え、さらなる情報や説明を積極的に求めている

----------

田口 力(たぐち・ちから)
上智大学グローバル教育センター 非常勤講師
1960年、茨城県生まれ。83年早稲田大学卒業。政府系シンクタンク、IT企業の企業内大学にて職能別・階層別研修や幹部育成選抜研修の企画・講師などに従事。2007年GE入社。14年に退社し、TLCOを設立。04年、一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース修了(MBA)。

----------

(上智大学グローバル教育センター 非常勤講師 田口 力 写真=iStock.com)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください